kamakura
81 投稿
0 コメント
熊本市電東町線
熊本市電は、熊本市内の田崎橋・上熊本駅前~健軍町の2路線を有します。3方面5ルートの延伸計画があり、このうち「東町線」(健軍町~市民病院)1.5kmが事業化されています。
熊本市電東町線の概要
熊本市の市電延伸計画で優先的に進められているのが、「東町線」です。
現在の市電の終点・健軍町から新市民病院まで約1.5kmを延伸するものです。健軍町から県道熊本高森線を東へ向かい、自衛隊熊本病院や陸運支局などの横を通り熊本市民病院へ至ります。
停留所として、秋津新町、第二高校前・東区役所入口、東町、市民病院の4つを新たに設置します(停留所名はいずれも仮称)。延伸距離は正確には1.57kmで、単線0.43km、複線1.14kmです。
単線区間は健軍町から秋津新町までの区間です。健軍町から市民病院までの所要時間は7.2分を見込みます。概算事業費は135億円です。
開業予定は、秋津新町までが2029年度、市民病院までが2031年度です。
熊本市電延伸の沿革
7ルート案
熊本市電の延伸構想は古くからあり、2000年6月には熊本市交通局が「7ルート案」を公表しました。以下の7つです。
・南熊本ルート(辛島町~東バイパス4.1km)
・沼山津ルート(健軍町~沼山津2.3km)
・県庁ルート(市立体育館前~熊本空港15.1km)
・東町ルート(健軍町~熊本空港14.1km)
・産業道路ルート(電報局前~長嶺5.9km)
・田崎ルート(熊本駅前~田崎市場2.0km)
・広町ルート(市役所前~上熊本駅1.4km)
2001年6月には、当時の三角熊本市長が、東町ルートのうち健軍町~東町~グランメッセ熊本間の4.1kmと、広町ルート1.4kmを優先することを表明しました。東町ルートは、健軍官庁エリアへのアクセスの役割を果たし、広町ルートは熊本電鉄と接続します。
2002年1月には、九州運輸局が地域活性化調査委員会を開き、10の延伸ルート案を提示しました。熊本港延伸、上熊本駅結節強化、熊本電鉄都心結節(国道3号ルート、上通ルート、坪井川ルート)、帯山・長嶺延伸(健軍ルート、上水前寺ルート、産業道路ルート)、熊本空港延伸(健軍方面延伸ルート、第2空港線延伸ルート)の5ケース10案です。
いずれも、熊本港や熊本空港方面への延伸、熊本電鉄との接続案が含まれていましたが実現には至りませんでした。
2004年には、動植物園正門までの延伸案が浮上。健軍線の動植物園入口電停から分岐し、熊本市東区の庄口公園の東側に単線を敷設し、動植物園正門まで800m延伸する計画でした。しかし、調査をした結果、採算性が見込めないことと、湖の水質に悪影響を与える可能性があることから、計画は中止となりました。
この時期には、健軍町から沼山津や自衛隊方面の延伸や、藤崎宮へ延伸し熊本電鉄と接続する案なども新たに浮上しました。しかし、いずれも実現には至りませんでした。
5ルート案
なかなか前に進まない市電延伸計画が、改めて具体化しはじめたのは、2014年12月の市長選で大西一史氏が当選してからです。大西氏は、市長選のマニフェストに市電延伸を盛り込んでいました。具体的には、田崎橋から先の西部方面、南熊本駅への延伸、健軍からグランメッセ経由熊本空港への延伸、の3路線を候補としていました。
大西氏は2014年12月に市長に就任。大西市政が本格的に始動した2015年度には、さっそく3方面5ルートについて、導入空間、採算性、道路交通への影響などの観点で具体的な検討が始まります。
検討対象となった「5ルート」は以下の通りです。
熊本市電延伸検討ルート
ルート名
区間
経由地
距離
沼山津ルート
健軍町電停~沼山津周辺
県道熊本高森線
約2.3km
自衛隊ルート
健軍町電停~新市民病院周辺
第二高校、東市役所
約1.5km
産業道路ルート
九品寺交差点電停~県民総合運動公園周辺
日赤病院、県立大学
約9.5km
田崎ルート
田崎橋電停~西区役所周辺
田崎市場
約4.5km
南熊本駅ルート
辛島町~南熊本駅周辺
熊本地域医療センター
約1.7km
2015年の調査では、このうち自衛隊ルート、南熊本駅ルートの2ルートが相対的に優位とされました。両ルートは、道路を拡張せずに軌道を敷設できるため、工事のハードルが低く、利用者も多く見込めると判断されました。
2016年度にさらに事業の精査が行われ、結果として、まずは自衛隊ルートを優先して検討することが決まりました。2000年の「7ルート案」の東町ルートの一部と考えると、当初構想から16年を経て、ようやく実現にいたることになります。
事業着手へ
2016年度の調査では、自衛隊ルートの概算事業費が100億円~130億円、費用便益比は1.0~1.3、収支採算性は一定の黒字を確保する見込みとされました。利用者は年間58万人との予測です。事業期間は7年ほどで、2026年度の開業を目指すとしました。
2018年12月には、熊本市が市議会に延伸の整備スケジュール案を提示。2019年度から設計や地質調査に入り、工事に必要な手続に着手する方針を伝えました。早ければ2021年度に着工、工期は4年で、2026年度の開業を目指す考えを明らかにしました。
2019年度予算には、基本設計費が計上されました。ところが、議会から「延伸効果や市民ニーズが限定的」として、予算執行凍結の決議がなされてしまいます。しかし、2019年4月~6月に行われた市民アンケートでは、事業の推進を求める声が8割を超え、工事へ向けて準備が進められました。
2020年度に基本設計がおこなわれ、2021年3月に総事業費が135億円になると発表されました。
2021年3月に公表した基本設計では、健軍町電停から県道28号を東進し、東野1丁目交差点を左折して市道に入るコースを採用しました。電停は4カ所を設けます。
新型コロナの影響もあり、2021年度では事業化へ向けた予算が計上されず、計画は停滞します。しかし、2023年度末(2024年3月)に、熊本市が軌道運送高度化実施計画を発表。2031年度開業を目指して事業着手することが正式に決まりました。秋津新町までの区間は、2029年度の先行開業を目指します。路線名は「東町線」とされました。
熊本市電東町線のデータ
熊本市電東町線データ
営業構想事業者
一般財団法人 熊本市公共交通公社
整備構想事業者
熊本市
路線名
東町線
区間・駅
健軍町~市民病院
距離
1.5km
想定利用者数
約2,290 人/日の増加
総事業費
約135億円
費用便益比
1.1~1.3
累積資金収支黒字転換年
--
種別
軌道事業
種類
軌道
軌間
1,435mm
電化方式
直流600V
単線・複線
複線(健軍町~秋津新町間約0.43kmは単線)
開業予定時期
2029年度(健軍町~秋津新町)
2031年度(秋津新町~市民病院)
備考
軌道運送高度化事業
社会資本整備総合交付金
※データは主に熊本市の『軌道運送高度化実施計画』(2024年)より。
熊本市電東町線の今後の見通し
熊本市電の延伸は、昔から構想が浮かんでは消えることを繰り返してきました。なかでも健軍町からの路線延伸は大本命とされてきましたが、それでもなかなか実現しませんでした。
2014年に大西市政が誕生して、市電延伸計画は、ようやく実現へ向け大きく動き始めます。背景として、市電の利用者が微増傾向にあることも挙げられます。2009年度には924万人だった利用者は、2017年度には年間1109万人が利用するまでに増えていて、路面電車の必要性が広く認識されるようになりました。
終点の健軍町の利用者数は、熊本駅前、通町筋に次いで3番目に多く、駅勢圏の広さを感じさせます。そして、延伸先には官庁や公的施設が軒を連ねているほか、市民病院も建設されましたので、確実な利用者が見込めます。
2024年度に事業着手となり、市民病院までの延伸開業は確実になりました。新型コロナ禍の影響もあり、当初予定の2026年度には間に合いませんが、2031年度の全線開業を目指します。
それ以外の4ルートについては、「南熊本ルート」にやや優位性があるとされます。南熊本ルートに関しても、事業着手に向けた検討が始まりそうですが、現時点で実現性についてはなんともいえません。
熊本空港アクセス鉄道
熊本空港アクセス鉄道は、JR豊肥線肥後大津駅~熊本空港(阿蘇くまもと空港)を結ぶ鉄道新線計画です。実現すれば、熊本駅~熊本空港間が約44分で結ばれます。
熊本空港アクセス鉄道の概要
熊本空港アクセス鉄道はJR肥後大津駅~阿蘇くまもと空港間の約6.8kmを結ぶ鉄道新線計画です。開業目標は2034年度です。
空港アクセス鉄道が整備されると、熊本駅から阿蘇くまもと空港までの所要時間が約44分となり、既存交通機関を使った場合の約60分から約20分短縮されます。
路線は肥後大津駅の東でJR豊肥線から分岐し、南へ向かい、白川を渡って、東側から阿蘇くまもと空港に至ります。新駅は終点の阿蘇くまもと空港駅にのみ設置されます。途中駅の計画はありません。
路線は単線で、起点の肥後大津駅は地上駅です。肥後大津の住宅街から田園地帯にかけては高架構造で通過し、その後、空港のある高遊原台地は地下トンネルとなります。終点の空港駅は、2023年に公表された「計画段階環境配慮書」では「地上式又は地下式」と記されています。
需要予測と採算性
需要予測は1日約4,900人の利用を見込み、快速運行の場合は約5,500人としています。
