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錦川鉄道、10年間存続が決定。「クロスセクター効果」を重視

みなし上下分離方式で

山口県の第三セクター鉄道である錦川鉄道錦川清流線が、「みなし上下分離方式」で10年間存続することが決まりました。クロスセクター効果による鉄道のメリットを重視し、岩国市が結論を示しました。10年後の存廃は未定です。

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岩国市の第三セクター鉄道

錦川鉄道錦川清流線は、山口県岩国市の川西~錦町間32.7kmを結ぶ第三セクター鉄道です。旧国鉄の岩日線が特定地方交通線に指定されて廃止対象となり、1987年に錦川鉄道として再出発しました。

2023年度の平均通過数量(輸送密度)は216人/日にとどまり、地方ローカル線のなかでも少ない数字となっています。利用者数は最盛期の1988年度に比べ23%にまで落ち込んでいて、最近は毎年1億円以上の赤字を計上してきました。

錦川鉄道

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状況は厳しく

錦川清流線は全区間で岩国市内を走ります。そのため、発生する赤字を同市が補填してきました。将来的には、さらなる利用者数の減少や、施設等の老朽化により更新費用が必要になることが見込まれていて、取り巻く状況は厳しくなっています。

そこで、岩国市では2023年度から2025年度までの3年間にわたり、錦川清流線の将来のあり方について、さまざままな角度から検討してきました。その検討結果がまとまり、2026年2月18日に最終報告を公表しました。

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「みなし上下分離」の負担額が低く

これまでの検討では、錦川清流線について、現状維持、公有民営(上下分離)、みなし上下分離、一部または全線バス転換の選択肢についてシミュレーションを実施しました。

その結果、廃線の場合の補助金の返還や諸費用を考慮すると、岩国市の実質負担額において、「みなし上下分離」による鉄道存続が、「全線バス転換」よりも低いことがわかりました。

錦川鉄道あり方協議
画像:錦川清流線あり方検討最終報告(岩国市)

「みなし上下分離」とは、鉄道事業者が施設を保有したまま運営するものの、施設の維持費については行政が負担するという、会計上の仕組みです。「下」の部分を市が負担することで、有利な地方債を充当できるというメリットがあります。

また、「鉄道維持」と「バス転換」をメリット・デメリットで比較すると、鉄道では大量輸送性、定時性、速達性、快適性などを維持できるほか、交流人口増加が期待されるなど、メリットが多いことも明らかになりました。

一方のバス転換では、設備投資が不要で、バス停の増設が可能などといったメリットがあるものの、利用者の減少や人口流出の懸念など、デメリットも多いことが確認されました。

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クロスセクター効果

みなし上下分離による鉄道維持の負担額が低い、というのは、バス転換の場合の移行費用や廃線にともなう必要経費などを含めた金額と比較した場合です。

当然のことですが、単純に運行費で比較した場合、みなし上下分離よる鉄道維持よりも、全線バス転換のほうが安いです。その差額は年間で5000万円に達します。

錦川鉄道あり方協議
画像:錦川清流線あり方検討最終報告(岩国市)

しかし、鉄道路線を維持することにより得られる税収や経済効果などを含むクロスセクター効果を試算すると、その総額は約1億年に達します。この数字も考慮すれば、みなし上下分離で鉄道を維持するほうが総合的に有利となります。

さらに、鉄道があることで生まれる地域の魅力、観光資源としての価値、鉄道ならではのメリット、交通手段としての役割などを総合的に勘案し、岩国市では、みなし上下分離によって鉄道を存続するという結論に至りました。

錦川鉄道資料
画像:錦川清流線あり方検討最終報告(岩国市)

 
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10年後に再検討

「みなし上下分離」ですので、経営形態などの変更はありません。したがって、錦川鉄道錦川清流線は、外形的には、現状と同じ形で存続することが決まったことになります。

ただし、岩国市では、今後の利用実績、沿線人口の状況なども見極めていく必要があるとし、10年後(2035年度)を目途に、あらためてあり方を検討することも確認しました。

つまり、2035年頃までは維持するものの、その後は未定ということです。

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クロスセクター効果を広く

クロスセクター効果は、ローカル線のあり方を考える際に、近年取り入れられることが増えた指標です。地域公共交通を廃止した際に生じる、医療、福祉、教育、防災などの代替費用と、維持することで生じる財政支出とを比較することで把握できる、地域公共交通の多面的な効果を指します。

今回の錦川鉄道のあり方議論では、このクロスセクター効果が決定打になった観があります。

ただし、効果の内容をみると、「鉄道廃線により、外出機会が減少することで健康が損なわれやすくなることによる医療費の増加で年66万円」や「鉄道廃線により、錦川清流線という観光資源が無くなるため、鉄道を使ったイベントの代わりとなる観光バスの運行費の発生で年850万円」などについては、広く見積もり過ぎている印象もあります。

もちろん、地域で真剣に議論した結果ですので妥当性はあるのでしょうし、外部がとやかくいう話ではありません。

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鉄道維持という意図

一般論でいえば、市の財政を重視し、とことん節約するなら、バス転換が有利でしょう。そしてバス転換に誘導するなら、クロスセクター効果を調べないこともできたでしょう。

しかし、岩国市はクロスセクター効果を幅広く調べ、その効果を重視しました。したがって、鉄道を維持したいという行政の意図が、ある程度先にあったようにも見受けられます。

その背景として、運転士不足でバス転換が難しいといった、現実的な事情があったのかもしれません。ローカル線は一度失われたら元に戻すのは困難であり、人口減少や人手不足という社会的環境のなか、10年間限定で存続を決めたことは、穏当な結論といえそうです。(鎌倉淳)

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旅行総合研究所タビリス代表。旅行ブロガー。旅に関するテーマ全般を、事業者側ではなく旅行者側の視点で取材。著書に『鉄道未来年表』(河出書房新社)、『大人のための 青春18きっぷ 観光列車の旅』(河出書房新社)、『死ぬまでに一度は行きたい世界の遺跡』(洋泉社)など。雑誌寄稿多数。連載に「テツ旅、バス旅」(観光経済新聞)。テレビ東京「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」ルート検証動画にも出演。