根室線富良野~新得間に乗ってみた。「廃止予定区間」の現状を見る

「鉄道特性」を感じる旅

JR根室線富良野~新得間は、一部区間が不通のまま、廃止されることが決定的になっています。廃止時期は未定ですが、今年が最後の夏になるかもしれません。7月上旬の現状を見てきました。

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廃止時期は未定

JR根室線の富良野~新得間は、JR北海道が2016年にバス転換の方針を示した5区間のひとつです。このうち東鹿越~上落合信号場間は、2016年8月の台風で被災し不通が続いていて、JR北海道は復旧作業に手を付けていません。

復旧する場合に、JR北海道は年間10億9000万円の維持管理費の負担を沿線自治体に求め、協議が難航。最終的に、自治体がバス転換も含めた協議に入ることを受け入れ、廃止方針が事実上固まりました。

廃止時期は決まっていませんが、すでにバス転換の具体的な検討に入っていることから、2023年までには決着がつくとみられます。となると、2022年が最後の夏になる可能性もあるでしょう。廃止時期が正式発表されると混雑するので、一足早く、お別れ乗車に行ってみました。

根室線富良野駅

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シニアの鉄道ファンで

7月上旬の平日、富良野14時19分発の東鹿越行きは、キハ40形1両編成で入線していました。ボックスシートに一人ずつ座り、ちょうど埋まるくらいの客が乗っています。平日昼間のわりに利用者が多いので驚きましたが、見たところシニアの鉄道ファンがほとんど。「大人の休日倶楽部パス」の利用期間内であることに気づき、納得しました。

この列車は、美瑛からの「富良野・美瑛ノロッコ号」の接続を受けています。それもあって、鉄道ファンの利用が多いのかもしれません。

十数名の鉄道ファンと、ごく一部の地元客を乗せて、富良野駅を定刻発車しました。

根室線

かつての大動脈

よく知られているように、根室線の富良野~新得間は、かつて道央と道東を結ぶ大動脈でした。

手元にある1980年の時刻表を見ると、特急「おおぞら」が3往復、急行「狩勝」が4往復(夜行1往復含む)、普通列車が7往復(夜行「からまつ」1往復含む)設定されていました。さらに、多くの貨物列車が走っていたことでしょう。

しかし、1981年に石勝線が開通すると大動脈の座を譲り、徐々にローカル線になっていきます。しばらくは急行「狩勝」が札幌直通列車として残っていましたが、1990年に快速に格下げされると、この区間は普通・快速列車のみが走るローカル線に落ち着いてしまいます。

不通になる前の2015年度の富良野~新得間の輸送密度は152。当時の数字で、留萌線(留萌~増毛)、札沼北線、夕張支線に次ぐ4番目の低さでした。これら3路線はすでに廃止されたので、富良野~新得間は、現存するJR北海道の鉄道路線としては、最も輸送密度が低い区間になっています。

新型コロナの影響もあり、2021年度の輸送密度は50にまで落ち込んでいます。被災前の途中駅の利用者数は、山部と幾寅以外は10人以下です。

根室線駅別利用人員
画像:根室線(滝川~新得間)事業計画(アクションプラン)より
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幹線の余韻