概算事業費は約410億円で、費用便益比は30年間で1.03、50年間は1.21、快速運行の場合は1.21と1.42としました。
収支採算性は、国と県が3分の1ずつ補助した場合、36年(快速運行なら30年)で累積資金収支が黒字転換します。一方、現行の補助制度(空港アクセス鉄道等整備事業費補助)の場合、国と県の補助が18%にとどまるため、基準となる40年以内の黒字転換はできません。
このため、熊本県では空港アクセス鉄道補助の嵩上げを求めてきましたが実現できず、2024年度の国への要望で、補助率の高い地域産業構造転換インフラ整備推進交付金の鉄道事業への適用を求めています。この交付金は道路には適用されていますが、鉄道への拡大を求めたものです。
適用されれば、少なくとも3分の1以上の補助率が見込めるため、収支採算性の問題が解決し、着工に向けたハードルがなくなります。
熊本空港アクセス鉄道の沿革
熊本空港は、熊本市中心部から直線距離で約15kmの位置にあり、地方空港の立地としては市街地から離れています。現在の主たる交通手段はバスで、熊本中心部の交通センターから約50分、熊本駅からは約60分かかります。しかも、市内の渋滞がひどく、予定通り着かないこともあります。
市街地から空港までのアクセスに時間がかかりすぎ、定時性にも難があるため、熊本市中心部と空港とを結ぶ空港連絡鉄道を求める声は古くからあり、整備構想も存在していました。
2004年には実際に空港アクセス鉄道の建設が調査されました。当時の試算では、総事業費286億円と見積もられ、採算を取るには1日5,000人の利用が必要とされました。
しかし、当時は1日2,500人程度の利用者が精一杯で、鉄道事業の採算性の確保は難しいとの判断に至りました。2007年度には、鉄道建設計画を凍結。肥後大津駅から熊本空港へシャトルバスを運行して連絡する施策に軸足を移しています。
その後、インバウンド需要の盛り上がりやLCCの隆盛を経て、熊本空港の利用者数は増加。2020年には空港民営化が予定され、2022年度末には新ターミナルビルが竣工する見通しとなりました。
状況の変化を受け、熊本県は2018年度にアクセス手段の改善案を再検討。鉄道延伸(事業費330億~380億円)、モノレール新設(2,500億~2,600億円)、熊本市電延伸(210億~230億円)の3案で事業費や所要時間、輸送量などを比較検討しました。
結果として、モノレールは事業費が高すぎ、市電は速達性などに難があり、最終的に鉄道延伸案を採用しました。
鉄道延伸案では、JR豊肥線からの分岐駅の候補として、三里木駅、原水駅、肥後大津駅が検討されました。原水分岐の場合、熊本駅~熊本空港の所要時間は約38分、1日の利用者数は約5,900人、事業費は約330億円と試算されました。肥後大津分岐の場合は、同約42分、約5,800人、約330億円です。
これに対し、三里木分岐案は総合運動公園へのアクセスにも使えるため、利用者数が6,900人と最も多く見込めることがわかりました。このため、2018年12月には、熊本県の蒲島知事が三里木駅分岐案を中心に検討を進める方針を示しました。2019年2月には、JR九州と基本合意にこぎ着けます。
ただ、JR九州は運行系統の都合から三里木分岐案に消極的な姿勢を示し、基本合意では、空港線の列車は三里木駅で折り返し、豊肥線には乗り入れないこととなりました。
熊本県は三里木駅案を中心にさらなる調査を進め、2020年6月に新しい報告書(2019年度調査)を公表。しかし、この調査では、費用便益比や採算性の問題をクリアできないことがわかりました。新型コロナ禍の折でもあり、蒲島知事は「いったん立ち止まり、さらに議論を深める」と議会で述べ、先行きは見通せなくなりました。
コロナ禍も落ち着いた後、2022年9月には、新たな試算を公表。知事は「肥後大津ルートの事業効果が高い」と表明し、肥後大津ルートへ転換します。
このときの30年間の費用便益分析では、肥後大津ルートが1.03、三里木ルートが1.01、原水ルートが0.72でした。収支採算性については、国と自治体が3分の1ずつを補助する場合に、累積資金収支が黒字になるのは肥後大津ルートが36年、三里木ルートが34年となりました。原水ルートは40年以内に黒字になりません。
こうした調査の結果として、最も事業効果が高いのは肥後大津ルートであるという結論に至ったようです。数字的に抜きんでているわけではありませんが、肥後大津ルートなら、JR九州が直通運転に応じる姿勢を見せたことが決め手になったように察せられます。直通運転をするかしないかは、空港アクセスの価値に大きな影響を及ぼします。
2022年11月29日には、蒲島知事がJR九州の古宮洋二社長と会談。肥後大津分岐案で合意し、熊本空港アクセス線は肥後大津ルートとなることが、事実上決定しました。
合意に際して交わされた確認書では、空港アクセス線と豊肥線が直通運転をすることや、運営方式を「JRへの委託」または「上下分離でJRが運行」とすることが記されました。いずれの形でも「JR線」として運行する方針で合意したといえます。約410億円と見込まれている整備費は、JRが受益の範囲で最大3分の1を負担します。
2023年3月20日には、熊本県が空港アクセス検討委員会の第6回会合を開催。空港アクセス鉄道建設の今後のスケジュール案を示しました。2027年度から用地取得などの本格的な工事期間に入り、2034年度の開業を目指すことが明らかになりました。
最後に残されたのは、補助金の問題です。熊本県では、2024年に公表した『国の施策等に関する提案・要望』に「空港アクセス鉄道の整備」及び「JR豊肥本線の機能強化」を盛り込み、これらの事業を「国家戦略の実現に必要なインフラ整備として位置づけ、鉄道整備を地域産業構造転換インフラ整備推進交付金の対象とする」ことを求めました。
これまでは、空港鉄道アクセス補助の補助率の嵩上げを求めていましたが、方針転換したことになります。同交付金の適用対象になるかはまだ決まっていませんが、2027年度の着工までにケリを付けることになるのでしょう。
熊本空港アクセス鉄道のデータ
熊本空港アクセス鉄道データ
営業構想事業者
JR九州
整備構想事業者
未定
路線名
未定
区間・駅
肥後大津~熊本空港
距離
約6.8km
想定利用者数
4,900~5,500人/日
総事業費
約410億円
費用便益比
1.03~1.21
累積資金収支黒字転換年
30~36年(国1/3補助の場合)
種別
未定
種類
普通鉄道
軌間
1,067mm
電化方式
交流20,000V
単線・複線
単線
開業予定時期
2034年度
備考
地域産業構造転換インフラ整備推進交付金を要望
※データは主に熊本県の『阿蘇くまもと空港アクセス鉄道整備に向けた取組み状況』(2024年5月)より。
熊本空港アクセス鉄道の今後の見通し
熊本市内から熊本空港は遠く、バスでのアクセスでは所要時間がかかりすぎるため、鉄道新線は待ち望まれてきました。しかし、2000年代まで、熊本空港の利用者数は伸び悩み、採算性の問題でアクセス鉄道は実現しませんでした。
しかし、LCCの登場やインバウンドの隆盛により、空港利用者数が増え、鉄道新線の議論も本格化していきました。
新型コロナの影響もあり計画は停滞しましたが、最終的に肥後大津ルートで話がまとまり、蒲島知事が退任間際にJR九州と合意にこぎ着けました。
JR豊肥線沿線にTSMCの工場が進出したことも追い風となり、熊本空港アクセス手鉄道の実現はほぼ確実といえそうです。採算性の問題は課題としてあるものの、空港アクセス鉄道は豊肥線の輸送力増強とセットで議論されるようになり、あわせて「地域産業構造転換インフラ整備推進交付金」の適用を目指すようです。
空港アクセス鉄道ができれば、JR豊肥線の輸送力増強も不可欠になるので、部分複線化も見据えながら、どちらも整備が進むことでしょう。
鹿児島市電観光路線
鹿児島市電の観光路線は、ウォーターフロントである鹿児島港本港区へ路面電車を延伸する計画です。ウォーターフロントの再開発計画にあわせて整備します。
鹿児島市電観光路線計画の概要
鹿児島市では、中心市街地の回遊性の向上と、新たなにぎわいの創出を図るため、ウォーターフロントへの路面電車の新設に取り組んでいます。この路線は観光路線という前提で、以下のような基本方針が掲げられています。
(1)「陸の玄関」鹿児島中央駅と「海の玄関」本港区の結節を強化することにより、新幹線からの2次アクセスを充実するものとする。
(2)天文館地区と本港区の回遊性を向上させ、本港区の集客施設との相乗効果を発揮させることにより、中心市街地の活性化を図るものとする。
(3)桜島や錦江湾を車窓から眺められ、本港区に立地する様々な施設を結ぶルートとすることにより、乗客に鹿児島らしい雄大な景色を楽しんでもらうとともに、新たな魅力ある都市景観の創出を図るものとする。
(4)乗車すること自体が目的となる魅力ある車両を導入するものとする。
延伸区間は単線の一方通行で、鹿児島中央駅方面から巡回して走ります。2020年3月に公表されたルート案は4つ。ウォータフロントと鹿児島市電の既存線とを結びます。どのルートになるかは決定していません。
鹿児島市電観光路線計画の沿革
