北海道新幹線の並行在来線、維持のハードル高く。函館線の赤字は総額80億円

鉄道存続には前向きだが

北海道新幹線の札幌延伸にともないJR北海道から経営が分離される並行在来線の扱いについて検討が進んでいます。鉄道として維持する場合、巨額の赤字を地元の自治体が引き受けなければならず、ハードルは高そうです。

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「北海道新幹線並行在来線対策協議会」

北海道新幹線は、新函館北斗~札幌間の2030年度延伸開業を目指して工事が進められています。延伸にあわせて、並行在来線である函館線・函館~小樽間287.8kmがJR北海道から経営分離される予定で、この区間を鉄道として残すか、バス転換をするかが、大きな焦点になっています。

この問題を話し合うのが、沿線15市町などで構成する「北海道新幹線並行在来線対策協議会」です。協議会は函館~長万部間147.6kmを話し合う「渡島ブロック」と、長万部~小樽間140.2kmを話し合う「後志ブロック」に分けられ、その第7回会議が、2020年8月25日(渡島)と26日(後志)の2日間にわたり開かれました。

今回の会議では、JR北海道から函館線の収支などの情報が公開されました。主なポイントを見てみましょう。

函館線

輸送密度600台

まず、2018年度の輸送密度ですが、函館~長万部間(特急除く)は685で、長万部~小樽間は625です。函館~長万部間は、特急を含めると3,650の輸送密度がありますが、普通列車に限ると2割以下であることが明らかにされました。

下図の通り、最近は漸減傾向です。

函館線輸送密度
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

函館線輸送密度
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

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駅間別乗車人員

次に、駅間別乗車人員です。これは平日特定日に利用者を数えた数字です。普通列車に限ると五稜郭~桔梗間の2,940が最大で、本石倉~石倉間の41が最低です。下図をご覧ください。

函館線駅間別乗車人員
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

函館線駅間別乗車人員
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

おおざっぱにいうと、以下のような利用状況になっています。

・函館~新函館北斗=約2,000人
・新函館北斗~大沼公園=約500人
・大沼/大沼公園~森=約200人
・森~長万部~蘭越=100人未満
・蘭越~ニセコ=約100人
・ニセコ~倶知安=約200人
・倶知安~余市=約500人
・余市~小樽=約1,700人

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駅間通過人員

次に駅間通過人員です。上記の駅間別乗車人員は平日特定日調査ですが、駅間通過人員は1年間の平均です。

函館近郊は平日特定日のほうが多いですが、その他の区間は1年間平均が多い傾向です。とくに、倶知安~小樽間は1年間平均が多いですが、リゾート客の多い冬季の利用が反映されているとみられます。

函館線駅間通過人員
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

函館線駅間通過人員
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

定期利用者と定期外利用者数も注目点です。1日1,000人以上の定期利用者があるのは函館~七飯間のみ。800人以上が余市~小樽間です。200人規模の定期利用者が存在するのは、森以南とニセコ~倶知安間、仁木以北です。

函館~長万部間は特急利用者が多いので、定期外客の割合が高いのは当然ですが、特急の走らない倶知安~余市間で定期外客が多いのも注目でしょう。これもリゾート客の影響とみられます。

赤字80億円

収支状況をみてみると、函館~長万部は66億円の赤字で、特急利用者を除いた想定では57億円の赤字です。長万部~小樽間は24億円の赤字です。全線あわせると、普通列車だけで約80億円の赤字を出していることになります。

函館線収支状況
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

函館線収支状況
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

函館線収支状況
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

北海道新幹線開業後は、特急は走りませんので、並行在来線を第三セクター鉄道で残す場合、この80億円という数字が、毎年の営業赤字を考えるうえで目安となります。

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更新費用総額183億円

函館線は古い鉄道路線ですので、設備の老朽化が進んでいます。今後20年間で必要となる土木構造物の大規模修繕・更新費用を見積もると、函館~長万部間で25億円、長万部~小樽間で64億円となっています。

長万部~小樽間の維持・更新費用が大きいですが、同区間はトンネルが多く、覆工材料の劣化・剥落対策に47億円もの巨費がかかるということです。

そのほか、車両の更新費用については、函館~長万部間が16両32億円、長万部~小樽間が23両46億円と見積もられています。さらにラッセル車は4両16億円としています。

設備、車両の更新費用は、今後20年間で総額で183億円にものぼる計算です。

性格の異なる4区間

ざっと、JRの公表した資料を見てきました。

函館線と一口にいっても、区間によって状況の差が大きいことがよくわかります。利用状況によって、おおざっぱに4区間に分けられるでしょう。

1 函館~新函館北斗(函館近郊)
2 新函館北斗~長万部(貨物幹線)
3 長万部~余市(山岳ローカル線)
4 余市~小樽間(小樽近郊)

このうち、「1 函館~新函館北斗」は、新幹線との接続もあり、鉄道として存続させていくことは確実と言っていいでしょう。その場合、道南いさりび鉄道が、現有の五稜郭~木古内間とあわせて一帯運用するのが合理的です。

「2 新函館北斗~長万部」は本州と北海道を結ぶ貨物列車の大動脈となっているので、鉄道路線の維持は前提となっています。とはいえ普通列車の利用者が少なく、とくに、森~長万部間は1日数十人の乗客を数えるのみです。

