東急田園都市線「混雑対策」の手詰まり感が半端ない件。「オフピーク通勤誘導策」に効果はあるか?

東急電鉄が、田園都市線の2017年4月21日のダイヤ改正と、朝ラッシュ時の混雑緩和策を発表しました。輸送力増強のほか、利用者の選択肢として3つの施策を実施するそうです。

とはいえ、内容を見ると、混雑緩和の実現にどの程度役に立つのか、疑問を持たざるをえません。田園都市線の混雑対策が手詰まりに陥っていることをうかがわせました。

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早朝時間帯に急行を増発

東急電鉄が発表した4月21日ダイヤ改正のポイントは、早朝時間帯の強化。平日渋谷着5時台と6時台に急行列車を合計2本増発します。

増発される上り列車は以下の通りです。

●平日
・長津田発5時05分→渋谷着5時34分(急行)
・中央林間発5時30分→渋谷着6時09分(急行)

●土休日
・長津田発5時05分→渋谷着5時34分(急行)

いずれも渋谷止まりで、半蔵門線内の営業運転はありません。車両運用の都合とみられますが、以下の渋谷発も増発されます。

●平日
・渋谷発5時46分→中央林間着6時39分(各駅停車)
・渋谷発6時14分→長津田着6時45分(急行)

●土休日
・渋谷発5時48分→長津田着6時17分(急行)

初電も数分繰り上げ

このほか、初電の繰り上げも行われます。二子玉川発の初電が5時02分から5時01分に1分繰り上げ(渋谷着も1分繰り上げ)、鷺沼発を5時05分から5時03分に2分繰り上げ(渋谷着は1分繰り上げ)などです。

田園都市線のダイヤ改正にあわせて、世田谷線、大井町線でもダイヤ改正が行われますが、微修正のようです。

田園都市線

「バスも!」を継続

東急電鉄では、ダイヤ改正とあわせて、「田園都市線および大井町線の朝ラッシュ時の混雑緩和施策」を発表しました。具体的な施策として、4月3日から、「移動手段を選ぶ」「働く場所を選ぶ」「乗車時間を選ぶ」の3つを開始します。

「移動手段を選ぶ」としては、朝時間帯に実施している「バスも!キャンペーン」をリニューアルし、継続実施するとのこと。これは、田園都市線の池尻大橋~渋谷間を含む定期券を所持する利用者は、並行する渋谷駅行きの東急バスに乗車できるという施策です。利用できる時間帯は、7時~9時30分までです。

池尻大橋~渋谷間にオフィスのある利用者に、池尻大橋で降りてもらおう、という狙いです。最混雑区間である池尻大橋~渋谷間の混雑率を少しでも下げたい、という東急の姿勢の現れでしょうか。

道元坂上あたりにオフィスのある会社員に対しては、効果的な施策かもしれません。ただ、ターゲットとなる人数は限られるでしょう。

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サテライトオフィスの利用料を無料に

「働く場所を選ぶ」としては、東急が運営するサテライトシェアオフィス「NewWork」の朝時間帯の利用促進策を講じるというもの。サテライトオフィスの契約企業に対し、7時~9時30分を無料にします。

電車が混んでいる時間帯はサテライトオフィスで仕事をしてもらい、ラッシュが終わったら、メインのオフィスに出社してもらおう、という目論見のようです。

そんな面倒なことをするサラリーマンがどれだけいるのか疑問ですが、いたとしてもターゲットとなる企業・従業員はかなり限られます。

早起きには東急ポイントを50

「乗車時間を選ぶ」としては、「田園都市線 早起き応援キャンペーン」のポイント拡大です。田園都市線の各駅に朝7時までに自動改札機を通るなどの条件をクリアすると、東急ポイントが50ポイントもらえるというものです。

これまでのキャンペーンでは5ポイントでしたので、一気に10倍に拡大するわけです。東急ポイントは、東急ストアなどで1ポイント1円として使えます。つまり、早起きして時差通勤に協力する人には、1日50円相当を差し上げましょう、というキャンペーンです。

ささやかながら金銭的メリットを提示することで、オフピーク通勤を促進しようという狙いです。ターゲットとなる利用者は幅広く、3つの施策の中では唯一効果が期待できそうです。

ただ、1日50円だと、がんばっても一ヶ月1,000円そこそこです。月1,000円のために早起きする人が、どれだけいるのかは、やっぱり疑問。もともとオフピーク通勤に興味のある層の背中を押す程度の効果に限られるのでは、とも思います。

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万策尽きてオフピーク

以上が、東急が発表した、田園都市線の「朝ラッシュ時の混雑緩和施策」です。3つの「選ぶ」が提示されましたが、ほとんどの利用者は「どれも選びようがない」というところでしょう。これだけでは、朝ラッシュのピーク時の混雑緩和に実効性があるとは思えません。

本来なら、混雑緩和には増発で対応するべきです。ただ、増発はすでにし尽くしており、東急は「田園都市線の平日朝ラッシュのピーク時間帯は渋谷着8時台ですが、この時間帯の列車の増発はダイヤ上難しい」と、プレスリリースに率直に記しています。

ピーク時の輸送力増強に関しては万策尽きたため、次善の策としてオフピーク時間帯の利用を促す方針に強化し、上記のような施策を発表したと推察されます。

早朝だって混んでいる

東急田園都市線では、早朝時間帯も列車は混雑しています。朝5時台の列車でも立ち客が目立ちますし、朝6時台に渋谷に到着する列車はそこそこの混雑です。

早起きしてオフピーク通勤をしてもやっぱり電車は混んでいるのが現状で、4月21日のダイヤ改正はその改善を狙っているのでしょう。

オフピーク時間帯の輸送力を挙げることで、オフピーク通勤を多少なりとも快適にして、ピーク時からの利用者の遷移を図ろうというものです。朝5時半に渋谷に着く急行の設定など、東急にしては思い切ったダイヤだとは思います。

これまでの急行の始発は、渋谷着6時18分でしたので、急行の初電を40分以上も繰り上げたわけです。

抜本的解決には線増しかない

とはいえ、東急田園都市線の混雑緩和策の手詰まり感はやっぱり否めません。

過去にも、大井町線に急行を作って利用者を流そうとしたり、ラッシュ時の二子玉川~渋谷間を全列車各駅停車にして混雑の平準化を図ったりと、それなりに対策は打ってきたのですが、結果を見ると焼け石に水です。

今回の施策も、やらないよりはマシですが、たぶんあまり効果はないでしょう。

抜本的に解決をするなら、線増しかありません。ただ、人口減少社会に突入するこの時期に、巨額の投資をして複々線化するという選択肢は、企業としては採りづらいという事情も理解できます。

せめて渋谷駅のホーム増設くらいは、なんとか手を付けてほしいと思わなくもありませんが。(鎌倉淳)

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