新金貨物線(しんきんかもつせん)は、JR新小岩信号場とJR金町駅を結ぶ総武線の貨物支線の通称です。
近年、新金貨物線を経由する貨物列車は激減しており、1日数往復が走るのみ。そのため、この路線を旅客化して活用しようという構想があります。これが、新金貨物線の旅客化です。
新小岩駅~金町駅間の7.1kmに、普通鉄道もしくはライトレール(LRT)を走らせる計画です。
新金線旅客化の概要
新金貨物線の歴史は古く、大正15年に新小岩操車場とともに建設されました。以来、東京臨海部と千葉方面との貨物輸送を担う路線とされてきました。
しかし、武蔵野線、京葉線の開業後、ほとんどの貨物列車が南流山~西船橋~蘇我間を経由するようになったため、新金貨物線を経由する列車の本数は激減。2018年時点で、1日に定期貨物列車が4往復、臨時貨物列車が1往復、その他に回送列車が走るのみです。そのため、旅客列車を走らせる余裕は、ダイヤ上は十分にあります。
こうした状況で、地元葛飾区が旅客化への調査をすすめています。同区の2018年度「新金貨物線の旅客化検討資料」によりますと、旅客化が検討されている区間は、新小岩駅~金町駅の7.1km。現状は電化単線で、複線化用の空間が確保されています。旅客化の検討では単線のままで、途中駅に交換設備を設ける想定です。
旅客化の前提として、貨物列車の運行が存続すると考えます。そのうえで、旅客列車の車両は通常の電車とライトレール(LRT)の2案を候補としています。
途中駅は、10駅及び7駅の2案があります。
10駅の場合は、新小岩、東新小岩、奥戸、細田、南高砂、高砂、北高砂、新宿、西金町、金町の各駅を設置します。7駅案では、10駅案から南高砂、北高砂、西金町の3駅が省かれます。資料には明記されていませんが、10駅案がライトレール、7駅案が普通鉄道を想定しているとみられます。
新小岩駅と金町駅は、総武線、常磐緩行線との乗り継ぎを考慮した位置を想定します。所要時間は10駅で22分、7駅で17.7分と計算されました。
運転本数と需要予測
新金貨物線を旅客化した場合、1日あたりの運転本数は、片道84本と試算されています。ピーク時毎時6本、オフピーク時は毎時4本です。5時~0時までの19時間運行とし、ピーク時は朝夕各2時間です。
全線開通時の需要予測は、10駅案が1日38,400人、7駅案が36,600人となっています。新金線がモデルの一つと考える東急世田谷線の輸送人員が、1日57,541人(2016年度)ですので、全線開業で3分の2程度、部分開業では半分以下となります。
周辺鉄道への影響については、新金線旅客化により、JR新小岩駅で11,000人、JR金町駅で3,000~4,000人程度の乗降客増を予測しました。
一方、競合する形となる京成電鉄では利用者が減少します。京成高砂駅で9,000~10,000人、青砥駅で7,000~8,000人の乗降客減を予想しています。
京成高砂駅の乗降人員(2017年度)は104,223人、青砥駅は50,364人ですので、1割程度の利用者が新金線に流れるわけで、京成としては大きな打撃です。
概算事業費と単年度収支
全線開業の概算事業費は ライトレール車両で250億円、電車で200億円と想定しています。事業枠組みは上下分離を想定していますが、詳細は決まっていません。
単年度収支については、7駅案で約2.7億円~▲2.9億円、10駅案で約3.2億円~▲2.4億円と試算しています。この収支には、減価償却費や諸税、借入金の償還費などは含みません。
国道6号線踏切問題と段階整備
新金貨物線旅客化の最大のハードルは、国道6号線との交差です。これを踏切とすれば、国道に大渋滞が生じます。そのため、検討では、踏切ではなく交通信号とする方向で調査されました。道路側の交通信号にあわせて旅客列車を通過させることで、道路交通への影響を抑えます。
過去に鉄道(軌道ではない)に道路信号を設けた例はないようですが、「鉄道信号と道路信号を連携させる」形で問題ないとの国交省の見解を得て、鉄道事業法で運行することができる見通しが立っています。
ただし、交通信号とした場合、ダイヤ乱れが起こりやすいという課題があります。単線で毎時6本も運行し、貨物列車まで残したら、ダイヤ回復は難しくなります。
そのため、葛飾区では、国道6号との交差部分の整備を先送りし、まずは交差のない新小岩~新宿間での開業を目指す方針になっています。
2022年2月には、青木克徳・葛飾区長がJR東日本、国土交通省、都などと検討会を発足させる方針を表明。第一期(新小岩~新宿)と第二期(新宿~金町)の段階的整備をおこない、2030年頃の第一期開業を目指すと宣言しました。