富良野を出発した列車は、小麦畑を横目に見ながら、富良野盆地をゆっくりと南下していきます。

いまとなってはローカル線ですが、かつては長大列車が運行する幹線だったため、鉄道施設にはその余韻があります。

たとえば、富良野の次の布部駅。ドラマ『北の国から』の舞台としても有名な駅ですが、1日の平均乗車人員は3.4人(2013-17)にすぎません。

しかし、駅構内は広く、特急が行き来していた時代の隆盛がうかがえます。

根室線布部駅

南富良野町へ

根室線は、次の山部までが富良野市で、以後の各駅は南富良野町です。

富良野~新得間のうち、布部、山部以外の途中駅は全て南富良野町にあります。すなわち、この区間の存廃問題の影響を最も受けるのは、南富良野町ということになります。

富良野~新得間地図
画像:根室線(滝川~新得間)事業計画(アクションプラン)より

南富良野町に入って二つ目の金山駅に停まります。ここも山間の小駅ですが、長い行き違い線を備えます。

立派な木造駅舎と裏腹に、1日の平均乗車人員は4.6人です。地元の女性客が、一人降りていきました。

根室線金山駅

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東鹿越駅へ

トンネルを抜け、金山湖が左手に見えてくると、東鹿越です。15時04分着。富良野から45分かかりました。

列車が運転しているのはここまで。この先は災害による不通区間で、バスによる代行輸送がおこなわれています。

ほどなくバスが到着し、それに乗っていた新得から来た乗客がホームに並びます。こちらも10人くらいで、ほとんどが、中高年の鉄道ファンと見受けられます。

根室線富良野~新得間では、すでに廃線に向けた「お別れ乗車」ブームが始まっているのでしょう。これから、夏の青春18きっぷの利用期間に入ると、もっと混むのは間違いありません。

根室線東鹿越駅

人家一軒なく

さて、東鹿越駅です。駅前には人家一軒ありません。

なぜこんなところに駅があるのだろう、と思ってしまいますが、周囲は石灰石の採掘場になっていて、駅の裏手には王子製紙系の鹿越鉱業所があります。ドロマイトという鉱物の採掘や、製品の製造をおこなっているそうです。

少し離れたところにも、別の会社の採掘場があります。かつては、こうした採掘場からの貨物の積み出しがあったそうですが、今、ここでの貨物の扱いはありません。

旅客に関しても、通勤に根室線が利用されているわけでもなく、被災前の平均乗車人員は1人以下となっています。

こうした状況で、JR北海道は、2016年に駅廃止の意向を地元に伝えています。ただ、被災によって列車とバスの乗り継ぎ駅になったので、駅廃止は先送りされ、今も存続しています。

根室線東鹿越駅

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新型セレガに乗って

駅前から代行バスに乗ります。日野セレガのまだ真新しい車両です。

空調が効いていて、リクライニングもついていて、正直なところ、キハ40よりも快適です。何も、こんな最新型のバス車両でなくもいいのに、と思わなくもありません。

列車からの乗り継ぎ客は、だいたい乗りましたが、一部の方は折り返した模様です。

15時13分、東鹿越発。

根室線代行バス

幾寅駅

少し走ると、幾寅駅に着きます。映画『鉄道員』のロケ地として有名な駅で、観光客とおぼしき3人が降りました。

『鉄道員』が廃止間際のローカル線を舞台にした作品だったこともあり、幾寅駅も過疎駅のイメージがあります。ただ、実際の幾寅駅は、南富良野町の中止部に位置していて、富良野~新得間ではもっとも利用者の多い駅です。石勝線開通前は、急行「狩勝」の一部列車も停車していました。

とはいうものの、現在の幾寅地区の人口は1,700人あまり。幾寅駅の被災前の1日平均乗車人員は68.3人にとどまります。富良野~新得間では最大の利用者数ですが、それでも1日100人に遠く及ばないのが現実です。

根室線幾寅駅

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落合駅

山間部に分け入り、落合駅。ここで、富良野から乗っていた、地元客のおばあさんが降りました。車内に残ったのは、鉄道ファンとおぼしき旅行者だけになります。

落合駅の1日平均乗車人員は、被災前で4.7人。その数字が示すように、落合駅周辺は寂れています。

落合駅には10年以上前に降りたことがありますが、そのときよりも人の気配を感じません。駅から数分の位置にある小学校も、2014年に閉校してしまったそうです。

落合地域の人口は、2011年3月に219人だったところ、2022年3月には136人にまで減っています。わずか10年余で4割減です。南富良野町中心部の幾寅地区では、同時期の比較で1割強しか減っていないので、同じ自治体でも山間部で人の流出の激しいことがうかがえます。

