本州と北海道を結ぶ「第2青函トンネル」構想が浮上しています。自動車道と貨物鉄道の併用トンネルで、完成すれば本州と北海道を結ぶ交通体系に大変革が起きますが、実現性はあるのでしょうか。
「津軽海峡トンネルプロジェクト」
本州と北海道を結ぶトンネルとして、青函トンネルが開通したのは1988年。鉄道専用で、自動車は走れません。鉄道も北海道新幹線と貨物列車が併用しているため、速度の遅い貨物列車が走ることで、新幹線が速度制限を受けるという問題があります。
第2青函トンネルが実現すれば、これまで走れなかった自家用車や、バス、トラックが津軽海峡を自力で渡ることが可能になるほか、青函トンネルから貨物列車を分離することで、新幹線の速度向上につながります。
第2青函トンネル構想は以前からありますが、現実感のある計画を具体的に示したのが、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が2020年11月に公表した「津軽海峡トンネルプロジェクト」です。その内容をひもときながら、第2青函トンネルの実現性を見ていきましょう。
三厩~福島31km
JAPICは「津軽海峡トンネル」としていますが、ここでは「第2青函トンネル」と表記します。第2青函トンネルは、現在の青函トンネルと並行する形で、本州側の三厩と、北海道側の福島をつなぎます。トンネル延長は31.0kmです。
本州側は東北自動車道の青森インターまでの60kmのアクセス道路を作ります。北海道側は松前半島道路に接続します。松前半島道路はすでに計画されている地域高規格道路で、函館江差道を経て道央自動車道に接続し、札幌方面へつながります。
鉄道は、本州側が三厩まで12km、北海道側が木古内まで35kmのアクセス線を建設し、それぞれ津軽線、道南いさりび鉄道と接続します。
トンネルの特徴
第2青函トンネルは、内径15mの円形を想定しています。青函トンネルは内径9.6mですので、その1.5倍となります。建設中の外環道の3車線トンネルの内径14.5mとほぼ同じ大きさです。
トンネル上部が道路、下部が線路と避難通路兼緊急車両走行道路となります。上部の道路は片側1車線、下部の線路は単線を想定しています。
道路の特徴は、自動運転車のみを走行可能とすることです。自動運転専用とすることで、多重追突などの危険を下げることができます。自動運転未対応の車両に対しては、車両積載車が荷台に乗せてトンネル内を運びます。
片側1車線のため、走行中の追い越しはできません。ただ、道路幅員は片側5.75mとし、故障発生時に離合を可能にします。また、国際海上コンテナ車の規格にあわせ、高さ4.1mの車両でも走れるようにします。
線路の特徴は、貨物専用の単線とすることです。構造上、途中に交換設備を設けることができないとみられますので、30km以上の長大区間ですれ違いができません。
となると、線路容量に限りがありますが、JAPICでは現状の上下線51本を走らせることができるとしています。一往復ずつ交互運行をする必要はないので、片方向をまとめて走らせるなどの工夫をすれば、単線でも十分な列車本数を確保することができるのでしょう。
トンネル下層には、鉄道と並行して避難通路兼緊急車両通路が作られます。ここには、前後進可能な緊急車両が配備されます。この通路は車両のすれ違いができませんので、どちらにも走れる自動運転の車両を緊急時のために配置する、ということです。
青函トンネルより40%短い
トンネル延長31.0kmというのは、青函トンネルの53.85kmに比べて40%も短いです。
トンネル延長を短くするため、新トンネルは、土かぶりを小さくして浅い部分に通します。青函トンネルは海底下100mですが、新トンネルは30mにすぎません。また、青函トンネルは最大勾配12パーミルですが、新トンネルは25パーミルです。
つまり、浅い位置を通す上に、急勾配にしているので、トンネル延長を短くできる、というわけです。
現状の青函トンネルが計画されたのは1950年代です。当時に比べれば、現在は機関車の性能が飛躍的に向上しており、トンネルの傾斜を大きくしても貨物列車の走行に支障がありません。それがトンネル長さの短縮につながっているわけです。
鉄道の本州側接続点が三厩というのも、このトンネル距離の短さによるものです。三厩に接続することで、現在、超過疎路線になっている津軽線末端部が、貨物鉄道のメインルートとしてよみがえることになります。
メンテナンス負担も軽く
青函トンネルは発破などで掘削し、コンクリートを吹き付けて壁面を固めるNATM工法が採用されました。これに対し、第2青函トンネルはシールド工法を用います。土木技術の進化により、高水圧、長距離掘進に対応したシールド技術が実現し、水深140m付近における地中接合技術が確立したことによるものです。
セグメント背面にコーティングを施し、継手部に高耐水圧シールを採用する密閉型トンネルとします。これにより、青函トンネルで悩まされている湧水がなくなり、排水作業が不要となります。
高強度コンクリートを使用することで、耐久性も飛躍的に向上。将来の大規模改修が不要になります。というわけで、新トンネルはメンテナンスの負担が格段に軽くなります。
需要予測
開通後、道路トンネルの運行台数は、大型車1日3,600台、普通車1,650台を想定します。これは、本州~北海道間での移動需要が1.85倍になり、フェリーから77.5%がトンネル利用に転換すると試算した結果です。
通行料金は、大型車18,000円、普通車9,000円と仮定しています。高額に感じられますが、函館~青森間のフェリーの価格にくらべ、普通車で37.5%、大型車で65.4%安くなります。ただ、アクセス道路の料金も含めた、函館~青森間で比べると、普通車はほぼ同額、大型車は45%安くなる程度です。
車両運搬車に積載する場合は、大型車2,000円、普通車1,000円増を想定しています。
鉄道に関する需要予測は示されていません。貨物列車の走行条件は新トンネル開通でも大きくは変わらないので、需要に変化はないとみているのでしょう。
所要時間は?
