福井県が、小浜線の高速化を国に要望するようです。小浜市には「究極の高速鉄道」である新幹線ができることが決まったばかりですが、なぜ在来線の高速化まで求めるのでしょうか。
概算要求で重点提案
福井県は2018年度政府予算の概算要求に向け、国の関係省庁に提出する重点提案・要望を発表しました。福井新聞2018年6月8日付によりますと、「最重点事項として、23年春の北陸新幹線敦賀開業後、県外客に嶺南を快適に周遊してもらうためのJR小浜線高速化」を盛り込んだそうです。
同紙によりますと、「新幹線敦賀駅や小浜市に設置予定の新幹線駅との乗り換え需要が増加することが見込まれるため、高速化と安全対策の強化で利便性向上を求めている」とのこと。「具体的には後続電車が先行車両を追い越すための駅の待避施設整備のほか、風雨による運行停止を防ぐための暴風柵やシェルターなどの設置に対する財政支援を提案している」そうです。
また中日新聞2017年6月8日付によりますと、「北陸新幹線は六年後に敦賀開業が迫り、敦賀以西も小浜-京都ルートに決まった。小浜線の高速化は、経済効果を嶺南全域に波及させるのが狙い。(中略)路盤強化や、快速列車運行のため、駅における待避施設整備などへの財政支援を求めた」ということです。
これらの記事を読む限り、小浜線高速化には二つの目的があります。一つは、北陸新幹線の敦賀開業時に、敦賀駅からの二次交通充実のため。もう一つは、将来的に北陸新幹線の駅が東小浜駅付近に作られた場合に、その接続のためです。これらの目的のため、小浜線の快速運転を含む高速化を求めているようです。
新幹線で高速化されるが
北陸新幹線が敦賀から小浜市を通って京都へ延伸することは、2016年12月に決まりました。国土交通省の資料を見ると、小浜線東小浜駅付近に北陸新幹線の「新小浜駅」が建設されることが想定されています。
つまり、敦賀~東小浜間は新幹線によって高速化されるわけですが、福井県では、その波及効果を小浜線沿線全体に広げるためには、在来線の高速化も必要だ、と主張しているわけです。
舞鶴方面の利用者を誘導できる?
たしかに、新幹線開業効果を最大化するのに、接続する在来線の整備は欠かせません。小浜線の高速化が実現すれば、舞鶴方面からの利用者が北陸新幹線を利用しやすくなるという効果も見込めるでしょう。
たとえば、東舞鶴~敦賀間84.3kmは現行で約2時間かかっています。これを高速化することで、舞鶴からの乗客を、少しでも敦賀からの北陸新幹線に誘導できるかもしれません。
北陸新幹線新小浜駅が小浜線と接続した場合、舞鶴方面からのアクセス改善はもっと意味を持つでしょう。東小浜~東舞鶴は現行50分ほどですが、これを30分台に短縮できれば、舞鶴市内から新小浜駅を利用しやすくなります。
米原ルートの建設も
とはいえ、「究極の鉄道高速化」が新幹線建設です。小浜線と並行する形で、東小浜~敦賀間に北陸新幹線を作るのですから、さらに在来線まで高速化するのであれば、二重投資との批判が出てくるでしょう。
福井県の西川一誠知事は、先の「中部圏知事会議」で、北陸・中京新幹線として、「米原ルート」の建設を求める姿勢も示しています。
「小浜・京都ルート」に対する「米原ルート」も二重投資の側面がありますし、「小浜・京都ルート」の京都~新大阪間も東海道新幹線に対する二重投資の指摘がつきまといます。さらに新幹線と並行する小浜線の高速化まで求めたわけです。
新幹線と在来線の普通・快速列車では、高速化の意味合いが違いますし、投資額も数十億円程度とみられますので、十把一絡げにするわけにはいきません。とはいえ、さすがに投資過剰という気もします。
小浜線の「並行在来線」問題
もうひとつ微妙な事情として、小浜線が北陸新幹線の並行在来線の候補になっていることが挙げられます。
「並行在来線」の定義は曖昧で、実際に該当するかは交渉に持ち込まれます。かつてJR西日本の社長は小浜線が並行在来線に該当すると主張したことがありますが、西川知事は異論を唱えました。
推測ですが、西川知事としては、JRも巻き込んだ小浜線の高速化協議を進めることで、小浜線の運営を将来もJRが担うことを既成事実化したいのかもしれません。
並行在来線問題という微妙なテーマを抱えている小浜線を、どう残していくかが、福井県の課題になっていることは間違いありません。今回の要求はその駆け引きの延長線上にあるようにもみえます。
在来線高速化にそれなりの意味があるのは事実です。とはいえ、費用対効果がどれほどなのか、きちんと検討してほしいところです。(鎌倉淳)