つくばエクスプレスの茨城県内の延伸計画について、2022年度に調査が始まります。延伸方向の絞り込みが行われますが、実現に向け動き出すのでしょうか。
延伸調査予算を計上
茨城県は、2022年度当初予算案で、つくばエクスプレスの県内延伸調査検討事業として、1800万円を計上しました。つくばエクスプレスの茨城県内延伸に関する事業費を計上するのは初めてです。
つくばエクスプレスの茨城県内延伸については、同県総合計画において、筑波山方面、水戸方面、茨城空港方面、土浦駅方面の4つが示されています。しかし、いずれも構想や要望の域を出ず、具体的に調査されたことはありません。
今回の調査は、4案を検討し、延伸方向を絞り込むことを目的とし、2022年度での一本化を目指します。具体的な事業内容としては、延伸方向ごとの需要予測調査と、第三者委員会の設置です。
需要予測調査では、概算事業費や収支予測、整備効果などを各方面ごとに比較整理します。第三者委員会では、調査結果に基づき、延伸方面案の絞り込みに向けた検討をおこないます。委員会は、学識者、経済界、県議会、市町村、鉄道事業者などで構成します。
5月から12月に需要予測調査をおこない、12月から2月に第三者委員会で検討、2月にパブリックコメントを実施して、3月に延伸方面を決定するというスケジュールでです。
筑波山方面
ここまでが、茨城県で決定した延伸に関する調査の概要です。以下では、4方面について筆者が勝手に検討してみます。
まず、筑波山方面です。つくば駅を出てから北に方向を転じ、筑波大学、高エネ研、筑波ウェルネスパーク、筑波中央病院などの近くを通り、筑波山麓(ケーブル駅)方面に向かうルートでしょうか。
筑波山麓まで約16km。途中、公共施設が多く、筑波大学への通学需要などが見込めることが強みでしょう。また、都心と筑波山麓が直結すれば、京王における高尾山のような、手軽に登れる山として人気が高まるでしょうから、観光需要の創出にも役立つとみられます。
半面、行き止まり線になることから、末端に向かうほど需要が細ります。つくば駅以北に都市がないため、日常的な利用者数は限られるでしょう。
水戸方面
次に、水戸方面です。水戸方面にはさまざまなルートがありそうですが、つくば駅からまっすぐ進み、石岡駅で常磐線と交差。小美玉市役所、運転免許試験場を経て水戸駅に至るルートと仮定してみました。
水戸駅まで約47km。実現すればつくば市と水戸市を直結する鉄道路線が誕生するので、茨城県としては意義がありそうです。東京~水戸間の新たな鉄道ルートにもなるので、有料特急を走らせることもできるでしょう。
つくばエクスプレスの設計最高速度は時速160km/hとされていますので、対応する車両を投入すれば、JR特急「ひたち」「ときわ」から一定の利用客を奪えそうです。
ただ、東京から離れるので通勤需要は多く望めません。総延長を約50kmとみれば、建設費をキロ当たり100億円程度と見積もっても、5000億円程度。近年の資材の高騰を考慮すればもっと高くなりそうで、費用対効果の点で実現は難しい気もします。
茨城空港方面
つづいて、茨城空港方面です。つくば駅からまっすぐ石岡駅へ延伸し、茨城空港へ直行します。
距離は約30km。実現すれば、東京都心と茨城空港が直結します。秋葉原~茨城空港間の距離は約90kmと推定できますので、特急を運転すれば1時間程度で結ぶことも可能でしょう。
ただ、茨城空港の規模からして、それほど多くの空港客が鉄道を利用するとは思えません。総延長30kmとなると、やはり3000億円程度の建設費は必要で、費用に見合うかは何ともいえません。
水戸・茨城空港方面
茨城空港を経由して、水戸まで伸ばすというルートはどうでしょうか。首都東京および県都水戸と茨城空港が直結しますし、水戸からつくば市へも乗り換えなしで結ばれます。さまざまな需要に対応する路線となるでしょう。
茨城空港を経由して、そのまま水戸に一直線に北上したとして、距離は52km程度です。つくば~水戸を直結するよりも5km程度、距離が伸びそうです。
そのぶん建設費は高くなりますし、東京~水戸間の所要時間も延びるという難点もあります。
土浦駅方面
最後に、土浦駅方面です。つくば駅を出てしばらくして東に方向を転じ、イオンモール土浦付近を経由して土浦駅に達します。
距離は9km程度です。途中駅は2駅程度になるでしょうか。
つくば駅と土浦駅をつなぐことで、水戸市からつくば市へ、土浦乗り換えで鉄道アクセスが可能になります。水戸までつくばエクスプレスを伸ばすのに比べると、格段に建設費は安く済みますので、県都とつくばを鉄道でつなぐ現実的なルートとして検討されそうです。
途中、住宅地を経由すれば通勤・通学客の利用も見込めそうで、4案のなかで最も実現性の高い案とみられます。
次期答申を視野か
鉄道延伸を実現するには、交通政策審議会の答申に盛り込まれることが事実上の要件になっています。東京圏の答申は約15年に1度示されていて、前回が2016年でした。すなわち、次の答申は2031年頃に示される見通しです。
茨城県がつくばエクスプレスの県内延伸調査を開始したのは、この次期答申を見据えているのでしょう。2022年度に延伸方向を一本化した後、詳細な調査を実施して、機運を盛り上げていくと思われます。
東京延伸の後押しも?
つくばエクスプレスは、秋葉原から東京駅までの延伸計画もあります。さらに臨海地下鉄へ乗り入れて、銀座から晴海を経て国際展示場まで直通運転する構想もあり、2016年答申に盛り込まれました。実現するとしたら、茨城県内の延伸よりも東京駅延伸が先でしょう。
つくばエクスプレスの東京駅延伸は、東京都が臨海地下鉄の建設に前向きなこともあり、実現可能性は高そうです。ただ、いまのところ着工へのメドは立っていません。そうした状況で茨城県内の延伸計画が具体化すれば、需要予測を嵩上げできるという点で、東京駅延伸の後押しになるかもしれません。
また、仮に水戸へ延伸して有料特急を走らせる計画が固まれば、東京駅の構造にその配慮が必要になるでしょう。
この調査によって茨城県内延伸がただちに動き出すとは思えませんが、最初の一歩を踏み出すことにはなりそうです。(鎌倉淳)