北陸新幹線は、東京都と大阪市を北陸経由で結ぶ新幹線です。2024年3月16日に敦賀まで開業しました。残る未開業区間は敦賀~新大阪間で、着工に向けた準備が進められています。
北陸新幹線は、最終的には、東京~金沢~新大阪間の路線となります。ただし、東京~高崎間は、東北・上越新幹線と線路を共用します。
北陸新幹線新大阪延伸の概要
北陸新幹線は、高崎駅~敦賀駅間470.6km(実キロ)が開業済みです。敦賀~新大阪間はルートが決定したのみで、着工時期や開業時期は未定です。
敦賀以西には、東小浜付近、京都、松井山手付近、新大阪に駅ができます。いずれの駅も在来線駅と併設される予定です。
東小浜付近の駅は、東小浜駅の西約1kmの小浜線との交点付近に設置します。京都駅は「東西案」「南北案」「桂川案」の3案がありますが、「東西案」「南北案」は京都駅に接着し、「桂川案」は桂川駅に接着します。
松井山手付近の駅は松井山手駅と接着します。新大阪駅は東海道新幹線の南側地下にできる予定です。
概算事業費と費用便益比
北陸新幹線の敦賀~新大阪間は「整備新幹線」として整備が進められています。 整備新幹線は、鉄道・運輸機構(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が新幹線施設を建設・保有し、営業主体であるJRに対して施設を貸し付ける枠組みです。貸付を受けるJR西日本は受益の範囲内で鉄道・運輸機構に貸付料を支払います。
北陸新幹線の敦賀~新大阪間の建設費(工事費)は、東西案が3.7兆円、南北案が3.9兆円、桂川案が3.4兆円となっています。物価上昇を加味した金額は、それぞれ5.3兆円、5.2兆円、4.8兆円です。
京都駅の工期は、東西案が28年、南北案が20年、桂川案が26年です。新大阪駅の工期は25年です。そのため、全線開通までの工期は、東西案が28年、南北案が25年、桂川案が26年となります。
北陸新幹線の新大阪延伸の費用便益比や収支採算性は公表されていません。
並行在来線問題
整備新幹線は、開業後、並行在来線がJRから切り離されるルールです。ただし、敦賀~新大阪間の並行在来線がどこになるかは、いまのところ明らかにされていません。
特急並行線区と考えれば湖西線が該当しますが、移管には滋賀県の同意が必要となります。滋賀県は同意しないでしょうから、湖西線を並行在来線とした場合、北陸新幹線の新大阪延伸は着工できません。そのため、湖西線を並行在来線にすることはなさそうです。
あり得るとすれば、小浜線の敦賀~小浜間でしょうか。ただ、並行在来線は並行する特急運行線区とする場合が多いので、小浜線も該当しないと受けとめることもできます。いずれにしろ、並行在来線問題は不透明です。
北陸新幹線新大阪延伸の沿革
長野開業まで
1970年に全国新幹線鉄道整備法が制定され、1973年に北陸新幹線の整備計画の決定と建設が指示されました。区間は東京都~大阪市間で、途中、高崎、長野、富山、金沢を経由するものです。
当時は、東北、上越、成田の3新幹線に続く次期建設路線とされていましたが、オイルショックや国鉄の経営悪化の影響を受けて着工は見合わせとなり、1982年9月24日に、北陸新幹線を含む整備新幹線全線の着工凍結が閣議決定されました。
1987年1月30日の閣議決定で着工凍結が解除された後、1988年8月に、運輸省が建設費を削減した暫定整備計画案を発表します。このときは、高崎~軽井沢間がフル規格、軽井沢~長野間がミニ新幹線、糸魚川~魚津間と高岡~金沢間がスーパー特急方式という内容でした。
なお、スーパー特急方式による高岡~金沢間は、並行在来線の経営分離区間を短縮したいとの地元の意向により、後に建設区間を石動~金沢間に変更しています。
1989年に高崎~軽井沢間が着工。1991年に長野市が1998年のオリンピック開催地に決定したことから、軽井沢~長野間もフル規格に変更となりました。高崎~長野間は、1997年10月1日に開業しています。
金沢延伸開業まで
長野~金沢間は、1992年8月に石動~金沢間、1993年10月に糸魚川~魚津間がスーパー特急として着工。1996年12月には、長野~上越間がフル規格で建設することが政府与党合意で決まり、1998年3月に着工しています。
