函館線・函館~長万部~小樽の最適解は? 北海道新幹線並行在来線の存廃議論が始まる

史上最大の並行在来線問題

北海道新幹線の札幌開業時に並行在来線となる函館線函館~長万部~小樽間について、存廃の議論が始まります。

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性質の異なる2区間

北海道新幹線は2030年度に札幌延伸開業を迎えます。その際、函館線の函館~長万部~小樽間が、並行在来線としてJR北海道から経営分離されることが決まっています。しかし、経営分離後の存廃については、はっきりとした結論は出ていません。

函館線の函館~小樽間は、途中の長万部を境に路線の性質が大きく異なります。

函館~長万部間147.6kmは、おおむね複線化されており、函館~札幌間を結ぶ特急列車が走る幹線です。2017年度の輸送密度は3,712人キロで、北海道の鉄道としては高い数字です。しかし、新幹線開業後は長距離客が新幹線に移るため、旅客の利用者が激減すると予想されています。

同区間には貨物列車も多数走っています。北海道新幹線開業後も、貨物輸送のため鉄道は必要とみられています。

長万部~倶知安~小樽間140.2kmは「山線」と呼ばれ、全線単線のローカル線です。臨時列車を除けば走るのは普通列車のみ。輸送密度は652人キロにすぎません。

長万部~札幌間の貨物列車は室蘭・千歳線を経由します。したがって、山線において貨物輸送の必要性は高くありません。このため、北海道新幹線札幌開業と同時に、鉄道廃止も取りざたされています。

北海道新幹線並行在来線
画像:北海道ウェブサイト

前倒しして決定へ

北海道新幹線札幌開業後に、これらの区間をどうするか。議論するのが、北海道新幹線並行在来線対策協議会です。ただ、協議会では、これまで函館線函館~長万部~小樽間の存廃の判断について、「延伸の5年前までに方向性を決める」としてきました。札幌開業までの期間が長いこともあり、「将来のこと」と先送りしていたわけです。

しかし、JR北海道が「単独で維持できない路線」の整理を進め、北海道の交通網の再構築が議論されるなか、経営難が予想される北海道新幹線の並行在来線の取り扱いについて、いつまでも先送りするわけにいきません。

また、新幹線の駅ができる倶知安町では、駅周辺の整備計画を進めていて、在来線を残すかどうかは、計画内容に関わる問題として認識されています。

こうしたことから、2019年7月22日にひらかれた対策協議会の第6回後志ブロック会議と8月2日ひらかれた同渡島ブロック会議で、北海道新幹線開業時に経営移管される並行在来線の存廃の判断について、前倒しして決定する方針が決まりました。

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巨額の更新費用

それぞれの会議にはJR北海道の綿貫泰之常務も同席し、存廃を検討する判断材料の一つとして、鉄路を維持する場合の設備更新費用を公表しました。

それによりますと、函館~長万部間では、2018年度~37年度の20年間で、橋やトンネルなどの大規模修繕・更新費用に、計57億円が必要とのことです。

一方、長万部~小樽間については、20年間の大規模修繕・更新費用として64億円必要になるとのことです。

函館線が整備されたのは明治後期で、全通は1904年。土木構造物の老朽化が進んでいるため、今後も永続的に鉄路を維持するなら、大規模な修繕や更新が欠かせません。そのために巨費がかかることが、明らかになったわけです。

函館線

赤字も数十億円

現状の収支については、函館~長万部間が年間62億円の赤字。長万部~小樽間が年間24億円の赤字です。

函館~長万部間は特急列車を含めた収支ですが、新幹線が開通すれば特急は走らなくなります。同区間の普通列車のみの収支については明らかにされていませんが、JR北海道の綿貫常務は渡島ブロック会議で「特急がなければ、赤字はより悪化する」という見解を示しています。

第三セクター鉄道として維持するなら、その赤字を沿線自治体などが毎年補填し続けなければなりません。財政難に苦しむ地方自治体には、十億円単位の費用は重い負担でしょう。

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利用者の多い区間も

距離が長いだけに、利用者の多い区間もあれば、少ない区間もあります。2011年に実施された「函館線(函館・小樽間)の旅客流動調査」によれば、函館~長万部間の普通列車の輸送密度は326人。長万部~小樽間は467人です。ただし、函館~渡島大野(現・新函館北斗)間に限れば1,515人、余市・小樽間に限れば1,599人と、両末端部は、北海道の鉄道路線としては健闘しています。

同調査によれば、函館~小樽間の普通列車の利用者数のトップは函館駅で、1日770人。次いで余市駅が532人、小樽駅521人、七飯駅469人、倶知安駅331人と続きます。普通列車に限れば、函館~新函館北斗間と、倶知安~小樽間は、それなりの利用者がいることが、この数字からもわかります。

調査が行われたのは2011年ですが、いまは北海道新幹線が新函館北斗まで開業しているので、函館~新函館北斗間の普通列車(快速列車含む)の利用者はもう少し増えているでしょう。

利用者が少ない区間

一方で、新函館北斗~倶知安間の普通列車の利用者はきわめて少ないです。上記調査によれば、中核駅といえる森駅が185人、八雲駅が134人、長万部駅が51人という利用者数です。1日の利用者が10人未満の駅も数多くあります。

函館本線利用者数
画像:函館線(函館・小樽間)の旅客流動調査・将来需要予測調査

上図を見ると、七飯~倶知安間での普通列車の利用者がきわめて少ないことが、よくわかります。普通列車に限った話をすれば、新函館北斗~倶知安間の鉄道維持の必要性は高いとはいえません。

