鹿児島市電の観光路線は、ウォーターフロントである鹿児島港本港区へ路面電車を延伸する計画です。ウォーターフロントの再開発計画にあわせて整備します。
鹿児島市電観光路線計画の概要
鹿児島市では、中心市街地の回遊性の向上と、新たなにぎわいの創出を図るため、ウォーターフロントへの路面電車の新設に取り組んでいます。この路線は観光路線という前提で、以下のような基本方針が掲げられています。
(1)「陸の玄関」鹿児島中央駅と「海の玄関」本港区の結節を強化することにより、新幹線からの2次アクセスを充実するものとする。
(2)天文館地区と本港区の回遊性を向上させ、本港区の集客施設との相乗効果を発揮させることにより、中心市街地の活性化を図るものとする。
(3)桜島や錦江湾を車窓から眺められ、本港区に立地する様々な施設を結ぶルートとすることにより、乗客に鹿児島らしい雄大な景色を楽しんでもらうとともに、新たな魅力ある都市景観の創出を図るものとする。
(4)乗車すること自体が目的となる魅力ある車両を導入するものとする。
延伸区間は単線の一方通行で、鹿児島中央駅方面から巡回して走ります。2020年3月に公表されたルート案は4つ。ウォータフロントと鹿児島市電の既存線とを結びます。どのルートになるかは決定していません。
鹿児島市電観光路線計画の沿革
2010年3月に策定された「鹿児島市公共交通ビジョン」で、路面電車の有効活用が推進施策として盛り込まれました。それを受けて、2011年度より、かごしま水族館や桜島フェリーターミナル、高速船旅客ターミナル等があるウォーターフロント地区へ、路面電車の観光路線新設に向けた調査検討が開始されます。
その後、2013年度になると、鹿児島県がウォーターフロント地区に複合施設を整備する構想を公表。これを受けて、鹿児島市の路面電車計画は、いったん検討を見合わせます。
2016年度になり、鹿児島県がウォーターフロント地区の再開発について、路面電車延伸計画を考慮に入れて、鹿児島市と共通認識で協議していくことを確認。2017年1月に「鹿児島市路面電車観光路線導入連絡会議」を設置し、検討を再開しました。
2017年12月には6ルートを検討対象として公表。ウォータフロントを縦軸として、以下の地図で、A-E、A-D、B-E、B-D、C-E、C-Dの6案のどれかで鹿児島市電の既存線と結ぶというものでした。
検討ルートの絞り込み
2018年度からは「路面電車観光路線基本計画策定委員会」を設置し、基本計画の策定へ向けた検討を開始します。2020年3月に開かれた第2回会合で、ウォーターフロント(本港区)の経路を決定。また、ナポリ通線への導入検討と、いづろ通線の除外をおこない、検討対象ルートを10案とします。
この10案から、影響の大きいルートを除外して、4ルートに絞り込みました。
上述したように、ウォーターフロント地区には、鹿児島県が複合施設を整備する再開発構想があり、路面電車の延伸計画は、その構想が固まるのを待っている側面もありました。ウォーターフロントの再開発計画は、2019年2月に「鹿児島港本港区エリアまちづくりグランドデザイン」として、整備方針が決定。これを受け、市電延伸の基本計画策定が本格的に動き出すことになりました。
ドルフィンポート閉鎖問題
しかし、2020年3月に、ウォーターフロントの中核施設のひとつであるドルフィンポートが閉館。跡地にはスポーツ・コンベンションセンター(新総合体育館)が建てられることに決まりました。集客力が大きく落ちる施設に変わることになり、観光路線計画の進展も止まります。
2024年7月31日の鹿児島市議会都市整備対策特別委員会で、市側は「路面電車観光路線については、ドルフィンポートがあることを前提に検討がなされたものであり、当初は190万人程度の利用者が見込まれたが、今回のスポーツ・コンベンションセンターでは、最大で40万人程度の利用者しか見込めない状況なので、当初と比べると利用者数が大分減少している」として、観光路線建設の前提条件が崩れたことを認めています。
そして「本港区エリアの施設整備の内容を見極めた上で費用対効果を含め、検討を行う必要がある」「鹿児島港本港区エリアまちづくり懇談会の中で、本港区エリアにどういう施設整備を行うのか検討がなされている最中で、今後どれぐらいの需要が出てくるのかをしっかり見定めたい」とも答弁しており、大きな需要が見込めない限り、路面電車の事業化は難しいとの認識を示唆しています。
その需要に関しては、「スポーツ・コンベンションセンターの利用者数では非常に厳しい状況にあると思っており、鹿児島港本港区エリアまちづくり懇談会の中で県が民間活力導入の調査等を行うという話も出ておりますが、全体的な利用者数の増加がもう少し見られないと、その調査自体も難しいのではないかと考えている」と付け加えました。
鹿児島市電観光路線計画のデータ
営業構想事業者 | 鹿児島市交通局 |
---|---|
整備構想事業者 | 未定 |
路線名 | 未定 |
区間・駅 | 未定 |
距離 | 未定 |
想定利用者数 | — |
総事業費 | 約47億円 |
費用便益比 | — |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | 軌道事業 |
種類 | 軌道 |
軌間 | 1435mm |
電化方式 | 直流600V |
単線・複線 | 未定 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | — |
鹿児島市電観光路線計画の今後の見通し
鹿児島市は、2020年の段階で、2022年度の基本計画策定を目指していました。しかし、ドルフィンポートの閉鎖と、後継施設が新総合体育館(スポーツ・コンベンションセンター)に決まったことで、需要想定が崩れたようです。
鹿児島市では、新総合体育館の周辺施設を含む、ウォーターフロント再開発計画の全体像が固まってから、市電観光路線の需要予測調査を検討する方針です。
鹿児島市の下鶴隆央市長は2024年8月1日の定例会見で、現時点で需要予測調査をする段階にないとしたうえで、「新規路線は採算を見込めることが絶対条件」「市民の生活路線を守ることが最重要。公共交通全体が厳しいなか、観光路線で赤字は出せない」とも述べ、後ろ向きな姿勢を示しました。
こうした鹿児島市の姿勢からみても、鹿児島市電の観光路線新設は事実上の凍結状態になっており、実現は見通せないというほかありません。