北陸新幹線の敦賀~新大阪間について、国土交通省が8つのルート案の再試算をおこない、与党整備新幹線プロジェクトチームに提示しました。費用便益費などの数字を決めた要素は何か、詳細をみてみましょう。
社会的割引率2%も試算
北陸新幹線新大阪延伸の再試算は、与党PTの指示で国交省がおこないました。現在の整備方針となっている小浜・京都ルートを含む8ルート9案を比較しています。2026年6月19日に、国土交通省が正式に与党PTに提示しました。
提示された資料によると、費用便益費(B/C)の試算については、社会的割引率について、「4%」と「2%」の2パターンを記載し、「2%」を参考値としました。
社会的割引率は4%を適用するのが基本ですが、『公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針』により参考値を設定してもよいことになっており、直近の国債利回りを踏まえて2%にしたようです。
また、未着工の敦賀~新大阪間のみを評価する「個別評価」のほかに、東京~新大阪間の全体を評価する「一体評価」の試算も記載しました。一体評価については、「整備計画に基づき、ミッション(目的)上一体である起終点間全体を対象として評価」したとのことです。

B/Cの結果
再試算のB/Cは以下の通りです。「社会的割引率4%の一体評価」「同個別評価」「社会的割引率2%の一体評価」「同個別評価」の順に記載します。
ルート/4%一体/4%個別/2%一体/2%個別
小浜(南北) 1.1/0.5/1.3/0.9
小浜(桂川) 1.1/0.5/1.3/0.9
亀岡 1.0/0.6/1.3/0.9
米原(直通) 1.0/0.7/1.3/1.1
米原(乗換) 1.0/1.0/1.3/1.6
湖西(新設) 1.0/0.5/1.2/0.9
湖西(改軌) 1.0/0.3/1.2/0.6
舞鶴(京都) 1.0/0.3/1.2/0.6
舞鶴(亀岡) 1.0/0.4/1.2/0.6
社会的割引率を4%の場合の一体評価では、小浜・京都ルートの2案の費用便益比(B/C)が、ともに1.1となり、他の7ルートを上回りました。
一方、個別評価では、米原ルートの乗り換え案が1.0で最高となりました。
社会的割引率を2%とした場合の一体評価は、小浜・京都ルートの2案と、亀岡ルート、米原ルートの2案がともに1.3で並びました。
社会的割引率2%の個別評価では、米原ルートの乗り換え案が1.6と抜きん出ており、米原ルート直通案が1.1となっています。小浜・京都ルートは2案とも0.9%にとどまっています。

米原乗り換え案だけ
整備新幹線を建設する際のこれまでのルールでは、B/Cは社会的割引率4%の個別評価でおこない、1を上回ることが必要とされてきました。
そのルールに従えば、基準となる1に達したのは、米原ルートの乗り換え案だけです。
一方、小浜・京都ルートは、個別評価の場合、社会的割引率を2%にしても1を上回りませんでした。1%に設定すれば上回りそうですが、昨今の金利情勢を踏まえれば、1%にするわけにはいかなかったのでしょう。
概算建設費と工期
B/Cの基となる各ルート案の概算建設費と、工期についてもみてみましょう。以下の通りです。
ルート/概算建設費(物価上昇反映後)/工期
小浜(南北) 4.2兆(5.8兆)/25年
小浜(桂川) 3.9兆(5.5兆)/26年
亀岡 3.3兆(4.6兆)/25年
米原(直通) 2.1兆以上(2.7兆以上)/18年
米原(乗換) 1.3兆(1.7兆)/18年
湖西(新設) 4.7兆(6.7兆)/28年
湖西(改軌) 5.1兆(7.4兆)/28年以上
舞鶴(京都) 5.7兆(7.9兆)/25年
舞鶴(亀岡) 4.1兆(5.8兆)/25年
工期については、小浜・京都ルート以外は、別途、整備計画変更や環境アセスなどに5~7年以上が必要です。そのためもっとも工期が短い米原ルートでも25年程度は必要で、小浜・京都ルートに比べて早くできるという見通しにはなりません。
米原ルート直通案の建設費
米原ルートの直通案については、概算建設費が乗り換え案に比べて8,000億円も高くなっているのが目を引きます。
