「つくばエクスプレス野田支線」は実現するか。知られざる東京8号線計画の全詳細

茨城県への延伸構想も

「東京8号線」という新線計画があります。交通政策審議会答申にも記載されていて、押上~野田市間を結ぶ構想です。

八潮~野田市間を先行整備して、実質的につくばエクスプレスの支線のような形にする案もあります。知られざる「東京8号線」計画の全貌をみてみましょう。

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豊洲~住吉間は建設決定

「東京8号線」とは、和光市~新木場間を結ぶ東京メトロ有楽町線を指します。これを豊洲で分岐して、東武野田線野田市駅まで延伸する構想があります。「東京8号線延伸」構想で、押上~野田市間30.5kmを結びます。

2016年に公表された交通政策審議会答申198号(東京圏における今後の都市鉄道のあり方について)で、東京8号線の延伸構想は、「豊洲~住吉」間と「押上~野田市」間に分けて記載されました。

「豊洲~住吉」については、答申で「合意形成を進めるべき」と強い調子で建設促進の方向性が示され、2021年に東京メトロ運営による建設が決定。2022年に東京メトロが鉄道事業許可を申請し、2030年代半ばごろの開業見通しが立っています。また、「住吉~押上」間は、現在の半蔵門線と共用するため、開業済みの扱いです。

つくばエクスプレス

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押上~茨城県の未着手区間

残るのが「押上~野田市」です。答申198号では、「事業計画について十分な検討が行われることを期待」と記されました。さらに、「茨城県が(中略)さらなる延伸について検討している」と付け加えられていて、野田市以遠の延伸についても触れられています。

要するに、東京8号線には、「押上~野田市~茨城県内」の未着手区間が残されているわけです。

東京8号線延伸
画像:交通政策審議会答申第198号

 
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亀有以南は「協議会」

東京8号線でややこしいのは、未着手区間の沿線自治体が、区間ごとに分かれて建設促進運動を繰り広げていることです。

まず、葛飾区、墨田区、江東区、松戸市は、昭和61年12月に「地下鉄8・11号線促進連絡協議会」を結成。11号線(半蔵門線)延伸とセットで建設運動をしています。豊洲~住吉間を「第1段階」、押上~亀有間(8号線)と押上~松戸間(11号線)を「第2段階」と位置づけました。

第1段階である豊洲~住吉間の着工が決まりましたので、第2段階として押上~亀有・松戸間について、「事業計画の検討を積極的に進め、早期の事業化を目指す」方針です。

「東京8号線」に関して言えば、住吉まで決定している路線を、押上を経て亀有まで延ばす運動を続けるわけです。

東京8号線11号線の延伸
画像:江東区ホームページ

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亀有~八潮は足立区が推進

一方、足立区は亀有~八潮間の建設運動をしていて、2012年~13年にかけて、「地下鉄8号線整備に向けた調査委託」を実施。以下のような結果を得ています。

・整備区間:亀有~八潮
・路線延長:約5.2km
・駅数:4駅(うち中間新駅2駅)
・運行頻度:6本/時
・概算建設費:約 1,130 億円
・輸送人員:51,600 人/日
・費用便益比(B/C):1.0(30 年)
・収支予測:開業後50年目以降の黒字転換

B/Cが1.0ちょうど、収支予想が50年で黒字転換となっていて、建設基準をギリギリで満たすという結果になっています。

地下鉄8号線足立区
画像:足立区の地下鉄8号線に関する
取組状況の報告

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八潮~野田市は「同盟会」

八潮~野田市間に関しては、草加市、越谷市、八潮市、吉川市、松伏町、野田市などが、「地下鉄8号線建設促進並びに誘致期成同盟会」を結成しています。

同盟会は、2011~2012年度に「高速鉄道東京8号線事業化検討調査」を行い、「レイクタウンルート」「新吉川ルート」の2つのルートについて事業化への条件を整理。このうち、レイクタウンルートにおいて、事業採算性が確保される見通しがあるとの結果を得ました。

これを基に、2013年に同盟会としてレイクタウンルートを正式採用。2013~2014年度に、「高速鉄道東京8号線(八潮~野田市間)事業化検討調査」を実施して、レイクタウンルートについて精査しました。

この調査では、八潮~野田市間で合計9駅(途中7駅)を設け、八潮駅でつくばエクスプレス(TX)と直通運転するケースと、地下新駅で乗り換えるケースを設定して試算しました。

東京8号線延伸

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つくばエクスプレス直通も検討

結果としては、レイクタウンの駅位置を東埼玉道路併設とした場合、「TX直通」は概算建設費2,700億円で、開業後33年に黒字転換し、費用便益比は1.5となっています。

一方、「TX乗換」は概算建設費2,400億円で、開業後38年で黒字転換し、費用便益比は1.2となりました。

つくばエクスプレスと直通運転した場合、秋葉原~野田市間が33分、乗り換えの場合は39分となり、いずれも、現状の51分から大きく短縮されます。

同盟会では、豊洲~八潮間の試算はしていません。つまり、有楽町線延伸ではなく、つくばエクスプレスとつなぐことが目標となっているわけです。

埼玉・千葉の自治体は「東京8号線」という呼称も積極的には用いておらず、「東京直結鉄道」という名称で建設促進運動をすることが多いようです。

下妻延伸の要望も

同盟会には、埼玉・千葉県の自治体のほか、茨城県側から下妻市、常総市、筑西市、坂東市、八千代町が参加しています。また、茨城県側の自治体は、2013年に「東京直結鉄道(地下鉄8号線)茨城県誘致促進協議会」という組織を結成して誘致運動をしています。