2010年3月に策定された「鹿児島市公共交通ビジョン」で、路面電車の有効活用が推進施策として盛り込まれました。それを受けて、2011年度より、かごしま水族館や桜島フェリーターミナル、高速船旅客ターミナル等があるウォーターフロント地区へ、路面電車の観光路線新設に向けた調査検討が開始されます。
その後、2013年度になると、鹿児島県がウォーターフロント地区に複合施設を整備する構想を公表。これを受けて、鹿児島市の路面電車計画は、いったん検討を見合わせます。
2016年度になり、鹿児島県がウォーターフロント地区の再開発について、路面電車延伸計画を考慮に入れて、鹿児島市と共通認識で協議していくことを確認。2017年1月に「鹿児島市路面電車観光路線導入連絡会議」を設置し、検討を再開しました。
2017年12月には6ルートを検討対象として公表。ウォータフロントを縦軸として、以下の地図で、A-E、A-D、B-E、B-D、C-E、C-Dの6案のどれかで鹿児島市電の既存線と結ぶというものでした。
検討ルートの絞り込み
2018年度からは「路面電車観光路線基本計画策定委員会」を設置し、基本計画の策定へ向けた検討を開始します。2020年3月に開かれた第2回会合で、ウォーターフロント(本港区)の経路を決定。また、ナポリ通線への導入検討と、いづろ通線の除外をおこない、検討対象ルートを10案とします。
この10案から、影響の大きいルートを除外して、4ルートに絞り込みました。
上述したように、ウォーターフロント地区には、鹿児島県が複合施設を整備する再開発構想があり、路面電車の延伸計画は、その構想が固まるのを待っている側面もありました。ウォーターフロントの再開発計画は、2019年2月に「鹿児島港本港区エリアまちづくりグランドデザイン」として、整備方針が決定。これを受け、市電延伸の基本計画策定が本格的に動き出すことになりました。
ドルフィンポート閉鎖問題
しかし、2020年3月に、ウォーターフロントの中核施設のひとつであるドルフィンポートが閉館。跡地にはスポーツ・コンベンションセンター(新総合体育館)が建てられることに決まりました。集客力が大きく落ちる施設に変わることになり、観光路線計画の進展も止まります。
2024年7月31日の鹿児島市議会都市整備対策特別委員会で、市側は「路面電車観光路線については、ドルフィンポートがあることを前提に検討がなされたものであり、当初は190万人程度の利用者が見込まれたが、今回のスポーツ・コンベンションセンターでは、最大で40万人程度の利用者しか見込めない状況なので、当初と比べると利用者数が大分減少している」として、観光路線建設の前提条件が崩れたことを認めています。
そして「本港区エリアの施設整備の内容を見極めた上で費用対効果を含め、検討を行う必要がある」「鹿児島港本港区エリアまちづくり懇談会の中で、本港区エリアにどういう施設整備を行うのか検討がなされている最中で、今後どれぐらいの需要が出てくるのかをしっかり見定めたい」とも答弁しており、大きな需要が見込めない限り、路面電車の事業化は難しいとの認識を示唆しています。
その需要に関しては、「スポーツ・コンベンションセンターの利用者数では非常に厳しい状況にあると思っており、鹿児島港本港区エリアまちづくり懇談会の中で県が民間活力導入の調査等を行うという話も出ておりますが、全体的な利用者数の増加がもう少し見られないと、その調査自体も難しいのではないかと考えている」と付け加えました。
鹿児島市電観光路線計画のデータ
鹿児島市電観光路線計画データ
営業構想事業者
鹿児島市交通局
整備構想事業者
未定
路線名
未定
区間・駅
未定
距離
未定
想定利用者数
--
総事業費
約47億円
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
軌道事業
種類
軌道
軌間
1435mm
電化方式
直流600V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
--
鹿児島市電観光路線計画の今後の見通し
鹿児島市は、2020年の段階で、2022年度の基本計画策定を目指していました。しかし、ドルフィンポートの閉鎖と、後継施設が新総合体育館(スポーツ・コンベンションセンター)に決まったことで、需要想定が崩れたようです。
鹿児島市では、新総合体育館の周辺施設を含む、ウォーターフロント再開発計画の全体像が固まってから、市電観光路線の需要予測調査を検討する方針です。
鹿児島市の下鶴隆央市長は2024年8月1日の定例会見で、現時点で需要予測調査をする段階にないとしたうえで、「新規路線は採算を見込めることが絶対条件」「市民の生活路線を守ることが最重要。公共交通全体が厳しいなか、観光路線で赤字は出せない」とも述べ、後ろ向きな姿勢を示しました。
こうした鹿児島市の姿勢からみても、鹿児島市電の観光路線新設は事実上の凍結状態になっており、実現は見通せないというほかありません。
ゆいレール延伸
ゆいレール(沖縄都市モノレール)は、那覇空港~てだこ浦西間17.0kmを結ぶモノレール路線です。さらに、4方面5ルートの延伸構想があります。
ゆいレール延伸計画の概要
沖縄県では、2018年5月に「沖縄鉄軌道構想」の概略計画をとりまとめています。これは那覇~名護間に鉄道または軌道を建設する構想で、那覇市、浦添市、宜野湾市、北谷町、沖縄市、うるま市、恩納村、名護市を経由するルートが決定しています。
沖縄県では、この鉄軌道ルートを骨格とした、利便性の高い公共交通ネットワークの形成を目指していて、フィーダー交通ネットワークのあり方について検討を行っています。
その一環として、沖縄都市モノレール(ゆいレール)延伸も調査されています。2019年6月19日に公表された調査結果では、4方面5ルートの延伸構想が示されました。
A 豊見城~糸満ルート(奥武山公園~糸満)8.9km 9駅
C 首里駅接続ルート(県庁前~南風原町経由~首里)6.5km 7駅
C 南風原~与那原ルート(県庁前~マリンタウン地区)9.9km 9駅
D 西原ルート(てだこ浦西~マリンタウン地区)5.5km 4駅
E 中城ルート(てだこ浦西~琉球大学前)3.6km 3駅
「B」は浦添方面、「F」は宜野湾方面ですが、いずれも沖縄鉄軌道の建設計画があるため、ゆいレールの延伸構想からは外れています。
延伸時の試算
延伸した場合の試算も公表されています。沖縄鉄軌道が国道58号経由で建設された場合の試算数字をみてみましょう。
ルート
概算事業費
(億円)
累積資金収支
黒字転換年
営業収益
(億円/年)
費用便益比
豊見城~糸満
980
発散
-5.3
0.17
首里駅接続
780
発散
-4.7
0.18
南風原~与那原
1110
発散
-7.3
0.08
西原
580
発散
-4.9
0.09
中城
400
発散
-3.3
0.23
上表の通り、全てのルートにおいて事業性、採算性に難があります。そのため、4方面5ルートの延伸構想については、実現の見通しは立っていません。
ゆいレール延伸計画の沿革
沖縄にモノレールを作る計画は、1972年の本土復帰以来、議論されてきました。1975年に、国・沖縄県・那覇市で構成される「都市モノレール調査協議会」を設置。1981年の「沖縄県総合交通体系基本計画」では、「モノレ-ルの計画は那覇空港~西原入口間(沖縄自動車道との連結)にわたり整備を図る」と位置づけられています。
このうち、那覇空港~首里駅を第1期とし、首里駅~西原入口を第2期としています。1982年9月には、運営主体となる第三セクター「沖縄都市モノレール株式会社」が設立されました。
着工へ大きく動き出したのは、1994年以降です。沖縄県・那覇市と既存交通機関のバス会社との間で基本協定や覚書が締結され、1996年3月に沖縄都市モノレールが那覇空港~首里間で軌道事業の特許を取得。2003年8月に同区間が開業しています。「ゆいレール」という愛称で、営業運転を開始しました。
第2期となる首里駅~西原入口については、開業後すぐに議論になり、2006年度に「沖縄都市モノレール延長検討委員会」を設置。延長ルートについて検討が行われ、2008年3月21日に「浦添ルート案」の推奨が決まりました。
その後、西原入口は「浦西」という仮称になり、2011年8月30日に首里~浦西(仮称)間の軌道事業の特許申請が行われ、2012年1月25日に認可されています。2013年に延伸工事着手、2019年10月1日に開業しました。
フィーダー交通としての検討
一方、沖縄県では、2018年5月に、「沖縄鉄軌道構想」について概略計画をとりまとめまとめています。これは那覇~名護間に鉄道または軌道を建設する構想で、那覇市、浦添市、宜野湾市、北谷町、沖縄市、うるま市、恩納村、名護市を経由するルートが決定しています。
沖縄県では、この鉄軌道ルートを骨格とした、利便性の高い公共交通ネットワークの形成を目指していて、フィーダー交通ネットワークのあり方についても検討を行っています。
その一環として、沖縄都市モノレール(ゆいレール)延伸が、鉄軌道計画を含めた公共交通ネットワーク全体にどういう効果や影響を与えるかなどを調査しています。そのなかで、上記の4方面5ルートについての基本的な調査が行われ、2019年6月19日に公表された内容が、上に記したものです。
