JR美祢線について、JR西日本がバス高速輸送システム(BRT)での運転再開を目指す姿勢を明確にしました。5月22日に開かれた利用促進協議会の総会で、「BRTが適当」との見解を示し、議論の集約を促しています。
復旧検討部会が「とりまとめ」
JR美祢線は山口県の厚狭~長門市間46.0kmを結ぶローカル線です。2023年6月の豪雨被害で約80箇所が被災し、現在も復旧していません。
2025年5月22日に、同県長門市で、美祢線利用促進協議会を開催。復旧検討部会が「とりまとめ」を示し、鉄道3方式(JR単独、上下分離、第三セクター)、鉄道以外の2方式(BRT、路線バス)の計5案について、費用や利便性などの検討結果を報告しました。
「BRTが適当」
報告を受けて、JR西日本の広岡研二中国統括本部広島支社長は「BRTでの復旧によって、広域の鉄道ネットワークの利便性と公共交通としての持続可能性を高めることが適当ではないか」と述べ、BRTでの復旧を求めるを明確にしました。
これまで、JR西日本は、BRTのほか、上下分離方式による鉄道復旧も候補にしていましたが、今回、BRTでの復旧に絞った形です。
これを受け、協議会では、7月にも改めて臨時総会を開き、意見を集約することになりました。協議会会長を務める美祢市の篠田洋司市長は、報道陣の取材に対し、鉄道での復旧を求め続ける方針を維持するものの、「BRTも選択肢のひとつ」とも述べ、受け入れる可能性を示唆しています。
湯ノ峠~厚保間に専用道
この日、示された復旧検討部会のとりまとめによると、JRが示したBRT案は、湯ノ峠駅~厚保駅間のうち、貞任第5踏切~厚保駅間の約4.2kmを専用道化するものです。それ以外は、既存の国道や県道などを走るようです。
復旧費は、BRT案区間の専用道の整備に約45億円を要するほか、停留所などの整備に約7億円、車両購入費に約3億円がかかり、総額で約55億円にのぼります。
BRTのランニングコストは年間2.5億円程度で、全額をJR西日本が負担します。復旧(BRTの運転開始)まで3、4年を見通しますが、専用道区間は2年以内に運行を開始できるとしています。
運賃は被災前の鉄道と同水準を目指し、時刻表や運行情報を鉄道と一体化します。所要時間や定時性も、鉄道と同水準を目指します。
鉄道復旧の費用負担
鉄道で復旧する場合、復旧費は約58億円を見込んでいます。そのため、専用道を設けるBRTと、復旧費の差はほとんどありません。
ただ、BRTの場合、社会資本整備総合交付金により、復旧費の自治体負担は18.3億円に抑えられます。一方、上下分離による鉄道復旧の場合は、約26億円分が国の補助の対象外になるため、復旧費用の自治体負担は少なくとも20億円以上になる見込みです。
また、鉄道の場合、ランニングコストは年間約5.5億円で、BRTの2.5億円を上回ります。JR西日本は、BRT相当額(2.5億円)以上のランニングコストを負担しない姿勢で、鉄道復旧の場合は、年間3億円を地元が負担することを求めています。
財政負担の小さい内容に
JR西日本が提案しているBRT復旧案は、自治体にとって、「復旧費負担が小さく、運行費負担はゼロ」という点で、財政負担の小さい内容になっています。
自治体は、JRによる単独復旧、単独運行を求めていて、その場合も復旧費・運行費の自治体負担はゼロですが、JRが受け入れません。
自治体・JRの両社が受け入れ可能な案のなかでは、BRT案が自治体にとっては財政的に有利な内容となっています。
JRに長期的な負担
JRからみると、BRT復旧案での、自社負担は小さくありません。また、将来的にBRT路線の維持を約束しますので、長期的には大きな負担となります。
ただ、バスにすれば、今後、線路が被災することはなくなります。美祢線は被災の多い路線ですので、将来的な負担要素がなくなる点は大きいでしょう。
また、BRTは、運行経路やダイヤを自由に設定できるので、将来的な運行の柔軟性を確保できます。「公共交通としての持続可能性を高める」ことを目的にするのであれば、鉄道よりBRTが適していると考えているようです。
利用者の要望に応える
復旧検討部会のとりまとめによると、美祢線の利用者が重視するのは、移動の安全性、安価な運賃サービス、遅延の少なさ、運行本数の充実、山陽線や山陽新幹線などとのスムーズな接続です。
JR西日本は、BRTの運行本数は被災前鉄道の約1.5倍と想定しています。単線鉄道に比べれば、公道を走るBRTのほうがダイヤを柔軟に組めますので、他路線との接続も取りやすいでしょう。
JRが提案しているBRTは、「JRが運行の責任を担い、JR鉄道の運賃水準で、鉄道の1.5倍の運行本数で、他路線との接続の良いダイヤで運行」しますので、利用者の要望に応えるものになります。
懸念される遅延についても、鉄道は、車両と動物の接触などで、BRTや路線バスと比べて、「大幅な遅れ」が発生しやすいとしています。
逆に、バスには小幅な遅れは生じやすいですが、鉄道のような大規模な遅延や運休は起こりにくい、ということです。
方向性はほぼ固まった
こうしたとりまとめの結果と、JR西日本の姿勢をみると、美祢線の方向性は、ほぼ固まったとみてよさそうです。
協議会では、7月に意見を集約する予定ですが、「BRT転換」を受け入れる形に進むのではないでしょうか。(鎌倉淳)