那覇市LRTは、沖縄県那覇市の真和志地域を中心にLRTを敷設する計画です。市街地の東西と南北に2ルート3区間を整備します。
那覇LRTの概要
那覇市では、モノレールと並ぶ交通軸としてLRTの導入計画を進めています。2024年3月28日に、LRT(次世代型路面電車)の整備計画の素案を公表しました。
素案によりますと、LRT導入が検討されているのは、東西ルートと南北ルートの2路線です。
先行整備をするのは東西ルートです。県庁北口~県立南部医療センター付近の約5kmを本線とし、県庁北口~若狭海浜公園付近の約1kmを支線とします。
具体的なルートをたどると、若狭海浜公園から、ゆいレールの県庁前付近を経由し、那覇高校前を経て開南せせらぎ通りを東へ向かい、開南交差点で南東に折れて開南本通りに入ります。寄宮十字路(真和志小学校前)で南北軸と交差し、真地久茂地線を東進して、県立南部医療センター付近が終点です。
南北ルートは、真玉橋付近~新都心地区の約5kmです。具体的なルートをたどると、那覇新都心から那覇中環状線をたどっておもろまち駅前を経て、真嘉比で南に折れます。松川を経て寄宮十字路で東西ルートと交差。そのまま南下して、真玉橋に至ります。
導入空間
導入空間は4車線道路で、中央2車線をLRT軌道とします。LRT軌道は1435mmの標準軌複線で、導入空間の幅は約7m。東西ルートの支線部分は単線として、幅約4mです。
停留所は約500m間隔で設置します。車両基地は立体都市公園制度を活用し、松山公園の地下に整備する予定です。
一般車両のLRT軌道内走行は、原則として禁止します。停留場は、交差点の横断歩道からアクセス可能な位置に整備することを想定しています。
所要時間と運行本数、車両
所要時間は、東西ルート本線が約19分、同支線が約8分。南北ルートは約17分です。
運行本数は、本線部がピーク時に毎時10本、オフピーク時に毎時6本、深夜早朝に毎時4本です。深夜早朝を除き、10分間隔以上の頻度で運行します。
東西ルートの支線部は毎時3本程度で、深夜早朝は毎時2本程度です。
導入車両は、全長30mの低床車両3両編成を想定します。定員160人で、うち座席定員は50人です。編成数は東西12、南北9の計21編成を想定します。
概算事業費と収支予測
事業スキームは上下分離方式となる見込みです。軌道運送事業者(上)が運行を担い、軌道整備事業者(下)が施設を整備・保有します。軌道運送事業者は第三セクター、軌道整備事業者は那覇市を想定します。
概算事業費は、東西ルート(本線・支線)が約320億円、南北ルートが約160億円の計480億円です。国の街路事業と都市・地域交通戦略推進事業制度の適用を受け、480億円のうち半分以上の約270億円を、国の交付金でまかなう想定です。
那覇市の実質的な負担は約210億円という計算です。
需要予測は、東西ルート(本線・支線)開業時で1日約15,000人、全線開業時には東西ルートとあわせて1日約21,900人を見込みます。
収支計画は、東西ルート開業時で約2.3億円の単年度黒字が出ると見込みます。全線開業時には約1.5億円の黒字です。
費用便益比(B/C)は、東西ルート(本線・支線)が30年で1.01、50年で1.20。全線開業時には、30年で1.15、50年で1.35と試算しました。いずれも、基準となる1を超える見通しです。
那覇LRTの沿革
那覇市には、戦前の一時期、路面電車が敷設されていました。通堂~首里間6.9kmで、那覇港周辺から市街地を経て首里に至る路線です。1917年に全線開業、1933年に全線廃止という短命路線でした。このとき、首里から真和志に至る路線も計画されていましたが、実現はしませんでした。
戦後、那覇市内の道路渋滞が激しくなると、那覇市内に軌道系交通機関を敷設する計画が浮上し、「ゆいレール」として結実します。ゆいレールは那覇市中心部と首里を結んでおり、経路こそ違うものの、戦前の路面電車の生まれ変わりともいえます。
一方で、新たに路面電車を敷設する計画も浮上しました。明確にいつ浮上したかは定かではありませんが、どうやら1990年代に国際通りに路面電車を走らせようという構想が浮上してきたようです。
2000年に那覇市長に当選した翁長雄志氏は、選挙中に国際通りや平和通りに路面電車を敷設することを訴えました。同氏の公約だったわけです。同市長は、2004年の再選後、12月の定例市議会で「新世代路面電車の敷設」を政策目標の一つとして掲げました。
この新世代路面電車がLRTで、那覇市はこの頃から市内にLRTの敷設の調査を開始したようです。同定例会で、翁長市長は、象徴的な例として新都心から国際通りへの路線をあげています。
その後、那覇市では、2003年度に中心市街地まちづくり交通計画調査、2005年度に那覇市における新たな公共交通に関する基礎調査などを行い、そのなかで新型路面電車を含めた公共交通システム調査をおこないました。
この調査では、国際通りと新都心や真和志地域などを結ぶルートのケーススタディを行い、事業費や走行空間の条件といった課題整理をしています。このケーススタディは、14kmのLRTを導入した場合、概算事業費として約320億円、1kmあたりに約23億円がかかると試算しました。
2009年には那覇市交通基本計画を策定。那覇市・沖縄市間を南北に、那覇市・与那原町間を東西に、それぞれ結ぶルートを広域的な公共交通の基幹軸として位置づけました。さらに、モノレールと結節し、真和志地域と中心市街地、中心市街地と新都心を結ぶルートを市域内の公共交通の基幹軸として位置づけました。
