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石狩市都市型ロープウェイ計画

石狩市ロープウェイ

北海道石狩市は、新たな軌道系交通として都市型ロープウェイの導入を計画しています。 国土交通省の「先導的官民連携支援事業」に採択され、検討が進められることになりました。石狩市が導入可能性調査を実施しています。 石狩市都市型ロープウェイの概要 石狩市では、公共交通として、路線バスとタクシーが運行されています。路線バスは2023年11月現在で全26系統が存在しますが、いずれも市内で完結せず、札幌市と跨いだ運行となっています。 しかし、バスやタクシーでは積雪期に安定した運行ができませんし、交通渋滞の問題もあります。そのため、札幌市とを結ぶ軌道系交通機関の構想が断続的に検討されてきました。ただ、採算性などがカベとなり、実現にいたっていません。 一方、「石狩湾新港地域開発基本計画」や「石狩湾新港地域土地利用計画」では、札幌市中央部との連絡や通勤の円滑化を図るため、鉄軌道系交通やバス路線など公共交通網の整備について検討を行うこととなっています。 そこで新たに浮上したのが、都市型モノレールの建設計画です。渋滞・気候に関係なく安定して利用できる移動手段として、新たな軌道系交通の導入を目指すものです。 この計画は、2023年度に国土交通省の「先導的官民連携支援事業」に採択され、石狩市は補助金1394万円を得て、調査に着手しました。 2023年11月に事業概要が公表され、3つのルート案が明らかになりました。「手稲ルート」「麻生ルート」「栄町ルート」の3案です。いずれも石狩湾新港地区を起点とし、石狩市中心部の花川地区を経由してJRや地下鉄の駅を結びます。栄町ルートは、緑苑台を経て丘珠空港までを結ぶルートを想定しています。   2024年2月には「官民連携手法による新たな軌道系交通の導入可能性調査報告書」がまとまり、同年9月に公表されました。それによると、年間乗車人員は麻生ルートの305万人が圧倒的で、手稲ルートの76万人、栄町ルートの58万人を大きく引き離しました。 概算事業費は麻生ルート266億円、手稲ルート232億円、栄町ルート252億円です。麻生ルートが高いものの大差はありません。利用者を勘案すれば麻生ルートが圧倒的に優勢で、事実上選定ルートに決定したとみてよさそうです。 麻生ルートの距離は12.5kmで、途中12駅を設けます。駅位置などは未発表です。下図は、起点を石狩新港のコストコ付近、終点を麻生駅付近として、筆者が独自に当て込んだものです。実際の想定ルートとは異なりますが、参考までに掲載します。   今後の予定は、2025~26年度に整備・運営事業者の公募・選定をおこない、2027~32年度に設計・施工を実施、2032年度の開業を目指すスケジュールです。工事着手から開業まで5年と短いのが特徴です。 石狩市都市型ロープウェイの沿革 石狩市の鉄道計画は古くからあります。1956年には石狩鉄道が設立され、石狩市街地と札幌市北十条(桑園)とを結ぶ路線の免許も取得、起工式まで行われました。しかし、資金不足で開業には至りませんでした。 1985年には石狩モノレール構想が打ち出され、栄町駅や麻生駅から石狩市中心部を結ぶ3つのルート案も公表されました。その後も、新交通システムや鉄道による整備案など、数多くの鉄軌道計画が浮上しています。しかし、いずれも事業性に難があり、実現には至っていません。 そうしたなかで浮上してきたのが、都市型ロープウェイ計画です。2023年に、石狩市が国土交通省の「先導的官民連携支援事業」の補助金を用いて都市型ロープウェイなどの軌道系交通機関について再検討することを表明しました。 この計画は、石狩市内で発電された再生可能電力を活用した脱炭素型の運営とするのが特徴です。軌道ルートを用いて電力網を構築し、近隣市町村への配電も行う計画となっている点が「先導的」とみなされたようです。 2023年11月には、3つのルート案が公表され、供用開始の目標を2032年度とすることが明らかになりました。2024年2月に調査報告書がまとまり、同年9月に公表されています。   石狩市都市型ロープウェイのデータ 石狩市都市型ロープウェイデータ 営業構想事業者 未定 整備構想事業者 未定 路線名 未定 区間・駅 石狩新港~麻生駅 距離 12.5km 想定利用者数 年間305.5万人 総事業費 266億円 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 索道事業 種類 索道 軌間 -- 電化方式 -- 単線・複線 -- 開業予定時期 2032年度 備考 先導的官民連携支援事業 ※データは『官民連携手法による新たな軌道系交通の導入可能性調査報告書』(石狩市)より 石狩市都市型ロープウェイの今後の見通し 石狩市の都市型ロープウェイ計画については、2024年に調査結果が公表された段階です。実現性については、まだ何とも言えません。 ロープウェイ(ゴンドラ)はスキー場に多く設置されているように、風雪に強く、北海道のような過酷な環境でも稼働できます。ただ、基本的には直線でしか敷設できないので、設置可能な区間が限られるという問題がありました。 そこへ、カーブも設定できる「Zippar」という自走式ロープウェイがベンチャー企業によって開発されることになりました。石狩市の計画もZippar導入を前提としているようですが、2024年現在では実験段階の技術で、実用化されるかは定かではありません。 Zipparを導入するのであれば、試験線を市内に作るなどの事業を先行させるかもしれません。試験のうえ、問題ないということであれば、札幌市の協力を得て、麻生ルートで実現を図ることになるでしょう。 ただ、目標とする2032年度開業が可能かというと、やや難しい印象もあります。
第2青函トンネル

