JR西日本は、芸備線の備中神代~備後庄原間について、存廃を含めた路線のあり方について、沿線自治体との話し合いを開始できるよう国に要請しました。同区間の存廃問題が、新たな局面を迎えそうです。
輸送密度ふた桁
芸備線の備中神代~備後庄原間は、同線のなかで最も輸送密度が低い区間です。2021年度の輸送密度は、備中神代~東城間が80、東城~備後落合間が13、備後落合~備後庄原間が66となっていて、いずれもふた桁にとどまります。
この区間の利用促進について自治体とJRが話し合うのが、「芸備線 庄原市・新見市エリアの利用促進等に関する検討会議」です。
5月に開かれた第4回会議で、JR西日本は「特定の前提を置かずに、将来の地域公共交通の姿についても速やかに議論を開始したい」旨の申し入れを行いました。この意味するところは、鉄道維持を前提とした議論ではなく、廃止も選択肢に含めた議論をしたいということです。
これに対し自治体側は、11月2日に開かれた第5回会合で、「検討会議は利用促進を検討するために設置した会議であるため、それ以外の議論はしない」との結論を伝えました。JR側が存廃も含めた「地域交通のあり方」そのものの検討を求めたのに対し、自治体側は「あくまでも鉄道の利用促進を話し合う会議だ」とはねつけたわけです。
「同意を得られなかった」
この会議でのやりとりについて、JR西日本の長谷川社長は11月18日の記者会見で、「今後の地域交通のあり方を話し合うことが今回は同意を得られなかった」と述べ、JR側が求める「前提をおかない議論」が受け入れられなかったとの認識を示しました。
そのうえで、地域交通のあり方の話し合いを開始できるよう、国に相談していることを明らかにしました。
「どういう出口があるか、前提を置くことなく議論させていただければ」と付け加え、廃止の可能性も含めた議論を求める姿勢を改めて強調しました。
特定線区再構築協議会
JRが「国に相談」する背景として、ローカル鉄道のあり方を議論する国土交通省の有識者会議が、2022年7月に示した提言があります。
提言では、輸送密度1,000人未満の路線について、自治体や鉄道事業者が要請をすれば、国が「特定線区再構築協議会(仮称)」を設置できる方針を示しました。この協議会が法定化されるのは2023年度以降ですが、JR西日本は先取りする形で国に「相談」した形です。
相談を受けた側の国交省では、斉藤鉄夫国交相が11月18日の記者会見で、「関係自治体の理解を得られれば、任意の形で協議の場を持つことは可能であり有意義」と述べ、JRの相談を受け入れる姿勢を明らかにしました。
「できるだけ早く、廃止ありき存続ありきといった前提を置かず、利便性と持続可能性の高い地域公共交通を次世代に残していくための話し合いを始めることが重要」とJR西日本の肩を持つ発言をし、国も加わった形での協議に前向きな意向を示しています。
地域公共交通をどうするか
要するに、JR西日本は、芸備線の備中神代~備中庄原間に関して、特定線区再構築協議会が法定化されれば、設置を求める姿勢を明確にしたうえで、それを先取る形での協議を要請し、国がそれを認める姿勢を示したわけです。
JR西日本は多くの赤字路線を抱えていますが、まずは、輸送密度がきわめて低い芸備線の備中神代~備中庄原間を優先して協議する方針を明確にしたともいえます。
長谷川社長は「鉄道の廃止といった前提を置いているわけでなく、地域の公共交通をどうやっていくのかを話し合う場を作っていただきたい」と説明しました。ほとんど利用されていない鉄道にこだわらず、地域公共交通全体を考えて最適な方法を検討したい、という趣旨なのでしょう。
国交省が加わった議論が始まれば、芸備線備中神代~備後庄原間の存廃問題は新たな局面を迎えます。鉄道維持の可能性は残るものの、存続する場合に地元負担を避けられそうになく、自治体側としては難しい判断を迫られそうです。(鎌倉淳)