熊本市電東町線

健軍町~市民病院

熊本市電は、熊本市内の田崎橋・上熊本駅前~健軍町の2路線を有します。3方面5ルートの延伸計画があり、このうち「東町線」(健軍町~市民病院)1.5kmが事業化されています。

熊本市電東町線の概要

熊本市の市電延伸計画で優先的に進められているのが、「東町線」です。

現在の市電の終点・健軍町から新市民病院まで約1.5kmを延伸するものです。健軍町から県道熊本高森線を東へ向かい、自衛隊熊本病院や陸運支局などの横を通り熊本市民病院へ至ります。

停留所として、秋津新町、第二高校前・東区役所入口、東町、市民病院の4つを新たに設置します(停留所名はいずれも仮称)。延伸距離は正確には1.57kmで、単線0.43km、複線1.14kmです。

単線区間は健軍町から秋津新町までの区間です。健軍町から市民病院までの所要時間は7.2分を見込みます。概算事業費は135億円です。

開業予定は、秋津新町までが2029年度、市民病院までが2031年度です。

熊本市電東町線
画像:熊本市軌道運送高度化実施計画より

熊本市電延伸の沿革

7ルート案

熊本市電の延伸構想は古くからあり、2000年6月には熊本市交通局が「7ルート案」を公表しました。以下の7つです。

・南熊本ルート(辛島町~東バイパス4.1km)
・沼山津ルート(健軍町~沼山津2.3km)
・県庁ルート(市立体育館前~熊本空港15.1km)
・東町ルート(健軍町~熊本空港14.1km)
・産業道路ルート(電報局前~長嶺5.9km)
・田崎ルート(熊本駅前~田崎市場2.0km)
・広町ルート(市役所前~上熊本駅1.4km)

2001年6月には、当時の三角熊本市長が、東町ルートのうち健軍町~東町~グランメッセ熊本間の4.1kmと、広町ルート1.4kmを優先することを表明しました。東町ルートは、健軍官庁エリアへのアクセスの役割を果たし、広町ルートは熊本電鉄と接続します。

2002年1月には、九州運輸局が地域活性化調査委員会を開き、10の延伸ルート案を提示しました。熊本港延伸、上熊本駅結節強化、熊本電鉄都心結節(国道3号ルート、上通ルート、坪井川ルート)、帯山・長嶺延伸(健軍ルート、上水前寺ルート、産業道路ルート)、熊本空港延伸(健軍方面延伸ルート、第2空港線延伸ルート)の5ケース10案です。

いずれも、熊本港や熊本空港方面への延伸、熊本電鉄との接続案が含まれていましたが実現には至りませんでした。

2004年には、動植物園正門までの延伸案が浮上。健軍線の動植物園入口電停から分岐し、熊本市東区の庄口公園の東側に単線を敷設し、動植物園正門まで800m延伸する計画でした。しかし、調査をした結果、採算性が見込めないことと、湖の水質に悪影響を与える可能性があることから、計画は中止となりました。

この時期には、健軍町から沼山津や自衛隊方面の延伸や、藤崎宮へ延伸し熊本電鉄と接続する案なども新たに浮上しました。しかし、いずれも実現には至りませんでした。

5ルート案

なかなか前に進まない市電延伸計画が、改めて具体化しはじめたのは、2014年12月の市長選で大西一史氏が当選してからです。大西氏は、市長選のマニフェストに市電延伸を盛り込んでいました。具体的には、田崎橋から先の西部方面、南熊本駅への延伸、健軍からグランメッセ経由熊本空港への延伸、の3路線を候補としていました。

大西氏は2014年12月に市長に就任。大西市政が本格的に始動した2015年度には、さっそく3方面5ルートについて、導入空間、採算性、道路交通への影響などの観点で具体的な検討が始まります。

検討対象となった「5ルート」は以下の通りです。

熊本市電延伸検討ルート
ルート名 区間 経由地 距離
沼山津ルート 健軍町電停~沼山津周辺 県道熊本高森線 約2.3km
自衛隊ルート 健軍町電停~新市民病院周辺 第二高校、東市役所 約1.5km
産業道路ルート 九品寺交差点電停~県民総合運動公園周辺 日赤病院、県立大学 約9.5km
田崎ルート 田崎橋電停~西区役所周辺 田崎市場 約4.5km
南熊本駅ルート 辛島町~南熊本駅周辺 熊本地域医療センター 約1.7km