自動車の所要時間としては、函館~青森間が2時間30分となり、現状の5時間に比べ半減します。貨物列車の所要時間には大きな変化はなさそうです。
鉄道で大きな効果が得られるのは、新幹線です。現在の青函トンネルが新幹線専用になるため、160km/hに抑えられている最高速度の向上が実現します。
JAPIC資料によれば、青函トンネルを含む盛岡~札幌間の最高速度が320km/hになることで、東京~札幌間が4時間33分に。全線の最高速度が350km/hになることで、約4時間になります。
青函トンネルの傾斜を考えると、トンネル内で350km/h運転は難しそうですが、260km/h運転でも時間短縮の効果はあります。
事業スキームは?
総事業費はトンネル部分が7,200億円と試算。東北自動車道へのアクセス道路60kmの整備費2,500億円と、貨物鉄道の三厩、木古内アクセス路線の整備費1,500億円を別途見込みます。合わせると1兆1,200億円となります。
事業方式としては、PFI事業・BTO方式のサービス購入型を検討します。PFI事業というのは、民間の資金や技術、能力を活用して、公共施設等の建設、維持管理、運営などを行う手法です。
BTO方式とは、民間事業者が施設を建設し、施設完成直後に公共団体に所有権を移転し、民間事業者が維持管理、運営を行う方式です。
サービス購入型とは、民間の管理運営者に対して、公共団体が民間にサービス購入料を支払い、施設整備費及び維持管理運営費を回収する方式です。
具体的には、国や独立行政法人などが第2青函トンネルを保有し、特別目的会社(SPC)が運営する手法を検討しています。こうした手法で、32年で投資を回収できるとしています。
事業期間は、調査設計から数えて完成まで約15年を見込みます。いますぐ着手したとして開通は2030年代後半となります。
私案に過ぎないが
JAPICの「津軽海峡トンネルプロジェクト」は、一つの私案にすぎません。ただ、これまでに出ているいくつかの私案に比べると完成度が高いと言えます。
その特徴は、自動車道路と貨物鉄道線を一つのトンネルにまとめてしまうことです。上述したとおり、トンネル内径15mは、建設中の外環道のトンネル内径14.5mとほぼ同じです。そこに往復の自動車道と単線鉄道を入れ込んでしまう設計は秀逸でしょう。
自動運転を前提とすることについても、トンネル完成が早くて2030年代後半ということを考えれば、妥当と考えられます。自動運転にも段階(レベル)がありますが、衝突軽減ブレーキや、レーンキープアシスト、アクティブクルーズコントロールといった機能を装備していない自動車の走行を排除しても、2040年なら問題はなさそうです。
意義のある事業
個人的な感想をいえば、青函トンネルの貨物共用問題を解決でき、自動車道まで建設できるというのであれば、概算で1兆円超という事業費でも高いとは思いません。
巨額プロジェクトには違いありませんが、本州と北海道をつなぐという意義の高さを考えれば、むしろ安いくらいです。片道9,000円(普通車)の通行料はやや高いと感じてしまいますが、距離の長さを考えればそんなものでしょう。
気になる点があるとすれば、本州と北海道を結ぶ基幹的なインフラを作るのだから、もう少し冗長性のあるものを作った方がいいのではないか、ということでしょうか。お金がかかっても、片側2車線の道路や複線鉄道を敷設したほうが、将来の状況の変化にも対応しやすいのではないか、ということです。
ただ、そのためには複数のトンネルを掘らなければならず、事業費が数兆円になってしまいます。採算性を重視せざるを得ない時代ですし、数兆円のプロジェクトとなると、なおさら実現が遠のきます。そう考えると、こうしたコンパクトな案で実現性を探る方がいいのかもしれません。
現状では、上記の内容はたたき台に過ぎず、計画の精査は必要です。とはいえ、青函トンネルが完成して四半世紀。これから着手するなら開通は半世紀後で、本州と北海道の間に、新たなルートを建設してもいい時期になってきたと思います。
実現までの道のりはまだ遠いという印象ですが、前向きに議論して欲しいところです。(鎌倉淳)