第2青函トンネル

第2青函トンネルは、津軽海峡に新たなトンネルを堀り、貨物列車専用線を作る計画です。実現すれば、現青函トンネルの貨物共用問題が解決し、新幹線の速度向上につながります。 第2青函トンネルの概要 現在の青函トンネルは、新幹線と貨物列車が同じ線路を共用しています。遅い貨物列車に新幹線が速度を合わせなければならないので、新幹線の制限速度が抑えられるという問題があります。この問題を抜本的に解決するためには、青函トンネルから貨物列車を分離する必要があります。 また、現在、津軽海峡を渡る道路はありません。そのため、バス、トラック、自家用車が北海道と本州を行き来する場合、フェリーを使う必要があります。こうした状況を改善するために、道路と貨物鉄道線用のトンネルを新設するプロジェクトが、第2青函トンネル構想です。 第2青函トンネルに関して、現時点で国として決定したことはありません。ただ、複数の民間団体などが試案を発表しています。そのなかで最も注目を浴びているのが2020年11月に日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が発表した「津軽海峡トンネルプロジェクト」です。当記事では、この私案について紹介します。   構造 第2青函トンネルは、現在の青函トンネルと並行する形で掘削し、本州側の三厩と、北海道側の福島をつなぎます。 トンネル上部が自動運転車専用の片側1車線道路、下部が貨物鉄道の線路と避難通路兼緊急車両走行道路となります。貨物線は単線で、旅客列車の走行は想定しません。トンネル延長は31kmです。 貨物鉄道線は、本州側が三厩まで、北海道側が木古内までのアクセス線を建設し、それぞれ津軽線、道南いさりび鉄道と接続します。アクセス線は本州側12km、北海道側35kmです。これにより、中小国~木古内間に新たな貨物列車のルートができあがります。 道路については、本州側は東北自動車道の青森インターまでの60kmのアクセス道路を作ります。北海道側は松前半島道路に接続します。松前半島道路はすでに計画されている地域高規格道路で、函館江差道を経て道央自動車道に接続し、札幌方面へつながります。これらが全て完成すれば、東京から札幌が高速道路でつながります。 第2青函トンネルは、内径15mの円形を想定しています。青函トンネルは内径9.6mですので、その1.5倍です。建設中の外環道の3車線トンネルの内径14.5mとほぼ同じ大きさです。 新トンネルは、海底下30mを通り、最大勾配25パーミルで地上とつなぎます。青函トンネルは海底下100m、最大勾配12パーミルなので、新トンネルはかなり浅い位置に、急な勾配で掘ることになります。その結果、31kmという短い距離で津軽海峡を抜けられるわけです。青函トンネルの53.85mに比べて40%も短いトンネルになります。 上述したように、線路は単線です。途中に交換設備を設けるのか定かではありませんが、作らないのであれば、30km以上の長大区間ですれ違いができないことになります。 開業効果 第2青函トンネルができても、貨物列車の所要時間は、現行と大きくは変わらないと見られます。ただし、単線のためダイヤ上、大きな制約が生じるでしょう。 鉄道で大きな効果が得られるのは、新幹線です。現在の青函トンネルが新幹線専用になるため、160km/hに抑えられている最高速度の向上が実現します。 JAPIC資料によれば、青函トンネルを含む盛岡~札幌間の最高速度が320km/hになることで、東京~札幌間が4時間33分に。全線の最高速度が350km/hになることで、約4時間になります。 青函トンネルの傾斜を考えると、トンネル内で350km/h運転は難しそうですが、260km/h運転でも時間短縮の効果はあります。 自動車の所要時間としては、函館~青森間が2時間30分となり、現状の5時間に比べ半減します。   総事業費とスキーム 総事業費はトンネル部分が7,200億円と試算。東北自動車道へのアクセス道路60kmの整備費2,500億円と、貨物鉄道の三厩、木古内アクセス路線の整備費1,500億円を別途見込みます。合わせると1兆1,200億円となります。通行料金は、大型車18,000円、普通車9,000円と仮定しています。 事業方式としては、PFI事業・BTO方式のサービス購入型を検討します。PFI事業というのは、民間の資金や技術、能力を活用して、公共施設等の建設、維持管理、運営などを行う手法です。 BTO方式とは、民間事業者が施設を建設し、施設完成直後に公共団体に所有権を移転し、民間事業者が維持管理、運営を行う方式です。 サービス購入型とは、民間の管理運営者に対して、公共団体が民間にサービス購入料を支払い、施設整備費及び維持管理運営費を回収する方式です。 具体的には、国や独立行政法人などが第2青函トンネルを保有し、特別目的会社(SPC)が運営する手法を検討しています。こうした手法で、32年で投資を回収できるとしています。 事業期間は、調査設計から数えて完成まで約15年を見込みます。 第2青函トンネルの沿革 第2青函トンネルを求める声が浮上したのは、2014年頃。2016年の北海道新幹線開業を前に、現青函トンネルでの貨物共用問題が浮上してからです。せっかく新幹線ができても、高速走行ができないことがわかり、2014年6月に、青森県議会の阿部広悦議長が国土交通省に、新トンネル建設を非公式な要望として伝えました。 こうした声を受け、2016年に日本建設業連合会鉄道工事委員会が、鉄道トンネルとして「第2津軽海峡線建設構想」を取りまとめました。さらに、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が、2017年2月に、貨物列車用と自動車用の2本のトンネルを新たに建設し、トンネル内に送電線やガスパイプラインを敷設する構想を発表して続きます。 2018年には、その案をベースに、道内の有識者で構成する第二青函多用途トンネル構想研究会が、場部に片側1車線の道路、下部に緊急用車両走行路と避難通路を設置する案を発表しました。これを改善する形で、2020年には、JAPICが道路トンネルと貨物鉄道トンネルを合体させる改定案を発表しました。それが上記で紹介した案です。   第2青函トンネルのデータ 第2青函トンネルのデータ 営業構想事業者 未定 整備構想事業者 未定 路線名 未定 区間・駅 三厩~木古内 距離 トンネル部:31km接続部:三厩~トンネル12km、トンネル~木古内35km 想定利用者数 -- 総事業費 1兆1200億円 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 -- 種類 普通鉄道 軌間 1067mm 電化方式 直流1500V 単線・複線 単線 開業予定時期 未定 備考 -- ※データは『今後推進すべきインフラプロジェクト』(JAPIC)より 第2青函トンネルの今後の見通し 第2青函トンネル構想は、民間ベースの議論の域を出ておらず、国交省が関わった本格的な検討には入っていません。当記事で紹介したJAPIC案も私案にすぎず、要するにたたき台です。したがって、まずはトンネルを掘るという方向性を政府が決める必要があります。 そのうえで事業化に着手するわけですが、JAPIC案の場合、工期は15年。すぐに着手したとして、開通は2040年代となります。実際に、事業化決定までに時間がかかるので、開通するとしても2050年にできれば早いほうだと思います。 ただ、まったく実現性がない夢物語かというとそうでもなく、津軽海峡に道路トンネルが必要という認識は広まりつつあります。完成すれば日本の国土軸を構成するインフラですから、作って無駄になることはありません。「お金がかかりすぎる」ことだけが問題です。実際、事業費が1兆円規模の大プロジェクトのため、作ると決めてもすぐにはできないでしょう。 また、上記私案はコスト削減のために余裕がなさすぎて、本当に作ると決めても、こんな窮屈なものでいいのかと、それはそれで議論になるでしょう。実際に作るとなれば、もう少し余裕のある形になるのでは、という気もします。 第2青函トンネルは、いずれできるだろうとは思います。しかし、それがいつになるのかは見通せません。
富士山登山鉄道

