JRの現状は国鉄末期より深刻。コロナ禍で鉄道事業の傷深く

国鉄最後の決算と比較してみる

新型コロナウイルス感染症により、JR各社の経営は厳しい状況が続いています。最新決算の赤字は国鉄末期と同水準で、今期の鉄道運輸収入は国鉄時代に及ばない可能性が高くなってきました。

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3400億円の赤字

まずは、JR各社の2020年度第1四半期(4~6月期)の単体決算を見てみましょう。営業収入はJR東日本が2313億円、JR東海が823億円、JR西日本が934億円、JR九州が241億円、JR北海道が92億円です。5社合計で4403億円の営業収益がありました。

このうち鉄道運輸収入は、JR東日本が1802億円、JR東海が663億円、JR西日本が721億円、JR九州が132億円、JR北海道が57億円で、合計3375億円です。

各社の単体決算の営業赤字は、JR東日本が1470億円、JR東海が734億円、JR西日本が821億円、JR九州が103億円、JR北海道が213億円。5社合計で3341億円の営業赤字を計上しています。

簡単にいうと、JR5社で約4400億円の営業収益があり、このうち約3400億円が鉄道運輸収入で、約3300億円の営業赤字を出したことになります。いずれもJR四国の数字がありませんが、同社は四半期決算を開示していないためです。

仮に、このペースで赤字を1年間積み上げていけば、JR5社が通期で約1兆3000億円の営業赤字を計上することになります。

東海道新幹線N700A

国鉄末期並み

次に、国鉄最後の決算を見てみましょう。国鉄は1987年4月1日に分割民営化しましたので、最終年度は1986年度となります。

国鉄1986年度決算の損益計算書の概要によると、旅客収入が3兆269億円、貨物収入が1676億円、雑収入が2183億円、助成金受入が1883億円となっています。これに営業外収入3605億円をくわえた3兆9616億円が収入の合計です。

経費は、人件費が2兆1152億円、物件費が1兆2135億円、利子が1兆3253億円、償却費等が6681億円、営業外経費が213億円です。経費合計は5兆3433億円です。差し引き1兆3818億円が純損失となっています。

コロナ禍の赤字の状況が1年続くと仮定したJRの営業赤字約1兆3300億円と、国鉄末期の純損失の金額は、ほぼ同じです。JRの四半期決算の赤字が「国鉄末期並み」というわけです。

国鉄昭和61年度決算
「昭和61年度 日本国有鉄道の決算について」より

利子を除けば

ただ、国鉄最後の決算の純損失の大きな要因は、利子負担です。上図を見ればわかるとおり、1兆3253億円もの利子負担がのしかかっていました。当時の国鉄は19兆7451億円の長期負債を抱えていて、金利が高い時代だったこともあり、利子が経営を圧迫していたわけです。

利子を除けば、赤字は565億円に縮小します。したがって、コロナ禍でのJRの赤字が「国鉄末期並み」だったとしても、赤字の質はだいぶ異なります。

ちなみに、2020年3月末のJR各社の有利子負債は、連結でJR東日本が3兆3123億円、JR東海が4兆8852億円、JR西日本が1兆1036億円、JR九州が1415億円です。

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収入でみると

赤字額でなく収入額で見てみると、国鉄最終年度の年間旅客収入は3兆269億円です。これに対し、コロナ禍の2020年度第1四半期のJR5社の鉄道運輸収入は合計3375億円です。この4倍を通期の収入と仮定すると、約1兆3500億円になります。国鉄末期の半分にも満たない金額です。

2020年度の第2四半期は、第1四半期に比べてJR各社の旅客は回復していますので、さすがに通期で年間で1兆3500億円にとどまることはなさそうです。とはいえ、単価の高い遠距離客が伸び悩んでいる状況をみると、通期でも2兆円台がいいところで、国鉄時代の3兆円は難しそうです。

ちなみに、JR各社の2020年3月期決算(通期)の運輸収入は、JR東が1兆7928億円、JR東海が1兆4190億円、JR西日本が8568億円、JR九州が1473億円、JR北海道が706億円、JR四国が260億円です。合計すれば4兆3125億円です。国鉄時代の旅客収入と比べると、約1.4倍に増えています。

2021年3月期決算でJR全社の運輸収入が国鉄末期の3兆円に達するには、前年度の7割程度が必要です。しかし、JR東日本の月次情報を見ると、6月7月でも5割程度にとどまります。このペースが続けば、2021年3月期決算は国鉄末期の旅客収入に達しないでしょう。つまり、「国鉄末期並み」にすら及ばない可能性が高まっているのです。

民営化から30年余を経て、JRの運輸収入のベースは4割も底上げされているのに、コロナ禍の影響はそれを軽く吹き飛ばしてしまうわけです。となると、JRの鉄道事業は、国鉄最後の1986年度より、深刻な状況といわざるをえません。(鎌倉淳)

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