JR西日本は、輸送密度2,000人未満のローカル線について、最新の収支状況と営業係数を公表しました。その内容をランキングにしてみてみましょう。
17路線、30区間を公表
JR西日本が公表したのは、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年度に輸送密度が2,000人未満だった路線で、合わせて17路線、30区間です。
同社は2022年4月に、この30線区の収支状況を初めて公表。そのときは、2017年度から2019年度までと、2018年度から2020年度までの、それぞれ3年間平均についてでした。今回、2019年度から2021年度までの3年間平均について、改めて公表したものです。
詳細は以下の通りです。営業係数の大きい順にランキングにしてみました。
順位 | 路線 | 区間 | 営業係数 | 運輸収入(億円) | 営業損益(億円) | 輸送密度(人/日) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 芸備線 | 東城~備後落合 | 23687 | 0.01 | ▲2.3 | 13 |
2 | 木次線 | 出雲横田~備後落合 | 7453 | 0.03 | ▲2.5 | 35 |
3 | 芸備線 | 備後落合~備後庄原 | 4702 | 0.1 | ▲2.7 | 66 |
4 | 大糸線 | 南小谷~糸魚川 | 4295 | 0.2 | ▲6.3 | 55 |
5 | 芸備線 | 備中神代~東城 | 3858 | 0.05 | ▲1.8 | 80 |
6 | 福塩線 | 府中~塩町 | 2760 | 0.2 | ▲5.7 | 144 |
7 | 姫新線 | 中国勝山~新見 | 2435 | 0.2 | ▲3.7 | 136 |
8 | 因美線 | 東津山~智頭 | 2392 | 0.2 | ▲4.1 | 131 |
9 | 加古川線 | 西脇市~谷川 | 2038 | 0.1 | ▲2.6 | 207 |
10 | 山陰線 | 益田~長門市 | 1923 | 0.7 | ▲12.4 | 223 |
11 | 越美北線 | 越前花堂~九頭竜湖 | 1648 | 0.5 | ▲8.1 | 295 |
12 | 木次線 | 宍道~出雲横田 | 1521 | 0.5 | ▲6.5 | 220 |
13 | 山陰線 | 長門市~小串・仙崎 | 1491 | 0.6 | ▲9.0 | 292 |
14 | 小野田線 | 小野田~居能など | 1172 | 0.2 | ▲1.8 | 346 |
15 | 山口線 | 津和野~益田 | 1132 | 0.6 | ▲6.0 | 317 |
16 | 山陰線 | 城崎温泉~浜坂 | 1083 | 1.1 | ▲10.7 | 606 |
17 | 姫新線 | 上月~津山 | 1079 | 0.4 | ▲4.3 | 358 |
18 | 芸備線 | 備後庄原~三次 | 1035 | 0.3 | ▲2.7 | 312 |
19 | 関西線 | 亀山~加茂 | 990 | 1.8 | ▲16.2 | 766 |
20 | 山口線 | 宮野~津和野 | 950 | 1.1 | ▲9.3 | 400 |
21 | 芸備線 | 三次~下深川 | 946 | 1.7 | ▲14.3 | 915 |
22 | 山陰線 | 浜坂~鳥取 | 928 | 0.9 | ▲7.3 | 738 |
23 | 美祢線 | 厚狭~長門市 | 904 | 0.6 | ▲4.6 | 366 |
24 | 姫新線 | 播磨新宮~上月 | 868 | 0.8 | ▲5.9 | 774 |
25 | 姫新線 | 津山~中国勝山 | 795 | 0.6 | ▲4.3 | 649 |
26 | 紀勢線 | 新宮~白浜 | 769 | 4.4 | ▲29.5 | 731 |
27 | 小浜線 | 敦賀~東舞鶴 | 759 | 2.4 | ▲15.9 | 779 |
28 | 山陰線 | 出雲市~益田 | 647 | 6.4 | ▲35.0 | 746 |
29 | 岩徳線 | 岩国~櫛ヶ浜 | 476 | 1.5 | ▲5.8 | 1064 |
30 | 播但線 | 和田山~寺前 | 377 | 2.2 | ▲6.1 | 924 |
なお、この表の収支に管理費は含まれていません。また、輸送密度2,000未満の路線に限ったランキングであることをご承知おきください。JR西日本全線の営業係数ランキングではありません。
営業係数ワーストは
営業係数ワーストは、芸備線の東城~備後落合間で23,687。1年間の運輸収入はわずか100万円です。1日あたりで計算すると約2,740円にすぎず、青春18きっぷ1日分ちょっとです。
年間の赤字額2.3億円は、費用とほぼ同額です。収入が極端に少ないため、費用≑赤字となっているのです。
営業係数ワースト2は木次線出雲横田~備後落合間で7,453。芸備線東城~備後落合間の23,687に比べると低く見えますが、これも相当に悪い数字です。芸備線備後落合~備後庄原間と、大糸線南小谷~糸魚川間が4,000台で続きます。