富士山登山鉄道

富士山登山鉄道は、富士スバルライン上にLRTを敷設する構想です。富士山吉田口五合目へのアクセスを、現在の道路交通から登山鉄道に転換するもので、山梨県が主体となって計画の検討をすすめています。 富士山登山鉄道の概要 「富士山登山鉄道」構想は、富士山への来訪者が激増するなか、自動車交通を主体としたアクセスを抜本的に見直し、五合目のライフラインの整備を行おうというものです。 山梨県が設置した富士山登山鉄道構想検討会が2019年から検討を開始し、2020年12月に『富士山登山鉄道構想』をとりまとめました。2024年10月には、事業化検討に係る『中間報告』と『技術課題調査検討結果』も公表しています。 富士山登山鉄道は、環境負荷が少なく輸送力のある鉄道を導入して来訪者増に備える一方で、全車指定席の定員制とし来訪者数をコントロールするのが目的です。また、軌道整備と同時にライフラインも整備し、五合目まで電気や上下水道を引くという副次的な目的もあります。 システムはLRTを想定。比較的氷雪に強く、緊急車両との併用が可能なためです。緊急事態の際に、軌道上を救急車や消防車が走れるのが、普通鉄道などにはないメリットです。ただし、急勾配・急曲線に対応したLRTは日本に存在せず、車両開発ができるかが焦点です。   ルートと駅位置 『富士山登山鉄道構想』(2020年)に沿って計画を紹介していきましょう。 富士山登山鉄道は富士スバルラインをそのまま活用します。したがって、ルートは現在の富士スバルラインそのものです。 スバルラインに複線軌道を敷設しLRTを走らせる構想とし、道路の拡幅などの改変は原則としておこないません。スバルラインの車道幅員は約6.5mで、最急曲線でも幅員内にLRT軌道を複線で設置することは可能です。   道路にはあらかじめレール溝を刻んで成形したコンクリートブロックを埋設し、ライフライン用管路を併設します。山麓を起点とし、五合目までの区間を整備します。総延長は28.8kmです。 起点となる山麓駅は、東富士五湖道路の富士吉田料金所付近です。山麓駅には駅施設や交通広場を設置。パーク・アンド・ライド駐車場や車両基地も整備します。富士急行河口湖駅から約2km離れていますが、市街地などへの延伸については将来的な検討課題としました。 終点となる五合目駅は、富士スバルライン終点に設けます。半地下式を想定し、店舗など含めた五合目全体の空間再編をあわせて検討します。五合目以降の延伸はしません。 中間駅は4駅想定しています。既存の駐車場空間を活用する方針で、展望景観に優れる場所、既存遊歩道等との結節点が候補となります。 起点の標高は1088m(料金所)で、五合目は2305mです。標高差1217mを駆け抜ける鉄道路線となります。実現すれば、五合目は日本最高所の鉄道駅となります。   車両は蓄電池車両 車両は蓄電池車両の使用を想定し、架線レスとします。バッテリーなどの機器を搭載しやすいように、軌間は1435mmです。 スバルラインの最小曲線半径は30m、最急勾配は8%です。これに対応する車両として、10m×3車体で1編成とし、最大2編成を連結します。 つまり最長6連のLRTが走ることになります。1編成(3両)の車両長は30mで、最長60mの列車となります。 1編成の定員は120人で、着席利用を基本とする定員制とします。合計で24編成を用意します。 最高速度は40km/hですが、下りは25km/hに制限します。急曲線部では上下とも10km/hです。このため所要時間は上り52分、下り74分と差が付き、五合目から山麓へ下るほうが時間がかかります。 列車は乗ること自体を楽しめるデザインやサービスとします。たとえば、車内での飲食の提供や、モニターでのガイダンスの提供などを検討します。 運賃は往復1万円~2万円と想定。年間鉄道利用者数は、1万円なら310万人、2万円なら120万人で、100万人~300万人と見積もっています。   総事業費と収支予測 概算事業費は全体で1200億円~1400億円程度と試算。内訳は軌道、駅、車両基地などに560億円、電力・通信設備などに500億円、車両に170億円、ライフライン整備費に100億円などとなっています。 収支予測に関しては、運賃往復1万円で、年間300万人が利用し、総事業費が1400億円と仮定した場合、単年度損益は開業初年度から黒字。累積損益も開業2年度で黒字となります。資金収支は開業初年度から黒字となります。 事業スキームは上下一体、上下分離の双方を検討。国土交通省の支援スキームは都市型LRTを想定しているため、この計画には適用できないようです。   技術的な課題 以上が2020年に公表された『富士山登山鉄道構想』で示された概要です。その後、2024年10月に『中間報告』と『技術課題調査検討結果』が公表されて、実現への課題が示されました。 それによると、富士スバルラインは平均52パーミル、最高88パーミルの急勾配がありますが、日本におけるLRTの縦断勾配の最大値は60パーミル(宇都宮)にとどまります。 対応するには、急勾配を登れる大容量のインバータ・モータの搭載が必要で、安全に降れるブレーキシステムの確保や、回生失効に備えた対策なども必要です。 また、蓄電池のみの架線レスは困難で、第三軌条と蓄電池を併用した車両に優位性があるとしています。 まとめると、富士山登山鉄道には、第三軌条とバッテリーを併用したLRT車両が必要となります。その車両は、高い登坂力と強い制動力を兼ね備え、耐寒・耐風・耐雪性能に優れていなければなりません。 そんな車両は日本に存在しませんので、新規開発が必要です。その開発期間は10年程度が見込まれます。技術的なハードルは高いので、10年でそうした車両が完成する確たる見込みもありません。 富士山登山鉄道の沿革 富士山に登山鉄道を建設するという構想は昔からあり、1935年には山麓と山頂を結ぶ「地下ケーブルカー構想」の計画が浮上。1940年に予定されていた東京オリンピックを視野に入れた計画でしたが、同オリンピックの開催中止とともに立ち消えになりました。 戦後、1960年代に富士急行が山頂へのケーブルカーを敷設する構想を発表。このときは、富士山にトンネルを掘り、5合目~8合目間と、8合目~頂上間に分けて、それぞれケーブルカーを建設する構想でした。 この構想は、1963年に「富士山地下鋼索鉄道」として免許申請にまで至りました。しかし、環境面への懸念から反対論がわき上がり、結局、1974年に申請を取り下げ。以後、富士山登山鉄道に具体的な動きはありませんでした。 再び動きが出るのは、2000年代になってからです。2008年11月に、富士五湖観光連盟が富士スバルラインに単線の線路を敷設して5合目まで結ぶ構想を発表。背景として、冬場の観光客誘致の狙いがありました。このときは、観光連盟の会長でもある富士急行の堀内光一郎社長が、登山鉄道を富士急と接続させ、JR線を使って成田空港ともつながる構想まで提唱しています。つまり、普通鉄道として構想されていました。 2013年6月、富士山の世界文化遺産登録を受けて、堀内社長が富士スバルラインの敷地を使って5合目までを結ぶ観光用鉄道の計画を発表。2019年に、富士山登山鉄道の検討を公約に掲げた長崎幸太郎が知事に就任すると、山梨県が「富士山登山鉄道構想検討会」を発足させ、本格的な議論を開始しました。 検討会での議論の末、2020年12月に、富士スバルライン上にLRTを敷設計画を素案として発表。2021年2月8日に開かれた検討会の総会で、正式に「富士山登山鉄道構想」を了承するに至りました。 2023年秋には、山梨県が事業化に向けた検討会を発足させ、技術課題や収益性などの議論を開始。2024年10月に中間報告などを公表しています。   富士山登山鉄道のデータ 富士山登山鉄道データ 営業構想事業者 未定 整備構想事業者 未定 路線名 未定 区間・駅 山麓(富士吉田料金所付近)~吉田口五合目(中間4駅程度) 距離 約28.8km 想定利用者数 約100~約300万人/年 総事業費 約1,200億~約1,400億円 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 未定 種類 軌道 軌間 1,435mm 電化方式 第三軌条と蓄電池の併用 単線・複線 複線 開業予定時期 未定 備考 富士山登山鉄道の今後の見通し 「富士山登山鉄道構想検討会」がまとめた『構想』を読み進めると、富士山登山鉄道は十分に現実感があるように思えます。しかし、2024年に公表された『技術課題調査検討結果』を読み込むと、技術的なハードルはかなり高いことがうかがえます。 第三軌条にバッテリーを組み合わせて十分な電力を確保し、登坂力・制動力・耐寒性能に優れた新型車両を開発して、増粘着材を散布しながら走らせる、という話です。そんなことが果たして可能なのか?という疑念はぬぐえません。 山梨県は、「技術的に可能」としていますが、「不可能ではない」という程度の可能性にとどまる印象です。車両の開発のメドが立たない限り、実現性は低いといわざるをえません。 いまのところ、事業着手の見通しはなく、開業時期も未定です。車両の技術的な問題が解決する前に着工するわけにはいかないでしょうから、車両開発に10年かかるとすれば、着工はその後となります。となると、すべてが順調に進んでも、開業は2040年代の話になるでしょう。 筆者の感想をいえば、技術的に可能としても、山頂近くまで行けるならともかく、五合目まで行くだけなのに鉄道利用必須となると、面倒くさそうです。鉄道そのものを魅力あるものにして、乗るだけで楽しくなるような仕掛けにしないと、利用者は伸び悩むのではないか、という気もします。 実現すれば、バスで吉田口五合目へ行けなくなるわけで、登山客は山麓駅でLRTへの乗り換えを強いられます。しかも山麓から五合目に行くだけで1万円もとられるのであれば、登山客には不評でしょう。これまで吉田口を使っていた登山ツアーが、他の登山口に流れる可能性もあり、そうした調整などもまだこれからです。 また、地元も山梨県が計画に前向きな一方、富士吉田市や富士急行はいまの計画に反対の姿勢のようで、一枚岩ではありません。 富士山に登山鉄道というのは夢のある話題ですが、本当に実現するかは、何とも言えない、という段階でしょうか。
新潟空港アクセス鉄道