沖縄県では、2024年度に、普天間方面への延伸についても調査を開始しています。「てだこ浦西駅~真栄原~普天間」(ルート1)と、「古島駅~国道330号経由~真栄原~普天間」(ルート2)です。いずれも、普天間駅は基地返還後の跡地の再開発地区に設ける想定で、計画中の沖縄鉄軌道と接続します。
これも沖縄鉄軌道のフィーダー交通としての検討で、近い将来の事業着手が想定されているわけではありません。
ゆいレール延伸計画のデータ
ゆいレール延伸計画データ
営業構想事業者
沖縄都市モノレール
整備構想事業者
沖縄都市モノレール
路線名
未定
区間・駅
未定
距離
未定
想定利用者数
--
総事業費
--
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
軌道事業
種類
跨座式モノレール
軌間
--
電化方式
直流1500V
単線・複線
未定
開業予定時期
未定
備考
--
ゆいレール延伸の今後の見通し
ゆいレールの当初構想は沖縄自動車道への接続ですので、てだこ浦西までの開業で一段落となります。ただ、上述したように、てだこ浦西から先、沖縄市方面への延伸構想も存在します。
てだこ浦西駅は分岐器が延伸に対応した構造になっており、沖縄自動車道と交差して琉球大学方面へ延ばすことができるよう設計されています。てだこ浦西から琉球大学への延伸構想は「4方面5ルート」の「中城ルート」に該当します。
一方、沖縄県では、沖縄鉄軌道の建設構想もあります。ゆいレールは、そのフィーダー交通としても位置づけられています。ゆいレールの延伸は、沖縄鉄軌道計画の進捗次第、という側面もあります。
4方面5ルートのなかでは、中城ルートの琉球大学までの延伸が、もっとも事業性が高いという結果になっています。そのため、延伸する場合、とりあえずは琉球大学エリアまでが当面の検討課題となりそうです
那覇LRT
那覇市LRTは、沖縄県那覇市の真和志地域を中心にLRTを敷設する計画です。市街地の東西と南北に2ルート3区間を整備します。
那覇LRTの概要
那覇市では、モノレールと並ぶ交通軸としてLRTの導入計画を進めています。2024年3月28日に、LRT(次世代型路面電車)の整備計画の素案を公表しました。
素案によりますと、LRT導入が検討されているのは、東西ルートと南北ルートの2路線です。
先行整備をするのは東西ルートです。県庁北口~県立南部医療センター付近の約5kmを本線とし、県庁北口~若狭海浜公園付近の約1kmを支線とします。
具体的なルートをたどると、若狭海浜公園から、ゆいレールの県庁前付近を経由し、那覇高校前を経て開南せせらぎ通りを東へ向かい、開南交差点で南東に折れて開南本通りに入ります。寄宮十字路(真和志小学校前)で南北軸と交差し、真地久茂地線を東進して、県立南部医療センター付近が終点です。
南北ルートは、真玉橋付近~新都心地区の約5kmです。具体的なルートをたどると、那覇新都心から那覇中環状線をたどっておもろまち駅前を経て、真嘉比で南に折れます。松川を経て寄宮十字路で東西ルートと交差。そのまま南下して、真玉橋に至ります。
導入空間
導入空間は4車線道路で、中央2車線をLRT軌道とします。LRT軌道は1435mmの標準軌複線で、導入空間の幅は約7m。東西ルートの支線部分は単線として、幅約4mです。
停留所は約500m間隔で設置します。車両基地は立体都市公園制度を活用し、松山公園の地下に整備する予定です。
一般車両のLRT軌道内走行は、原則として禁止します。停留場は、交差点の横断歩道からアクセス可能な位置に整備することを想定しています。
所要時間と運行本数、車両
所要時間は、東西ルート本線が約19分、同支線が約8分。南北ルートは約17分です。
運行本数は、本線部がピーク時に毎時10本、オフピーク時に毎時6本、深夜早朝に毎時4本です。深夜早朝を除き、10分間隔以上の頻度で運行します。
東西ルートの支線部は毎時3本程度で、深夜早朝は毎時2本程度です。
導入車両は、全長30mの低床車両3両編成を想定します。定員160人で、うち座席定員は50人です。編成数は東西12、南北9の計21編成を想定します。
概算事業費と収支予測
事業スキームは上下分離方式となる見込みです。軌道運送事業者(上)が運行を担い、軌道整備事業者(下)が施設を整備・保有します。軌道運送事業者は第三セクター、軌道整備事業者は那覇市を想定します。
概算事業費は、東西ルート(本線・支線)が約320億円、南北ルートが約160億円の計480億円です。国の街路事業と都市・地域交通戦略推進事業制度の適用を受け、480億円のうち半分以上の約270億円を、国の交付金でまかなう想定です。
那覇市の実質的な負担は約210億円という計算です。
需要予測は、東西ルート(本線・支線)開業時で1日約15,000人、全線開業時には東西ルートとあわせて1日約21,900人を見込みます。
収支計画は、東西ルート開業時で約2.3億円の単年度黒字が出ると見込みます。全線開業時には約1.5億円の黒字です。
費用便益比(B/C)は、東西ルート(本線・支線)が30年で1.01、50年で1.20。全線開業時には、30年で1.15、50年で1.35と試算しました。いずれも、基準となる1を超える見通しです。
那覇LRTの沿革
那覇市には、戦前の一時期、路面電車が敷設されていました。通堂~首里間6.9kmで、那覇港周辺から市街地を経て首里に至る路線です。1917年に全線開業、1933年に全線廃止という短命路線でした。このとき、首里から真和志に至る路線も計画されていましたが、実現はしませんでした。
戦後、那覇市内の道路渋滞が激しくなると、那覇市内に軌道系交通機関を敷設する計画が浮上し、「ゆいレール」として結実します。ゆいレールは那覇市中心部と首里を結んでおり、経路こそ違うものの、戦前の路面電車の生まれ変わりともいえます。
一方で、新たに路面電車を敷設する計画も浮上しました。明確にいつ浮上したかは定かではありませんが、どうやら1990年代に国際通りに路面電車を走らせようという構想が浮上してきたようです。
2000年に那覇市長に当選した翁長雄志氏は、選挙中に国際通りや平和通りに路面電車を敷設することを訴えました。同氏の公約だったわけです。同市長は、2004年の再選後、12月の定例市議会で「新世代路面電車の敷設」を政策目標の一つとして掲げました。
この新世代路面電車がLRTで、那覇市はこの頃から市内にLRTの敷設の調査を開始したようです。同定例会で、翁長市長は、象徴的な例として新都心から国際通りへの路線をあげています。
その後、那覇市では、2003年度に中心市街地まちづくり交通計画調査、2005年度に那覇市における新たな公共交通に関する基礎調査などを行い、そのなかで新型路面電車を含めた公共交通システム調査をおこないました。
この調査では、国際通りと新都心や真和志地域などを結ぶルートのケーススタディを行い、事業費や走行空間の条件といった課題整理をしています。このケーススタディは、14kmのLRTを導入した場合、概算事業費として約320億円、1kmあたりに約23億円がかかると試算しました。
2009年には那覇市交通基本計画を策定。那覇市・沖縄市間を南北に、那覇市・与那原町間を東西に、それぞれ結ぶルートを広域的な公共交通の基幹軸として位置づけました。さらに、モノレールと結節し、真和志地域と中心市街地、中心市街地と新都心を結ぶルートを市域内の公共交通の基幹軸として位置づけました。
この東西の基幹軸として想定されていたのがLRTです。つまり、この時点では、LRTは、国際通りではなく、那覇中心部~真和志~与那原を結ぶ交通機関という位置づけになっていたわけです。
2012年の市議会定例会では、当時の都市計画部長から、「那覇~与那原間のLRT導入につきましては、市町村をまたぐ広域的な交通計画であり、現在、国において軌道系導入に向けた可能性調査を実施中」という答弁がありました。
2014年には、翁長氏の後を継いで、城間幹子氏が那覇市長に当選。城間市長もLRT建設を公約に掲げていたため、LRTの調査を継続します。
2018年3月には、「初期段階のLRT導入可能性調査」がまとまり、3つのルート素案が公表されました。旭橋付近から東西に延びるルートを基本とし、3つの素案を設定しました。
素案1は、東西軸をもう一本作る案(約5.1km)、素案2は副都心へ伸びる案(約4.8km)、素案3は、那覇北部を周回する案(約6.6km)です。
概算事業費は素案1が約322億円、素案2が約323億円、素案3が約529億円です。1日あたりの予想利用者数は、素案1が約9,600人、素案2が約11,300人、素案3が13,700人となりました。
収支採算性では、単年度収支が素案1が 1,600万円の黒字、素案2が1億900万円の黒字、素案3が7,800万円の黒字と予想しています。
その後、2019年度に、導入調査報告書を基にした那覇市地域公共交通網形成計画(網形成計画)の骨子案が公表されました。そのなかにLRT計画も盛り込まれ、ルートは素案2が採用されています。旭橋~真和志(寄宮)~県立南部医療センターを結ぶ東西路線と、上之屋~おもろまち~真和志(寄宮)~真玉橋に至る南北路線です。
網形成計画では「真和志地区と中心市街地、新都心地域を結ぶわかりやすいルート設定」を掲げ、真和志を中心としたエリアにLRTを整備する方針を明記しました。このLRTが、真和志地区の交通改善を主目的にした路線であることがはっきり示されたわけです。
