京浜急行電鉄が、2023年10月に運賃を改定します。全体としては値上げですが、遠距離区間は値下げするという、珍しい改定内容です。その内容と、狙いを研究してみましょう。
平均10.8%値上げ
京浜急行電鉄は2023年10月に運賃を改定すると発表し、国土交通省に申請しました。値上げ率は平均10.8%です。初乗り運賃は10円(ICカード利用時は14円)値上げして150円となります。
京急が運賃改定を申請するのは、消費税変更時を除くと28年ぶりです。普通運賃は平均10.7%引き上げ、通勤定期は11.9%引き上げます。通学定期は家計への負担軽減のため据え置きます。
遠距離区間では値上げ率を低くし、41km以上の区間で値下げします。値下げ率は、41~45km区間が1.7%、61~65km区間は14.9%です。
運賃改定内容
普通旅客運賃のキロ程ごとの改定内容は下表の通りです。
京急主要区間の新旧運賃
主要区間の運賃は以下のように変わります。
「横浜逸走」対策
前述の通り、今回の運賃改定は40km以下で値下げし、41km以上で値上げします。これは「横浜発着はおおむね値上げ、品川発着の遠距離区間は値下げ」することを意味します。
現状の運賃では、三浦半島南部から品川へ行く場合、京急を乗り通すより、横浜でJRに乗り換えたほうが安くなっています。品川ですらその状況なのですから、山手線内各駅へ行く場合は、当然、横浜でJRに乗り換えたほうが安いです。
こうした運賃状況もあり、三浦半島南部の京急線各駅から都心方面へ行く場合、横浜でJR線に乗り換えてしまう「横浜逸走」が生じています。
今回の値下げにより、横浜で乗り換えるよりも品川まで乗り通した方が安くなります。京急の積年の課題である「横浜逸走」を運賃面の施策で食い止めようということでしょう。
品川乗り換えが割安に
下表は、品川乗り換えと横浜乗り換えで、新旧運賃を比較したものです。JR東日本は、2023年3月にバリアフリー加算による運賃値上げを予定しているので、それも考慮した、現行価格と改定価格とを比較しています。
区間 | 現行 | 改定 | ||
---|---|---|---|---|
品川 乗換 |
横浜 乗換 |
品川 乗換 |
横浜 乗換 |
|
東京~金沢文庫 | 670 | 770 | 690 | 810 |
東京~横須賀中央 | 820 | 850 | 800 | 900 |
東京~京急久里浜 | 970 | 910 | 890 | 950 |
東京~三崎口 | 1120 | 1060 | 920 | 1060 |
品川~金沢文庫 | 500 | 590 | 510 | 630 |
品川~横須賀中央 | 650 | 670 | 620 | 720 |
品川~京急久里浜 | 800 | 730 | 710 | 770 |
品川~三崎口 | 950 | 880 | 740 | 880 |
※品川発着の「品川乗換」は、乗り換えなしの直通を意味します。
都心へ向かう場合、現行運賃では、京急久里浜、三崎口からは、横浜乗り換えのほうが安いのですが、改定後は品川まで京急を利用したほうが安くなります。
こうした運賃施策により、三浦半島南部の利用者が都心へ行く場合に、品川で乗り換えてもらうことを狙っているように感じられます。
背景に「快特半減」も?
京急は、遠距離区間の値下げの理由として、「三浦半島への居住やレジャー利用促進による新たな需要創出と沿線活性化」を挙げています。
これはもちろんその通りでしょうが、三浦半島エリアでの運賃を全面的に値下げしたわけではなく、対都心方面の運賃を値下げしただけです。その点からみても、「横浜逸走」対策の意味合いが強いように感じられます。
折しも京急は、2022年11月のダイヤ改正で、日中時間帯の快特の半分を特急にしました。特急は品川~横浜間の所要時間が快特より長いので、その点でも「横浜逸走」を促しかねません。そうした意味での対策ともいえそうです。(鎌倉淳)