新潟空港アクセス鉄道

新潟空港アクセス鉄道は、新潟駅~新潟空港を結ぶ鉄道新線計画です。上越新幹線を延伸する計画と、JR白新線から分岐する在来線延伸計画があります。 新潟空港アクセス鉄道の概要 新潟県は新潟空港のアクセス改善について検討しています。その方法の一つが空港アクセス鉄道の建設です。2016年5月に『平成28年度新潟空港アクセス調査業務委託報告書』が公表され、2017年12月に、それに基づいた『新潟空港アクセス改善の基本的考え方』がまとめられています。 『基本的考え方』では、新幹線と在来線のアクセス案を併記しています。新幹線延伸案の想定ルートは、新潟駅~新幹線車両基地~新潟空港です。路線延長は11.5km、想定所要時間は11分、運賃は440円、事業費は422億円と見込んでいます。当該区間は在来線扱いですが、列車は上越新幹線との直通運転が可能で、新幹線沿線や首都圏へのアクセスで利便性があります。   在来線延伸案は、新潟駅~大形駅~新潟空港です。大形~新潟空港の距離は約5.4km、新潟駅~新潟空港の距離は12.3km、想定所要時間は16分、運賃は410円、事業費は308億円と見込まれています。在来線各方面との直通運転が可能で、新潟市近郊や庄内、会津方面からのアクセスで利便性が上がります。中間駅を設けることによって、都市内の交通需要も取り込むことにより、採算性が改善する可能性もあるとしています。 そのほか、LRTやモノレール、新交通システムといった軌道系アクセスも検討されています。想定ルートは新潟駅~新潟市内各所(万代シティ、佐渡汽船など)~新潟空港です。所要時間はルートによって変わりますが、20分程度。概算事業費は225億円~2,250億円と幅があります。比較的ルート設定の自由度が高く、新潟市内主要施設とのアクセスや新潟市内都市交通との連携で利便性があります。 報告書では、これら軌道系交通機関について「交通ネットワークの選択肢を増やすという観点では有益」としながらも、「新潟空港の年間 100 万人位の需要では、なかなか採算は取れない」として、消極的な姿勢が記されました。新幹線延伸案と在来線延伸案を比べた場合については、事業費は高くなるものの、新幹線延伸案のほうがメリットがある旨の表記になっています。 最終的に『新潟空港アクセス改善の基本的考え方』では、新幹線延伸案を含む軌道系アクセスは「利用者増加などの効果も期待されるものの、不確実な要素や採算性等の課題も多く、現時点で整備着手を判断できる状況にない」として、先送りとなりました。 新潟空港アクセス鉄道の沿革 新潟空港は、新潟駅から直線距離で約6.4kmの位置にあり、距離としては遠くありません。そのため、1980年代から新潟駅と空港とを結ぶ空港連絡鉄道の整備構想が浮上しています。 常に話題になるのが、上越新幹線の延伸です。上越新幹線には、新潟駅から新潟新幹線車両センター(車両基地)へ5.1kmの回送線があり、これを利用すれば6km程度の新線建設で新潟空港に乗り入れることができるからです。 一方、在来線を活用する構想には、信越本線の貨物支線(臨港貨物線)を延伸する案と、白新線の大形駅から新線を建設する案が浮上しました。この両案では白新線案が中心として検討されています。 いずれのアクセス鉄道案でも、事業費が数百億円規模になるため、年間利用者が100万人程度の新潟空港では採算を取るのは困難で、なかなか実現に至っていません。 2015年には、新潟空港アクセス鉄道に関する調査予算が計上され、委託を受けたみずほ総研が調査をし、2016年に『新潟空港アクセス調査業務委託報告書』として結果がまとめられました。2017年には、それを基に新潟空港アクセス改善協議会が設置され、3回に渡って協議が行われています。 その結論として、2017年12月に『新潟空港アクセス改善の基本的考え方』がまとめられ、採算性などの問題を挙げ、「現時点で整備着手を判断できる状況にないため、長期的な需要動向等を見極めつつ、再度検討・意思決定を行う必要がある」として、事実上の先送りとなりました。 2023年7月にまとめられた『新潟空港将来ビジョン』では、「軌道系アクセス等の検討」について、「空港利用者135万人を達成又は2025(令和7)年度を経過した段階」で実施することが記されています。このため、2025年度以降に再び新潟空港アクセス鉄道の検討がおこなわれる可能性があります。   新潟空港アクセス鉄道のデータ 新潟空港アクセス鉄道のデータ 営業構想事業者 未定 整備構想事業者 未定 路線名 未定 区間・駅 新潟駅~新潟空港 距離 11.5km(新幹線) 想定利用者数 -- 総事業費 422億円(新幹線) 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 -- 種類 普通鉄道 軌間 1435mm 電化方式 交流25000V 単線・複線 未定 開業予定時期 未定 備考 -- ※データは『平成28年度新潟空港アクセス調査業務委託報告書』より 新潟空港アクセス鉄道の今後の見通し 新潟空港アクセス鉄道は、新潟県にとっては永年の悲願です。しかし、新潟空港にはドル箱の羽田便がなく、利用者が限られるため、これまでアクセス鉄道は実現してきませんでした。 これまでの議論で、軌道系新線を建設するなら新幹線の延伸という方向性が濃くなってきたように思えます。実現したら、新潟県の中越地域や群馬県北部からの空港アクセスが劇的に改善するでしょう。その意味で、広い波及効果が望める構想なのですが、肝心の空港の発着便数が増えなければ、鉄道アクセスを充実させる意味はありません。 新幹線の実質的な建設距離は6kmほどで、利用者さえ見込めれば事業へのハードルはそれほど高くなさそうです。言い換えれば、少なすぎる空港利用者数こそが、空港アクセス鉄道建設へ向けての最大のハードルとなっているわけです。 しかし、新潟は新幹線による東京へのアクセスがいいため、飛行機の羽田線は望めません。ドル箱の羽田路線がないと空港利用者を増やすには限界があり、空港アクセス鉄道建設の進展も期待薄といえます。
岡山駅路面電車乗り入れ

岡山駅前広場路面電車乗り入れ

岡山駅前には、岡山電気軌道の路面電車の停留所があります。この停留所を岡山駅前広場に移設し、JR線との乗り換え利便性を向上させる計画があります。2026 年度末の開業予定です。 岡山電気軌道駅前広場乗り入れの概要 岡山電気軌道の岡山駅前電停は、JR駅ビルから市役所筋を挟んだ東側にあります。ここから軌道を西(駅方向)に約100m延ばし、岡山駅東口駅前広場内に乗り入れさせる形で、駅前広場を整備します。 JRの駅ビル前に、2面3線のホームを備えた電停を新設。JR岡山駅東口を出て電停までの距離は現在の約180mから約40mに短縮します。これにより、JR線からの乗り換えを36秒に短縮します。 現在の岡山駅前電停は東西に2カ所のホームを備えますが、これを東側(現降車ホーム)に集約し、西側(現乗車ホーム)とともに地下街と接続する階段を廃止します。東側ホームは通常の電停として存続します。   2018年11月22日に、デザイン案が決定。岡山の名所・後楽園をモチーフとしたデザインが採用となりました。 2020年3月13日に特許を交付。開業予定を2023年度として着工しましたが、設計ミスで計画変更が生じ、2022年1月になって、2025年度開業に延期することが明らかにされました。2023年1月10日に本格的な工事に着手しましたが、その後、さらに遅延が発生し、2026年度末に先送りされました。 事業費は当初43億円と見積もられていましたが、2022年に66億円へ上振れ、最終的に94億円(うち軌道部分は11.6億円)となっています。駅前広場整備事業としておこなっているため、路面電車乗り入れに直接的に94億円もかかるわけではありません。補助金として社会資本整備総合交付金を活用しています。   岡山駅前広場路面電車乗り入れの沿革 岡山駅前広場への路面電車の乗り入れは、大森雅夫市長が1期目就任直後の2013年12月に検討を表明し、計画が動き出しました。交通結節点となる岡山駅の利便性と中心市街地の回遊性を高める狙いとされました。 乗り入れ方法としては、岡山駅構内に接続する「平面乗り入れ」、岡山駅2階の中央改札口に接続する「高架乗り入れ」、駅前電停付近から地下に入る「地下乗り入れ」、現在の岡山駅前電停からエスカレーターなどで2階のJR中央改札を結ぶ「歩行者デッキ連結」の4案が提示されました。 有識者の調査検討会の協議の結果、コスト、利便性などから2015年11月に「平面乗り入れ」が採用されています。 その後、「路面電車乗り入れを含めた岡山駅前広場のあり方検討会」により、バスやタクシー乗り場を含めたレイアウトやデザインを検討してきました。2018年にデザイン案を公募。応募のあった6案のうち、同年11月に「弥田俊男設計建築事務所」の案に決定しました。春日大社の国宝殿増改築で設計デザインに携わるなどの実績がある事務所です。 2018年度のデザイン案決定により、2019年度に詳細設計、2020年度に着工、2023年度の運用開始というスケジュールとなりました。 ところが、2022年1月に、2025年度への開業延期を公表。火災に備えて避難通路を確保することが必要だったところ、建築基準法の認識不足で計画に入れていなかったのが主な要因というお粗末な理由でした。 事業費は43億円から86億円に増える見通しとなり、案内所や大ひさし、植栽などを中止して事業費を66億円に圧縮することになりました。このため、採用されたデザイン案も、一部変更となりました。 さらに、2023年8月には、移転の補償などに時間がかかり、開業が2026年度末となることが明らかになりました。事業費もさらに上振れし、最終的に94億円になる見通しです。 岡山駅前広場路面電車乗り入れのデータ 岡山駅前広場路面電車乗り入れデータ 営業構想事業者 岡山電気軌道 整備構想事業者 岡山市 路線名 東山線 区間・駅 岡山駅付近 距離 0.1km 想定利用者数 約10,800人/日(岡山駅電停の想定乗降者数) 総事業費 約94億円(軌道部分は11.6億円) 費用便益比 1.07 累積資金収支黒字転換年 3年 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1,067mm 電化方式 直流600V 単線・複線 複線 開業予定時期 2026年度末 備考 社会資本整備総合交付金 ※データは主に岡山電気軌道の軌道事業の特許申請資料(2018年)より。最新情報は岡山市ウェブサイトより。 岡山駅前広場路面電車乗り入れの今後の見通し 岡山駅前広場路面電車乗り入れは、2020年3月に特許が交付され、工事が始まりました。2020年度に着工し、2022年度中の工事完了、2023年度の運用開始を目指しましたが、2026年度に延期となりました。ただ、遅れが生じるにせよ、実現は間違いない状況です。 岡山の路面電車では、環状化などの延伸構想もありますが、それについては全くの白紙です。
広島電鉄駅前大橋ルート

