JR西日本が、輸送密度2,000人未満の区間について収支状況と営業係数を公表しました。気になる線区をみていきましょう。
17路線30区間
JR西日本は、利用者が少ない線区について、2020~2022年度の3年平均の収支状況と営業係数を公表しました。対象となったのは、2019年度に輸送密度2,000人未満だった17路線30区間です。
収入は線区運輸収入、費用は線区で発生する費用を計上し、管理費などは除外したものです。
まずは、その一覧表をみてみましょう。
JR西日本の収支状況と営業係数
芸備線東城~備後落合
営業係数ワーストは、芸備線東城~備後落合間の15,516。100円稼ぐのに1万5000円以上かかっているということです。
この区間の年間費用は2.0億円と公表されました。年間収入は100万円と表示されていますが、これは四捨五入の数字ですので、営業係数から計算すると77万円程度の収入のようです。365で割ると、1日あたり約2,100円の収入しか得られていないことになります。
この区間の運転本数は上下6本(3往復)ですので、1列車あたりの収入は約350円という計算です。営業距離は25.8kmあり、東京~新子安(24.8km)や大阪~六甲道(25.9km)に匹敵する距離です。それだけの距離でディーゼルカーを走らせて350円の収入しかないわけです。
JR西日本の地方交通線の運賃区分で、25.8kmは510円です。つまり、東城~備後落合間で列車1本を走らせて、正規運賃一人分すら収受できていないことになります。
少なすぎる気もするが
一方で、広島県の資料を見ると、東城~備後落合の6駅の1日の乗車人員(2019年度)は、合計で定期外19人、定期11人の計30人です。つまり、列車1本あたり5人が乗っている計算です。
輸送密度は20人キロなので、1列車あたり平均3人程度は乗っている計算になります。
それで1列車あたり350円の収入にとどまるのは、統計の時期のずれもあるにせよ、少なすぎる印象もあります。定期外利用者の多くは青春18きっぷなどを使用しているからかもしれません。
備後落合周辺は?
備後落合に発着する他の路線もみてみると、芸備線備後落合~備後庄原間23.9kmの営業係数が3,777、輸送密度が75。木次線の出雲横田~備後落合29.6kmの営業係数が5,695、輸送密度が54となっています。
いずれも東城~備後落合間に比べればマシですが、相当に悪い数字であることに変わりありません。
ただ、JR東日本の同水準の輸送密度の区間に比べると、JR西日本のローカル線の営業係数は低いです。
たとえば、JR東日本の飯山線の戸狩野沢温泉~津南間30.4kmは、輸送密度76で、営業係数は12,746に達します。ほぼ同じ輸送密度の芸備線備後落合~備後庄原間に比べると、営業係数は約3.4倍です。
JR西日本の営業係数が低い理由
JR西日本の営業係数が低水準である理由を想像するのは難しくなく、おそらく、同社がローカル線の維持費用を抑えているからでしょう。
JR西日本の備後落合周辺の路線の営業費用をみてみると、それぞれ30km弱で各2億円程度にとどまります。
一方、JR東日本は、上記の戸狩野沢温泉~津南間30.4kmに9億5000万円も費用を投じています。別の例では、陸羽東線鳴子温泉~最上間20.7kmの費用は4億1000万円です。この区間の輸送密度44です。
営業費用に含まれる詳細は会社により異なります。そのため、一概にはいえませんが、全体的にJR西日本はローカル線の費用をJR東日本より抑えていることが見て取れます。
営業係数は、国鉄末期に赤字線の指標としてよく使われましたが、JR社間で投じている費用の差が大きく異なるのであれば、複数会社で比較する意味はあまりありません。ローカル線のあり方を考える上での指標は、やはり輸送密度(平均通過人員)ということになるのでしょう。
赤字が大きいのは
営業赤字の絶対額が大きい路線としては、、山陰線出雲市~益田129.9kmの33.1億円、紀勢線新宮~白浜95.2kmの28.5億円あたりが目立ちます。
いずれも距離が長いので赤字額が大きいという単純な話ですが、ローカル幹線がJRにとって負担となっていることは見て取れます。ただ、両路線とも収支率は10%以上で、ローカル線のなかではいい数字です。
収支率の健闘路線
その収支率についてみてみると、目を引くのは播但線和田山~寺前間24.9%と、岩徳線岩国~櫛ヶ浜間20.2%でしょうか。輸送密度2000人未満で収支率20%以上は、この両路線だけです。
どちらも輸送密度1,000前後で、ローカル線のなかでは健闘しているほうです。播但線は特急料金が収入に貢献しているとみられますが、岩徳線は特急が走っていないのに収支率が高い点で注目でしょう。
ただ、岩徳線はいまだにキハ40が走っているので、車両の減価償却費が軽いという要因がありそうです。そろそろキハ40もお役御免でしょうから、新型車両が導入された際に、どの程度、費用が増えて収支率が悪化するかは、見ておきたいところです。(鎌倉淳)