JR九州は、西九州新幹線の武雄温泉~長崎間の開業日について、2022年9月23日と正式発表しました。一方で、未開通部分となる新鳥栖~武雄温泉間の整備方式は決まっておらず、リレー方式は長期間続きそうです。
N700S「かもめ」が登場
西九州新幹線は、九州新幹線長崎ルート(博多~長崎)の路線名です。武雄温泉~長崎間66kmが建設中で、JR九州はその開業日を2022年9月23日と発表しました。同区間にはN700Sを使用した新幹線「かもめ」が運行します。
博多~武雄温泉間は在来線特急「リレーかもめ」が運行し、武雄温泉駅の対面ホームで乗り換える「リレー方式」となります。
博多~長崎間の所要時間は最速1時間20分で、現在の特急「かもめ」より約30分短縮します。列車の試運転は5月頃に開始し、ダイヤの詳細は6月頃に公表する見通しです。
ローカル新幹線
博多~長崎間の新幹線整備計画が決定したのは1973年。じつに49年を経ての開業となるだけに、長崎県の関係者には万感胸に迫るものがあるでしょう。
とはいえ、開業するのは新鳥栖~長崎間の半分程度。残る新鳥栖~武雄温泉間の整備は未定で、当面は武雄温泉駅で乗り継ぐ「リレー方式」での運用となります。
せっかく新幹線ができるのに、長崎駅から乗って到着できるのは佐賀県西部までです。「西九州新幹線」の現実は長崎~佐賀間のローカル新幹線に過ぎず、博多駅へは1度乗り換え、新大阪駅へは2度乗り換え。ちょっと速くなるけれど不便にもなる、と複雑な心境で開業日を迎える県民も多そうです。
佐賀県が着工求めず
新鳥栖~武雄温泉間については、これまで再三、各メディアで報じられているとおり、地元の佐賀県が新幹線建設を求めていません。
整備新幹線の建設は、地元の一部費用負担を前提にしていることもあり、同区間について佐賀県が新幹線建設を求めていない現状では、建設の見通しは立ちません。
新鳥栖~武雄温泉間について、仮に全線フル規格で建設すると決まった場合でも、工事には時間がかかります。国交省が2018年に公表した『九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について』という調査報告によると、フル規格の工期を12年と見積もっています。
この工期には環境影響評価の期間は含まれていませんので、事業着手の決定を起点とすれば、完成まで15年程度の期間が必要となるでしょう。
順調なら2037年ごろ
整備新幹線の予算は建設中の区間に優先して振り向けられるため、北海道新幹線の札幌延伸が完了する2030年度まで十分な建設費を確保できません。となると、佐賀県が建設に同意したとしても、予算の都合上、完成は2045年ごろになってしまいます。
実際には着工が決まれば前倒しの予算措置が検討されるでしょうから、仮に2022年中に佐賀県が着工に同意し、環境影響評価手続きなどを経て2025年頃に着工できたとして、順調にいけば2037年頃の開業になります。
つまり、佐賀県がフル規格で同意し、順調に工事が進むという前提に立っても、西九州新幹線のリレー方式は15年程度続きます。
ミニ新幹線なら?
現実には、佐賀県はフル規格での着工を求めていませんので、前提条件はクリアされておらず、クリアされる見通しもありません。
当初計画されていたフリーゲージトレインの開発が実現すれば、すぐにでもリレー方式は解消できますが、国交省は2月11日の佐賀県との協議で「技術開発は困難」と匙を投げてしまっています。
そのほかには、長崎線新鳥栖~武雄温泉間のミニ新幹線化という解決策もあり、2018年調査では、工期は最短10年とされています。
となると、ミニ新幹線化なら、環境影響調査を含め早ければ2035年頃に開業できそうで、リレー方式は13年程度で終わります。ただし、ミニ新幹線化について、国、佐賀県、JR九州のいずれも積極的ではありません。
何のために作ったのか
現実には、佐賀県は新鳥栖~武雄温泉間のフル規格を要望しておらず、フリーゲージトレインの実現は見通せず、ミニ新幹線化には誰も積極的ではありません。
こうなると、「リレー方式」の終わりは見えず、いつまで続くのかわかりません。その間、利用者は武雄温泉での乗り継ぎを強いられるわけです。
武雄温泉~長崎間の開業で、利用者としては多少の時短効果が得られるものの、途中乗り換えはやっぱり不便です。「ちょっと速いが、やっぱり不便」という状況が固定化するのなら、何のために武雄温泉~長崎間を先行整備したのか、その意味すら問われることになりかねません。(鎌倉淳)