JR北海道が2022年度の区間別の輸送密度と収支状況を発表しました。新型コロナウイルス感染症の影響から回復し、全体的に輸送密度、収支とも改善しました。留萌線では「さよなら乗車」で利用者が大幅に増えました。
24区間の輸送密度と収支状況
JR北海道は経営危機が表面化した2014年度から、区間別輸送密度や収支状況を公表しています。その2022年度分を公表しました。新幹線を含めたJR北海道の全路線を24区間に分けたものです。
2022年度も道内の全線区が営業赤字です。全線区が営業赤字となるのは、線区別収支の公表を始めた2014年度から8年連続です。合計の赤字額は約659億円で、前年度の約790億円よりは改善しました。
まずは、その数字を最新の輸送密度順にランキングしてみましょう。黒字路線が一つもないので、営業損益は「営業赤字」としてマイナス表記を省略しました。
線名 | 区間 | 輸送密度 (人/日) |
営業赤字 (百万円) |
営業係数 (2022) |
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2022 | 2021 | 2022 | 2021 | |||
根室線 | 富良野~新得 | 53 | 50 | 696 | 661 | 2,786 |
留萌線 | 深川~留萌 | 170 | 90 | 559 | 606 | 937 |
根室線 | 釧路~根室 | 190 | 174 | 1,132 | 1,160 | 818 |
宗谷線 | 名寄~稚内 | 209 | 174 | 2,677 | 2,775 | 980 |
根室線 | 滝川~富良野 | 266 | 201 | 1,103 | 1,105 | 1,371 |
釧網線 | 東釧路~網走 | 294 | 245 | 1,606 | 1,752 | 692 |
室蘭線 | 沼ノ端~岩見沢 | 326 | 300 | 1,069 | 1,082 | 1,166 |
日高線 | 苫小牧~鵡川 | 398 | 387 | 364 | 378 | 1,049 |
函館線 | 長万部~小樽 | 479 | 340 | 2,674 | 2,789 | 817 |
石北線 | 上川~網走 | 498 | 420 | 3,633 | 3,707 | 668 |
石北線 | 新旭川~上川 | 643 | 567 | 1,215 | 1,112 | 723 |
根室線 | 帯広~釧路 | 904 | 798 | 4,683 | 4,309 | 565 |
宗谷線 | 旭川~名寄 | 972 | 845 | 3,184 | 3,249 | 765 |
富良野線 | 富良野~旭川 | 1,053 | 960 | 1,132 | 1,101 | 483 |
函館線 | 函館~長万部 | 2,715 | 1,636 | 6,473 | 7,174 | 291 |
石勝・根室線 | 南千歳~帯広 | 2,905 | 1,902 | 4,319 | 5,000 | 198 |
新幹線 | 新青森~新函館北斗 | 3,095 | 1,635 | 12,877 | 14,858 | 287 |
室蘭線 | 長万部~東室蘭 | 3,551 | 2,197 | 2,383 | 2,786 | 212 |
室蘭線 | 室蘭~苫小牧 | 5,026 | 3,467 | 2,797 | 3,400 | 209 |
函館線 | 岩見沢~旭川 | 6,164 | 4,180 | 4,216 | 5,141 | 200 |
札沼線 | 桑園~医療大学 | 14,475 | 13,307 | 7,168 | 14,859 | 120 |
函館線 | 札幌~岩見沢 | 32,776 | 26,985 | |||
函館線 | 小樽~札幌 | 36,353 | 29,584 | |||
千歳・室蘭線 | 白石~苫小牧 | 38,410 | 27,780 | |||
全線 | 4,047 | 3,001 | 65,960 | 79,006 | 203 |
※営業係数は管理費を含んだ数字。
幹線・新幹線で大きく改善
2021年度は新型コロナウイルスの影響が残っていたので、それに比べると2022年度は全体に大きく回復しています。
とくに、特急を運行する幹線や新幹線の回復が著しく、北海道新幹線は前年の「1,635」という第一次特定地方交通線レベルから脱し、「3,095」と大きく改善しました。
函館線(函館~長万部、岩見沢~旭川)、室蘭線(長万部~東室蘭、室蘭~苫小牧)といった、特急輸送の比重の高い幹線も、軒並み、輸送密度が大幅に回復しています。
札幌圏では、特急運行に加え、空港輸送も担う千歳・室蘭線(白石~苫小牧)が大きく改善。輸送密度を「38,410」とし、道内最高の座を、函館線(小樽~札幌)より奪還しました。
留萌線で利用者増
いっぽう、もともとの輸送密度の小さいローカル線は、幹線に比べると、それほど数字を伸ばしていません。日高線(苫小牧~鵡川)は「387」から「398」と微増にとどまりますし、根室線(富良野~新得)は「50」が「53」になっただけです。
そのなかで、留萌線(深川~留萌)は、輸送密度が「90」から「170」に跳ね上がりました。いうまでもなく、石狩沼田~留萌間が2023年3月31日限りで廃止されたことによるもので、「さよなら乗車」が数字を押し上げたのでしょう。
ただ、全国から旅行者が押しかけても、輸送密度が「170」というのは、やはり厳しい数字です。
増収効果は3,800万円
ちなみに、留萌線の収入は、2021年度の2900万円が、2022年度に6,700万円になっただけで、「さよなら乗車」にともなう増収効果は3,800万円です。「廃線」というローカル線最大級のイベントでも、この程度の増収にとどまるわけで、これも厳しい現実といえます。
実際には、札幌方面から特急で留萌線まで来た利用者が多いので、それを含めた増収効果は億単位に及ぶかもしれません。しかし、留萌線の年間5億5900万円の赤字を埋めるには至らないでしょう。
赤字ローカル線に観光客を誘致して収支を改善することが、いかに難しいかを突きつけた数字とも受けとめられます。(鎌倉淳)