直通について、どのような費用を上乗せしたのかが気になりますが、注釈には「一部直通に係る技術的課題(信号・指令システム・脱線逸脱防止装置の相違)は未解決のため、北陸新幹線側にかかる費用については、実績を基に簡易的に試算」とあるだけです。
ただ、「東海道新幹線側にかかる費用等は含んでいない」とありますので、たとえば鳥飼車両基地への引き上げ線の新設や新大阪駅のホーム増設といったような、大がかりな設備改善の費用は含まれていないようです。
なお、米原案は、乗り換え、直通のいずれも、敦賀~米原間に中間駅は想定していません。
湖西ルートはなぜ高いのか
湖西ルートの新設案に関しては、滋賀県内に中間駅を設置し、京都駅に乗り入れる想定です。京都駅からは、小浜・京都ルートと同じく、松井山手駅を経て新大阪駅に至ります。
湖西ルートは、距離的には小浜・京都ルートより短いはずですが、概算建設費はその南北案より5,000億円も高くなっています。理由はとくに記されていません。
改軌案の試算方法
湖西ルートの改軌案については、概算建設費が5.1兆円と新設案より高くなっています。
改軌案とは、在来線を活用する案です。それが、なぜフル規格の新線より高くなるのか不思議ですが、資料によれば、「改軌工事に加えて、強風対策や既存ホームの改良など大規模な改築工事が必要となるため、新設と同等の単価を基に簡易的に試算」したそうです。
改軌案のルートは、敦賀~京都間で湖西線を改良し、滋賀県内に中間駅を設けます。京都~新大阪間は小浜・京都ルートと同じく新線を建設します。
要するに、在来線改良ではあるものの、新線を建設する以上の手間を掛けて湖西線を活用するという仮定を置いたため、建設費が高くなってしまうようです。
亀岡ルートと舞鶴ルート
亀岡ルートについては、小浜市付近(東小浜)、亀岡市付近に駅を作り、新大阪駅に達します。
舞鶴ルートの京都経由案は、小浜市付近(東小浜)、舞鶴市付近に駅を作り、京都駅、松井山手駅、新大阪駅というルートをたどります。舞鶴~京都間に駅は作りません。
舞鶴ルートの亀岡経由案は、舞鶴市付近から亀岡市付近を経て、新大阪駅に直行します。
これらはおおむね距離に応じた建設費になっていて、亀岡ルートの3.3兆円が最安値となっています。
時間短縮効果
最後に、金沢駅・福井駅から京都駅と新大阪駅までの時間短縮効果もみてみます。
ルート/京都まで/新大阪まで
小浜(南北) 35分/42分
小浜(桂川) 23分/45分
亀岡 5分/48分
米原(直通) 27分/36分
米原(乗換) 13分/22分
湖西(新設) 38分/46分
湖西(改軌) 9分/16分
舞鶴(京都) 23分/31分
舞鶴(亀岡) 5分/38分
米原駅の乗り換え時間
時間短縮効果の注目点は、米原ルートの乗り換え案です。直通案と比べて14分も長くなっています。
直通案でも1分程度の停車時間はみているでしょうから、米原駅での乗り換え時間として、15分程度をみていることになります。
現在の敦賀駅の新幹線と在来線の乗り換え標準時間は8分です。米原乗り換え案は、その倍近いの乗り換え時間を見積もっているわけです。駅の構造がどうなるかはわかりませんが、さすがに盛りすぎな気もします。
ただ、東海道新幹線はダイヤが過密なため、北陸新幹線にあわせた接続ダイヤを組めないかもしれません。そうした事情を考慮して、長めに見積もっている可能性もあるでしょう。
時短効果が高いのは
時間短縮効果が高いのは湖西ルートです。京都駅まで38分、新大阪駅まで46分の時短効果は、いずれもトップクラスです。ただ、京都・小浜ルートの南北案と比べて3~4分しか違いませんので、ダントツではありません。
舞鶴ルートでは、京都駅まで23分、新大阪駅まで31分の時短効果で、小浜・京都ルートより11~14分程度、余計に時間がかかることになります。
舞鶴市と京都市を直結するので、京都府にはメリットがある案ですが、小浜・京都ルートに比べて10分以上も時間がかかるとなると、利用者には厳しいかもしれません。
米原・湖西ルートに厳しく
以上が、国交省が与党PTに示した再試算の概要です。