旅客営業をする第三セクター鉄道として残す場合、地元自治体が相応の赤字を負担しなければならなくなります。地元自治体が引き受けられない金額になりそうなら、旅客営業をせずに、貨物専用線になる可能性もあります。

「3 長万部~余市」は、とくに長万部~蘭越間で利用者が極端に少なく、蘭越~倶知安間も1日200人前後で多いとは言えません。倶知安以北は1日700~800人規模の利用者がいます。8割方が定期外客で、倶知安から小樽、札幌方面へ乗り通す客が多いようです。

新幹線開業後、倶知安~札幌間の定期外客は、新幹線利用に一定数が移るとみられます。第三セクターの在来線に、どの程度の利用者が残るかはわかりません。そのため、この区間は鉄道そのものの廃止=バス転換を含めて議論されるとみられます。

「4 余市~小樽」は、小樽近郊の定期客が多い区間です。とくに、余市駅から函館線小樽駅以東への学生定期客が多いのが特徴的です。小樽駅で乗り換えて、南小樽駅や小樽築港駅、さらには札幌方面へ通っている高校生が多いのでしょう。

余市駅は駅別乗車人員が1日586人で、沿線では小樽駅、函館駅、五稜郭駅、新函館北斗駅に次ぐ5位です。小樽駅以東へ乗り換えて移動する旅客が多いこともあり、鉄道の価値は高いでしょう。実際、余市町は余市~小樽間の存続を強く求めています。

北海道は、今後、函館線の旅客流動調査と、将来の需要・収支予測調査を行う予定ですが、「全区間」「函館~長万部」「長万部~小樽」「函館~新函館北斗」「余市~小樽」の5通りに分ける方針を示しています。つまり、区間を4つに分けて、「函館~新函館北斗」「余市~小樽」のみの区間存続の可能性も探るわけです。

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道南いさりび鉄道との比較

会議では、道南いさりび鉄道の経営状況も明らかにされました。2018年度決算では、運賃収入が1億3700万円に対し、線路使用料が14億3500万円あり、その他も含めて17億6100万円の収益がありました。費用が19億3000万円で、1億6900万円の赤字となっています。

これを、函館線と比べたのが下表です。

道南いさりび鉄道と函館線
画像:北海道新幹線並行在来線対策協議会資料

この表を見ると、道南いさりび鉄道の赤字が、函館線に比べてかなり少ないことに気づかされます。37.8kmの営業キロに対し、線路使用料が14億円も得られているためでしょう。この金額を函館線の函館~長万部間の距離に比例させれば、約55億円の線路使用料が得られることになります。

上表では、函館~長万部間の赤字が66億円ですが、普通列車に限れば57億円です。55億円の線路使用料が得られるなら、収支均衡に近づきます。

しかし、長万部~小樽間は貨物収入がありません。全区間を一体運営として長万部以南の収入を長万部以北にも「分配」するならともかく、そうでないなら長万部~小樽間は20億円規模の赤字となり、経営は厳しそうです。この「分配」問題は、いままであまり議論されていないようですが、一つの論点でしょう。

実際のところ、貨物の線路使用料は距離に比例するわけではないので、その金額がいくらになるのか、公表された資料からはわかりません。その見積もり金額が、鉄道が維持できるかどうかの方向性を決めるのに大きな判断材料となるでしょう。

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鉄道維持には前向き

函館線の全線を鉄道を残す場合、貨物の線路使用料である程度赤字をまかなえたとしても、沿線の各自治体には、それぞれ年数千万円単位の負担が生じるでしょう。地方自治体には厳しい金額ですし、維持のハードルは高いといえます。実際の利用者数をみれば、廃止やむなしと受け入れる自治体が出てきてもおかしくはありません。

それでも、過去の会議での議事録を見ていると、おおむねどの自治体も鉄道維持に前向きな姿勢は見せています。たとえば、第6回会議で、長万部町長は以下のように述べています。

「私どもは国鉄が民営化される中で瀬棚線が廃止になったわけですね、長万部を拠点にして瀬棚までが廃止になりました。これは廃止路線を経験しているものとして本当に感じるのですけれど、まあ檜山の方々に本当にこんな発言したら失礼なのかなと思いますが、駅が無くなればやっぱり町って衰退していきますよね。ものすごい勢いが早い、瀬棚線が廃止になってから 30 年、それからバスに転換して、ダイヤも変わりは無いのですが、最初のうちはバスもそれなりの利用人口があった。今はほとんど無いですよね。バスの運行会社に補助金も払いながら運行している。」

長万部駅には新幹線駅ができますし、室蘭線は存続が決まっています。その長万部町長ですら、鉄道廃止の悪影響を危惧しているわけです。

外部からみると、鉄道の利用者がここまで少ないのなら、バスのほうが合理的ではないか、と思ってしまう区間があるのは確かです。しかし、実際に暮らしている人の目から見える風景は、また異なるのでしょう。

とくに、函館線は北海道の開拓を担った歴史ある路線です。今後、地元がどのような形で結論を出すのか、注目せずにはいられません。(鎌倉淳)

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