段階整備の需要予測では、7 駅開業案は約25,300人/日、10 駅開業案は約20,700人となりました。そのため、駅数の少ない7駅案による、新小岩~新宿間先行整備が有力となっています。
それでも、全線開業に比べると、6割程度の利用者数になってしまいます。
新金貨物線旅客化の沿革
葛飾区には南北をつなぐ鉄道交通軸がありません。このため、地元・葛飾区で、新金貨物線の旅客化を求める声は古くからありました。葛飾区では新金貨物線の旅客化に関する調査検討を1993~1994年度と、2003年度にそれぞれ実施しています。
このときの調査検討では、国道6号線との交差、貨物線との併存、事業採算性が課題として列挙されました。いずれも難題なため、葛飾区では、新金貨物線の旅客化について「長期構想路線」として位置づけ、事実上、先送りしてきました。葛飾区の都市計画マスタープランでは「周辺の動向を見守りながら、南北交通の充実を図るストック材として活用方法を検討していく」という記述になっています。
その後、沿線開発が進んだことから、2018年度には、みたび葛飾区が旅客化に向けて基礎的な調査を行いました。その調査結果が2019年3月にまとまり、区議会で公表されました。その概要は上記の通りで、克服すべき課題は、以前の調査検討と大きくかわっていません。
なかでも大きな問題は国道6号線との交差問題ですが、葛飾区では調査を継続し、結果として交差しない新小岩~新宿間の先行開業を模索することになりました。2019年度からは年10億円を積み立てる「新金貨物線旅客化整備基金」も創設。10年で100億円を積み立てる目標を掲げ、事業を強く推進する姿勢を見せています。
こうした準備の後、2022年2月には、青木克徳区長がJR東日本、国土交通省、都などと検討会を発足させる方針を表明。第一期と第二期の段階的整備をおこない、2030年頃の第一期開業を目指すと宣言しました。
なお、2016年4月20日の交通政策審議会答申第198号『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』には、新金貨物線の旅客化は含まれていません。
新金貨物線旅客化のデータ
営業構想事業者 | 未定 |
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整備構想事業者 | 未定 |
路線名 | 未定 |
区間・駅 | 新小岩~新宿~金町 |
距離 | 約7.1km(新小岩~金町) |
想定利用者数 | 約36,600~約38,400人/日(全線整備) 約20,700~25,300人/日(段階的整備) |
総事業費 | 200~250億円(全線整備) |
費用便益比 | — |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | — |
種類 | 普通鉄道または軌道 |
軌間 | 1,075mm |
電化方式 | 直流1500V |
単線・複線 | 単線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | — |
※データはおもに『新金貨物線旅客化の検討資料』(2019~2023年)より
新金貨物線旅客化の今後の見通し
2018年度から2021年度にかけて調査された「新金貨物線の旅客化検討資料」を見ると、新金貨物線旅客化実現のハードルは、主に2つ。国道6号線との交差問題と採算性です。
国道6号との立体交差問題は、道路信号にすれば解決する見通しが立ちましたが、ダイヤの制約が厳しくなります。そのため、段階的整備として、国道6号と交差する部分の開業を先送りする方針を固めています。
国道6号の道路側に立体化する計画があるため、将来的には、道路の立体化が完了したところで金町までの全線開業を目指すことになるようです。
後者の採算性の問題については、整備スキームを固めてからの話になるでしょう。ただ、複線の鉄道用地がすでに存在していることは大きなアドバンテージです。
葛飾区としては、東急世田谷線のようなライトレール(LRT)をモデルに考えているようです。ライトレールならば、1日3万人程度の利用者で事業としては成立するでしょう。
葛飾区は2019年度から基金を積み立てるなどして事業化への道筋をつけようとしています。踏切問題のない新宿~新小岩間の先行開業に向けて本腰を入れており、実現へ向けて動き出しています。