「函館新幹線はどうでしょう」。北海道新幹線、函館駅乗り入れ案が再浮上。大泉市政誕生で

並行在来線問題も絡んで複雑に

函館駅への新幹線乗り入れを公約に掲げる大泉潤氏が函館市長に当選しました。これまでにも検討されたことのある「函館新幹線」構想ですが、実現するのでしょうか。

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22世紀を生きる子どものために

2023年4月23日に投開票がおこなわれた北海道函館市長選で、大泉潤氏が初当選しました。同氏は公約の一つとして北海道新幹線のJR函館駅乗り入れ調査を掲げてきました。

選挙前の2月17日に開かれた「函館圏の活性化と新幹線フォーラム」では、元鉄道建設公団関東支社長の吉川大三氏が登壇し、新幹線函館駅乗り入れは75億円でできると講演しました。

高橋亨北海道議会議員のブログによりますと、大泉氏も出席し、「今後市役所でも重要インフラとしてその必要性やニーズを調査していく。時間もかかるかもしれないが22世紀を生きる子どものために責任を果たしたい」などと述べたそうです。

H5系北海道新幹線

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慎重な発言

当選後、日本経済新聞4月24日付に掲載されたインタビューでは、次のように答えています。

「調査せずデータがなければ、どこにも話を持ちかけようがない。ハードルが高いことは承知しているが、市民に課題やチャンス、どれくらいの費用がかかるのかを示す。先行投資しても、後から回収できる未来だと説明したい」

大泉新市長の発言は慎重で、新幹線の函館駅乗り入れがすぐ実現できると考えていないことがうかがえます。言い換えれば、まずは調査をおこなう意向を示したにすぎないともいえます。

財源については、ふるさと納税を挙げたほか、「線路使用料を担保にして、お金を借りるような枠組みを作る必要がある」と説明。財源確保が難題であることを示唆しました。

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標準軌に改軌

北海道新幹線函館駅乗り入れを、ここでは「函館新幹線」と呼ぶことにします。おおざっぱにいえば、新函館北斗~函館間のJR函館線を標準軌に改軌し、新幹線車両を乗り入れさせる構想です。いわゆる「ミニ新幹線」の形態です。

さまざまな案がありますが、貨物列車の走行を考慮して複線の片方を狭軌のまま残し、片方のみを標準軌または三線軌とする案か有力でしょう。現状で単線の七飯~新函館北斗間は、三線軌とするか、新たに標準軌線を敷設します。

総事業費が上述の75億円で済むかはわかりませんが、全長約18kmですので、ミニ新幹線ならば、100億円台で作ることは可能とみられます。

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荒唐無稽ではない

大泉氏は、建設財源の一つとして、ふるさと納税を挙げています。

2021年のふるさと納税の寄付額トップは北海道紋別市で、152億円を集めています。100億円以上を集めた自治体は全国で6つあり、そのうちの半分の3自治体(紋別、根室、白糠)が北海道です。

となると、函館市の自治体としてのブランド力を考えれば、「ふるさと納税で100億円集めてミニ新幹線」という皮算用が、あながち荒唐無稽とまではいえません。

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双方向へ乗り入れ

「函館新幹線」が実現すれば、全線開業後の東北・北海道新幹線で、東京~札幌間を走る列車に「函館行き」を併結することができ、東京駅~函館駅が乗り換えなしで結ばれます。

また、函館駅~札幌駅の直通列車を設定することも可能になります。北海道新幹線札幌開業後、函館~札幌間の列車移動では新函館北斗で乗り換えが発生してしまいますが、「函館新幹線」ができれば、これを解消できるわけです。

つまり、東京方面と札幌方面の2方向に、ミニ新幹線が直通できます。北海道内の流動を考えれば、函館~札幌間にも一定の需要があるとみられます。既存の秋田・山形新幹線は東京方面のみの1方向ですが、「函館新幹線」は、東京・札幌の2方向に需要がある点が、大きな違いです。

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三セクミニ新幹線

建設費の問題がクリアされたとして、一定の採算性を確保して永続的に運用できるのかは、また別の話です。

新函館北斗~函館間の在来線は、北海道新幹線開業後にJR北海道が手を引くことを決めていますので、「函館新幹線」が実現するなら第三セクター鉄道への新幹線直通ということになります。そうした形態でミニ新幹線を維持できるのか、心配があります。

さらにいえば、同区間は、北海道新幹線の並行在来線として、将来の「あり方」が決まっていません。現在、地元自治体で協議中ですが、函館~新函館北斗間の在来線運行の費用分担については未決定です。そこに「ミニ新幹線」という変数を持ち込むならば、ややこしくなるでしょう。

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線路使用料が見込めない?

標準軌または三線軌となった場合、その部分は貨物列車のための用途ではありませので、国やJR貨物から貨物調整金や線路使用料といった「維持費」が減額されるおそれがあります。

となると、函館~新函館北斗間の第三セクター鉄道は、新幹線が使用する部分については線路使用料を見込めず、自力で収支均衡を図らなければならない理屈です。

ミニとはいえ、新幹線を走らせるとなると費用も大きくなりそうですが、三セク鉄道が負担できる範囲なのかは、何ともいえません。

東京方面と札幌方面で、それぞれどのくらいの需要が予測され、何本くらいの列車が走り、第三セクターの経営を圧迫しない程度の赤字で収めることができるのか。

大泉氏は、こうしたさまざまな課題を承知のうえで、調査する方針を示したのでしょう。調査だけに終わってしまう可能性も高そうですが、地元自治体が前向きに調査することには、大きな意味があります。

いわば、「新幹線どうでしょう」という試みです。どういう結果になるのか、興味深いところです。(鎌倉淳)

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