この東西の基幹軸として想定されていたのがLRTです。つまり、この時点では、LRTは、国際通りではなく、那覇中心部~真和志~与那原を結ぶ交通機関という位置づけになっていたわけです。
2012年の市議会定例会では、当時の都市計画部長から、「那覇~与那原間のLRT導入につきましては、市町村をまたぐ広域的な交通計画であり、現在、国において軌道系導入に向けた可能性調査を実施中」という答弁がありました。
2014年には、翁長氏の後を継いで、城間幹子氏が那覇市長に当選。城間市長もLRT建設を公約に掲げていたため、LRTの調査を継続します。
2018年3月には、「初期段階のLRT導入可能性調査」がまとまり、3つのルート素案が公表されました。旭橋付近から東西に延びるルートを基本とし、3つの素案を設定しました。
素案1は、東西軸をもう一本作る案(約5.1km)、素案2は副都心へ伸びる案(約4.8km)、素案3は、那覇北部を周回する案(約6.6km)です。
概算事業費は素案1が約322億円、素案2が約323億円、素案3が約529億円です。1日あたりの予想利用者数は、素案1が約9,600人、素案2が約11,300人、素案3が13,700人となりました。
収支採算性では、単年度収支が素案1が 1,600万円の黒字、素案2が1億900万円の黒字、素案3が7,800万円の黒字と予想しています。
その後、2019年度に、導入調査報告書を基にした那覇市地域公共交通網形成計画(網形成計画)の骨子案が公表されました。そのなかにLRT計画も盛り込まれ、ルートは素案2が採用されています。旭橋~真和志(寄宮)~県立南部医療センターを結ぶ東西路線と、上之屋~おもろまち~真和志(寄宮)~真玉橋に至る南北路線です。
網形成計画では「真和志地区と中心市街地、新都心地域を結ぶわかりやすいルート設定」を掲げ、真和志を中心としたエリアにLRTを整備する方針を明記しました。このLRTが、真和志地区の交通改善を主目的にした路線であることがはっきり示されたわけです。
その後、2024年3月28日に、那覇LRT整備計画素案が発表されました。網形成計画に沿ったルート案を具体化した内容です。知念覚市長は、開業は早くても2030年代半ばになるとの見通しを示しました。
那覇LRTのデータ
営業構想事業者 | 未定 |
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整備構想事業者 | 那覇市 |
路線名 | 東西ルート、南北ルート |
区間・駅 | 県庁北口~県立南部医療センター付近(東西ルート本線) 県庁北口~若狭海浜公園付近(東西ルート支線) 真玉橋付近~新都心地区(南北ルート) |
距離 | 約11km(東西ルート本線5km、同支線1km、南北ルート5km) |
想定利用者数 | 21,900人/日(全線開通時) |
総事業費 | 約480億円(全線) |
費用便益比 | 1.15 |
単年度収支黒字化 | 1年 |
種別 | 軌道事業 |
種類 | 軌道 |
軌間 | 1,435mm |
電化方式 | 未定 |
単線・複線 | 複線(支線は単線) |
開業予定時期 | 2040年頃 |
備考 | 街路事業、都市・地域交通戦略推進事業 |
※データは主に『那覇市LRT整備計画素案』(2024年3月)より。
那覇LRTの今後の見通し
那覇市LRTは、当初は国際通りと新都心を結ぶ象徴的な新交通機関として語られてきました。その後、那覇~与那原を結ぶ基軸交通という位置づけになり、そのうちの那覇市内が切り取られ、市中心部と真和志、県立南部医療センターを結ぶ生活路線という形に収束しました。
おおざっぱにいえば、那覇東部への公共交通が貧弱なので、その解決策として選挙公約だったLRT事業が当てはめられたという観があります。
実際のところ、想定経路に軌道を敷設するのは簡単ではなさそうです。導入予定の道路には片側1車線の区間もあり、LRTの専用軌道を導入するには不十分です。2車線道路区間にしても、1車線を専用軌道に供して問題ないのか、という不安もあるでしょう。実際に導入する場合、マイカー利用者から強い反対が起こる可能性が高そうです。
しかも、真和志方面は勾配が多く、一部区間で道路の勾配が40パーミル~60パーミルを超えたり、停留所の多数が縦断勾配10パーミル以上になるという問題もあります。こうした路線に鉄軌道が適しているのか、という疑問もあります。
那覇市東部に軌道系交通機関を導入するという大きな政策目標に異論は少ないとみられますが、具体論に入ると課題は山積しています。
那覇市では、事業化に向けた調査を2024年3月に取りまとめ、事業化へ向けた調整に入りました。関係機関と協議し、市民からのパブリックコメントを反映したうえで、整備計画をとりまとめます。さらに、都市計画決定、会社設立、軌道法特許取得などを経て着工となります。
那覇市では、2026年度末までの整備計画策定、2040年度の東西ルート先行開業を目指していますが、現状で道路幅員が十分確保できていない部分もあるため、開業見通しが明確になっているとはいえません。
全線開業すれば、計11kmのLRT路線が那覇市に出現します。ほぼ全線が併用軌道とみられ、路面電車として全国的にも中規模の路線網になりそうです。
ただ、建設までのハードルは低いとはいえず、現時点では予定通り実現できるか、不透明な印象もあります。
【参考資料アーカイブ】
『那覇市LRT整備計画素案(2024)』[PDF]