阪急電鉄の十三~新大阪間の鉄道新線計画が、阪急新大阪連絡線です。また、十三~大阪(うめきた)間の新線計画が、阪急なにわ筋連絡線です。なにわ筋連絡線は、JR・南海のなにわ筋線に乗り入れて、関西空港まで列車が走る構想です。
両路線は計画の生い立ちは異なりますが、将来は一体的な計画になるとみられます。そのため、このページでは、両路線を一体的に「阪急なにわ筋・新大阪連絡線」として扱います。
阪急なにわ筋・新大阪連絡線の概要
現在の阪急電鉄は新大阪駅への路線を持っていませんが、十三~新大阪間の2.1kmに新線を建設する計画があります。これが「新大阪連絡線」です。
新大阪連絡線を大阪駅(うめきた)まで延伸し、なにわ筋線とつなげるのが、「なにわ筋線」です。十三~大阪間の2.5kmです。
阪急新大阪連絡線となにわ筋連絡線は、一体として運用されることが見込まれています。すなわち、新大阪~十三~北梅田間約4.6kmの新線です。そこで、ここでは「阪急なにわ筋・新大阪連絡線」として紹介します。
想定ルート
なにわ筋連絡線も新大阪連絡線も、ルートは未定です。ただ、新大阪連絡線は古くから建設計画があったので、一部で線路用地が確保されています。山陽新幹線の新大阪駅から新神戸方にかけて、線路の北側に空き地がありますが、それが新大阪連絡線の線路用地です。
したがって、新大阪連絡線の想定ルートは、この空き地を活用するとみられます。とはいえ、一部は新幹線の引き上げ線として使われていて、高架が張りだしていることもあり、いまさら阪急に転用できません。そのため、阪急新大阪連絡線は、用地の地下を走ることになりそうです。阪急宝塚線との交点付近で南に折れて、十三駅地下に収まる形になるでしょう。
なにわ筋連絡線は、十三駅から国道176号線の地下を南下し、うめきたエリアのJR大阪地下駅(北梅田)に合流する形になるとみられます。
この路線は阪急電鉄としては初の1,067mmという狭軌での建設を予定しています。これにより、なにわ筋線との直通運転を実施し、新大阪から十三、北梅田、南海本線を経て関西空港への乗り入れが行われる予定です。
阪急新大阪連絡線、なにわ筋連絡線とも、事業化へ向けたスケジュールなどは未発表です。なにわ筋線の開業予定が2031年春なので、それより早くなることはありません。大阪~十三~新大阪の一括開業を目指すのか、それとも大阪~十三間で先行開業するのかなども含めて未定です。
費用便益比と採算性
2018年4月に発表された『近畿圏における空港アクセス鉄道ネットワークに関する調査結果』では、なにわ筋連絡線の建設費は約870億円、輸送人員は1日約9.2万~10.2万人、費用便益比は1.7~1.8、累積黒字化は24~31年目と試算されました。新大阪連絡線の建設費は約590億円で、輸送人員1日約5.5万人、費用便益比は1.4、27年目の累積黒字化です。
同じ試算で、なにわ筋連絡線と新大阪連絡線を同時に整備した場合、建設費は約1,310億円とされました。輸送人員は、なにわ筋連絡線が1日約11.4~13.1万人、新大阪連絡線が約4.7~5.6万人です。費用便益比は1.7~1.9で、13~16年目に累積黒字化します。
阪急なにわ筋・新大阪連絡線の沿革
新大阪連絡線の沿革
阪急電鉄は新大阪駅への路線を持っていませんが、かつて、阪急京都線を新大阪経由にする計画がありました。東海道新幹線の建設が決定したのを受けて、阪急京都線を十三~新大阪~淡路と新線経由にする構想を打ち立てたのです。これが「新大阪連絡線」で、ほかに新大阪~神崎川(阪急神戸線)を結ぶ構想もありました。
阪急は、新大阪連絡線について1961年に事業免許を取得し、用地の買収や準備工事に着手しました。国鉄もこれに対応し、東海道・山陽新幹線の高架橋脚には、新大阪連絡線の開業に備えて橋脚を斜めに配置するなどの準備がなされています。用地に関しては、阪急宝塚線との分岐付近から新大阪駅まで、新幹線の北側に並行して東西に細長く用地買収が行われました。
当時の計画では、阪急京都線の特急や急行を新大阪経由に移し、崇禅寺回りは普通列車専用とする予定でした。しかし、実際には、新大阪連絡線はなかなか進展しませんでした。
1989年の運輸政策審議会答申第10号では、十三~淡路間が「2005年までに工事を着手することが適当な区間」とされました。下図のように、新大阪から十三を経てなにわ筋線に流れ込む経路がすでに描かれています。
西梅田・十三連絡線への展開
しかし、答申後、大きな動きはありませんでした。2002年12月6日に、阪急電鉄は新大阪~淡路間と神崎川~新大阪間の免許廃止申請を提出し、2003年3月1日に両区間が正式に廃止となりました。これにより、免許が有効なのは十三~新大阪間(2.350km) のみとなりました。
一方、2004年10月の近畿地方交通審議会答申第8号では、「中長期的に望まれる鉄道ネットワークを構成する新たな路線」として、「大阪市交3号線延伸 西梅田~北梅田~十三 2.9km(大阪市交3号線西梅田駅から阪急十三駅へ延伸する路線)」が盛り込まれました。これは、四つ橋線を十三駅まで延伸することで阪急各線と接続させるものです。ただし、新大阪連絡線(十三~新大阪)は盛り込まれませんでした。
