陸羽西線「2年間運休」が心配な件。ミニ新幹線化計画も頓挫して

道路工事の影響で

陸羽西線が2022年のゴールデンウィーク明けから、2年以上の長期運休に入ります。道路トンネルの工事による危険を避けるためです。利用者の少ないローカル線の長期運休と聞くと将来が心配になりますが、大丈夫でしょうか。

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道路トンネル工事で

JR東日本は、2022年5月14日から、陸羽西線全線において全列車を約2年間にわたり運休すると発表しました。同線古口~高屋間のトンネル直下に交差する形で、高屋道路の高屋トンネル(仮称)を掘削することが決まり、その工事期間中の安全を図るためです。

高屋道路は、高規格道路の「新庄酒田道路」の一部です。新庄酒田道路は国道47号線のバイパスで、すでに新庄古口道路や余目酒田道路など一部区間で供用が開始されています。全線開通すれば新庄~酒田間約50kmが高規格道路でつながります。

新庄酒田道路
画像:国土交通省東北地方整備局報道発表

3mの距離で交差

高屋道路は戸沢村古口付近のバイパスの名称で、総延長は3.4km。そのうち2.9kmが猪ノ鼻トンネルです。この猪ノ鼻トンネルと、陸羽西線の第二高屋トンネルが約3mの距離で交差する計画となっていて、掘削期間中の列車運行の安全対策が課題とされてきました。

新庄酒田道路高屋トンネル
画像:国土交通省東北地方整備局

新庄酒田道路高屋トンネル
画像:国土交通省東北地方整備局

当初は、列車を運行しながらの施工する計画でしたが、国土交通省の施工技術検討委員会での意見を踏まえ、トンネル掘削施工期間中は陸羽西線を運休することを決定しました。

道路トンネル掘削に先立ち、陸羽西線第2高屋トンネルの変形や軌道が変位しないよう内巻コンクリート工などの補強対策を実施します。

高屋トンネル
画像:国土交通省東北地方整備局

掘削中も、高屋トンネルと陸羽西線の間の地山が抜け落ちたり沈下しないよう、JRトンネル側から薬液を注入するなどの措置を施します。

高屋トンネル
画像:国土交通省東北地方整備局
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最長3年近く

陸羽西線の運休期間は2024年度中までです。高屋道路の開通予定が2024年度なので、それと時期を合わせた形で2年程度の運休となります。トンネル掘削工事の進捗にもよりますが、「2024年度」を最大限解釈すれば、2025年3月まで3年近くにわたり運休が続く可能性もあります。

運休となるのは、トンネル区間だけでなく、陸羽西線の新庄~余目間全線です。酒田まで直通する列車は、余目~酒田間も運休となります。運休期間中は代行バスを新庄~余目・酒田間で運転します。代行バスの時刻などは、後日発表する予定です。

陸羽西線
画像:JR東日本プレスリリース
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難工事をするよりも

鉄道と道路のトンネルが3mの位置で交差するのは確かに難工事とみられますが、それで列車を2年以上も止めてしまうのは驚きです。

2008年に開業した東京メトロ副都心線は、都営新宿線と最短11cmで交差していますが、副都心線の工事中も新宿線は運休しませんでした。

11cmに比べれば3mという間隔は広いので、列車を止めずに施工しようと思えば、技術的には可能でしょう。実際、当初はその計画でした。

しかし、国交省によれば「より安全で効率的に施工を行うため」列車運休という判断になりました。「効率的」の意味するところは、列車運行をしたままの工事はコストに見合わず、時間もかかりすぎるということでしょう。

陸羽西線

輸送密度163

なにしろ、陸羽西線の2020年度の輸送密度は163人。コロナ前の2018年度でも345人にすぎません。バス7台程度で運べてしまう人数しか利用していないので、難しい工事をするよりも、列車を止めてしまったほうが早い、という判断になったとみられます。

陸羽西線の一部区間ではなく、全線運休とすることにも驚かされますが、それも利用者数の少なさゆえの判断でしょう。

陸羽西線の運行本数は1日9往復で、全列車が新庄~余目間を走り、一部列車は酒田駅まで乗り入れます。陸羽西線内の途中折り返しはありません。こうした現状の運行状況も踏まえ、工事期間中に中途半端に区間運転するより、全線運休にして車両を一切使わないほうが経費を削減できるという判断でしょう。

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ミニ新幹線化構想も頓挫

心配になるのが、陸羽西線の将来です。これだけ輸送密度が低いうえに、2年間も運休したら、さらに利用者離れが進んでしまい、「なくてもいい」存在になってしまわないでしょうか。

陸羽西線には、山形新幹線を庄内まで延伸するルートとしてミニ新幹線化する構想もあります。2年も運休するなら、その間に改軌工事もできそうですが、そういう話が議論された形跡もありません。

陸羽西線のミニ新幹線化を推進する組織として、陸羽西線高速化促進市町村連絡協議会がありましたが、これも2021年に解散しています。

解散の理由について、酒田市長は市議会で「県は奥羽・羽越新幹線整備を優先する方針であり、活動は限定的であったため」と説明しています。山形県が山形新幹線の庄内延伸に冷淡だったため、基礎自治体で話し合っても意味がなかったということのようです。

ミニ新幹線構想が頓挫して、並行する高規格道路が完成すれば、さらに鉄道利用者は減ることでしょう。その道路工事のために長期運休するわけですから、陸羽西線にはなんとも厳しい話です。

願わくば大きな災害などが発生せず、2年後に無事運行再開されることを祈るばかりです。(鎌倉淳)

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