都心直結線

押上~泉岳寺

都心直結線は、京成押上線押上駅から、新東京駅(丸の内)を経て、京浜急行泉岳寺駅までを結ぶ地下新線の計画です。京成押上線、京急本線と相互直通運転をおこないます。新東京駅以外の中間駅は設けず、都心から成田空港と羽田空港を直結する目的の路線です

都心直結線の概要

都心直結線は、成田空港と羽田空港の都心アクセスを改善するために構想された路線です。路線名は「都心と空港を直結する」という意味です。

計画では、押上駅から泉岳寺駅まで約11kmを大深度地下で結びます。途中駅は新東京駅(丸の内仲通り直下)のみです。

押上駅において京成電鉄と、泉岳寺駅において京浜急行電鉄と、それぞれ相互直通運転を行います。それにより、東京都心(丸の内)-成田空港を30分台、東京都心-羽田空港を20分台、成田空港-羽田空港を50分台で結ぶことを目標としています。

2009年には、国土交通省により『成田・羽田両空港間及び都心と両空港間の鉄道アクセス改善に係る調査結果概要』が示されました。それによりますと、新東京駅-空港第2ビル駅が約37分、新東京駅-羽田空港駅が約22分、空港第2ビル駅-羽田空港駅は約59分で結ぶとしています。

運行本数は日中毎時6本、ピーク時には毎時最大10本程度を想定しています。

2016年の答申198号『鉄道ネットワークのプロジェクトの検討結果』によれば、都心直結線の総事業費は4,400億円、輸送密度は123,800~126,300人/日、費用便益比は1.1、累積資金収支は16~17年程度と見積もられています。

都心直結線
画像:平成21年度 成田・羽田両空港間及び都心と両空港間の鉄道アクセス改善に係る調査結果概要

都心直結線の沿革

都営浅草線分岐案

2000年1月の運輸政策審議会答申第18号で、東京1号線(浅草線)の東京駅接着と浅草橋駅付近の追い抜き線の整備が「目標年次(2015年度)までに整備着手することが適当な路線」として盛り込まれました。これが都心直結線の原型で、当初は浅草線を分岐して東京駅に引き込む計画でした。

同じ時期に行われた運輸省・国土交通省の都市鉄道調査では、成田方は日本橋駅から、羽田方は宝町駅と東銀座駅の中間からそれぞれ分岐して八重洲通り地下に向かうルートが検討されました。東京駅の位置として、八重洲地下街直下、大丸東京店直下、JR線ホーム直下、総武快速線・横須賀線ホーム直下の4ケースが検討されています。

しかし、最も建設費の安い八重洲地下街直下でも、40年以内の累積資金収支が黒字にはならないとの結果となりました。

2001年5月には、国土交通省が『首都圏の空港アクセス緊急改善対策』を公表。空港アクセスの抜本的な改善策として、成田B案ルート(成田スカイアクセス線)を整備し、都営浅草線の東京駅接着と追い抜き線の整備について、2年をメドに検討するとされました。これを受け、同年11月「都営浅草線東京駅接着等の事業化推進に関する検討委員会」が発足しています。

検討委員会は、2003年5月に『都営浅草線東京駅接着等の事業化推進に関する検討調査結果のとりまとめ』を発表。八重洲地区再開発と一体整備する案を有力としました。一方、浅草橋駅に追い抜き設備を設けることは難しく、蔵前駅を2面3線に改良することを検討するとしています。

浅草線八重洲口接着案
出典:「都営浅草線東京駅接着等の事業化推進に関する検討」調査結果のとりまとめ(2003年5月)

 

都心直結線計画の誕生

2007年6月には、交通政策審議会航空分科会による答申『今後の空港及び航空保安施設の整備及び運営に関する方策について 〜戦略的新航空政策ビジョン〜』が公表され、羽田・成田両空港間の移動の円滑化が盛り込まれました。これにより、都心直結線は両空港間の直通列車が運行可能な案が検討されることになり、浅草線の東京駅引き込み案は事実上廃案となっています。

2008年11月に「成田・羽田両空港及び都心と両空港間との鉄道アクセス改善に係るワーキンググループ」を設置。2009年5月に、その検討結果として『成田・羽田両空港及び都心と両空港間の鉄道アクセス改善について』が公表されました。ここでは、押上駅~泉岳寺駅短絡線整備(新東京駅経由)が検討ルート案に選定されています。これがいわゆる「都心直結線」です。

このとき、新東京駅の位置については、丸の内側(丸ノ内線直下)と八重洲側(八重洲通り直下)が比較され、丸の内側の方が需要が大きいとされました。

2011年には『成田・羽田両空港間及び都心と両空港間の鉄道アクセス改善に係る調査結果概要』を公表。概算工事費を約3,500億円超とし、需要見通しは1日あたり約22万人としました。ラッシュ時の運行本数は泉岳寺駅~押上駅間で10本とし、都営浅草線経由の列車が24本から18本に減るとしました。