その後、2024年3月28日に、那覇LRT整備計画素案が発表されました。網形成計画に沿ったルート案を具体化した内容です。知念覚市長は、開業は早くても2030年代半ばになるとの見通しを示しました。
那覇LRTのデータ
那覇LRTデータ
営業構想事業者
未定
整備構想事業者
那覇市
路線名
東西ルート、南北ルート
区間・駅
県庁北口~県立南部医療センター付近(東西ルート本線)
県庁北口~若狭海浜公園付近(東西ルート支線)
真玉橋付近~新都心地区(南北ルート)
距離
約11km(東西ルート本線5km、同支線1km、南北ルート5km)
想定利用者数
21,900人/日(全線開通時)
総事業費
約480億円(全線)
費用便益比
1.15
単年度収支黒字化
1年
種別
軌道事業
種類
軌道
軌間
1,435mm
電化方式
未定
単線・複線
複線(支線は単線)
開業予定時期
2040年頃
備考
街路事業、都市・地域交通戦略推進事業
※データは主に『那覇市LRT整備計画素案』(2024年3月)より。
那覇LRTの今後の見通し
那覇市LRTは、当初は国際通りと新都心を結ぶ象徴的な新交通機関として語られてきました。その後、那覇~与那原を結ぶ基軸交通という位置づけになり、そのうちの那覇市内が切り取られ、市中心部と真和志、県立南部医療センターを結ぶ生活路線という形に収束しました。
おおざっぱにいえば、那覇東部への公共交通が貧弱なので、その解決策として選挙公約だったLRT事業が当てはめられたという観があります。
実際のところ、想定経路に軌道を敷設するのは簡単ではなさそうです。導入予定の道路には片側1車線の区間もあり、LRTの専用軌道を導入するには不十分です。2車線道路区間にしても、1車線を専用軌道に供して問題ないのか、という不安もあるでしょう。実際に導入する場合、マイカー利用者から強い反対が起こる可能性が高そうです。
しかも、真和志方面は勾配が多く、一部区間で道路の勾配が40パーミル~60パーミルを超えたり、停留所の多数が縦断勾配10パーミル以上になるという問題もあります。こうした路線に鉄軌道が適しているのか、という疑問もあります。
那覇市東部に軌道系交通機関を導入するという大きな政策目標に異論は少ないとみられますが、具体論に入ると課題は山積しています。
那覇市では、事業化に向けた調査を2024年3月に取りまとめ、事業化へ向けた調整に入りました。関係機関と協議し、市民からのパブリックコメントを反映したうえで、整備計画をとりまとめます。さらに、都市計画決定、会社設立、軌道法特許取得などを経て着工となります。
那覇市では、2026年度末までの整備計画策定、2040年度の東西ルート先行開業を目指していますが、現状で道路幅員が十分確保できていない部分もあるため、開業見通しが明確になっているとはいえません。
全線開業すれば、計11kmのLRT路線が那覇市に出現します。ほぼ全線が併用軌道とみられ、路面電車として全国的にも中規模の路線網になりそうです。
ただ、建設までのハードルは低いとはいえず、現時点では予定通り実現できるか、不透明な印象もあります。
沖縄鉄軌道
沖縄県では、沖縄本島を縦貫する那覇~名護間に鉄道を敷設する計画があります。これが沖縄鉄軌道です。「沖縄縦貫鉄道」とも呼ばれたりします。
沖縄の鉄道計画には、沖縄県が計画を進めている計画と、内閣府による調査・検討がありますが、ここでは沖縄県が進めている計画を中心に紹介します。現時点では計画段階で、開業予定などは未定です。
沖縄鉄軌道の概要
沖縄鉄軌道計画は、那覇~名護間を1時間で結ぶものです。沖縄本島南部都市圏の交通渋滞緩和が主な目的で、本格的な計画案づくりは2014年に開始されました。
2018年3月までに、おおざっぱなルート案が確定しました。「C派生案」と呼ばれるもので、那覇、浦添、宜野湾、北谷、沖縄、うるま、恩納、名護の8市町村を経由するものです。「中部東海岸、北部西海岸」を経由するルートです。
那覇~うるま間は主に地下路線、うるま~名護は主に山岳トンネルです。高架区間は宜野湾~北谷と、うるま~恩納の一部のみで、全体的にトンネルだらけの鉄道路線です。
総延長は67~68kmで、那覇~名護間を59分で結びます。
駅の配置については、経由する市町村に、最低1箇所は拠点駅を設置する方針を示し、拠点駅間距離が長い場合や、市街地が続く地域では、必要に応じて拠点駅間に中間駅を設定するとしています。
また、市街地地域においては、おおむね2~3kmに1箇所程度の駅を配置。郊外では、5~7kmに1箇所程度としています。
快速列車は、経由する市町村で各1箇所を快速停車駅として想定。運転本数は、那覇~うるまといった都市部では、ピーク時に毎時「各駅7本+快速3本」、オフピーク時に「各駅4本+快速2本」を運転します。
うるま~名護といった郊外部では、ピーク時に毎時「各駅2本+快速1本」、オフピーク時に「各駅1本+快速1本」という想定です。
想定するシステムは、那覇と名護の約70kmを約1時間で結ぶスピードを確保するものという条件が課されています。そのため、専用軌道を有するシステムで、小型鉄道程度の輸送力が必要です。検討対象として、リニア式の小型鉄道と専用軌道のLRTなどが取り上げられています。
総事業費と費用便益比
ルート案は、那覇近郊を330号線(内陸)を通る案と、50号線(海沿い)を通る案があります。総事業費は、ルート決定時点(2018年)で国道330号線ルートが6,100億円、国道50号ルートが6,000億円とされました。その後、2019年にコスト縮減案が示され、330号ルートが5,810億円、50号ルートが5,930億円とされています。
費用便益比は、ルート決定時の試算では、入り込み観光客を1,000万人と見込んで、0.39~0.59と算出しました。2019年の試算では、観光客数を1,350万人とし、選考接近法で算出すれば、330号ルートで1.04となり、1を超えるとしています。
観光客数は2018年度に1.000万人に達していて、その後のインバウンドの伸びを考えれば、1,350万人も荒唐無稽な数字とはいえません。
費用便益比が1を超えるのは330号ルートなので、基本的には同ルートを軸に検討されていくとみられます。ただ、現時点では構想段階で、事業化の可否は決まっていません。当然、開業時期などはまったく未定です。
沖縄鉄軌道の沿革
沖縄本島には戦前、県営の軽便鉄道が走っていましたが、沖縄戦で被災し、戦後も復旧されていません。新たに鉄道を敷設しよういう意見は本土復帰時からありましたが、具体化しはじめたのは2012年「沖縄県総合交通体系基本計画」(第4次)が公表されてからです。
同計画には「需要の規模や特性を踏まえた観光地への鉄軌道を含む新たな公共交通システムの導入」が施策として明記されました。これをうけて、2013年6月には「鉄軌道を含む新たな公共交通システム導入促進検討業務」報告書(平成24年度報告書)が公表されました。
2014年10月からは、沖縄県が鉄軌道導入に向けて「沖縄鉄軌道計画検討委員会」などを組織し、計画案づくりをスタート。2018年3月に『沖縄鉄軌道の構想段階における計画書』(沖縄鉄軌道計画検討委員会案)がまとまりました。2020年8月に費用便益分析検証委員会を開催し、需要予測や費用便益比の試算を公表しました。
ここまでの検討で、費用便益比はケースによって1を超えるものの、採算性おいては特例制度の創設が必要という結論でした。そのため、沖縄県は、全国新幹線整備法を参考にした特例制度の創設を国に要請。国は2022年度の「沖縄基本方針」において、その検討をする旨を明記しました。
一方、「沖縄基本方針」には、2012年度の旧方針から沖縄鉄軌道の検討が盛り込まれていて、内閣府はそれに基づいて、沖縄県とは別に沖縄鉄軌道の調査を毎年実施しています。検討結果としてのルートは沖縄県案と大きくは変わらず、費用便益比は1を超えられないとしています。
2022年度からの新基本方針に基づいて、内閣府調査でも整備新幹線を参考にした新制度を検討する方針です。ただ、整備新幹線方式であっても、費用便益比が1を超えることが必要です。これまでの内閣府調査では、費用便益比をクリアできないとして、採算性にかかわる新制度論には踏み込んでいません。
沖縄鉄軌道のデータ
沖縄鉄軌道データ
営業構想事業者
未定
整備構想事業者
未定
路線名
未定
区間・駅
那覇~名護
距離
67~68km
想定利用者数
68,000~77,000人/日
総事業費
5,810~5,930億円
費用便益比
0.91~1.04(観光客1,350万人、所得接近法)
累積資金収支黒字転換年
発散
種別
未定
種類
普通鉄道
軌間
未定
電化方式
未定
単線・複線
複線(一部単線案もあり)
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法に準ずる補助を要望
※データは主に『沖縄鉄軌道の構想段階における計画書』(2019年)、『沖縄鉄軌道費用便益分析に係る検証委員会資料』(2020年)より。
沖縄鉄軌道の今後の見通し
沖縄鉄軌道は現時点では構想段階です。県を挙げての取り組みでもあり、実現性は低くなさそうですが、事業化に向けて、超えなければならないハードルはいくつもあります。