茨城県側でも2014年度に独自の調査をおこなっています。「東京直結鉄道茨城県西南部延伸整備検討調査」といいます。

この調査後、茨城県は、野田市から坂東市、常総市、八千代町を経て下妻市の大宝駅に至る35.5km路線を設定し、整備を要望する方針を掲げました。開通すれば大宝~秋葉原間が60分で結ばれるとしています。

東京直結鉄道
画像:東京直結鉄道(地下鉄8号線)茨城県誘致促進協議会パンフレットより

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答申を受けて調査を実施

こうした調査を背景に、交通政策審議会答申198号が公表され、上述の通り、東京8号線は二つの区間に分けて記載され、茨城県内の構想についても触れられました。

答申を受け、野田市では、2017年度から2020年度まで「都市高速鉄道東京8号線整備検討調査」を実施。野田市内の駅位置などを固めたうえで、以下のような結果を得ました。

・整備区間:八潮~野田市
・路線延長:約18km
・駅数:9駅(うち中間新駅7駅)
・概算建設費:約2,800 億円(直通)、2,500億円(乗換)
・輸送人員:88,060人/日(直通)、76,114人/日(乗換)
・費用便益比(B/C):1.5(直通)、1.2(乗換)
・収支予測:開業後34年目以降の黒字転換(直通)、同36年(乗換)

費用対効果、収支採算性ともに良好な結果です。

この調査は野田市がおこなったものですが、結果を踏まえ、同盟会として、「高速鉄道東京8号線(八潮~野田市間)整備検討調査」の実施を決定。2021年度から2024年度までの4年間で調査を実施しています。

足立区も同盟会に

長々と説明しましたが、要するに、「地下鉄8号線」の延伸計画は、現実には、東京都側の「有楽町線亀有・八潮延伸」と埼玉・千葉県側の「つくばエクスプレス支線野田市・下妻(大宝)建設」の二つに分けられているのが実態です。

東京側の葛飾区以南は、有楽町線が亀有まで延伸すれば満足、という姿勢に見受けられます。逆に、埼玉・千葉県側は、つくばエクスプレスが八潮から野田市まで乗り入れれば満足、という姿勢のようです。

あいだの足立区は、2023年に同盟会に加わりました。埼玉・千葉県側の協議会に加わったのは、野田市までの路線の一部という扱いにしないと、亀有~八潮間は実現しないと考えたからでしょうか。

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次期答申に向けて

交通政策審議会答申198号の目標年次は2030年です。すなわち、2030年頃に、次期答申がまとまります。沿線自治体としては、この次期答申に、少しでも有利な形で記載されるよう望みたいところでしょう。

今回調べた限り、もっとも建設に熱心なのは野田市のようです。野田市を筆頭とする埼玉・千葉県側は、八潮~野田市間の先行整備とつくばエクスプレス直通運転を、次期答申に盛り込むのがひとつの目標となりそうです。

また、茨城県側は、答申198号には明記されていない野田市~大宝間を、きっちり盛り込むのが目標となるでしょう。

一方、足立区としては、東京8号線計画を押上~亀有~八潮~野田市の形で維持することが目標になりそうです。そのため、亀有~八潮間について、積極的な記述を勝ち取りたいところでしょう。

葛飾区は、押上~亀有間で優先的な建設を求めるような記述が望ましいと言えます。松戸市と連携して、8号線と11号線の亀有・松戸延伸の同時着工を目指すことになるのでしょうか。

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八潮~野田市間を優先整備か

最後に私見を述べておくと、最も優先的に整備される可能性が高いのは、やはり、八潮~野田市間と感じられます。

埼玉県東部の鉄道空白地帯を埋める点で意義のある路線ですし、野田という拠点都市と都心を速達で結ぶという点でも価値があります。B/Cや採算性の数字も良好です。

押上~亀有間に関しては、京成線の並行路線になるので、あえて新線を建設する意義は小さいように感じられます。むしろ京成の経営への影響を懸念する指摘も出てくるでしょう。

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つくばエクスプレスの延伸と絡む

では、八潮~野田市間の建設は、実現に向け、動き出すのでしょうか。事業費が巨額なこともあり、普通に考えれば実現は難しそうですが、つくばエクスプレスの延伸計画という要因が絡むと、新たな局面が訪れるかもしれません。

つくばエクスプレスには、もともと東京駅への延伸計画があり、東京都が事業化する予定の都心部・臨海地域地下鉄との乗り入れも想定されています。一方、茨城県は、土浦延伸を目指す姿勢を明らかにしています。

東京都としては、臨海地下鉄を実現するためには、東京駅をつくばエクスプレスと共用して費用を分担してもらい、車庫を同線沿線に設置したいところでしょう。

一方の茨城県は、土浦延伸をつくばエクスプレス全体の事業とするために、東京都や千葉・埼玉両県に協力を求める意向です。

となると、埼玉県、千葉県としても、つくばエクスプレス東京・土浦延伸に協力する見返りを求めたいところです。八潮~野田市間の新線建設と、つくばエクスプレスとの直通は、格好の取引材料になるかもしれません。

次期答申に向けて

要するに、つくばエクスプレスの東京延伸・臨海地下鉄直通と、土浦延伸、野田支線(東京8号線)建設について、東京、埼玉、千葉、茨城の4県が、一括で、互いに協力することで合意する余地があるのではないか、ということです。

いずれにしろ、2030年ごろに予定されている交通審議会の次期答申に、これらの延伸が盛り込まれる可能性は高そうです。東京8号線計画が、どのような扱いで記載されるのか、注目せざるをえません。(鎌倉淳)

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