まとめると

経緯が長いので簡単にまとめると、都心直結線は、そもそも成田空港アクセスの改善を目指した路線として構想されました。

都営浅草線を日本橋や宝町付近から分岐して東京駅に引き込み、あわせて浅草線の浅草橋駅付近に待避線(追い抜き線)を設けて優等列車を走らせるという計画でした。成田空港アクセス線の建設計画とセットで立案され、東京駅から都営浅草線、成田空港アクセス線を経て成田空港に至る高速列車を走らせようという大構想でした。

しかし、都営浅草線の高速化には限界があり、八重洲口接着には巨費がかかると判断され、浅草線分岐案は行き詰まります。かわりに浮上したのが都心直結線で、羽田・成田両空港間を短時間で直結する鉄道が構想されたわけです。

2013年度から国土交通省による予算で当路線に関する調査費が計上され、2016年4月20日の交通政策審議会答申198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』では、「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」として、トップで盛り込まれました。

ただ、その後、都心直結線の建設に向けた動きはみられません。

都心直結線データ

都心直結線データ
営業構想事業者 未定
整備構想事業者 未定
路線名 未定
区間・駅 押上~新東京~泉岳寺
距離 約11km
想定輸送密度 123,800~126,300人
総事業費 4400億円
費用便益比 1.1
累積資金収支黒字転換年 16~17年
種別 未定
種類 普通鉄道
軌間 1,435mm
電化方式 直流1500V
単線・複線 複線
開業予定時期 未定
備考

※データはおもに東京~秋葉原間は『鉄道ネットワークのプロジェクトの検討結果』(2016年)より

都心直結線の今後の見通し

都心直結線は、羽田・成田両空港の連携を強化するための「国策路線」として検討されてきました。「国策」の背景には、成田空港を擁する千葉県への配慮という側面もあります。

成田空港は首都圏唯一の国際空港として建設され、開港後、苦難の歴史をたどりました。ところが2000年代に入ると、羽田空港の再国際化が検討されはじめます。歴史的な経緯があるだけに千葉県は難色を示しました。それに対して、政府が成田空港のアクセス改善策として提示したのが都心直結線です。

国が立案した計画ならば実現可能性が高いようにも思えますが、現実にはなかなか進展していません。理由はいくつかあるりますが、最大の問題は、本気で取り組もうという組織が沿線に存在しない点です。

まず、都営地下鉄を運行する東京都は、浅草線の採算悪化を嫌い、当初から計画に後ろ向きです。都は『広域交通ネットワーク計画について』という鉄道計画のとりまとめを2015年に作り、整備検討すべき路線としてJR羽田空港アクセス線など19路線を盛り込みましたが、このとき、都心直結線は外れています。

実現可能性が不透明な路線も含め19もの鉄道建設計画を示した東京都が、都心直結線をリストアップしなかったのです。これには重要な意味があり、東京都として都心直結線の建設を求めない姿勢を明確にしたといえます。

沿線の区の関心も低いです。東京駅以外に駅が設けられないのだから当然でしょう。駅ができる墨田区や千代田区、港区も、都心直結線に期待することはほとんどなく、むしろ費用負担を警戒する立場です。

乗り入れ先の京急や京成は、東京駅に直結できる鉄道ができればメリットはあります。ただ、第三者が作ってくれるならともかく、自ら事業費を負担する姿勢までは見せていません。

こうした状況なので、建設運動を積極的に推進する主体が沿線に存在しないのです。

積極姿勢を見せている自治体は千葉県です。たとえば、千葉県は2024年度の『国の施策に対する重点提案・要望』で、都心直結線について「国の主導により、関係地方公共団体や鉄道事業者を含む関係者で協議していく場の設置が求められる」と記しています。

成田空港建設や羽田再国際化の経緯を踏まえて、千葉県は建設を求めています。しかし、実際に建設するのは都内で、その沿線自治体や鉄道事業者には、やる気がありません。

日本の鉄道新線事業は、国と自治体、鉄道事業者が建設費を分担する枠組みが原則なので、沿線自治体にやる気がなければ建設は困難です。千葉県が主張するように、自治体や鉄道事業者の背中を押すのは政府の役割ですが、その政府の本気度も疑わしいといわざるを得ません。

4000億円規模の巨費を投じるプロジェクトにしては、推進力となる組織が沿線に見当たらない。これこそが、都心直結線の課題です。

JR東日本が羽田空港アクセス線計画の実現に動き出したことで、東京駅と羽田空港の直結は実現します。羽田空港アクセス線が常磐線に乗り入れるなら、日暮里で京成スカイライナーに乗り換えることもできます。つまり、羽田と成田は日暮里乗り換えで短時間で結ばれることになります。

となると、都心直結線の整備効果は限られたものとなります。そうした状況の変化もあり、計画の実現は見通せません。