最大の課題は普天間基地の返還でしょう。沖縄鉄軌道計画は普天間基地の返還を前提にしており、ルートも普天間基地を通ります。しかし普天間基地の返還の道筋は不透明で、現時点ではいつになるか見通せません。
仮に普天間基地の返還が実現したとしても、建設費の問題もあります。約70kmで6000億円規模の事業の予算化は容易ではありません。近年の建設費の高騰をみれば、実際には1兆円規模のプロジェクトになるでしょう。
沖縄県では、整備新幹線並みの手厚い補助金を要請していて、国も応じる構えを見せていますが、現時点では具体化していません。
とはいえ、沖縄県中南部の道路渋滞はひどく、鉄軌道がとくに必要とされているのは事実です。時間はかかりますが、いずれ実現へ向け前進する鉄道計画と信じたいところです。
リニア中央新幹線
リニア中央新幹線は、東京・品川駅から名古屋駅を経由して新大阪駅を結ぶリニアモーターカーによる新幹線計画です。品川~名古屋間が建設中で、開業予定は2027年とされてきましたが、実際には2030年代半ばになりそうです。
名古屋~新大阪間の開業は、最短で名古屋開業の10年後とされていますが、詳細なルートや着工予定は決まっておらず、開業予定時期も未定です。
リニア中央新幹線の概要
リニア中央新幹線は、中央新幹線という新幹線の計画路線にリニアモーターカーを走らせるものです。最高設計速度は505km/hで、完成すれば、営業速度が世界最速の陸上交通機関となります。
リニア中央新幹線は、東京・品川駅を起点に、甲府市付近、飯田市付近、中津川市付近を経由して、名古屋駅に至ります。全体ルート図は以下のようになっています。
リニア中央新幹線の駅位置
リニア中央新幹線では、途中、神奈川県駅(橋本駅)、山梨県駅(甲府市南部)、長野県駅(飯田市上郷飯沼)、岐阜県駅(美乃坂本駅)の4駅を設けます。
東京駅は品川駅の地下に設けます。
神奈川県駅は橋本駅地下に建設し、JR横浜線・相模線、京王相模原線と接続します。
山梨県駅はアイメッセ山梨の北側付近に作り、JR線との接続はありません。
長野県駅は、国道135号線の北条交差点付近で、飯田線元善光寺駅の近くです。ただし、元善光寺駅とは接続しません。
岐阜県駅は美乃坂本駅に並行して作り、JR中央線と接続します。
名古屋駅は東海道線と交差する形で地下に設けます。
開業予定と総事業費
リニア中央新幹線の品川~名古屋間の開業予定は2027年とされてきましたが、工事に遅れが生じており、2030年代半ばになりそうです。
完成後は、品川~名古屋間を約40分で結ぶ予定です。総工費は9兆300億円と見積もられていましたが、10兆5000億円に上振れています。
名古屋~新大阪間の計画
名古屋~新大阪間には、途中、三重県駅(亀山市)、奈良県駅(学研都市地区)の3駅を設けます。駅の詳細の位置は未定です。
新大阪まで完成後、品川~新大阪間は最短67分で結ばれる予定です。
リニア中央新幹線は、全国新幹線鉄道計画では「基本計画路線」とされていました。JR東海が全額自社負担で建設の意思を表明したことから、2011年に整備計画が策定され、着工に至っています。ただし、いわゆる「整備新幹線」には含まれません。
リニア中央新幹線の沿革
全線建設決定まで
1970年の全国新幹線整備法制定後、1973年11月15日に中央新幹線の基本計画が決定しました。東京都から甲府市、名古屋市、奈良市を経由して大阪市に至る路線です。
しばらくは具体化しなかったのですが、1987年にリニアモーターカーの新実験線建設予定区間の公募が始まると、1988年に地元自治体などによる「リニア中央エクスプレス建設促進期成同盟会」が結成され、中央新幹線へのリニアモーターカーの誘致が始まります。
1989年に、将来的な中央新幹線への転用を考慮して山梨県が実験線に選ばれると、リニア中央新幹線が実現へ向けて動き出します。
実験線は一部区間18.4kmが先行開業し、1997年に本格的な実験が始まりました。この頃から、JR東海は中央新幹線を「中央リニアエクスプレス」と称して、建設へ向けたキャンペーンを展開します。
2005年3月に、国土交通省超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会により実用化のめどが立ったとの評価を受けると、JR東海は2006年9月25日に、独自資金で山梨リニア実験線42.8kmの全線を建設することを発表しました。
2007年12月25日には、中央新幹線を超電導リニア方式で、こちらも全額自社負担で建設することを発表しました。山梨リニア実験線は、2008年5月30日に着工し、2013年8月29日から全線で走行試験が開始されています。
ルート決定まで
山梨以西のルートについては、「木曽谷ルート」「伊那谷ルート」「南アルプスルート」の3つが候補に上がり、JR東海は南アルプスルートで建設方針を固めます。長野県がこれに強く反対しましたが、最終的に2011年5月に交通政策審議会中央新幹線小委員会が最終答申をし、国の整備計画として南アルプスルートが確定しました。
2013年9月18日に、JR東海は詳細なルートや駅位置を公表。2014年10月17日に、国土交通省が中央新幹線の工事実施計画を認可、12月17日に品川~名古屋間の起工式が行われました。
名古屋~新大阪間に関しては、当初は2045年開業とされていましたが、国の財政投融資を活用することで、2027年の品川~名古屋間開業後に、連続して工事に着工する方針が固まり、順調にいけば2037年の開業とされました。
水問題と事業遅延
しかし、2017年以降、川勝平太・静岡県知事が大井川の水量減少を懸念してトンネル工事を認めない姿勢を見せ、工事は停滞。2024年4月に、JR東海が2027年開業が間に合わないことを正式に認めました。
静岡県以外でも工事の遅れが生じており、一部区間は完成が2031年度になることが明らかになっています。静岡県区間の工期は10年程度を見込んでいるため、2025年に着工したとしても、開業は順調にいって2035年ごろになりそうです。
名古屋~新大阪間の工事は、名古屋開業後10年程度はかかるので、新大阪開業は早くても2040年代半ばになりそうです。
リニア中央新幹線のデータ
リニア中央新幹線データ
営業構想事業者
JR東海
整備構想事業者
JR東海
路線名
リニア中央新幹線
区間・駅
品川~名古屋(途中4駅)名古屋~新大阪(途中2駅)
距離
285.6km(品川~名古屋)約152km(名古屋~新大阪)
想定輸送密度
--
総事業費
10兆5000億円
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
超電導磁気浮上式鉄道
軌間
--
電化方式
交流33,000V
単線・複線
複線
開業予定時期
2030年代(品川~名古屋)2040年代(名古屋~新大阪)
備考
財政投融資
リニア中央新幹線の今後の見通し
リニア中央新幹線は品川~名古屋間で着工しています。反対運動やゼネコン談合事件に加え、静岡県の水問題の解決が長引き、全体的に工事に遅れが出ています。開業時期は順調にいって、2030年代半ばというところでしょう。
名古屋~新大阪間に関しては、名古屋開業後、新大阪開業に向けた工事が始まることになっていて、工期は最低10年を見込みます。そのため、早くても2040年代半ば。2050年代にずれ込むことがあるかもしれません。
北海道新幹線札幌延伸
北海道新幹線は、青森県青森市から北海道札幌市を経て旭川市までを結ぶ計画の新幹線です。このうち、青森市から札幌市までの区間が整備新幹線に指定されています。
現在、新青森駅~新函館北斗駅間が開業済みです。新函館北斗~札幌間は建設中で、開業予定は2030年度末となっていましたが、数年の遅れが生じています。札幌~旭川間の建設のメドは立っていません。
北海道新幹線札幌延伸の概要
北海道新幹線は、新青森駅~新函館北斗駅間148.8kmが開業済み、新函館北斗~札幌間211.5kmが建設中です。
新函館北斗~札幌間には、新八雲(仮称)駅、長万部駅、倶知安駅、新小樽(仮称)駅の4駅を設けます。札幌までの開業予定は2030年代半と見込まれています。
札幌駅の新幹線ホームは、在来線ホームより東側に建設します。創成川の東西に改札口を設けます。
北海道新幹線札幌延伸時の所要時間
北海道新幹線の札幌延伸時の最高速度は260km/hで計画されましたが、320km/hに引き上げる予定です。札幌まで開業し、320km/h運転が実現した場合の所要時間は、東京~札幌間で4時間30分を目指しています。
新函館北斗~札幌間は、2012年の試算(260km/h運転)で約1時間5分とされています。320km/h運転が実現すれば5分程度短縮しますので、約1時間になる見通しです。
走行する列車名などは未定です。
総事業費と費用便益比
北海道新幹線の工事費は、国土交通省の試算によると、新青森・新函館北斗間で約5,783億円、新函館北斗・札幌間で2兆3,159億円、合計で2兆8,942億円とされています。
2012年1月の国交省第1回整備新幹線小委員会参考資料『整備新幹線(未着工区間)の整備効果等について』で示された試算では、輸送密度14,800人、事業費7283億円、費用便益比1.1とされました。
2022年の国会答弁によれば、想定輸送密度は17,800人です。しかし、2023年の事業再評価によりますと、建設費の高騰により、費用便益比は0.9%と1を割り込んでいます。ただし、残事業に限れば1.3とされ、事業の続行が決定しています。
