「夜行寝台バス」解禁へ。国交省、フルフラット座席のガイドラインを公表

長距離路線で登場?

国土交通省が、高速バスなどのフルフラット座席について、安全性に関するガイドラインを公表しました。いわゆる「夜行寝台バス」が解禁されることになります。これから国内の高速バス路線で広まっていくのでしょうか。

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「寝台バス」解禁へ

国土交通省は、2024年11月19日に「フルフラット座席を備える高速バスの安全性に関するガイドライン」を公表しました。同省の車両安全対策検討会での審議をとりまとめたものです。

日本では、これまで、フルフラットシートの高速バスを運行することはできず、リクライニング角度は最大で143度くらいまでとなっていました。

これは、衝突事故などが起きた際に、乗客がシートベルトから抜けて座席から滑り落ち、前席下部の空間に潜り込む「サブマリン現象」が起きないようにするためです。

つまり、フルフラットの、いわゆる「寝台バス」は規制されていました。

しかし、ガイドラインの公表により、これが解禁されることになります。

高速バス

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4つの構造基準

「フルフラットガイドライン」の適用対象は、乗車定員11人以上の高速バスです。

フルフラット座席のおもな構造基準として、以下の4つを定めました。

①座席は前向き
②座席の脚部(座席前部)に、転落防止プレート、衝撃吸収材などを備える
③座席の頭部、側面に、転落防止措置をおこない、保護部材を設ける
④2点式座席ベルトを備える

高速バスフルフラット座席
画像:国土交通省

 
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事故時に配慮

各項目を簡単に説明しますと、①の「座席前向き」は、衝突時に乗客の頭や頸部を保護する観点です。②の「脚部に転落防止」は、衝突時に乗客が転落したり、足を痛めたりすることを防止するためのものです。

③の「頭部と側面の転落防止」は、旋回時などの転落を防止するためです。④の「2点式シートベルト」は、車両が転覆した際に、乗客が座席から放出されることを防止するためです。なお、3点式シートベルトは、衝突時に乗客の頸部を圧迫するおそれがあるため、採用しません。

いずれもバスが事故を起こした際に、就寝中の乗客に、なるべく被害が及ばないよう配慮した内容といえます。

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座席以外の安全対策

座席以外の安全対策として、「脱出時の動線の確保」「脱出時の手順や経路の表示」「乗客手荷物置き場の確保」「乗降時や非常時に補助が必要な乗客への事前の利用案内」などが示されました。

どれも当たり前のように思える安全対策があえて示されたのは、フルフラット座席を使用する際の状況を想定したものです。

スペースの問題から、フルフラット座席は「二段寝台」になることが想定されます。二段寝台の場合、構造上、後方の非常口が使いづらくなります。そのため、「脱出時の動線の確保」に十分配慮しなければなりません。

ガイドラインでは、非常口付近の座席について、「容易に取り外し又は折り畳むことができる構造とすること」と定めました。

また、二段寝台の場合、荷物棚を設置できなかったり、設置しても下段寝台では利用できないという問題があります。

荷物棚が使えないと、乗客は手荷物を通路上に置くことになり、緊急時の脱出の妨げになります。そうした状況を避けるために「手荷物置場を確保して、脱出時に支障がないようにしなければならない」と定めたわけです。

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中国では姿を消した?

フルフラットのような「多様な乗車姿勢」における安全性については、国際的な基準が定められていません。現在、国連自動車基準調和世界フォーラムの衝突安全分科会などで、議論がスタートしつつある、という状況です。

しかし、海外では、フルフラットの「寝台バス」が運行している国もあります。

日本人によく知られているのは、中国でしょう。「寝台バス」が1990年代に登場し、一時期広く普及しました。

しかし、中国では、寝台バスで重大事故が多発し、現在は姿を消しつつあります。

中国の寝台バスは1ドア設計のため、脱出しづらいこともあって、事故が起きた際の犠牲者が多くなりがちで、当局が規制を強めたと伝えられています。

今回の日本のガイドラインは、中国での状況も踏まえた内容になっています。

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ソメイユプロフォン

日本国内では、高知駅前観光バスが「ソメイユプロフォン」という二段式寝台バスを開発しており、運行を予定しています。

今回のガイドライン制定は、ソメイユプロフォンの審査の側面もあるようです。

ソメイユプロフォンは、「上下移動式新型リクライニングシート」を謳っていて、昼間は2列分の座席として使用し、夜間は二段式寝台にする仕組みです。

具体的な運行予定などは明らかではありませんが、今回のガイドラインに基づく形で、営業投入が検討されるのでしょう。

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投入区間は限られる?

日本の場合、車両が小さいこともあって、オール二段寝台の場合でも、1車両の定員は十数名程度でしょう。となると、運賃は高く設定せざるを得ず、「寝台バス」の投入区間は限られそうです。

いっぽうで、夜行バスには「横になって移動したい」という需要が確実にあります。豪華シートの投入に前向きなバス会社も少なくありません。となると、長距離路線などで「豪華寝台バス」が登場する可能性は十分あるでしょう。

どういう形でサービスが提供されるのか、楽しみにしたいところです。(鎌倉淳)

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