JR西日本の来島達夫社長が、同社発足30周年を機に、報道各社のインタビューに答えています。朝日新聞の取材にはローカル線の整理について言及する一方、日経では人口減少に立ち向かう需要創造への決意も示しました。
いつまでも放置できない
朝日新聞2017年3月23日付けによりますと、来島社長は、「人口が今のペースで減り続ければ、鉄道が果たせる範囲は限られてくる」と指摘したうえで、「三江線以外の路線も、いつまでもこのままの状態で放置はできない」と述べました。
具体的な路線名の明示は避けたものの、「対象となった路線はバスや次世代型路面電車システム(LRT)への転換などを提案していく」(同紙)ことを明らかにしたそうです。
多くの過疎路線
JR西日本は、中国地方を中心に多くの過疎路線を抱えています。そのなかで、三江線を2018年4月に廃止することを明らかにしていますが、同社には、他にも輸送密度の低い路線があります。
2015年度の輸送密度で、輸送密度500人未満の区間を拾うと以下のようになります。
芸備線 東城~備後落合 8
三江線 三次~江津 58
芸備線 備中神代~東城 87
大糸線 南小谷~糸魚川 196
因美線 東津山~智頭 197
福塩線 府中~塩町 200
木次線 備後落合~宍道 215
芸備線 備後落合~三次 216
山陰線 益田~長門市 300
姫新線 中国勝山~新見 328
山口線 津和野~益田 411
山陰線 長門市~小串 長門市~仙崎 412
姫新線 上月~津山 431
小野田線 小野田~居能 など 440
越美北線 越前花堂~九頭竜湖 458
※括弧内は輸送密度
単純に数字だけで判断すれば、芸備線の備中神代~三次間の利用の少なさが目立ちます。輸送密度が200前後かそれ以下しかなく、来島社長のいう「放置できない」状況にあるといえます。同区間に接続する木次線も、同様に低い輸送密度です。
福塩線の府中~塩町間も含めて、広島県、岡山県、島根県の県境エリアの山岳路線は、いずれも厳しい状況に置かれているといえます。
交流人口で補完を
一方、来島社長は日本経済新聞2017年3月24日付のインタビューで、「ローカル線は減収を覚悟せざるを得ない。長期的にみれば人口は減る。交流人口の増加で補完できれば、鉄道の役割は下がらない」とも述べています。観光客を増やせば鉄道利用者を維持できる、という趣旨です。
そして、「需要と市場創造への知恵出しが必要だ。豪華寝台特急『瑞風』もその一つ。理由を人口減に逃げてはいけない」とも付け加えています。人口減少に立ち向かうためには、観光客を呼び寄せる、新たな需要を創り出す施策が必要というわけです。
ローカル線の経営が厳しくなる一方、「瑞風」のような列車で活性化を図りたいという思いが伝わってきます。上記の輸送密度の低い路線でいえば、山陰線の益田~長門市~小串間などは、その対象になるのでしょう。
吉備線以外にもLRT化提案?
朝日記事で触れられた「LRT化」については、現在、吉備線で検討が進められています。吉備線のLRT化については素案がすでにできており、2017年度中に一定のメドを付ける方向で、地元自治体とJR西日本が話し合いを進めています。
朝日記事では、新たにLRT化の提案をするようにも読み取れます。仮に、LRT化をさらに進めるとして、候補路線はどこになるのでしょうか。
LRT化候補になる路線は、一定の輸送量のある、短距離の都市近郊路線とみられます。3000程度の輸送密度があればLRT候補になりそうですが、具体的にはわかりません。
自治体も早めの施策を
輸送密度という観点からみると、JR西日本のローカル線は、JR北海道に劣らない低水準の路線が並んでいます。人口減少社会を迎え、これらの路線の存廃が、いずれ問題になることを社長自ら予告し、需要創出や、新しい交通体系への転換を訴えました。
JR社長の予告をどう捉えるか。沿線自治体は、地域の交通体系を維持するための施策を、早めに考える時期にきているように思えます。(鎌倉淳)