広島電鉄駅前大橋ルート・循環ルート

広島電鉄は、広島駅電停から東に迂回をしてから、市の中心部に向かっています。この迂回区間を廃止し、かわりに駅前大橋に短絡線を建設するのが、広島電鉄の「駅前大橋ルート」計画です。 迂回区間の一部を残し、比治山町から的場町を経て市内を循環する路線が「循環ルート」計画です。開業時期は2025年夏の予定です。 広島電鉄駅前大橋ルートの概要 広島電鉄駅前大橋ルートは、広島電鉄の広島駅電停が駅ビルのアトリウム内に入り、そこから高架線で駅前大橋を経て、神谷町方面に繋がる新路線です。 広島駅から稲荷町交差点を経て比治山町交差点までが、駅前大橋ルートの新線区間です。   新線開業後は、広島駅~駅前大橋線~稲荷町~紙屋町方面が「本線」になります。また、稲荷町~比治山下が「比治山線」(皆実線)となります。稲荷町~的場町~比治山下は「循環線」に組み込まれます。広島駅~猿猴橋町~的場町間は廃止となります。   広島駅電停が駅ビル内に移設されることで、広島駅でのJRから広島電鉄への乗り換え時間は、約2.1分から約1.3分に短縮されます。 広島電鉄の乗降場には4線が配置され、これまで乗車2カ所、降車4カ所だったのが、乗降とも4カ所になります。広島駅に乗り入れる市内線は4系統ですので、乗降場は各系統別に運用される予定です。   駅前大橋線の開通により、広島駅から八丁堀地区、紙屋町地区への距離が約200m、所要時間が約4分短縮されます。 循環ルートは、的場町から紙屋町、市役所前、皆実町六丁目、段原一丁目を経て的場町に戻る路線です。循環ルートの運行頻度については「地域の利便性が確保できる便数」という曖昧な表現になっています。開業時期は2025年春の予定でしたが、2025年夏に延期になることが、2024年11月に発表されました。   事業費と費用便益比 広島電鉄駅前ルートの事業費は109億円。うちインフラ部が約83億円で、国と自治体が負担します。インフラ外部が約26億円で、国と自治体が1/6ずつ、事業者(広島電鉄)が2/3を負担します。国負担分は、社会資本整備総合交付金により交付します。 費用便益比は2020年度調査で1.7。社会資本整備総合交付金により手厚い補助を受けることもあって、社会累積資金収支は1年で黒字転換する見通しです。   広島電鉄駅前大橋ルートの沿革 広島電鉄の路面電車は、広島駅から東へ迂回して市街地に向かっているという難点がありました。これを解消しようという考えは、路面電車利用者が減り始めた1960年代から存在していたようです。 具体的な動きになったのは、2000年の広島市『新たな公共交通体系づくりの基本計画について』で駅前大橋線が盛り込まれてからです。2002年には、中国地方交通審議会『広島県における公共交通機関の維持整備に関する計画について』で駅前大橋線が新規路線案として盛り込まれました。2004年12月に、広島市に路面電車の機能強化策を探る検討委員会が設置され、本格的な協議が始まりました。 2010年6月、広島電鉄の社長に国交省出身の越智秀信氏が就任すると、「駅前大橋線」の2016ー17年の運行開始を目指す考えを明らかにします。これを受け、2010年8月に、広島市は「広島駅南口広場再整備に係る基本方針検討委員会」を設置しています。 検討委員会では、広島駅乗り入れ方法について、平面、高架、地下が検討されました。広島市とJR側は広島駅建て替えを含めた高架案を支持し、広島電鉄側は地下案を推しました。ただ、地下案を推していたのは、広島電鉄内では越智社長一人のみだったようです。 危機感を抱いた他の役員が結束して、2013年1月に取締役会で越智社長を解任。新社長に就任した椋田昌夫氏により、広電も高架案に転じ、同年6月に、高架案の採用が決まりました。 当初の計画では、駅前大橋ルートの開業により、東に迂回する区間は廃止される予定でした。しかし、沿線町内会から的場町、段原一丁目電停の存続等を求める要望書が出されます。循環ルートの提案もこのときに出されました。これについて、広島市と広電は受け入れる姿勢を示し、迂回区間の多くが存続することになりました。 最終的に、広島市は、2014年9月2日に「広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針」を決定。本線が稲荷町電停から駅前大橋を通るルートに変更となり、駅前大橋で高架に上がり広島駅ビルに乗り入れることが決まりました。 2019年度に軌道法特許取得、都市計画決定となり、2020年度に着工しました。 広島電鉄駅前大橋ルートのデータ 広島電鉄駅前大橋ルートデータ 営業構想事業者 広島電鉄 整備構想事業者 広島電鉄・広島市 路線名 本線・比治山線 区間・駅 広島駅~稲荷町~比治山下 停留場1カ所新設、2カ所変更、1カ所廃止 距離 1.1km 想定利用者数 約32,000人/日(広島駅電停) 総事業費 約109億円 費用便益比 1.7 累積資金収支黒字転換年 1年 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1,435mm 電化方式 直流600V 単線・複線 複線 開業予定時期 2025年春 備考 社会資本整備総合交付金 ※データは主に広島電鉄株式会社からの軌道事業の特許申請(軌道延伸)の審議資料(2019)より 広島電鉄駅前大橋ルートの今後の見通し 広島電鉄駅前大橋ルートは、すでに整備着手済みの事業です。駅ビルに乗り入れる高架路線のため、工事には多少の時間はかかるものの、完成するのは確実となりました。駅前大橋ルートの開業にあわせて、循環ルートも整備されます。 開業時期は、当初は「平成30年代半ば」とされていましたが、特許申請時に「2025年春」とはっきりした時期が明示されました。 2024年11月13日に、広島電鉄仮井康裕社長が「夏ごろになる」と見通しを明らかにし、数ヶ月の後ろ倒しとなるようです。
広島電鉄宇品線延伸

広島電鉄宇品線延伸

広島電鉄宇品線は、市中心部の紙屋町電停と、宇品港旅客ターミナルに隣接する広島港電停を結ぶ5.9kmの路線です。広島駅からの1系統、5系統と、西広島からの3系統の、3つの路面電車の系統が乗り入れています。 この路線を、広島港から先1.2kmほど延伸し、出島地区まで新線を敷設する計画があります。 広島電鉄宇品線延伸の概要 広島電鉄宇品線は、広島港でフェリーの宇品港旅客ターミナルと接続しています。その先、路線を西へ延ばし、臨港道路出島2号線に沿う形で、一部高架の軌道を建設するのが、宇島線延伸計画です。 広島特別支援学校付近に電停を新設し終点とします。途中に停留所が設けられるかはわかりません。 特別支援学校南には、広島港湾計画で「交通機能用地」が確保されていて、そこに広島電鉄の新たな車庫が設けられる計画です。この車庫は、広島電鉄本社のある千田車庫の機能を移設するものです。新車庫の規模は2ヘクタール程度で、高潮被害を防ぐため、高架構造になるようです。 終点付近には電車公園を併設する計画もあります。   広島電鉄宇品線延伸の沿革 広島電鉄の宇品線の終点は、かつては「宇品」でしたが、2001年に「広島港」と改称されました。広島港旅客ターミナルの移転にともない、電停が現在位置になったのは、2003年のことです。 その後、宇品の西南で出島地区の埋め立てが進められ、2019年3月に改定された「広島港湾計画」で、その土地利用計画が定められました。 広島港湾計画では、出島地区の交通ネットワークの強化が記され、特別支援学校南に交通機能用地の名目で、広島電鉄の新車庫の土地が確保されました。 2019年4月27日付中国新聞で、広島電鉄の出島延伸と新車庫計画が報じられました。この時点で、広島電鉄宇品線の出島延伸計画が公になったといえます。 2022年12月21日付中国新聞では、終点付近に「電車公園」を開設する計画が報じられています。   広島電鉄宇品線延伸のデータ 広島電鉄宇品線延伸データ 営業構想事業者 広島電鉄 整備構想事業者 未定 路線名 宇品線 区間・駅 広島港~出島(特別支援学校付近) 距離 1.2km 想定利用者数 -- 総事業費 -- 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1435mm 電化方式 直流600V 単線・複線 未定 開業予定時期 未定 備考 -- 広島電鉄宇品線の今後の見通し 広島県では、出島地区に商業施設や交流施設を設ける計画もあり、広電の路面電車は、そのアクセスを担います。 鉄道延伸につきものの採算性の議論については、港の先端部の路線だけに、費用便益比は高くないと思われます。ただ、車庫を建設する計画があるのなら、どのみち回送線は必要になるので、新線の実現性は高そうです。 出島の埋め立て事業は遅れており、当初は2024年度に埋め立て完了予定でしたが、搬入廃棄物が想定を下回り、2034年度までの延期が決まっています。この影響で、路面電車延伸も後ろ倒しになりそうで、開業時期は見通せません。 延伸区間は高架構造が予定されていますし、新車庫の建設にも時間がかかります。そのため、開業は早くても2030年代になるでしょう。
アストラムライン西風新都線