備後落合を中心とした中国山地の各線の利用者と、大糸線で営業係数の低さが浮き彫りになりました。
キロあたり赤字額は
次いで、赤字額(営業損失)についてもみてみましょう。赤字額が最も大きいのが山陰線出雲市~益田間129.9kmの約35億円。ついで、紀勢線の新宮~白浜間95.2kmの約29.5億円です。
ただ、赤字の絶対額は、線区が長いほど大きくなります。公平を期すため、1kmあたり赤字額をみてみると、下表のようになります。
順位 | 路線名 | 区間 | 営業キロ(km) | 営業損益(億円) | キロ当たり営業損益(万円) |
---|---|---|---|---|---|
1 | 紀勢線 | 新宮~白浜 | 95.2 | ▲ 29.5 | ▲3099 |
2 | 山陰線 | 出雲市~益田 | 129.9 | ▲ 35.0 | ▲2694 |
3 | 山陰線 | 城崎温泉~浜坂 | 39.9 | ▲ 10.7 | ▲2682 |
4 | 関西線 | 亀山~加茂 | 61.0 | ▲ 16.2 | ▲2656 |
5 | 芸備線 | 三次~下深川 | 54.6 | ▲ 14.3 | ▲2619 |
6 | 山陰線 | 浜坂~鳥取 | 32.4 | ▲ 7.3 | ▲2253 |
7 | 姫新線 | 播磨新宮~上月 | 28.8 | ▲ 5.9 | ▲2049 |
8 | 山口線 | 宮野~津和野 | 47.4 | ▲ 9.3 | ▲1962 |
9 | 山口線 | 津和野~益田 | 31.0 | ▲ 6.0 | ▲1935 |
10 | 小浜線 | 敦賀~東舞鶴 | 84.3 | ▲ 15.9 | ▲1886 |
11 | 大糸線 | 南小谷~糸魚川 | 35.3 | ▲ 6.3 | ▲1785 |
12 | 山陰線 | 長門市~小串・仙崎 | 52.8 | ▲ 9.0 | ▲1705 |
13 | 播但線 | 和田山~寺前 | 36.1 | ▲ 6.1 | ▲1690 |
14 | 越美北線 | 越前花堂~九頭竜湖 | 52.5 | ▲ 8.1 | ▲1543 |
15 | 加古川線 | 西脇市~谷川 | 17.3 | ▲ 2.6 | ▲1503 |
16 | 山陰線 | 益田~長門市 | 85.1 | ▲ 12.4 | ▲1457 |
17 | 岩徳線 | 岩国~櫛ヶ浜 | 43.7 | ▲ 5.8 | ▲1327 |
18 | 小野田線 | 小野田~居能など | 13.9 | ▲ 1.8 | ▲1295 |
19 | 木次線 | 宍道~出雲横田 | 52.3 | ▲ 6.5 | ▲1243 |
20 | 芸備線 | 備後庄原~三次 | 21.8 | ▲ 2.7 | ▲1239 |
21 | 姫新線 | 上月~津山 | 35.4 | ▲ 4.3 | ▲1215 |
22 | 姫新線 | 津山~中国勝山 | 37.5 | ▲ 4.3 | ▲1147 |
23 | 芸備線 | 備後落合~備後庄原 | 23.9 | ▲ 2.7 | ▲1130 |
24 | 姫新線 | 中国勝山~新見 | 34.3 | ▲ 3.7 | ▲1079 |
25 | 因美線 | 東津山~智頭 | 38.9 | ▲ 4.1 | ▲1054 |
26 | 福塩線 | 府中~塩町 | 54.4 | ▲ 5.7 | ▲1048 |
27 | 美祢線 | 厚狭~長門市 | 46.0 | ▲ 4.6 | ▲1000 |
28 | 芸備線 | 備中神代~東城 | 18.8 | ▲ 1.8 | ▲957 |
29 | 芸備線 | 東城~備後落合 | 25.8 | ▲ 2.3 | ▲891 |
30 | 木次線 | 出雲横田~備後落合 | 29.6 | ▲ 2.5 | ▲845 |
ローカル幹線にも課題
キロ当たり赤字額が大きいのは紀勢線新宮~白浜間で3,098万円となっています。ついで山陰線出雲市~益田感の2,694万円です。赤字額の絶対額の大きい両区間が、キロ当たりでもツートップです。
ただ、山陰線は城崎温泉~浜坂間も2,681万円で、大差ありません。そのほか、関西線の亀山~加茂間と芸備線の三次~下深川間も2,600万円を超えています。
営業係数の大きい芸備線では、東城~備後落合間が891万円、備中神代~東城間が957万円。キロ当たりの赤字額でみると低い数字です。最低は木次線の出雲横田~備後落合間で、キロ当たり844億円にとどまります。
極端に収益性の悪い区間ほど、キロ当たりの赤字額が小さいというわけです。運行本数を絞り、経費を極限まで切り詰めているということなのでしょう。
キロ当たりで見てみると、山陰線や紀勢線のように、特急が走行して、それなりに運行本数がある路線が、最も収益性が低い、ということになります。
要するに、輸送密度の低い「ローカル幹線」の収益性にも大きな課題があるわけです。
営業係数の低いローカル線を廃止すれば、JRの経営状況がにわかに改善するわけではないことを示しているともいえます。ローカル線問題の難しさを浮き彫りにしています。(鎌倉淳)