「JTB小さな時刻表」隠れたヒットの意味

この3月、JTBから新しい時刻表が登場しました。「JTB小さな時刻表」です。

新しい、といっても、JTBが手をかけて新時刻表を編集したわけではありません。大型版の「JTB時刻表」を縮小して小型時刻表サイズにして販売しただけです。当然、文字もそのまま小さくなり、まるで豆粒のよう。フォントサイズで表現すれば4級くらいでしょうか。書籍のルビくらいの大きさです。

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売り切れになる書店も

世の中、新聞も雑誌も書籍も文字は大きくなるばかりの時代に、これだけ文字の小さな印刷物を「創刊」するのは冒険といえます。売れ行きが気になるところですが、なかなか好評のようす。はっきりとした数字は持ち合わせていませんが、売り切れになる書店も出ているようです。

この「小さな時刻表」がヒットした理由は明確です。鉄道ファンは「乗り鉄」をするときに、全駅全列車が掲載された詳しい時刻表を利用したいもの。さりとて、大判時刻表は大きすぎて持ち運びに不便。しかたなく、情報量の少ない小型時刻表を利用してきた人も多いのですが、それだと情報がかなり省略されていて、駅の停車時間などがわかりにくいですし、検索性もいまひとつ。とくに普通列車の旅には向きません。でも、重いものを持ちたくないから我慢していた、という層が、この「小さな時刻表」に飛びついたのでしょう。わかりやすく言うと、「青春18きっぷ」のヘビーユーザーには感涙ものの時刻表なのです。

乗り鉄には便利

改めて言いますと、「小さな時刻表」は、サイズは小型時刻表ですが情報量は大型時刻表と同等です。文字が読めさえすれば、「乗り鉄」にこれほど便利なものはありません。文字は確かに小さいですが、若い人ならば問題なく読めるでしょう。熱狂的に乗り鉄をするのは若者が多いですから、文字が小さくても情報量の多さを求めるユーザーは確実にいるわけです。JTB時刻表編集部はそう読んで、「小さな時刻表」を発刊したに違いありません。

JTBでは、昨年4月まで、小型時刻表「携帯時刻表」を発刊していました。これは、文字の大きさは大判と同等で、情報量を削った「従来型の小型時刻表」でしたが、販売不振で休刊になっていました。それが、今回の「小さな時刻表」の発刊に追い風になったのは間違いありません。ライバルとなる小型時刻表を自社で発行しなくなったからこそ、今回の「小さな時刻表」を出すことができたのでしょう。

採算面から見たときの「小さな時刻表」のポイントは、JTB時刻表の版をそのまま流用している点にあります。これならば、「小さな時刻表」向けに編集作業を一切行う必要がありません。印刷のための版やフィルムを作り直す必要もないでしょう。単に縮小すればいいだけです。おそらく、編集コストと製版コストはゼロに近いはず。こうした編集費と製版費は、雑誌の原価の半分以上を占めるものです。それがなくなれば、おおざっぱな話、かかっているのは紙代と印刷代とだけになります。ならば、小部数でも採算に乗せるのはそう難しくはありません。

このように考えてみると、「小さな時刻表」は、ターゲットを絞ったスマッシュヒットといえます。

「大きな時刻表」も

ところで、「小さな時刻表」は、「JTB時刻表4月号臨時増刊」という形を取っています。同様な形態では、「JTB大きな時刻表」があります。これも、最近では「JTB時刻表3月臨時増刊」という形で刊行されています。「大きな時刻表」のほうは、逆に文字を大きくしたもので、年1~2回の不定期刊となっています。同様に、「小さな時刻表」も、今後、不定期刊されるのではないでしょうか。

文字はどんどん大きくなるというのが時代の流れ。その流れに逆らったところにヒットがあったわけです。「儲かるのは中高年向けの商売」というのが最近の傾向ですが、若者向けの商品にもそれなりの需要があることを、今回は教えてくれました。

たかが時刻表というなかれ。時刻表の買い手は旅行者です。旅行者の消費は大きいもの。若い旅行者向けのアイデアは、もっといろんなところにあるのではないでしょうか。

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