国交省がローカル鉄道路線の見直しを検討する会議を立ち上げました。公表された資料を読み解くと、国交省が考える「ローカル線問題の着地点」が見えてきそうです。
地域モビリティ検討会
国土交通省は、ローカル鉄道路線の見直し方を検討する会議を2022年2月14日にスタートしました。「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」(以下、地域モビリティ検討会)と題するものです。
この検討会の開催趣旨は、「鉄道事業者と沿線地域がローカル鉄道の置かれた現状について危機認識を共有し、相互に協力・協働しながら、いかにして利便性・持続性の高い地域モビリティを再構築していくか」について検討するものです。そして、「国としてどのような政策をとっていくべきか」についても審議します。
ポイントは「地域モビリティの再構築」という点でしょう。「地域鉄道の再建」ではないことに、まずは留意しなければなりません。ローカル鉄道のバス転換も含めて、地域公共交通網を再構築するための会議といえます。
政府の検討会は、開催時においてある程度ゴールが定められているのが一般的です。そしてそのゴールへの方向性は、初回の資料からある程度読み取ることができるものです。では、初回に配布された資料にはどんなことが書かれているのか、順に見て行きます。
「抜本的な構造改革」求める
まず、国交省がつくった『検討会の設置について』という資料を見てみます。
ここでは、鉄道を取り巻く現状について、「大量高速輸送機関である鉄道としての特性が十分に果たせない線区も出てきている」とした上で、「民間企業である鉄道事業者」の努力に委ねていては、地域交通の利便性が損なわれたり、将来的な持続性が失われる可能性があると指摘しました。
そのうえで、鉄道が担ってきた「地域の移動の足」をどう刷新していくかについて、議論の入口として問題提起しています。
解決の方向性としては、最新の技術も取り入れながら、「鉄道への必要な追加投資や公有民営化(上下分離)、線区の状況によってはモード転換(LRT、BRT等)などの抜本的な構造改善策に取り組む必要がある」との道筋を示しました。
「輸送モード転換」
具体的には、鉄道事業者に対しては、「改善方策を沿線地域に積極的・具体的に提案していくこと」を求め、地方公共団体に対しては、「地域モビリティの刷新に取組むことは地域の責任」との意識を持つことを求めています。
検討会の目的としては「合意に基づき、鉄道特性が発揮できる線区については、鉄道輸送を維持・改善し、発揮が難しい線区については、輸送モードの転換も視野に入れて地域モビリティの刷新に取り組む」と記されています。
輸送量の少ない路線の「輸送モード転換」とは、一部でLRTなどへの転換も含まれますが、ほとんどは「バス転換」を指します。近年の国交省は、ローカル線の扱いについて「バス転換」という単語を避ける傾向にありますが、この資料でも「輸送モード転換」という言葉が使われています。
端的にいえば、「一定の輸送量がある路線では追加投資や上下分離を実施し、輸送量が極端に少ない路線ではバス転換する」ことを、検討会の目的に据えているわけです。
地域鉄道の現状
つづいて、『ローカル鉄道を取り巻く現状』という資料があります。輸送人員、鉄道会社の社員数が漸減傾向にあることや、施設の老朽化が進んでいること、地域鉄道会社95社の79%が鉄軌道事業で赤字であることが示されています。
さらに、JR旅客6社における各輸送密度ごとの路線の割合の円グラフが示されています。
このグラフによると、輸送密度4,000人未満の路線は、営業キロベースで1987年に36%だったのが、2020年度には57%に達しています。JR全線の半分以上が、国鉄時代の「特定地方交通線」レベルになっているわけです。
このグラフに新幹線は含まれていないので、輸送密度が高かった並行在来線を分離したことによる影響を勘案する必要はあるものの、地方の鉄道路線の多くが深刻な利用者減少に見舞われていることは、理解できます。
グラフで「200人未満」という区分が設けられているのは注目点です。4,000人、2,000人という区分は特定地方交通線と同じですが、200人という区分は、JR北海道が廃線の目安としている数字です。それが国交省の区分でも用いられています。
JRの路線別輸送密度も図示されています。これは路線別の輸送密度で、たとえば山陰本線は京都~幡生間の全線平均の数字になっているようです(2019年度で4,558)。
JRのトンネル・橋梁の経過年数がわかるデータも示されています。トンネル、鉄橋とも、耐用年数を超えた施設が6割を超えています。
バスの経費は鉄道の10分の1
『参考資料』として、国鉄時代の特定地方交通線の説明、利用促進や活性化、上下分離、バス転換などの事例、政府の支援制度の概要などが示されています。詳細は省きますが、各社の観光列車や、三陸や日田彦山線のBRT、夕張支線のバス転換などが、活性化やモード転換の実例としてあげられています。
目を引くのが、「鉄道とバスの走行キロあたりの経費比較」という資料です。走行キロあたりの営業費用が、バスは鉄道に比べて10分の1程度の水準であることが示されています。
ここまで国交省が用意した資料です。簡単にいうと、ローカル線の利用者は減り続けていて、設備は老朽化していて、鉄道会社は経営難で、その対策として上下分離やバス転換などの方法があり、バスの経費は鉄道より大幅に安いことを説明しているわけです。