建設スキームと並行在来線
北海道新幹線の新函館北斗~札幌間は「整備新幹線」として整備が進められています。 整備新幹線は、鉄道・運輸機構(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が新幹線施設を建設・保有し、営業主体であるJRに対して施設を貸し付ける枠組みです。貸付を受けるJR北海道は受益の範囲内で鉄道・運輸機構に貸付料を支払います。
北海道新幹線の開業後、並行在来線はJR北海道から切り離されます。新函館北斗~札幌間が開業すると、JR函館線の函館~小樽間が並行在来線として、JR北海道から経営分離される予定となっています。
函館~小樽間のうち、函館~新函館北斗間は、第三セクターに転換のうえ存続します。新函館北斗~長万部間は旅客営業が廃止され、貨物線となる見通しです。長万部~小樽間は鉄道が廃止されることが決まっています。
北海道新幹線札幌延伸の沿革
北海道新幹線は、「全国新幹線鉄道整備法」に基づいて整備が進められている新幹線です。1972年7月3日運輸省告示第243号により青森市~札幌市が基本計画区間に追加され、1973年11月13日に、同区間の整備計画を決定しています。同日、札幌市~旭川市も基本計画区間に追加されました。
このうち、新青森~新函館北斗間は、2005年4月27日に工事実施計画が認可・着工され、2016年3月26日に開業しています。
新函館北斗~札幌間は、2012年6月29日に認可・着工され、新函館北斗開業の概ね20年後(2035年)までの開業が予定されていました。その後、2015年1月14日の「政府・与党申し合わせ」において、開業を5年前倒しし、2030年度末の開業を目指すことが決定しています。
ただし、工事は順調に進んでおらず、2024年5月10日に、建設主体である鉄道・運輸機構が、数年の遅れが生じていることを国交省に伝えています。長大トンネルの掘削に時間がかかっていることが主要因なので挽回は難しく、開業は順調にいっても2030年度半ばになりそうです。
北海道新幹線の計画上の終点は札幌ではなく、旭川です。札幌~旭川間は「基本計画路線」と位置づけられています。ただし、現時点で建設のメドは立っておらず、着工の時期や、設置駅なども未定です。
北海道新幹線札幌延伸のデータ
北海道新幹線札幌延伸データ
営業構想事業者
JR北海道
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
北海道新幹線
区間・駅
新函館北斗~札幌(途中駅:新八雲、長万部、倶知安、新小樽)
距離
211.5km
想定輸送密度
17,800人/日
総事業費
2兆3,159億円
費用便益比
0.9(2023年再評価時)
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
複線
開業予定時期
2030年代半ば
備考
全国新幹線整備法
北海道新幹線札幌延伸の今後の見通し
北海道新幹線札幌延伸は2031年春の開業を目指して工事が進められていました。しかし、工事には遅延が生じていて、回復が難しく、予定通りの開業は絶望的になりました。
新たな開業予定時期は示されていませんが、うまくいって2034年春ころで、もう少し後ろ倒しになる可能性もありそうです。
途中、長万部や倶知安までの先行開業を唱える動きもありますが、長万部以南のトンネル工事にも遅れがでているので、そうした形での部分開業も難しいでしょう。
札幌~旭川間については、現時点ではまったく白紙です。札幌開業後に議論されることでしょう。
上越新幹線新宿延伸
上越新幹線は、東京都と新潟市を結ぶ計画の路線です。大宮~新潟間は開業済みで、すべての列車が東北新幹線に乗り入れて上野駅/東京駅まで走っていますので、事実上全線完成しているといっていいでしょう。
ただ、東京都内の本来の起点は新宿駅とされていて、新宿~大宮間が未開業区間として残されています。この区間の具体的なルートや開業予定時期などは決まっていません。
上越新幹線新宿延伸の概要
上越新幹線は、大宮駅~新潟駅間269.5 km(営業キロ303.6 km)が開業済みです。すべての列車が東北新幹線の東京駅または上野駅発着で、東京駅~新潟駅方面を直通運転しています。
本来の上越新幹線の起点は「東京都」です。埼玉県さいたま市ではありません。そのため建設当初から、上越新幹線は「都心乗り入れ」が検討されてきました。東京都内の上越新幹線の発着駅については、1970年代にさまざまな議論があり、新宿駅がターミナルとなる予定でした。
ただ、東北・上越新幹線が開業した1982年当時は、東京~大宮間の新幹線の線路容量が逼迫していないとして、東北・上越両新幹線が同区間を共用することになり、新宿~大宮間は作りませんでした。以来、40年以上が経ちますが、いまだに新宿~大宮間は、工事計画すらできていません。
北陸新幹線、北海道新幹線と、JR東日本の新幹線路線が延伸するにつれ、東京~大宮間の新幹線の線路容量の問題が浮上し、新宿~大宮間の新幹線建設が根強く話題に上ります。実際に何度も検討されましたが、数千億円が見込まれる建設費がネックとなり、実現に至っていません。
上越新幹線新宿延伸の沿革
上越新幹線は、全国新幹線鉄道整備法に基づき建設する初の新幹線鉄道として、1971年1月に、東北新幹線(東京都~盛岡市)とともに東京都~新潟市間の基本計画が決定しました。同年4月に整備計画が決定され、10月に工事実施計画が申請されました。
当時の計画では、東北新幹線は東京駅に、上越新幹線は新宿駅にそれぞれターミナルを設置し、それぞれ大宮駅に至る路線を建設することが想定されていました。しかし、当時は、東京~大宮間を両新幹線で線路を共用しても容量が足りると予測されたうえ、都心乗り入れは巨費を要するため、大宮以南はとりあえず東北新幹線のみ建設することになりました。
このとき、東北・上越新幹線の都心乗り入れについては、現在の埼京線に並行する「A新幹線ルート」と、東北本線に並行する「B新幹線ルート」の2案がありました。このうち、「A新幹線ルート」が埼京線と同時に建設され、東北新幹線として実現します。上越新幹線の都心乗り入れルートは、東北新幹線と並行する「A新幹線ルート」も検討されましたが、最終的に「B新幹線ルート」が有力だったようです。
「B新幹線ルート」は、東北貨物線を廃止して、その跡地に建設するものです。大宮駅から東北貨物線をたどり、赤羽から池袋を経て新宿に至る形で、現在の湘南・新宿ラインのルートに近い形です。東北貨物線は、武蔵野線の開業後に貨物列車が減少することから、新幹線用地に転用できるという皮算用でした。
東北新幹線は、大宮~盛岡間が1982年6月23日に先行開業し、1985年3月14日に上野~大宮間、1991年6月20日に東京~上野間がそれぞれ開業します。
一方、上越新幹線は1985年11月15日に大宮~新潟間が開業したものの、新宿~大宮間については、国鉄の経営悪化や分割民営化が議論されるなか、棚上げされます。上越新幹線の建設用地として想定されていた東北貨物線も、湘南新宿ラインとして通勤列車が運転されるようになり、いまさら新幹線に転用するのは困難になっていました。
その後、1988年に長野新幹線(北陸新幹線)の建設が決まった段階で、東京駅のホームが逼迫することから、上越新幹線の新宿駅乗り入れ計画が再検討されました。このときは、上記の「B新幹線ルート」を地下でたどる案が検討されています。しかし、建設費が7,000億円に達することから断念され、東京駅の新幹線ホームを増設することになりました。
2004年12月の政府与党申し合わせで、北海道新幹線新青森~新函館間の着工と北陸新幹線長野~金沢間のフル規格着工が決定すると、再び新宿~大宮間の新幹線計画が浮上します。このときは、自民党内で検討され、建設費6,000億円強と試算されました。
しかし、運営するJR東日本が建設に積極的な姿勢をみせなかったこともあり、新宿乗り入れ案は実現しませんでした。
今後、北海道新幹線の札幌延伸や、北陸新幹線の大阪方面への延伸が行われると、東京~大宮間の線路容量はさらに厳しくなります。2016年には、当時の麻生太郎財務相が「東京~大宮間がいっぱいだ。もう一本(線路を)引くのを計算しないと話は成り立たない」述べるなど、この区間の建設構想は、いまも根強く残っています。
上越新幹線新宿延伸のデータ
上越新幹線新宿延伸データ
営業構想事業者
未定(JR東日本)
整備構想事業者
未定
路線名
上越新幹線
区間・駅
新宿~大宮
距離
27.4km(在来線営業キロ)
想定輸送密度
--
総事業費
--
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
未定(第一種鉄道事業)
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
複線
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
上越新幹線新宿延伸の今後の見通し
整備新幹線の議論が湧き上がるときに、浮かんでは消えるのが、上越新幹線の新宿~大宮間の建設構想です。東北・北海道・山形・秋田・上越・北陸の新幹線を、東京~大宮間の複線だけで対応するには無理がある、という指摘は、古くからありました。
