新金貨物線(しんきんかもつせん)は、JR新小岩信号場とJR金町駅を結ぶ総武線の貨物支線の通称です。
新金貨物線を経由する貨物列車は1日数往復です。そのため、この路線を旅客化して活用しようという構想があります。新小岩駅~金町駅間の7.1kmに、普通鉄道もしくはライトレール(LRT)を走らせる計画です。
ただ、実現のハードルが高いため、当面はBRTで整備する方針が固まりました。
新金線旅客化の概要
新金線で旅客化が検討されている区間は、新小岩駅~金町駅の7.1km。現状は貨物線が電化単線で敷設されていて、複線化用の空間が確保されています。
この複線化用の空間を活用して、バス高速輸送システム(BRT)を走らせます。複線化用地をバス専用道とするわけです。

ルートと駅位置
2025年1月に公表された新金線旅客化検討委員会報告書(葛飾区)と、同年9月に公表された整備構想骨子案(同)によりますと、専用道は単線で整備し、駅ごとに交換施設を設けます。駅は10駅を想定しています。
新小岩駅は東北広場、金町駅では北口駅前広場に発着します。新小岩駅、金町駅ともに、既存の駅前広場に乗り入れる形です。
専用道は高砂踏切より南側のみ整備します。高砂踏切以北は一般道を走行します。
これには理由があり、新金線の複線化用地は、おおむね貨物線の西側にあります。しかし、高砂踏切付近のみ東側にあり、西側にある他区間と連続的に用地を使用できないという問題があるためです。また、金町駅付近は単線になっていて、複線化用地そのものがありません。
さらに、国道6号線をまたぐ区間で専用道を整備する場合、立体交差にしなければならず、費用が高額になるという問題もあります。こうしたことから、高砂以南の「南側先行整備」で進められることが決まっています。

運行形態
バスの車両は連接車両を想定します。クリーンエネルギーを動力とした車両を導入し、自動運転など、新たな技術の採用も検討します。ピーク時に毎時10本、オフピーク時に毎時6本の運行を想定します。全区間の所要時間は約26~28分になる見込みです。
定時性と速達性を確保するため、駅施設での事前料金収受や複数ドアによる乗降など、スムーズに運行できる仕組みを導入します。運行情報案内システムや快適な待合空間を整備し、誰もが快適に利用しやすい交通機関とします。
整備手法は公設型上下分離方式とし、区が専用道や駅、車両などを整備・保有します。運行や管理は民間または第三セクターが担います。具体的な運営会社などは未定です。
需要予測と事業費
これまでの調査によれば、BRTの場合、1日29,000人~30,000人程度の利用を予測し、概算事業費は約320~560億円を見込みます。このうち、国からの補助により約280~520億円を手当てし、葛飾区の支出は約40億円程度にとどまる見通しです。
単年度で約5~6億円の黒字を計上できる見通しで、費用便益比は約1.1~1.7程度を見込んでいます。
新金貨物線旅客化の沿革
長期構想路線
新金貨物線の歴史は古く、大正15年に新小岩操車場とともに建設されました。以来、東京臨海部と千葉方面との貨物輸送を担う路線とされてきました。
一方、葛飾区には南北をつなぐ旅客鉄道の交通軸がありません。このため、地元・葛飾区で、新金貨物線の旅客化を求める声は古くからありました。葛飾区では新金貨物線の旅客化に関する調査検討を1993~1994年度と、2003年度にそれぞれ実施しています。
ただ、新金貨物線の旅客化には、国道6号線との交差部の踏切で生じる渋滞をどう解決するか、といった難題があります(後述)。しかも、事業採算性も見込めませんでした。
そのため、葛飾区では、新金貨物線の旅客化について「長期構想路線」として位置づけ、事実上、先送りしてきました。葛飾区の都市計画マスタープランでは「周辺の動向を見守りながら、南北交通の充実を図るストック材として活用方法を検討していく」という記述になっていました。
その後、沿線開発が進む一方、新金貨物線を走る貨物列車の本数は激減しました。武蔵野線、京葉線の開業後、ほとんどの貨物列車が南流山~西船橋~蘇我間を経由するようになったからです。
2018年時点で、1日に定期貨物列車が4往復、臨時貨物列車が1往復、その他に回送列車が走るのみとなっていました。そのため、旅客列車を走らせる余裕は、ダイヤ上は十分にあります。

2018年度調査
こうした状況で、2018年度には、みたび葛飾区が旅客化に向けて基礎的な調査を行いました。その調査結果が2019年3月にまとまり、「新金貨物線の旅客化検討資料」として公表されました。
葛飾区では、2019年度からは年10億円を積み立てる「新金貨物線旅客化整備基金」も創設。10年で100億円を積み立てる目標を掲げ、事業を強く推進する姿勢を見せました。

