日本イコモス国内委員会が、後世に残したい「日本の20世紀遺産20選」を発表しました。上野恩賜公園と文化施設群を筆頭に、代々木屋内総合競技場、青函トンネル、肥薩線、東海道新幹線なども選ばれました。
20世紀遺産の多様性に光
日本イコモス国内委員会は、国際組織のイコモス(国際記念物遺跡会議)の国内組織で、文化遺産保存に関する専門家・団体で構成されます。
上部機関であるイコモスはユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関として世界文化遺産の選考に関わっていますが、20世紀の遺産は著名な建築家による建築物に偏りがち。そのため、20世紀遺産の多様性に光を当てる目的で、今回、「日本の20世紀遺産20選」が選定されました。
「20世紀遺産20選」選定基準
選定の基準は、以下のとおりです。
1 20世紀に新たに登場したもの
2 19世紀までにあり、20世紀に進化・展開したもの
3 歴史上の事件を象徴するもの
4 伝統と20世紀遺産の対比・融合
これに加えて、「5 日本という地域性を表しているもの」が考慮されます。
「4」がややわかりにくいですが、伊賀上野の「城下町とモダニズム建築群」などが例として挙げられています。
「日本の20世紀遺産20選」全リスト
では、選ばれた「日本の20世紀遺産20選」をご紹介しましょう。
1 上野恩賜公園と文化施設群(表慶館、東京国立博物館本館、国立科学博物館、東京文化会館他)/境内から公園へ
2 国立代々木屋内総合競技場/大規模空間建築の傑作
3 立山砂防施設群 /水系一貫の総合的砂防システム
4 黒部川水系の発電施設群/自然と一体化した電源開発の究極
5 瀬戸大橋/橋技術のシンボル
6 青函トンネル/世界最長の海底トンネル
7 舞鶴の海軍施設と都市計画/生き続ける軍都の格子状街路と赤煉瓦の施設群
8 南禅寺界隈の近代庭園群/琵琶湖疏水を活用した 20 世紀の和風庭園・住宅群・都市周縁部開発
9 隅田川橋梁群と築地市場他を含む復興関連施設群/関東大震災からの復興施設と近代橋梁群による隅田川の景観
10 迎賓館赤坂離宮/明治の近代化における洋風建築と迎賓館への保存再生
11 聴竹居/伝統を生かし、近代の環境工学の思想を取り入れた傑作
12 箱根の大規模木造宿泊施設群/日本古来の伝統構法を生かした温泉旅館建築と景観
13 肥薩線(旧鹿児島本線)/ 黎明期鉄道技術(英独米)の日本的展開
14 鶴岡八幡宮境内の旧神奈川県立近代美術館/社寺境内に挿入されたモダニズム建築の代表
15 有田の文化的景観/町並、産業・文化施設群/20世紀に継続発展した伝統産業景観の代表
16 旧朝倉邸と代官山ヒルサイドテラス/近代建築理論の具現化と民間による都市周縁部開発
17 小岩井農場/欧米牧畜業の近代技術を導入し営まれ続けている農場コミュニティの景観
18 西条の酒造施設群/20世紀に継続発展した伝統産業景観の代表
19 東海道新幹線/高速・大量輸送旅客鉄道システムの原点
20 伊賀上野城下町の文化的景観/旧城下町の都市景観にあわせた近代建築群の代表例
これらに加えて、「0 広島平和記念資料館及び平和記念公園 /第二次大戦からの復興・原爆ドームのエクステンション」が世界遺産の範囲拡大の提案として含まれています。
世界遺産の候補にも
選定結果に関しては、「20世紀遺産」という、きわめて広いカテゴリからたった20を選ぶという難しい作業であったことがうかがえます。
瀬戸大橋や青函トンネルあたりは、日本の国土を一体化させた意義は大きく、異論は少ないと思いますが、意見が分かれたと察せられる遺産も散見されます。地域分布に配慮した跡も見受けられます。それでも、「日本の20世紀」という大テーマを感じられる、いい選定ではないかと思います。
これらの20選は、将来的には世界遺産の候補になる可能性もあるようです。その意味も含めて、選ばれた遺産は、観光資源としても注目されていきそうです。(鎌倉淳)