2006年5月には、阪急ホールディングス(当時)の角和夫社長が阪神電気鉄道との経営統合に関連して「新大阪、十三、北ヤード、西梅田をつなぐ路線も可能」とコメント。この頃、新大阪から梅田エリアへつながる路線構想について、阪急で検討が進められていたようです。
2006年12月8日には、阪急電鉄・大阪市・国土交通省が都市鉄道等利便増進法に基づく大阪市営地下鉄四つ橋線の西梅田~十三間の新線(西梅田・十三連絡線)に関する原案を固めたとの報道がありました。報道した朝日新聞によりますと、建設主体を鉄道建設・運輸施設整備支援機構が行い、阪急と大阪市交が営業を担当するとしています。新大阪連絡線との相互乗り入れの可能性についても報道されました。
2008年4月10日には、国土交通省による『「速達性向上施策における事業スキームの検討に関する調査」結果 – 西梅田・十三連絡線(仮称)の事業実現化方策に係る深度化調査 – 』が発表されました。
これによりますと「西梅田・十三連絡線」(西梅田~十三)の建設費が約950億円、「西梅田・十三連絡線+新大阪連絡線」(西梅田~十三~新大阪)の建設費が1,350億円とされ、新大阪まで建設した場合、1日17万人の需要を予測しました。費用便益比は2.9で、累積資金収支は第三セクターが整備主体の場合で33年目に黒字化、鉄道・運輸機構の場合は22年目に黒字化という結果でした。
これは「四つ橋線の新大阪乗り入れ」という事業で、採算面では良好な結果となりましたが、技術面では、四つ橋線を延伸する場合、阪神電鉄の線路が障害となり、西梅田駅から北梅田方向へそのまま北進することはできません。阪神電鉄の下を交差する場合は大工事になるため、実現性には疑問符が付けられました。
なにわ筋線への接続へ
2008年に橋下徹が大阪府知事に就任し、なにわ筋線の建設に前向きな姿勢を見せると、西梅田・十三連絡線は、なにわ筋線との接続へと方向性が変化していきます。2014年度に策定された大阪府の
公共交通戦略」では、「今後、事業実施の可否について、個別に検討が必要な路線」として、⻄梅⽥十三新大阪連絡線が「新大阪アクセス」として盛り込まれました。
2017年5月23日には、JR、南海、阪急、大阪府市の5者の間で、なにわ筋線建設を進めていくことで一致。なにわ筋線計画に阪急が加わり、「阪急なにわ筋連絡線」の計画が、初めて公式に明らかにされました。
このときのプレスリリースでは、「北梅田駅北側で阪急十三方面に分岐する路線(なにわ筋連絡線)について、国と連携しながら整備に向けた調査・検討を進めます」とされました。新路線に「なにわ筋連絡線」という仮称が与えられ、本格的に検討されることになったわけです。
ただ、その後、なにわ筋連絡線に関して目立った動きはみられません。2019年の大阪府「公共交通戦略」改定でも「今後、事業実施の可否について、個別に検討が必要な路線」の表記は変わりませんでした。
阪急の首脳からは、なにわ筋線との同時開業(2031年春)を目指すといったコメントが報道で伝えられたりしていますが、2024年時点で着工に至っておらず、工事期間を考えれば難しいでしょう。
阪急なにわ筋・新大阪連絡線のデータ
営業構想事業者 | 阪急電鉄 |
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整備構想事業者 | 未定 |
路線名 | 新大阪連絡線 なにわ筋連絡線 |
区間・駅 | 大阪~十三(なにわ筋連絡線) 新大阪~十三(新大阪連絡線) |
距離 | 2.5km(なにわ筋連絡線) 2.1km(新大阪連絡線) |
想定利用者数 | 約114,000~131,000人(なにわ筋連絡線) 約47,000~56,000人(新大阪連絡線) |
総事業費 | 約1,310億円 |
費用便益比 | 1.7~1.9 |
累積資金収支黒字転換年 | 13~16年 |
種別 | 未定 |
種類 | 普通鉄道 |
軌間 | 1,435mm |
電化方式 | 直流1500V |
単線・複線 | 複線 |
開業予定時期 | 未定 |
備考 | — |
※データはおもに『近畿圏における空港アクセス鉄道ネットワークに関する調査 』(2018年)より。建設費や採算性などは同時整備の場合。
阪急なにわ筋・新大阪連絡線の今後の見通し
構想から半世紀を経て実現しておらず、「永遠の未成線」と思われていた新大阪連絡線ですが、なにわ筋連絡線と合わせて整備することで、実現の可能性が見えてきました。実現すれば、新大阪から十三、北梅田、南海新難波を経て関西空港まで、マルーンの阪急電車が走ることになります。
なにわ筋・新大阪連絡線は、阪急の中期経営計画にも明記されていて、建設へ向けて動き出す可能性は高い路線と言えます。ただ、計画段階から目に見える進展がみられないのも事実です。新大阪駅は、今後、北陸新幹線やリニア中央新幹線の建設が予定されていることもあり、駅位置の調整などにも手間がかかりそうです。
楽しみな新線ですが、開業時期のメドは立ちません。2030年代の開業を期待したいところですが、どうなるでしょうか<近畿圏における空港アクセス鉄道ネットワークに関する調査。