 

2015年の調査では、このうち自衛隊ルート、南熊本駅ルートの2ルートが相対的に優位とされました。両ルートは、道路を拡張せずに軌道を敷設できるため、工事のハードルが低く、利用者も多く見込めると判断されました。

2016年度にさらに事業の精査が行われ、結果として、まずは自衛隊ルートを優先して検討することが決まりました。2000年の「7ルート案」の東町ルートの一部と考えると、当初構想から16年を経て、ようやく実現にいたることになります。

熊本市電延伸5ルート
画像:令和6年7月23日 地域公共交通に関する特別委員会 資料

 

事業着手へ

2016年度の調査では、自衛隊ルートの概算事業費が100億円~130億円、費用便益比は1.0~1.3、収支採算性は一定の黒字を確保する見込みとされました。利用者は年間58万人との予測です。事業期間は7年ほどで、2026年度の開業を目指すとしました。

2018年12月には、熊本市が市議会に延伸の整備スケジュール案を提示。2019年度から設計や地質調査に入り、工事に必要な手続に着手する方針を伝えました。早ければ2021年度に着工、工期は4年で、2026年度の開業を目指す考えを明らかにしました。

2019年度予算には、基本設計費が計上されました。ところが、議会から「延伸効果や市民ニーズが限定的」として、予算執行凍結の決議がなされてしまいます。しかし、2019年4月~6月に行われた市民アンケートでは、事業の推進を求める声が8割を超え、工事へ向けて準備が進められました。

2020年度に基本設計がおこなわれ、2021年3月に総事業費が135億円になると発表されました。

2021年3月に公表した基本設計では、健軍町電停から県道28号を東進し、東野1丁目交差点を左折して市道に入るコースを採用しました。電停は4カ所を設けます。

新型コロナの影響もあり、2021年度では事業化へ向けた予算が計上されず、計画は停滞します。しかし、2023年度末(2024年3月)に、熊本市が軌道運送高度化実施計画を発表。2031年度開業を目指して事業着手することが正式に決まりました。秋津新町までの区間は、2029年度の先行開業を目指します。路線名は「東町線」とされました。

熊本市電東町線のデータ

熊本市電東町線データ
営業構想事業者 一般財団法人 熊本市公共交通公社
整備構想事業者 熊本市
路線名 東町線
区間・駅 健軍町~市民病院
距離 1.5km
想定利用者数 約2,290 人/日の増加
総事業費 約135億円
費用便益比 1.1~1.3
累積資金収支黒字転換年
種別 軌道事業
種類 軌道
軌間 1,435mm
電化方式 直流600V
単線・複線 複線(健軍町~秋津新町間約0.43kmは単線)
開業予定時期 2029年度(健軍町~秋津新町)
2031年度(秋津新町~市民病院)
備考 軌道運送高度化事業
社会資本整備総合交付金

※データは主に熊本市の『軌道運送高度化実施計画』(2024年)より。

熊本市電東町線の今後の見通し

熊本市電の延伸は、昔から構想が浮かんでは消えることを繰り返してきました。なかでも健軍町からの路線延伸は大本命とされてきましたが、それでもなかなか実現しませんでした。

2014年に大西市政が誕生して、市電延伸計画は、ようやく実現へ向け大きく動き始めます。背景として、市電の利用者が微増傾向にあることも挙げられます。2009年度には924万人だった利用者は、2017年度には年間1109万人が利用するまでに増えていて、路面電車の必要性が広く認識されるようになりました。

終点の健軍町の利用者数は、熊本駅前、通町筋に次いで3番目に多く、駅勢圏の広さを感じさせます。そして、延伸先には官庁や公的施設が軒を連ねているほか、市民病院も建設されましたので、確実な利用者が見込めます。

2024年度に事業着手となり、市民病院までの延伸開業は確実になりました。新型コロナ禍の影響もあり、当初予定の2026年度には間に合いませんが、2031年度の全線開業を目指します。

それ以外の4ルートについては、「南熊本ルート」にやや優位性があるとされます。南熊本ルートに関しても、事業着手に向けた検討が始まりそうですが、現時点で実現性についてはなんともいえません。