さらに、2000年12月の政府与党申し合わせにより長野~富山間のフル規格一括整備が決定し、2001年5月に着工。そして、2004年12月の政府与党申し合わせで、長野~富山~金沢間のフル規格一括整備が決まり、2005年4月に富山~金沢間で着工しています。
このように、北陸新幹線は何度も政治的な合意を繰り返した結果として、長野~金沢間のフル規格化を達成し、2015年3月14日に開業しています。
敦賀延伸開業まで
金沢~敦賀間については、2008年12月に金沢~福井間と敦賀駅部を2009年末までに認可することで、政府・与党が合意します。しかし、2009年に政権交代すると、民主党新政権はこれを撤回します。
その後の議論を経て、野田政権が2011年12月に「整備新幹線の整備に関する基本方針」を決定し、金沢~敦賀間の建設方針が固まりました。2012年6月に金沢~敦賀間の工事実施計画が認可され、8月に着工しました。
この時点では2025年度開業の予定でしたが、その後、自民党が政権を奪回すると前倒しを検討、2022年度末(2023年春)の開業に変更されました。しかし、工事の遅延で延期となり、2023年度末(2024年春)開業目標に後ろ倒しされました。結局、敦賀まで開業したのは2024年3月16日です。
新大阪延伸へ
残る敦賀~新大阪間に関しては、「米原ルート」「湖西ルート」「小浜ルート」の3案が並立し、ルート決定がなかなか進みませんでした。
事態打開を狙うJR西日本が、2015年に「小浜・京都ルート」という新案を提言。与党の建設推進プロジェクトチームがこれを受け入れる形で、2016年12月に敦賀駅~小浜市~京都駅に至る「小浜・京都ルート」が決定しました。
この段階では京都~新大阪間のルートが未決定でしたが、2017年3月に京都駅~松井山手付近~新大阪駅に至る「南回りルート」を選択。敦賀~小浜~京都~松井山手~新大阪というルートに決定しました。
小浜・京都ルートの建設費は2兆1,000億円、想定工期は15年と概算されました。しかし、2029年8月に詳細駅位置とルートを公表した際に、3兆4,000億円~3兆9,000億円、想定工期は25年~28年と、大幅に上振れすることが明らかになっています。
北陸新幹線新大阪延伸のデータ
営業構想事業者 | JR西日本 |
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整備構想事業者 | 鉄道・運輸機構 |
路線名 | 北陸新幹線 |
区間・駅 | 敦賀~新大阪 |
距離 | 144km(京都駅南北案) |
想定輸送密度 | 40,400人キロ |
総事業費 | 3兆9,000億円(京都駅南北案9 |
費用便益比 | — |
累積資金収支黒字転換年 | — |
種別 | 第一種鉄道事業 |
種類 | 新幹線鉄道 |
軌間 | 1,435mm |
電化方式 | 交流25,000V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | 全国新幹線整備法 |
※データは「北陸新幹線京都〜新大阪間のルートに係る調査」(2017)及び「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」(2024)
北陸新幹線新大阪延伸の今後の見通し
北陸新幹線の敦賀~新大阪間は、最新の試算で工期が25年以上かかることが明らかになっています。調査後、すぐに事業着手しても、開業は2050年代になります。
京都駅南北案を採用すれば、京都駅までの工期は約20年とやや短いので、敦賀~京都間の暫定開業を目指す可能性もあるでしょう。その場合でも、京都開業は、早くても2040年代後半になります。
予算の問題もあります。整備新幹線建設の財源は限られていて、直近の予算のほとんどは北海道新幹線札幌延伸に使われています。北陸新幹線新大阪延伸に予算が振り向け可能になるのは、北海道新幹線札幌開業後となります。
札幌延伸開業は2030年代半ばとみられていますので、そこから工事を本格的に始めるとなると、新大阪開業は2060年ごろになるかもしれません。
それではあまりにも遅すぎるので、何らかの予算措置が講じられる可能性はあるでしょう。とはいえ、現時点で決まっていることは何もありません。
事業着手が決まった以上、北陸新幹線の敦賀~新大阪間は、いずれ開業するとは思われます。ただ、それがいつになるか、明確に示すことはできません。