しかし、本当に東京~大宮間の新幹線がパンクするなら、上越・北陸新幹線の一部列車を大宮発着にすればいいだけの話、という冷めた指摘もあります。実際、東北・上越・北陸新幹線は、大宮からの利用客も多いので、それで何とかなるのかもしれません。
建設費が6,000億~7,000億円規模の新線というのは、事業化に向けて強く運動する組織がなければ実現しませんが、その役割を期待されるJR東日本にも熱意が見受けられません。地元の埼玉県や東京都にとっては人ごとですし、東北・上越新幹線の沿線自治体も、費用負担をしてまで建設を求めることはないでしょう。
こうしたことから、建設への議論はなかなか進みません。一方で、必要性はたしかに認められる路線なので、今後もしばらくは「未成線」として話題に浮かんでは消える、ということを繰り返しそうです。
北陸新幹線新大阪延伸
北陸新幹線は、東京都と大阪市を北陸経由で結ぶ新幹線です。2024年3月16日に敦賀まで開業しました。残る未開業区間は敦賀~新大阪間で、着工に向けた準備が進められています。
北陸新幹線は、最終的には、東京~金沢~新大阪間の路線となります。ただし、東京~高崎間は、東北・上越新幹線と線路を共用します。
北陸新幹線新大阪延伸の概要
北陸新幹線は、高崎駅~敦賀駅間470.6km(実キロ)が開業済みです。敦賀~新大阪間はルートが決定したのみで、着工時期や開業時期は未定です。
敦賀以西には、東小浜付近、京都、松井山手付近、新大阪に駅ができます。いずれの駅も在来線駅と併設される予定です。
東小浜付近の駅は、東小浜駅の西約1kmの小浜線との交点付近に設置します。京都駅は「東西案」「南北案」「桂川案」の3案がありますが、「東西案」「南北案」は京都駅に接着し、「桂川案」は桂川駅に接着します。
松井山手付近の駅は松井山手駅と接着します。新大阪駅は東海道新幹線の南側地下にできる予定です。
概算事業費と費用便益比
北陸新幹線の敦賀~新大阪間は「整備新幹線」として整備が進められています。 整備新幹線は、鉄道・運輸機構(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が新幹線施設を建設・保有し、営業主体であるJRに対して施設を貸し付ける枠組みです。貸付を受けるJR西日本は受益の範囲内で鉄道・運輸機構に貸付料を支払います。
北陸新幹線の敦賀~新大阪間の建設費(工事費)は、東西案が3.7兆円、南北案が3.9兆円、桂川案が3.4兆円となっています。物価上昇を加味した金額は、それぞれ5.3兆円、5.2兆円、4.8兆円です。
京都駅の工期は、東西案が28年、南北案が20年、桂川案が26年です。新大阪駅の工期は25年です。そのため、全線開通までの工期は、東西案が28年、南北案が25年、桂川案が26年となります。
北陸新幹線の新大阪延伸の費用便益比や収支採算性は公表されていません。
並行在来線問題
整備新幹線は、開業後、並行在来線がJRから切り離されるルールです。ただし、敦賀~新大阪間の並行在来線がどこになるかは、いまのところ明らかにされていません。
特急並行線区と考えれば湖西線が該当しますが、移管には滋賀県の同意が必要となります。滋賀県は同意しないでしょうから、湖西線を並行在来線とした場合、北陸新幹線の新大阪延伸は着工できません。そのため、湖西線を並行在来線にすることはなさそうです。
あり得るとすれば、小浜線の敦賀~小浜間でしょうか。ただ、並行在来線は並行する特急運行線区とする場合が多いので、小浜線も該当しないと受けとめることもできます。いずれにしろ、並行在来線問題は不透明です。
北陸新幹線新大阪延伸の沿革
長野開業まで
1970年に全国新幹線鉄道整備法が制定され、1973年に北陸新幹線の整備計画の決定と建設が指示されました。区間は東京都~大阪市間で、途中、高崎、長野、富山、金沢を経由するものです。
当時は、東北、上越、成田の3新幹線に続く次期建設路線とされていましたが、オイルショックや国鉄の経営悪化の影響を受けて着工は見合わせとなり、1982年9月24日に、北陸新幹線を含む整備新幹線全線の着工凍結が閣議決定されました。
1987年1月30日の閣議決定で着工凍結が解除された後、1988年8月に、運輸省が建設費を削減した暫定整備計画案を発表します。このときは、高崎~軽井沢間がフル規格、軽井沢~長野間がミニ新幹線、糸魚川~魚津間と高岡~金沢間がスーパー特急方式という内容でした。
なお、スーパー特急方式による高岡~金沢間は、並行在来線の経営分離区間を短縮したいとの地元の意向により、後に建設区間を石動~金沢間に変更しています。
1989年に高崎~軽井沢間が着工。1991年に長野市が1998年のオリンピック開催地に決定したことから、軽井沢~長野間もフル規格に変更となりました。高崎~長野間は、1997年10月1日に開業しています。
金沢延伸開業まで
長野~金沢間は、1992年8月に石動~金沢間、1993年10月に糸魚川~魚津間がスーパー特急として着工。1996年12月には、長野~上越間がフル規格で建設することが政府与党合意で決まり、1998年3月に着工しています。
さらに、2000年12月の政府与党申し合わせにより長野~富山間のフル規格一括整備が決定し、2001年5月に着工。そして、2004年12月の政府与党申し合わせで、長野~富山~金沢間のフル規格一括整備が決まり、2005年4月に富山~金沢間で着工しています。
このように、北陸新幹線は何度も政治的な合意を繰り返した結果として、長野~金沢間のフル規格化を達成し、2015年3月14日に開業しています。
敦賀延伸開業まで
金沢~敦賀間については、2008年12月に金沢~福井間と敦賀駅部を2009年末までに認可することで、政府・与党が合意します。しかし、2009年に政権交代すると、民主党新政権はこれを撤回します。
その後の議論を経て、野田政権が2011年12月に「整備新幹線の整備に関する基本方針」を決定し、金沢~敦賀間の建設方針が固まりました。2012年6月に金沢~敦賀間の工事実施計画が認可され、8月に着工しました。
この時点では2025年度開業の予定でしたが、その後、自民党が政権を奪回すると前倒しを検討、2022年度末(2023年春)の開業に変更されました。しかし、工事の遅延で延期となり、2023年度末(2024年春)開業目標に後ろ倒しされました。結局、敦賀まで開業したのは2024年3月16日です。
新大阪延伸へ
残る敦賀~新大阪間に関しては、「米原ルート」「湖西ルート」「小浜ルート」の3案が並立し、ルート決定がなかなか進みませんでした。
事態打開を狙うJR西日本が、2015年に「小浜・京都ルート」という新案を提言。与党の建設推進プロジェクトチームがこれを受け入れる形で、2016年12月に敦賀駅~小浜市~京都駅に至る「小浜・京都ルート」が決定しました。
この段階では京都~新大阪間のルートが未決定でしたが、2017年3月に京都駅~松井山手付近~新大阪駅に至る「南回りルート」を選択。敦賀~小浜~京都~松井山手~新大阪というルートに決定しました。
小浜・京都ルートの建設費は2兆1,000億円、想定工期は15年と概算されました。しかし、2029年8月に詳細駅位置とルートを公表した際に、3兆4,000億円~3兆9,000億円、想定工期は25年~28年と、大幅に上振れすることが明らかになっています。
北陸新幹線新大阪延伸のデータ
北陸新幹線新大阪延伸データ
営業構想事業者
JR西日本
整備構想事業者
鉄道・運輸機構
路線名
北陸新幹線
区間・駅
敦賀~新大阪
距離
144km(京都駅南北案)
想定輸送密度
40,400人キロ
総事業費
3兆9,000億円(京都駅南北案9
費用便益比
--
累積資金収支黒字転換年
--
種別
第一種鉄道事業
種類
新幹線鉄道
軌間
1,435mm
電化方式
交流25,000V
単線・複線
複線
開業予定時期
未定
備考
全国新幹線整備法
※データは「北陸新幹線京都〜新大阪間のルートに係る調査」(2017)及び「北陸新幹線(敦賀・新大阪間)詳細駅位置・ルート図(案)」(2024)
北陸新幹線新大阪延伸の今後の見通し
北陸新幹線の敦賀~新大阪間は、最新の試算で工期が25年以上かかることが明らかになっています。調査後、すぐに事業着手しても、開業は2050年代になります。
京都駅南北案を採用すれば、京都駅までの工期は約20年とやや短いので、敦賀~京都間の暫定開業を目指す可能性もあるでしょう。その場合でも、京都開業は、早くても2040年代後半になります。
予算の問題もあります。整備新幹線建設の財源は限られていて、直近の予算のほとんどは北海道新幹線札幌延伸に使われています。北陸新幹線新大阪延伸に予算が振り向け可能になるのは、北海道新幹線札幌開業後となります。
札幌延伸開業は2030年代半ばとみられていますので、そこから工事を本格的に始めるとなると、新大阪開業は2060年ごろになるかもしれません。
それではあまりにも遅すぎるので、何らかの予算措置が講じられる可能性はあるでしょう。とはいえ、現時点で決まっていることは何もありません。
事業着手が決まった以上、北陸新幹線の敦賀~新大阪間は、いずれ開業するとは思われます。ただ、それがいつになるか、明確に示すことはできません。