根室線落合駅

狩勝峠

落合を出ると、バスは狩勝峠に向かいます。ここまでは鉄道路線と並行して走ってきましたが、この先は離れ、国道38号線をたどります。道路は広く、バスの性能もよく、乗客も少ないので、軽々と坂を登っていきます。

峠を越えた後、サホロリゾートに立ち寄りました。サホロに鉄道駅はありませんので、鉄道代行バスが寄る必要はないはずですが、せっかくのバスを動かすので、観光客の足としても活用するためでしょう。ただ、今回は乗降がありませんでした。

徐々に土地が開けてきて、新得駅に到着。新得地区の人口は約4,300人ですが、狩勝峠を越えてくると、ずいぶんな都会に感じられます。

根室線代行バス

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H100形

代行バスの新得着は16時21分で、16時33分発の特急「おおぞら7号」釧路行きに接続します。富良野からの「同好の士」は、みなさんにそれに乗ってしまいましたが、筆者は見送って、16時41分発の普通列車釧路行きを利用します。

ホームに待っていたのは、JR北海道の最新車両、H100形の2連です。帯広地区のH100形は、2022年3月ダイヤ改正で投入されたばかり。代行バスに引き続いて、こちらも新型車両です。

新得から乗車したのは、筆者のほか地元客が2人だけ。ガラガラなぶん、空調が効きすぎるほど効いています。キハ40形に比べるとシートもしっかりしていて快適です。

H100形は動きも軽やかです。ぐんぐんとした加速、最高速度での安定性、いずれもキハ40形の比ではありません。北海道のローカル線を旅している気分は吹っ飛び、どこかの近郊路線に乗っているかのような気になります。

根室線H100形

帯広近郊区間

実際、このあたりは帯広の近郊区間になっていて、新得までがウソのように利用者が増えていきます。

新得を出たときは乗客は3人だけでしたが、次の十勝清水から高校生がどっと乗ってきて、さらに芽室でも乗り降りがあり、大成からさらに高校生が乗り込み、立ち客まで出る状況に。帯広の一つ手前の柏林台で多くが降り、終点の帯広に到着しました。

JR北海道が公表している駅別乗車人員によると、新得~帯広間の各駅は、全て1日10人以上の利用者がいます。「国土数値情報(駅別乗降客数データ、2019年度)」によると、芽室が758人、十勝清水が630人などとなっていて、鉄道が特性を活かせる程度の利用者数があることがうかがえます。

その背景として、鉄道駅から歩ける範囲に複数の高校があることでしょう。十勝清水駅近くには清水高校が、大成駅近くには芽室高校が、西帯広駅近くには帯広三条高校があります。高校生の通学定期は運賃は安いですが、それでも高校生は地方鉄道の貴重な利用者です。

根室線H100形

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「鉄道特性」を感じる旅

富良野から帯広まで乗り通して感じることは、新得を境に「鉄道特性の有無」が鮮明になっているという現実です。

新得以南では、特急による都市間輸送に加え、高校生を中心とした地域輸送がみられ、鉄道に存在感があります。これに対し、富良野~新得間は、昼過ぎという時間帯の影響もあったのでしょうが、鉄道ファンがほとんどでした。地域の交通機関としては、バスで十分と感じざるをえません。

実際、バスは快適です。並行する道路もよく整備されています。冬季の狩勝峠越えには不安が残りますが、かつての一級国道でもあり、除雪体制はしっかりしているでしょう。

また、南富良野町は占冠村に隣接しており、少し離れますがトマムや占冠の駅を利用することも可能です。札幌方面へ公共交通で向かう場合、幾寅や金山からトマム駅、占冠駅に至る代替バスを充実させれば、今より便利になる側面もあるでしょう。

かつての大幹線が廃止されてしまうのは残念ですが、乗ってみると、納得せざるを得ない現実があります。これを機会に、より使いやすい公共交通網が整えられることを願いたいところです。(鎌倉淳)

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