アストラムライン西風新都線

アストラムライン(広島高速交通)は、広島市中心部の本通から、大町、長楽寺を経て広域公園前駅まで18.4kmを営業している新交通システムです。これをさらに延伸し、JR西広島駅を経て本通に至る環状線を形成する計画があります。 JR西広島駅までの延伸は「西風新都線」として事業化が決定しており、さらに平和大通りを経て本通に至る区間は将来構想となっています。西広島までの延伸開業時期は平成40年代初頭(2028年頃)を予定していましたが、2036年度頃に後ろ倒しになりそうです。 アストラムライン西風新都線の概要 アストラムラインの延伸計画は、現在の終点である広域公園前駅から、五月が丘団地、石内東開発地を経由し、己斐中央線の全線を通り、西広島駅に接続するものです。延伸区間は「新交通西風新都線」と名付けられ、路線延長は約7.1kmです。 6駅を新設します。広域公園前~石内東開発地までに3駅、その先2駅を導入空間となる己斐中央線に設置します。残る1駅は西広島駅です。 2019年2月5日の広島市議会都市活性化対策特別委員会で詳細な駅位置やルートが公表されました。それによりますと、五月が丘1、五月が丘2、石内東、己斐上、己斐中、西広島の各駅(いずれも仮称)を設けます。石内東は、ジ・アウトレット広島に隣接します。 西広島駅は駅前広場上に設置され、JRと広電とは空中デッキで接続します。 西風新都線は単線で建設し、各駅に交換設備を設けます。高架部分が5.6km、トンネル1.5km。途中に最急勾配5.9%という急勾配区間があります。区間の表定速度は27kmです。   需要予測と費用便益比 利用者数は、事業化決定時には約15,200人(2030年度)と予測され、建設費は570億円と試算されました。しかし、2024年に見直され、約9,100人、約760億円に修正されています。 費用便益比は2015年公表の資料で1.3とされています。2024年見直し後の数字は明らかではありません。 アストラムライン延伸の沿革 アストラムラインは、開業当初から延伸が想定されていて、当初の計画では、草津沼田道路を導入空間として、新井口方面への延伸が予定されていました。しかし、西風新都と広島中心部を直結する路線として、JR西広島駅延伸が議論されるようになりました。 広島市が正式にアストラムラインの延伸計画を示したのは1999年11月です。このとき公表された「新たな公共交通体系づくりの基本計画」において、広域公園前駅から西広島駅までの区間を「新交通西風新都線」と位置付け、おおむね15年後の完成を目指す第Ⅰ期事業化区間としました。 さらに、西広島駅から平和大通りなどを経由し広島駅までの区間を「新交通東西線」、本通駅から広大跡地付近までの区間を「新交通南北線」として位置付け、西広島駅から白神社前交差点を経由し本通駅までの区間を第Ⅱ期事業化区間とし、残る区間を第Ⅲ期事業化区間としました。また、五日市、商工センター方面などへの延伸についても、将来、ネットワーク化する可能性のある発展方向と定義しています。 このうち、西広島駅まで延伸する「新交通西風新都線」の整備が最優先とされ、2001年1月策定の「広島市都市計画マスタープラン」や、2009年10月策定の「第5次広島市基本計画」に盛り込まれています。ただ、広島市の財政が厳しいうえに、アストラムラインの経営も不振が続き、延伸事業化にはなかなか至りませんでした。 そんななか、アストラムラインは2012年に初めての営業黒字を計上。2015年6月に、広島市は、西風新都線の西広島延伸を事業化させることを正式に発表しました。 同時に、これまでⅢ期事業化区間とされてきた「新交通東西線」及び「新交通南北線」の広島駅~白神社前交差点~広島大本部跡地前の廃止を決め、西広島~本通間だけが計画として残されました。この区間は「新交通都心線」と名付けられ、西風新都線整備後に事業化が改めて検討されます。 新型コロナ禍などによる社会環境の変化を受け、2024年3月に開業予定を後ろ倒しを発表しました。新たな開業予定は2036年度ごろとされています。事業費は3割増の約760億円となる模様です。 2024年10月には都市計画原案を公表しています。 アストラムライン西風新都線のデータ アストラムライン西風新都線データ 営業構想事業者 広島高速交通 整備構想事業者 未定 路線名 西風新都線 区間・駅 広域公園前~西広島6駅新設 距離 7.1km 想定利用者数 約9,100人/日 総事業費 約760億円 費用便益比 1.3 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 不明 種類 案内軌条式鉄道 軌間 -- 電化方式 直流750V 単線・複線 単線 開業予定時期 2036年度ごろ 備考 -- ※費用便益比は2015年公表の試算。 アストラムライン延伸の今後の見通し アストラムラインの延伸については、広域公園前駅~石内東までの区間を「西風新都線」という形で部分開業することが構想されています。当初、開業時期は平成30年代後半とされており、2025年頃と見込まれていました。 しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で事業スケジュールを見直し、2024年3月に開業予定を後ろ倒しを発表しました。新たな開業予定は2036年度頃です。また、事業費は3割増の約760億円となる模様です。 西広島から平和大通りの地下を走り本通へ至る区間の開業時期は見通せません。開業すれば、全線が循環系統となって便利ですが、開業するにしても相当先となりそうです。
伊予鉄道松山市内線延伸