気になる点を挙げるとすれば、やはり、米原ルート乗り換え案の扱いでしょう。米原駅での乗り換え時間を長めに取っていることで、総所要時間が延びますので、便益が少なくなり、B/Cの値が低く抑えられている可能性があります。
また、小浜・京都ルートは環境アセスや詳細ルート設計がある程度終わっているので、再試算でその費用を除外しています。それ以外のルートは、整備計画の変更からやりなおしなので、そのぶん不利になります。こうした積み重ねが、一体評価のB/Cで、小浜・京都ルートに対する0.1%の差につながっているかもしれません。
また、米原ルートに関しては、名古屋方面への時短効果も生じますが、その便益が一体評価という枠組みで、どこまで盛り込まれているのかも、明確ではありませんでした。
湖西ルートに関しては、京都駅を経由しないことで費用を抑えるルートも設定できそうですが、そうした試算はおこなわれていません。
有り体に言えば、米原ルートと湖西ルートに有利な要素はなるべく取り入れず、厳しい見積もりをしているようにも感じられます。
曖昧な基準
小浜・京都ルートが有利になる一体評価についても、整備計画に基づくのであれば、北陸新幹線の整備区間である高崎~新大阪間でおこなうのが筋のように思えます。しかし、再試算では、「ミッション(目的)上一体」という曖昧な基準を持ち出して、「起終点間全体」で測っています。
仮に「起終点間」でみるとしても、未着工区間の主たる運行系統である富山~新大阪間や、JR西日本の営業区間である上越妙高~新大阪間を対象にするのが適切という考え方もあるでしょう。しかし、今回の試算では、直通利用する人がほとんどいないであろう、東京~新大阪間で計算しています。
これにより、東北・上越新幹線の東京~高崎間や、東海道新幹線の米原~新大阪間も、費用、便益の計算対象になっているようです。しかし、北陸新幹線で東京~新大阪間の直通利用はほとんど見込めませんので、こうした基準設定には、やや無理がある気もします。
結論ありき
ということで、国交省が示した資料を見る限り、試算内容はご都合主義の香りが漂い、小浜・京都ルートの「結論ありき」に感じられます。
小浜・京都ルートが政治的に優れているのは確かですが、現行の建設基準であるB/C>1をクリアしているとはいえず、着工基準を満たしていません。したがって、これを以てルート決定というわけにはいかないのではないでしょうか。
シンプルに結果をみれば、基準をクリアしているのは米原ルートの乗り換え案だけです。「小浜・京都ルートの数値がもっとも高かった」という報道もありますが、一面的な取り上げ方で、やや違和感を覚えます。
計算方法が厳しすぎる
とはいえ、新幹線ネットワークを考えた場合、米原ルートが最適かというと、それはまた別の話です。B/Cだけでルート決定をするのが正しいともいえないからです。
これまでのB/Cの計算方法が厳しすぎるという指摘はかねてからありますし、その計算方法を定める『鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル』について、一体評価も含めて、改訂の議論がおこなわれているのも事実です。
ただ、改訂を議論する調査検討委員会は2023年12月の第5回会合を最後に会議がとまっていて、最終的な結論は出ておらず、改訂版も公表されていません。
京都市長も懸念
また、仮に小浜・京都ルートに決まったとしても、巨額の事業費を京都府市などの通過自治体が負担できるのかは別の話です。
京都市の松井孝治市長も、財政負担について「将来の京都市民の様々な社会基盤整備を大きく制約しかねない」と懸念を表明しています。つまり、小浜・京都ルートに再決定したとしても、費用負担のルールの変更をしなければ、本格的な着工は困難な状況になっています。
要するに、既存の整備新幹線の建設スキームは限界にきており、新たなルールが必要な局面にさしかかっているわけです。
であるなら、現行ルールで議論しても仕方ないので、新たなルールを決めてから、ルートを再検討したほうがいいのではないか、という気がしてなりません。(鎌倉淳)






