2018年度調査の資料によりますと、旅客化が検討された区間は、新小岩駅~金町駅の7.1km。現状は電化単線で、複線化用の空間が確保されています。旅客化の検討では単線のままで、途中駅に交換設備を設ける想定としました。
旅客化の前提として、貨物列車の運行が存続すると考えました。そのうえで、旅客列車の車両は通常の電車とライトレール(LRT)の2案を候補としました。
途中駅は、10駅及び7駅の2案が検討されました。

10駅の場合は、新小岩、東新小岩、奥戸、細田、南高砂、高砂、北高砂、新宿、西金町、金町の各駅を設置します。7駅案では、10駅案から南高砂、北高砂、西金町の3駅が省かれます。資料には明記されていませんが、10駅案がライトレール、7駅案が普通鉄道を想定しているようでした。
新小岩駅と金町駅は、総武線、常磐緩行線との乗り継ぎを考慮した位置を想定しました。所要時間は10駅で22分、7駅で17.7分と計算されました。

運転本数と需要予測
新金貨物線を旅客化した場合、1日あたりの運転本数は、片道84本と試算されました。ピーク時毎時6本、オフピーク時は毎時4本です。5時~0時までの19時間運行とし、ピーク時は朝夕各2時間です。
全線開通時の需要予測は、10駅案が1日38,400人、7駅案が36,600人となりました。新金線がモデルの一つと考える東急世田谷線の輸送人員が、1日57,541人(2016年度)ですので、全線開業で3分の2程度、部分開業では半分以下となります。
周辺鉄道への影響については、新金線旅客化により、JR新小岩駅で11,000人、JR金町駅で3,000~4,000人程度の乗降客増を予測しました。
一方、競合する形となる京成電鉄では利用者現象を予測しました。京成高砂駅で9,000~10,000人、青砥駅で7,000~8,000人の乗降客減を予想しています。
京成高砂駅の乗降人員(2017年度)は104,223人、青砥駅は50,364人ですので、1割程度の利用者が新金線に流れるわけです。
概算事業費と単年度収支
全線開業の概算事業費は ライトレール車両で250億円、電車で200億円と想定しました。事業枠組みは上下分離を想定しています。
単年度収支については、7駅案で約2.7億円~▲2.9億円、10駅案で約3.2億円~▲2.4億円と試算しています。この収支には、減価償却費や諸税、借入金の償還費などは含みません。
国道6号線踏切問題と段階的整備
新金貨物線旅客化の最大のハードルは、国道6号線との交差です。これを踏切とすれば、国道に大渋滞が生じます。そのため、検討では、踏切ではなく交通信号とする方向で調査しました。道路側の交通信号にあわせて旅客列車を通過させることで、道路交通への影響を抑えます。
過去に鉄道(軌道ではない)に道路信号を設けた例はないようですが、「鉄道信号と道路信号を連携させる」形で問題ないとの国交省の見解を得て、鉄道事業法で運行することができる見通しが立ちました。
ただし、交通信号とした場合、ダイヤ乱れが起こりやすいという課題があります。単線で毎時6本も運行し、貨物列車まで残したら、ダイヤ回復は難しくなります。
こうした課題がわかったため、葛飾区では、国道6号との交差部分の整備を先送りし、まずは交差のない新小岩~新宿間での開業を目指す、段階的整備の方針に転じました。

2025年報告書
2022年2月には、青木克徳・葛飾区長がJR東日本、国土交通省、都などと検討会を発足させる方針を表明。第一期(新小岩~新宿)と第二期(新宿~金町)に分ける段階的整備をおこない、2030年頃の第一期開業を目指すと宣言しました。
葛飾区では、2022年度に、新たに新金線旅客化検討委員会を設置して、具体化に向けて検討を開始します。検討委には、JR東日本やJR貨物の部長クラスも参加しました。
2025年1月には、鉄道による旅客化4案と、バス専用道の整備2案の合計6案の整備手法を示し、その事業性などをとりまとめた「新金線旅客化検討委員会報告書」(2025年報告書)を公表しています。
3つの課題
2025年報告書で示された大きな課題は3つでした。
一つ目は金町駅への接続で、金町駅構内の既存線路はすべて使用されており、旅客車両の走行や、新たに旅客線を整備する余地がないことです。鉄道を整備するには、旅客線を高架化し高架駅で発着するほかありません。

二つ目の課題は国道6号との交差です。貨物線は踏切になっていますが、踏切のまま旅客化して運行本数が増えれば、国道で大渋滞が発生します。そのため、国道6号の交通状況に影響を与えずに交差する必要があります。
鉄道を整備するための対策としては、①旅客線・貨物線ともに高架化、②旅客線のみ高架化、③平面交差の3つとなります。③平面交差の場合は、路面電車のように道路信号に従う形となります。