新しいデータとして、2017年度の国土数値情報(駅別乗降客数データ)を見てみると、七飯駅の乗降客数は1,146人、余市駅は1,330人、倶知安駅は1,074人となっています。こちらのデータは「乗降客数」なので、流動調査の「利用者数」とは数え方が異なりますが、鉄路維持を求める理由となり得る数字に感じられます。

同じデータでは、森駅556人、八雲456人、長万部300人にとどまっています。いずれも特急停車駅ですが、普通列車のみの余市駅や倶知安駅よりもはるかに少ない乗降客数です。

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倶知安町の整備構想

こうした事情から、地元自治体では、北海道新幹線札幌開業後に、並行在来線をどこまで維持するかが、議論になっています。有り体にいえば、一部区間の廃止の可能性を視野に入れてはじめています。

沿線の中核自治体の一つである倶知安町は、「倶知安町新幹線まちづくり整備構想」において、【並行在来線が廃止の場合】と【並行在来線が存続の場合】の2パターンを検討しています。

倶知安町新幹線まちづくり整備構想
画像:倶知安町新幹線まちづくり整備構想

倶知安~余市間では、高規格道路(倶知安余市道路)の建設が進められており、倶知安インターチェンジが2020年台後半までに設置される見通しです。インターと市街地を結ぶためのアクセス道路は、函館線(在来線)と交差します。

倶知安町新幹線まちづくり整備構想
画像:倶知安町新幹線まちづくり整備構想

もし、在来線を存続させるなら、平面の在来線と、高架の新幹線をまとめて跨ぐため、アクセス道路に立体交差を設けなければなりません。立体交差を設ける場合は側道も必要となりますし、立体交差の高架(またはアンダーパス)が、地域を分断してしまいます。

これに対し、在来線を廃止するなら、立体交差は不要になり、道路の整備費用は安く付きますし、町の分断もありません。そのため、まちづくりだけを考えるなら、函館線を廃止したほうが好都合にみえます。

【並行在来線が存続の場合】についての計画図では、インターアクセス道路について、「地域・道路の分断がある」と記されています。駅周辺でも、「線路で分断されるため施設の連続性が確保されない(立体交差の横断施設が必要)」「自由通路は在来線を越える歩道橋が必要」などと記しており、どちらかというと在来線の存続に後ろ向きの印象すら受けます。

倶知安町が、仮に在来線を絶対死守の姿勢なら、こうした形での整備構想を公表したりはしないでしょう。沿線の中核自治体である倶知安町が、在来線廃止を考慮したまちづくり構想を示したことは、議論の行方を暗示しているようにも感じられます。

山線には有珠山噴火時の貨物バイパス線の役割もあります。ただ、その役割のために路線を維持するなら地元以外も費用を負担すべきですが、そうした議論は進んでいません。

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余市町は維持求める

7月22日の後志ブロック会議では、仁木町の佐藤聖一郎町長が、「バス転換しても、JRバスが観光客や地域住民が利用しやすいように特化していくのであれば、補うことはできる」と発言し、バス転換を容認する姿勢をにじませました。仁木町は倶知安~小樽間に位置する自治体で、比較的利用者の多い沿線です。

一方、仁木町に隣接する余市町は鉄路維持を強く求める姿勢を見せています。余市町は、北海道新幹線建設に最後まで同意しなかった自治体で、在来線存続派の先鋒です。余市町は倶知安町と違い、北海道新幹線の駅ができませんし、余市~小樽間の利用者数を考えれば、鉄道をなんとしても残したいでしょう。

実際のところ、利用者数のデータを見る限り、北海道新幹線の並行在来線で、旅客鉄道として残す意味がありそうなのは、新幹線と連絡する函館~新函館北斗間を除けば、余市~小樽間くらいに思えます。

ただ、余市~小樽間を残し、長万部~余市間を廃止した場合、全長20kmほどのローカル私鉄が北海道に生まれるわけです。その先行きの厳しさは想像できます。

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貨物専用線の議論も

新函館北斗~長万部間については鉄路存続が前提となっていますが、貨物専用にするか旅客も扱うかで、議論の余地があります。

前述したように、新函館北斗~長万部間は普通列車の利用者がきわめて少ないです。これだけ少なければ、旅客輸送は必要か、という議論は避けられません。旅客輸送をするなら、函館線の大規模修繕や赤字補填のために、地元自治体が巨額の費用負担を求められるからです。

大規模修繕に数十億円かかり、その後も毎年十億円単位の営業赤字が出るとなると、地元自治体としては、そんなお金は出せない、と音を上げるでしょう。

しかし、貨物輸送だけなら、地元が費用負担する理屈は小さくなります。貨物線なら受益者であるJR貨物が維持費用を負担するのが筋、という理屈が成り立ちます。

貨物輸送の雲行きも

その貨物輸送についても、微妙な雲行きになりはじめています。国土交通省が、北海道新幹線の高速化のため、青函トンネル区間の貨物輸送を縮小または廃止することを検討しているからです。代替として挙げられているのが、新幹線による貨物輸送と、海上貨物輸送です。

これらの代替輸送で、北海道・本州間の現状の鉄道貨物を全てさばけるかは甚だ疑問です。しかし、在来線での貨物輸送の分担が減れば、函館~長万部間の鉄道維持の必要性が薄れていくことに違いはありません。

北海道新幹線の並行在来線問題は、複雑な事情が絡み合い、その最適解を見つけ出すのは簡単ではなさそうです。(鎌倉淳)

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