富士山登山鉄道計画、突然の終幕。ゴムタイヤ式「富士トラム」導入へ方針転換

技術的ハードル高く

山梨県が富士山登山鉄道の計画を断念します。代わりにゴムタイヤ式の新交通システムの導入を目指すことになりました。

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架線レスLRT導入を計画

富士山登山鉄道は、富士山のふもとから5合目につながる道路「富士スバルライン」上に軌道を敷設し、LRTを走らせる構想です。山梨県が主体となって2021年に計画がとりまとめられました。

建設の目的は、マイカーや観光バスなどの乗り入れを規制し、富士山の環境負荷を軽減させることです。景観を損ねないよう「架線レス」のLRT導入を目指し、事業化に向けた検討が進められていました。

富士山登山鉄道
画像:『令和5年度 富士山登山鉄道技術課題調査検討結果』より

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車両メーカーも及び腰

しかし、山梨県が2024年10月に公表した報告書では、「架線レスLRT」を富士山に導入するための、技術的な課題が列挙されていました。

想定された蓄電池車両では、まず実現不可能で、第三軌条にバッテリーを組み合わせて十分な電力を確保する必要があります。そのうえで、登坂力・制動力・耐寒性能に優れた高性能車両を投入して、増粘着材を散布しながら走らせなければなりません。

車両の開発に10年はかかると見込まれ、受注企業が現れるかも怪しまれる内容でした。

富士山登山鉄道
画像:『令和5年度 富士山登山鉄道技術課題調査検討結果』より

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山梨県が方針転換

富士山登山鉄道について、山梨県は、調査報告の公表時に「技術的に可能」であると主張していましたが、実際に導入するのが困難なことは明らかでした。

そのため、山梨県は方針を転換。2024年11月18日に、「鉄軌道案」を断念すると正式発表しました。

断念する理由について、山梨県ははっきりと説明していません。地元の反対運動や環境悪化の懸念を踏まえた判断とも報じられていますが、実際は、技術的にほぼ不可能と明らかになったことが、大きな理由とみられます。

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ARTが新たな候補

山梨県は、富士山登山鉄道の代替案として、レール不要のゴムタイヤ式の新交通システム「富士トラム」(仮称)の検討を発表しました。

富士トラムは、「磁気マーカーや白線による誘導方式」を用いたシステムです。詳細は定かではありませんが、いわゆる「ART」(Autonomous Rail Rapid Transit)とみられます。

ARTは、路面に埋め込んだマーカーや、描いた白線に沿って走るバスです。ゴムタイヤなので、急勾配にも強く、軌道を敷設する必要がないので、いまの道路を活用しやすいという長所があります。

車両は水素を使う燃料電池を動力源とします。中国の鉄道車両メーカー、中国中車(CRRC)が実用化したシステムをベースにするようです。

富士トラム
画像:山梨県プレスリリース

「富士トラム」の運行区間

「富士トラム」の運行区間は未決定です。山梨県の発表では、「富士山五合目までの新交通システムとリニア新駅を直結する」という表現になっています。

富士山五合目とリニア新駅が直結されるかのような表現ですが、よく読むと、直結するのは「新交通システムとリニア新駅」であって、「五合目とリニア新駅」とは限りません。

富士トラムルート
画像:山梨県プレスリリース

上図を見ると、ARTが走るのは山麓~五合目間のみのようです。各社報道によると、ARTは一般道も走行は可能で、まずは富士スバルラインへの導入を目指し、将来的にリニア駅への延伸を図る構想のようです。

ART案は、「第三軌条LRT」による富士山登山鉄道に比べれば現実的に感じられますが、国内に導入例はありません。積雪時に安全に動作するのかなど、富士山のような過酷な環境での実現性については、何ともいえません。

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富士山登山鉄道計画は終幕

いずれにせよ、2021年に計画案が公表されて話題を集めた「富士山登山鉄道」計画は、これにて終幕となります。

ARTは軌道法の適用を受けるそうなので、新たな「富士トラム」計画も、正確には鉄軌道の範疇といえます。

しかし、ゴムタイヤの車両がアスファルト上を走るのであれば、「登山鉄道」を称するのは難しいでしょう。山梨県が「トラム」という呼称を用いているのも、そうした理由とみられます。

スバルラインを軌道にする案は、故宮脇俊三氏が『夢の山岳鉄道』で披露したアイデアでもあり、鉄道ファンの高い注目を集めていました。

実現しないのは惜しまれますし、宮脇氏も泉下で悔しがっていそうですが、技術的な検討をした結果なので、受けとめるほかなさそうです。(鎌倉淳)

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