三つ目の課題は、高砂踏切付近の問題です。新金線では、既存の貨物線の西側に複線用地が配置されていますが、高砂踏切付近のみ貨物線が西側へ移設されているため、複線用地を連続的に活用することができません。
対策としては、①旅客線・貨物線ともに高架化、②既存貨物線上を走行(単線)、③旅客線のみ高架化する、という形が考えられます。

6つの整備手法
こうした課題を前提に、2025年報告書では6つの整備手法を示しました。鉄道はライトレール(LRT)として、①貨物線と供用、②旅客線を整備、の2つを候補とし、③バスによる運行(BRT)も候補に入れました。
①現在ある貨物線の線路を旅客線も走行するケース(貨客併用)
A:高砂踏切以北をほぼ高架化
B:高砂踏切を単線運用、国道6号は踏切、金町駅付近を高架化

②貨物線の隣に新たに線路を整備するケース(貨客分離)
C:高砂踏切以北をほぼ高架化
D:高砂踏切と金町駅付近の旅客線を高架化

③貨物線の隣に新たに専用道路を整備するケース(バス運行)
E:高砂踏切と金町駅付近を高架化
F:高砂踏切以北で一般道を走行

この3方式6パターンの事業性について、検討した結果は以下の通りです。

費用便益比(B/C)で基準となる1を上回ったのは、①の貨客併用(A・B)③のバス運行(E・F)で、②の貨客分離による旅客線整備(C・D)は、クリアできませんでした。
また、収支採算性をみると、①の貨客併用は、事業費が高いにもかかわらず、国の補助金が少ないため、長期的に黒字転換できません。
結局、実現可能なのは③(E・F)のバスによる運行という結論になってしまいました。
バスによる段階的整備に
③の場合、高架道路を作るか否かで実現性が大きく変わります。金町駅付近の高架道路については、「既存線路上への高架工事は相当な困難が見込まれ、現時点では実現性の担保が得られていない」としました。
また、国道6号線との交差については、国道拡幅事業との兼ね合いがあり、平面交差の場合は交通処理に課題があるとし、「実現性や実現に要する期間が見込めない」としました。
となると、実現性がもっとも高いのは、高架橋を作る必要のないFという結論になり、「高砂踏切以南で専用道を整備し、高砂踏切以北は一般道を走行する」という形で整備することが決まりました。

葛飾区では2025年9月24日の区議会(都市基盤整備特別委員会)で、「新金線を活用した新たな交通システム整備構想骨子(案)」を公表。ケースFでの整備を進めていく方針を明らかにしました。
整備構想骨子では「金町駅付近や国道6号との交差部等の課題を踏まえ、課題解決までの間、北側区間は一般道路を走行する段階的な整備について優先的に検討」と記されています。
これにより、新金線の鉄軌道での整備は棚上げとなり、BRTでの整備が決定したことになります。鉄軌道案(LRT案)は、将来的に復活する可能性が残りますが、現時点では、事実上、廃案になったとみていいでしょう。
新金貨物線旅客化のデータ
| 営業構想事業者 | 未定 |
|---|---|
| 整備構想事業者 | 未定 |
| 路線名 | 未定 |
| 区間・駅 | 新小岩~高砂~金町 |
| 距離 | 約7.1km(新小岩~金町) |
| 想定利用者数 | 約29,000~30,000/日 |
| 総事業費 | 約320~560億円 |
| 費用便益比 | 1.1~1.7 |
| 累積資金収支黒字転換年 | — |
| 種別 | バス事業 |
| 種類 | BRT |
| 軌間 | — |
| 電化方式 | — |
| 単線・複線 | 単線 |
| 開業予定時期 | 未定 |
| 備考 | — |
※データはおもに『新金線旅客化検討委員会報告書』(2025年1月)より
新金貨物線旅客化の今後の見通し
新金貨物線旅客化について、葛飾区の青木克徳区長は、かなり力を入れて取り組んで来たように見受けられます。しかし、結局、鉄軌道での整備はあきらめ、BRTという名前のバスによる実現に落ち着きました。
高架橋を作らないで、用地買収もほとんどない事業になりますので、開業までそれほど時間はかからないでしょう。2030年頃までには実現できるのではないでしょうか。ただ、それは「路線バス」であり、「鉄道」ではありません。
鉄道新線として見た場合、新金貨物線実現のハードルで、最も難しいのは、国道6号線との交差問題です。これについては、道路信号にすれば解決できますが、そうなるとダイヤの制約が厳しくなり、現実的ではないことも明らかになりました。
結局、国道6号と交差する部分を、現状の設備で鉄軌道として運行することは不可能で、最終的には鉄軌道そのものを先送りせざるをえませんでした。
ただ、国道6号の道路側に立体化する計画があるため、将来的に道路の立体化が完了すれば、交差問題は解決します。そうすれば、大きなハードルが消えるため、鉄軌道を走らせる議論が再燃するかもしれません。



