伊予鉄道松山市内線延伸

伊予鉄道松山市内線の路面電車を、JR松山駅の西側まで延伸する計画があります。 JR松山駅前停留所付近から、国道196号線(松山環状線)との交点にあたる南江戸まで新線を建設します。開業時期は2020年代半ばとみられます。将来は松山空港まで延伸する構想もあります。 伊予鉄道松山市内線延伸の概要 伊予鉄道松山市内線は松山市内を走る路面電車です。市の中心部を一周する環状線と、道後温泉方面などへ伸びる路線で構成されています。JR松山駅前も通りますが、駅前広場には乗り入れていません。 JR松山駅周辺では、予讃線の高架化を含む「松山駅周辺整備事業」が行われています。これにあわせて、路面電車を駅前広場に引き込み、さらに駅西側の南江戸まで延伸させる計画があります。 JR予讃線が地上を走っている状況で松山市内線を駅西側へ延伸させるには、平面交差が生じます。そのため、延伸は法的にも技術的にも不可能でした。しかし、JR線の高架化により、これらの課題を解決できるようになりました。 延伸計画は、JR高架化にあわせて整備されている松山駅西口南江戸線という都市計画道路に軌道を敷設するものです。国道196号線(松山環状線)と接する南江戸付近まで延伸する計画で、延伸距離は約700mです。途中駅の計画はありません。   JR松山駅停留所移設 JR松山駅の東口では、これまで道路上にあった路面電車の停留所を駅前広場に引き込む計画が進められています。 当初計画では、歩行者と自転車、路面電車のみが通行する道路(トランジットモール)とし、JR高架下に停留所を設ける構想でした。しかし、路面電車の運行系統の問題などから実現しない方向性になっています。 最終的な計画では、路面電車の新路線は、JR松山駅東口の駅前広場から予讃線の高架下を抜けて、駅西側に至る形を想定しています。   松山空港延伸構想 松山市内線(路面電車)の南江戸延伸は、最終的には松山空港までの延伸を視野にいれています。 2015年度に、愛媛県において「松山空港アクセス向上検討会」が設けられ、松山空港への鉄道延伸について議論されました。検討会の結果として、2018年3月に『松山空港アクセスに関する検討結果報告書』がまとめられています。 報告書によりますと、松山空港へのアクセス鉄道は、伊予鉄道松山市内線に乗り入れるAルートと、伊予鉄道郊外線(郡中線)に乗り入れるBルートが検討されました。Aルートに関しては、導入空間(道路)によって、さらに3ルートに分類されました。 A-1ルートの導入空間は松山空港線(新空港通り)、A-2ルートは新玉49号線、A-3ルートは松山空港線(旧道)です。それぞれ、路面に直接軌道を敷設する地上案と、高架案が検討されています。Bルートは松山空港線(旧道)に高架で鉄道路線を建設します。いずれの案も、道路の拡幅を伴うようです。   路線延長はAルートが5.0~5.1km。Bルートは5.7kmで、うち既存の郡中線1.3kmを使います。これらを建設する場合、建設費が最も安いのがA-3(旧松山空港線)地上案、最も高いのがA-2(新玉49号線)高架案となりました。 費用便益比(B/C)を検討したところ、いずれのルートも1.0を超えることはできませんでした。そのため、現時点での松山空港アクセス鉄道の建設は決定していません。 ただ、空港利用者の増加や、沿線居住者の増加などがみられた場合は、費用便益比が1.0を超える可能性もあるとしています。その場合は、費用便益比が最も優れたA-2案(新玉49号線)が有力で、つづくA-3案も可能性が残ります。 報告書によると、「空港リムジンバスの廃止による空港利用需要の集約を前提とした上で、空港利用客数の増加、居住の集約などによる需要の増加や速達性の向上など各シナリオで想定した条件値がすべて満たされる環境となる場合」にB/Cが1を上回ると試算され、「将来の実現の可能性がある」としました。 A-2案を基にした延伸ルートは以下の通りです。   伊予鉄道松山市内線延伸の沿革 伊予鉄道松山市内線の西江戸延伸は、JR予讃線の高架化とセットの案件です。JR松山駅付近立体高架化事業は、1990年の松山鉄道高架検討協議会の設置に始まります。 路面電車を駅前広場に引き込む構想は、2001年に明らかになりました。2001年2月21日に、松山市「松山まちづくり交通計画調査策定委員会」の第3回会合が開催され、JR松山駅周辺の交通基盤整備案が松山市から提案・説明されました。このなかで、東口広場内に市内電車を引き込む、という市内電車のJR松山駅前広場乗り入れ案が提示されました。 同年11月13日の会合では、JR松山駅前広場の整備構想関連として、市内電車を広場北側に引き込む案がまとめられ、将来的な駅西側へ延伸構想も示されました。 その後、2003年6月9日に開かれた「JR松山駅付近鉄道高架事業促進期成同盟会」の総会において、松山市側が、伊予鉄道の路面電車延伸案を発表。軌道を現在の松山駅前電停から西に約700m延伸する方針を明らかにしています。 当時の報道によると、JR松山駅前電停から西に直進する新設道路「駅広東西連絡線」を一般車乗入れ禁止のトランジットモールとし、そこに軌道を敷設して西進。高架化されたJR松山駅下に新停留所を設置し、さらに駅西に新設される道路「駅西口南江戸線」上に併用軌道を敷設して西進し、既設道路「松山環状線」との交差部分までの約700mを延伸するというもの。この骨格がそのまま都市計画決定されるので、延伸計画は2003年時点で固まったといえます。 2008年には、JR松山駅付近立体高架化事業の都市計画が決定し、高架化が本決まりになります。路面電車の延伸計画も同計画に含まれました。 南江戸より先、空港までの延伸については、2014年に中村時広・愛媛県知事が県議会で「将来の目指すべき交通体系の一つとして、その夢の実現の可能性を追求していきたい」と答弁。翌2015年度に、愛媛県は「松山空港アクセス向上委員会」を設置し、空港アクセス鉄道について検討を始めました。 同委員会では、2018年3月に『松山空港アクセスに関する検討結果報告書』を取りまとめました。報告書の内容は上記しましたが、現状に基づくと、アクセス鉄道の費用便益比が1.0を超えることはなく、「松山空港への路面電車延伸によってもたらされる便益が、整備に費用を下回ると試算された」としています。 ただ、「将来的な都市形態や社会環境に対応したケース」として、条件が全て満たされた場合に費用便益比が1.0以上になるとし、まとめとして「将来の実現の可能性の確認ができた」としています。   JR松山駅高架下への停留所引き込みに関しては、折り返し運転が生じることから伊予鉄道が難色を示し、2019年1月の第7回松山駅周辺笑顔あふれるまちづくり推進協議会で、駅前広場への乗り入れにとどまることが決まりました。 これにより、南江戸方面への延伸は、新停留所北で分岐する計画に変更されましたが、その後、延伸計画自体が話題に上らなくなります。 2022年2月8日の松山市議会都市整備委員会では、市側が「路面電車のJR松山駅西側延伸については、県や交通事業者と公設型上下分離方式を含め、さまざまな整備手法の協議を行います」と答弁しました。「さまざまな協議」というのは、事業が滞っている場合に使われがちな役所表現です。 2024年3月の第5回松山駅まち会議で示された資料(地域のミュージアムとなる駅まち空間)には、延伸の計画線が地図上に描かれていません。   伊予鉄道松山市内線延伸のデータ 伊予鉄道松山市内線延伸データ 営業構想事業者 伊予鉄道 整備構想事業者 未定 路線名 未定 区間・駅 JR松山駅前~南江戸 距離 0.7km 想定利用者数 -- 総事業費 -- 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 軌道事業 種類 軌道 軌間 1067mm 電化方式 直流600V 単線・複線 未定 開業予定時期 未定 備考 -- 伊予鉄道松山市内線延伸の今後の見通し 伊予鉄道松山市内線の延伸構想は、「南江戸まで」と「松山空港まで」の2段階の計画があり、第一段階の南江戸までの延伸計画が進められています。 ただ、停留所のJR高架下移設がなくなり、東口駅前広場乗り入れるだけの形に変更されるなど、南江戸延伸に弾みつきそうな計画は後退しています。 JR松山駅付近連続立体交差事業は2024年度に完成予定で、松山駅周辺土地区画整理事業は、2026年度までとなっています。南江戸延伸を本気で進めるなら、そろそろ具体的な計画が出てきてもおかしくない時期ですが、そういう気配はありません。 となると、南江戸延伸は、事実上、凍結されているとみたほうがよさそうです。 松山空港までの延伸については、現時点では費用便益比が1.0を超えていないため、事業化は困難な情勢です。松山市としては、将来的な社会環境の変化などを期待して延伸計画を維持していますので、情勢が変われば、松山空港アクセス線実現の可能性が出てくるかもしれません。

