那覇市がLRTの導入を検討しています。地域公共交通網形成計画の策定にあわせて調査を進めているもので、将来の基幹交通軸に位置づけています。実現するのでしょうか。
地域公共交通網形成計画の目玉
那覇市では、2019年12月に那覇市地域公共交通網形成計画(以下、網形成計画)の骨子案を作成しました。これは、那覇市全体の公共交通ネットワークを一体的に形づくることなどを目的にしたものです。
網形成計画で目玉になっているのが、LRT。那覇市ではモノレールと並ぶ市内の基幹交通軸と位置付けて、整備する姿勢を見せています。
網形成計画案に掲載された「目指すべき将来公共交通ネットワーク」の図では、LRTは2路線が描かれています。旭橋付近から真和志地域拠点を経て県立南部医療センター付近に至る東西軸の路線と、那覇新都心の上之屋付近から真和志地域拠点を経て真玉橋付近に至る南北軸の路線です。
網形成計画では「真和志地区と中心市街地、新都心地域を結ぶわかりやすいルート設定」を掲げ、真和志を中心としたエリアにLRTを整備する方針を明記しました。
LRT導入可能性調査
那覇市のLRT計画には、長い歴史があります。『まぁびぃせんせー日記』というブログに経緯が詳しく載せられていますが、2000年~2014年に市長だった翁長雄志市政時代にさかのぼるそうです。
その後、LRT計画は変遷を経て、2018年3月には、「初期段階のLRT導入可能性調査」(以下、導入調査)という報告書がまとめられています。今回の網形成計画に示されたLRT 計画の内容は、この導入調査に基づいています。
3つのルート素案
導入調査では、LRT導入の意義として、都市の東西軸の形成をあげています。現状の那覇市はモノレールによる南北方向の交通軸しかなく、「LRT等を導入し、東西の交通軸を形成することにより、都市のシンボル軸との連携、市域外との連携軸の形成」が図られるとしています。
導入調査では、LRTのルート案として、旭橋付近から東西に延びるルートを基本とし、3つの素案を設定しています。素案1は、東西軸をもう一本作る案(約5.1km)です。
素案2は副都心へ伸びる案(約4.8km)です。
素案3は、那覇北部を周回する案(約6.6km)です。
単年度収支は黒字見通し
概算事業費は素案1が約322億円、素案2が約323億円、素案3が約529億円です。1kmあたりの事業費は約63億円~80億円で、LRTとしては高額です。
1日あたりの予想利用者数は、素案1が約9,600人、素案2が約11,300人、素案3が13,700人となりました。
収支採算性では、単年度収支が素案1が 1,600万円の黒字、素案2が1億900万円の黒字、素案3が7,800万円の黒字と予想しています。
急勾配路線に
事業スキームは、自治体が整備主体となり、第三セクターが軌道運送事業者となる上下分離方式が想定されています。
課題としては、一部区間で道路の勾配が40パーミル~60パーミルを超えたり、停留所の多数が縦断勾配10パーミル以上になるなど、急勾配が多い路線になることです。
さらに、道路拡幅の必要な区間が、停留場付近を中心に存在すること。ビルなどが沿道に建っている区間があるため、道路拡幅に時間を要する可能性もあります。また、既存バス事業者や道路管理者などと合意形成のための検討も必要としています。
詳細なルートは?
導入調査のあと、ルートは最終的に素案2に絞り込まれ、網形成計画の骨子案にLRTの計画路線として盛り込まれています。
詳細なルートは示されていませんが、以下のように考えられます。
東西軸の起点は那覇旭橋のバスターミナル付近。そこから那覇高校前を経て開南せせらぎ通りを東へ向かい、開南交差点で南東に折れて開南本通りに入ります。寄宮十字路(真和志小学校前)で南北軸と交差し、真地久茂地線を東進して、県立南部医療センター付近が終点です。
南北軸の起点は那覇新都心の西端にある上之屋交差点付近。那覇中環状線をたどっておもろまち駅前を経て、真嘉比で南に折れます。松川を経て寄宮十字路で東西軸と交差。そのまま南下して、真玉橋に至ります。
実現するのか
那覇市では、網形成計画が骨子案通り正式決定されれば、実現を目指す整備計画案の策定作業に入る模様です。ただ、先述したように導入道路空間は広いとはいえず、拡幅が必要な部分もあり、すぐに着工できる、というわけではなさそうです。
LRTが網形成計画に目玉事業の一つとして取り入れられることは、それなりの重みを持つことでしょう。とはいえ、実現するかどうか、現時点では全く見通せませんし、実現するにしても、相当先の話になりそうです。(鎌倉淳)