鉄道ローカル線、地方自治体のスタンスを読み解く。論点はどこにあるのか

第2回「地域モビリティ検討会」資料から

国土交通省がローカル鉄道路線の見直し方を検討する会議の2回目会合を開催しました。地方自治体へのヒヤリングが主な内容ですが、自治体の地域鉄道に対するスタンスはさまざまです。論点をみてみましょう。

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地方自治体へのヒヤリング

国土交通省は、ローカル鉄道路線の見直し方を検討する会議を2022年2月にスタートしました。「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(以下、地域モビリティ検討会)と題するものです。

その第2回会合が3月3日に開かれ、地方自治体へのヒヤリングとアンケート結果が公表されました。

自治体へのヒヤリングは近江鉄道に関連する滋賀県と、中国地方のローカル線を抱える広島県に対して行われました。両県とも知事名義で資料を提出しています。順に見て行きましょう。

近江鉄道

滋賀県の指摘

滋賀県の資料は、主に近江鉄道の経営問題から上下分離に至る経緯を説明しています。

まず、近江鉄道について協議を始める際に生じた課題をいくつか指摘しました。鉄道事業者と自治体が協議するための組織や協議の旗振り役が存在しないこと。自治体ごとに鉄道の必要性や問題に対する関心度合いに温度差があること。自治体が鉄道事業者の利用状況や経営状況の情報を有していないことです。

協議を始めてからも、鉄道事業者の情報やデータの入手が難しい、鉄道事業者の経営状況に関する基準や評価指標がない、自治体に鉄道事業や企業会計などに精通した職員がいない、といった問題もありました。

さらに、上下分離に至る際には、多額の財政負担が生じること、第三種鉄道事業者(鉄道施設保有者)に必要な人材の確保が困難なこと、第二種鉄道事業者(運行事業者)と第三種鉄道事業者が連携するための体制構築が必要なことを指摘しました。

解決策として、国に対しては、協議段階からの積極的関与、鉄道事業に精通した職員などの派遣、財政支援の拡充などを求めました。鉄道事業者に対しては、経営状況や利用状況の説明責任の明確化を求めました。

さらに、鉄道事業者の経営状況などを評価できる基準や、第三種鉄道事業者の安定的な事業運営を支援する仕組みの必要性を訴えています。

滋賀県では、地域公共交通を支えるための税制の導入可能性も検討するなど、公共交通を維持する仕組みの構築を目指しているそうです。

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広島県の指摘

広島県の資料では、県内ローカル鉄道に対する取り組みをまとめています。

同県は、2000年以降に可部線(可部~三段峡)と、三江線(三次~江津)という2路線の廃線を経験しています。

2018年7月の西日本豪雨災害で交通網を寸断され、鉄道輸送の価値を改めて認識したこともあり、さまざまな鉄道利用促進の取り組みや提言を重ねてきたそうです。

そうした取り組みを紹介したうえで、次のような提言・要望をしました。

まず、地元選出である岸田文雄首相の「新しい資本主義」の考え方を踏まえ、「採算・収支ないしは株主の視点を過度に重視した“市場原理主義”のような発想に陥ることはあってはならない」とし、「鉄道はネットワークとして意味のあるものであり、不採算区間のみを切り出して考えるのではなく、ネットワーク全体のバランスの中で存続が図られるよう」要望しました。

つぎに、「区間ごとにその扱いを考えるという前提に立つのではなく、国鉄改革時の考え方も踏まえつつ、国の交通政策の根幹として鉄道ネットワークをどう考えるかという議論」を求めました。

とくに、「JRについては、国鉄改革時に、当時の不採算路線を含めて事業全体で採算が確保できるように制度設計された」という2001年の国会答弁を指摘。「国鉄改革時に想定された制度設計、事業構造が維持できないということであれば(中略)JRのあり方そのものに立ち返って、議論することが必要ではないか」と主張しました。

さらに、JR西日本が利用の低迷している30区間の収支を公開する方針を示したことについて、「コロナ禍に伴う急激な経営悪化も背景にあるならば、全路線の収支を公開してはどうか」と迫りました。

また、JR線廃線後の代替交通を地元バス会社が担う場合、「資本が脆弱な地元交通事業者や、補助金を交付する地方自治体にとって大きな負担となり、持続可能性が問題となる」とも指摘しました。

そのうえで、国に対しては、コロナ禍を乗り切るために、「JRを含めた鉄道事業者の経営基盤の安定化への支援」を求めました。また、鉄道事業法における鉄道廃止手続きについて、「民間企業の判断のみで存廃を決せられる法制度は適切か」と疑問を呈し、「より公の関与を深めるような方向での見直し」を提言しました。

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芸備線

都道府県アンケート

会議では、都道府県に対するアンケート調査結果も公表しました(43自治体が回答)。記述が非常に多いので、ここでは主な意見を抽出していきます。

まず、JR各社に対しては、「新幹線等の収益路線を引継ぎ、内部留保を多く積み上げてきた」と指摘したうえで、「コロナ禍の一時的な減収減益を鉄道路線の廃止・縮小の理由とせず、地域にとって不可欠な交通サービス(特に通学輸送)の維持と利便性向上を図るべき」という意見がありました。似たような意見は他にもあり、自治体側が広く抱いている認識のようです。

また、国鉄の分割・民営化に関連し、「経営体力の弱いエリアから鉄道の廃線が進むような不公平な事態は避けなければならない」という指摘もありました。同じような輸送密度であっても、JR東日本では維持されるのに、JR西日本では維持されないというのであれば、自治体からみれば「不公平」であるという主張です。「国鉄改革からの状況の変化等を検証することも必要」と、国鉄改革の検証を求める訴えもありました。

「鉄道事業者の独立採算制を前提とした鉄道政策が、社会インフラとしてどうあるべきか方向性を示すことが必要」という意見もあり、交通政策全体の見直しを訴える意見もみられました。

なぜ鉄道でなければならないのか

そもそも、なぜ鉄道でなければならないのか、という根源的な疑問もあります。これについては、「地図、Webマップに掲載されているため、重要なランドマークになる」という回答が、地方自治体の偽らざる本音でしょう。

しかし、ランドマークのためだけに鉄道を残すべしという話ばかりではなく、「交通弱者の通院・通学等にも対応した高い定時性や速達性、安全・安定性を有している」という、鉄道の長所に着目したオーソドックスな回答もみられます。

さらに、「駅は重要な交通結節点であり、周辺には商店街や公的機関、居住地、就業地があるなど、地域の拠点として賑わいの中心になっている」、「他の交通モードとの連携によって、地域内の利便性の高い交通ネットワークが形成できる」という、地域交通の軸としての重要性を強調する回答も目立ちました。

鉄道ローカル線といってもさまざまですが、一定の利用者のいる路線では、上記のような意見は当然でしょう。

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情報公開を求める

鉄道会社に対しては、情報公開を求める声が目立ちました。

「各交通機関による線区ごとの収支状況や時間帯ごとの利用状況、運行状況などに関するデータの収集や、県を含む関係者への開示等を担保する制度的枠組みを整備していただきたい」というのは代表的な意見といえそうです。

「地域のニーズを満たす手段が他のモードで対応可能かどうかを議論する際には、直接必要となる経費だけでなく、鉄道ネットワークが地域にもたらす価値の評価(クロスセクター効果など)を含めて議論する必要がある」のですが、そのベースとなるデータが不足しているということです。

関連して、「鉄道存廃時の費用便益の求め方、存在価値の算定事例」などといった、「鉄道評価マニュアルの充実」を求める声もありました。

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