福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画

福岡市営地下鉄箱崎線は中洲川端~貝塚間4.7kmを結ぶ路線です。西日本鉄道貝塚線は貝塚~西鉄新宮間11.0kmを結ぶ路線です。貝塚駅で両線をつなぎ、相互乗り入れによる直通運転をする計画があります。 箱崎線・貝塚線直通計画の概要 福岡市営地下鉄箱崎線と西鉄貝塚線は、貝塚駅で接続しています。両線は進行方向で向き合う同一平面のホームになっています。両駅を完全統合し、両線を直通する列車を走らせようというのが、福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画です。 貝塚駅は現在地に移転した1985年当時から両線の直通運転を想定した構造になっています。また、両線とも軌間は1067mmで、電圧は1500Vと基本仕様は同じです。そのため、レールをつなげれば直通運転は可能で、レールをつなぐことに関するハードルは高くありません。 しかし、宮地岳線は最大3両編成の設備で、地下鉄は6両編成です。西鉄に現在の地下鉄車両がそのまま入るにはホーム延伸が不可欠で巨費がかかることなどから、直通運転の実現は先送りされ続けてきました。 下記は現状の運転状況で、地下鉄が6両、西鉄は2両で運用されています。ダイヤは貝塚駅での両線の接続が考慮されています。 3両乗り入れ案 直通運転の具体案は何度か出てきましたが、近年では2010年と2018年に明らかになった2つの案が知られています。前者が「3両乗り入れ案」、後者が「増結・分離案」です。ともに、西鉄側のホーム延伸を必要としない案です。 「3両乗り入れ案」は、3両編成の車両が天神・中洲川端~西鉄新宮間を直通運転します。天神駅には、折り返し用のホームを増設します。   「3両乗り入れ案」の場合、初期投資として車両と設備に260億円が必要と試算されました。単年度収支は0.1億円の黒字と見込まれ、約99%の公的資金を充当した場合、開業30年後に累積収支で黒字化が可能です。しかし、費用便益比(B/C)は0.6と試算され、基準の1に届きません。 この案では、箱崎線内から乗車して天神以西に行く場合は利便性が低下するという難点もあります。福岡市の調査によると、貝塚線内から乗車し天神までのいずれかの駅で下車する人は1日5,230人で、箱崎線内から乗車し天神より西の駅で下車するのが同6,423人(2015年度推計)です。 つまり、3両案では、直通のメリットを受ける人よりも乗り換え増のデメリットを受ける人のほうが多いことになります。こうなると、直通運転をする意義が問われてしまいます。3両編成が姪浜まで直通すればそのデメリットは解消しますが、その場合、空港線内での輸送力が不足します。 こうした問題から、「3両乗り入れ案」は実現不可能という結論になり、替わって浮上したのが「増結・分離案」です。 増結・分割案 「増結・分離案」は、4両+2両の編成の車両を新造し、貝塚駅で増結・分離、西鉄線内には2両編成のみ乗り入れるという案です。箱崎線内は6両または4両で運転します。中洲川端以西に乗り入れるのは6両編成のみですので、空港線内の輸送力不足も生じません。 ただし、貝塚駅での列車の増結・分離作業に時間と人手が必要となります。増結・分離のイメージは下記の通りです。   増結・分離にかかる時間については、増結に5分、分離に2分が必要と見積もっています。一方、既存ダイヤでは、地下鉄と貝塚線の乗り継ぎ時間は5分以内が8割です。つまり、直通しても時間短縮効果は限られ、平均で1.3分にとどまるという計算になりました。 増結・分離案は、設備投資費用が少ないとはいえ、駅構内の改修や、貝塚駅での待避線設置、ホームドアの4両対応などの投資は必要で、約108億円がかかります。さらに76両の車両費が約47億円で、合計の事業費は約155億円と見積もられました。 一方で、便益については、所要時間短縮による利便性向上の便益が約32億円にとどまったため、合計でも約44億円で、費用便益比(B/C)は0.42と低い数字になりました。単年度収支に関しても約2.6億円の赤字が見込まれ、累積損益で黒字化ができません。   西鉄貝塚線と地下鉄全線を合わせた利用者数は、2017年で1日463,500人います。沿線の人口は増加傾向で、開発も進んでいるため、2035年には1日約48,000人の利用者の増加を見込んでいます。両線が直通運転を行った場合、さらに1日800人の増加を見込みます。 とはいえ、増結・分離案でも費用便益比は1に全く届かず、累積資金収支も発散してしまいます。事業化には国土交通省の都市鉄道利便増進事業の補助を受けることが前提ですが、これらの数字では補助採択基準を満たすことはできません。 さらには、新型コロナ禍を受け、2020年度に西鉄が「新たな投資については現段階では困難な状況」との意向を示すに至りました。当事者である西鉄が投資に後ろ向きな姿勢に転じてしまったわけです。 こうしたことから、福岡市は2021年1月に公表した「福岡都市圏における公共交通に関する調査」において、「将来的な直通運転化も視野に入れながら、当面は、沿線まちづくりを推進しつつ、より使いやすい公共交通となるよう利便性向上策などの検討に取り組む」という方針に転じました。要するに直通運転計画を凍結することになったわけです。 「福岡都市圏における公共交通に関する調査」は2023年1月にも公表されましたが、方針は変わらず、「引き続き、将来的な直通運転化を視野に入れながら、利便性向上策などの検討に取り組む」という表記にとどまっています。 箱崎線・貝塚線直通計画の沿革 福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画は、1971年3月の「都市交通審議会答申第12号」にまでさかのぼります。 同答申では、「都心部から箱崎方面に至る路線(現地下鉄箱崎線)の新設」が必要としたうえで、「西鉄宮地岳線(現貝塚線)との直通運転についても検討する必要がある」と記されました。つまり、地下鉄箱崎線は建設検討段階から西鉄との直通運転を想定していたわけです。 1985年に西鉄が貝塚駅を現在地に移転し、翌1986年に地下鉄が貝塚駅まで開業。両線は将来の直通運転を想定し、進行方向で向き合う同一平面にホームを配置しました。しかし、上述したように、宮地岳線は最大3両編成対応のため、6両編成の地下鉄が入るにはホーム長が足りません。そうした課題があり、直通運転の実現は先送りされ続けてきました。   動きが出たのは1997年。福岡都市交通問題協議会で、福岡市と西鉄が相互直通運転の実現に向けて検討を行うことで合意。このときは、貝塚~西鉄香椎間3.6kmが相互直通運転区間とされました。 2002年には、福岡市議会で、西鉄三苫まで地下鉄箱崎線を乗り入れる趣旨の請願を採択しました。これは、三苫までが福岡市内で、三苫以北の自治体の調整をしていない請願だったためです。 2006年には西鉄香椎駅付近の立体化が完了。このとき高架化された西鉄千早、香椎宮前、西鉄香椎の3駅は将来的にホームを6両対応に延伸できる構造になっています。2007年には、宮地岳線の西鉄新宮~津屋崎間9.9kmが廃止。このとき、路線名が貝塚線へ変更されました。 2010年になり、福岡市が3両編成での直通案を発表。このときも三苫までの乗り入れ案でしたが、後に天神~西鉄新宮間を直通する乗り入れ案に修正しました。しかし、費用対効果や、地下鉄線内の利便性の問題から断念したのは、上述の通りです。 そして2018年1月に公表されたのが2両増結・分離案です。4両+2両の6両編成の車両を製造し、貝塚駅で増結・分離し、2両のみが西鉄線内に乗り入れるという計画です。 しかし、検討したところ、費用便益比も収支採算性も基準を満たせず、2021年1月に、事実上断念することが公表されました。   箱崎線・貝塚線直通計画のデータ 福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画データ 営業構想事業者 福岡市交通局、西日本鉄道 整備構想事業者 未定 路線名 箱崎線、貝塚線 区間・駅 中洲川端~西鉄新宮 距離 4.7km(箱崎線)、11.0km(貝塚線) 想定利用者数 -- 総事業費 -- 費用便益比 -- 累積資金収支黒字転換年 -- 種別 第1種鉄道事業事業 種類 普通鉄道 軌間 1067mm 電化方式 直流1500V 単線・複線 複線 開業予定時期 未定 備考 -- 箱崎線・貝塚線直通計画の今後の見通し 福岡市営地下鉄箱崎線・西鉄貝塚線直通計画は、2021年1月に「福岡都市圏における公共交通に関する調査」(福岡市)で、事実上の凍結が発表されました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、西鉄が後ろ向きな姿勢に転じたことで、当面、計画が実現に動き出すのことはなさそうです。 この直通計画で難しいのは、西鉄側のホーム延伸には巨額の費用がかかり、投資に見合うリターンが得られないことです。貝塚線の現状は2両編成で間に合う程度の輸送量で、これを6両編成にしてもガラガラになってしまいますし、そのための投資を西鉄に求めるのは無理な話です。 そのため、ホーム延伸はせず、車両の調整で実現できる方策を模索しましたが、採算がとれる直通方法は見つかっていません。 6両対応の準備が進んでいる貝塚~西鉄香椎間のみの直通運転を先行させるアイデアもありますが、それでも6両化には西鉄の大きな投資が必要となります。短い路線にもかかわらず西鉄香椎で運用を分け、6両と2両の車両を保有しなければならなくなるのも重い負担でしょう。そう考えると、「西鉄香椎先行案」も、やはり現実的とはいえません。 となると、福岡地下鉄・西鉄貝塚線の相互乗り入れによる直通運転の実現は、当面難しそう、という結論にならざるを得ません。

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