熊本空港アクセス鉄道

肥後大津~阿蘇くまもと空港

熊本空港アクセス鉄道は、JR豊肥線肥後大津駅~熊本空港(阿蘇くまもと空港)を結ぶ鉄道新線計画です。実現すれば、熊本駅~熊本空港間が約44分で結ばれます。

熊本空港アクセス鉄道の概要

熊本空港アクセス鉄道はJR肥後大津駅~阿蘇くまもと空港間の約6.8kmを結ぶ鉄道新線計画です。開業目標は2034年度です。

空港アクセス鉄道が整備されると、熊本駅から阿蘇くまもと空港までの所要時間が約44分となり、既存交通機関を使った場合の約60分から約20分短縮されます。

路線は肥後大津駅の東でJR豊肥線から分岐し、南へ向かい、白川を渡って、東側から阿蘇くまもと空港に至ります。新駅は終点の阿蘇くまもと空港駅にのみ設置されます。途中駅の計画はありません。

路線は単線で、起点の肥後大津駅は地上駅です。肥後大津の住宅街から田園地帯にかけては高架構造で通過し、その後、空港のある高遊原台地は地下トンネルとなります。終点の空港駅は、2023年に公表された「計画段階環境配慮書」では「地上式又は地下式」と記されています。

熊本空港アクセス鉄道
画像:国土地理院地図を加工

 

需要予測と採算性

需要予測は1日約4,900人の利用を見込み、快速運行の場合は約5,500人としています。

概算事業費は約410億円で、費用便益比は30年間で1.03、50年間は1.21、快速運行の場合は1.21と1.42としました。

収支採算性は、国と県が3分の1ずつ補助した場合、36年(快速運行なら30年)で累積資金収支が黒字転換します。一方、現行の補助制度(空港アクセス鉄道等整備事業費補助)の場合、国と県の補助が18%にとどまるため、基準となる40年以内の黒字転換はできません。

このため、熊本県では空港アクセス鉄道補助の嵩上げを求めてきましたが実現できず、2024年度の国への要望で、補助率の高い地域産業構造転換インフラ整備推進交付金の鉄道事業への適用を求めています。この交付金は道路には適用されていますが、鉄道への拡大を求めたものです。

適用されれば、少なくとも3分の1以上の補助率が見込めるため、収支採算性の問題が解決し、着工に向けたハードルがなくなります。

熊本空港アクセス鉄道
画像:「阿蘇くまもと空港アクセス鉄道整備に向けた取組み状況」(2024年)(熊本県)

 

熊本空港アクセス鉄道の沿革

熊本空港は、熊本市中心部から直線距離で約15kmの位置にあり、地方空港の立地としては市街地から離れています。現在の主たる交通手段はバスで、熊本中心部の交通センターから約50分、熊本駅からは約60分かかります。しかも、市内の渋滞がひどく、予定通り着かないこともあります。

市街地から空港までのアクセスに時間がかかりすぎ、定時性にも難があるため、熊本市中心部と空港とを結ぶ空港連絡鉄道を求める声は古くからあり、整備構想も存在していました。

2004年には実際に空港アクセス鉄道の建設が調査されました。当時の試算では、総事業費286億円と見積もられ、採算を取るには1日5,000人の利用が必要とされました。

しかし、当時は1日2,500人程度の利用者が精一杯で、鉄道事業の採算性の確保は難しいとの判断に至りました。2007年度には、鉄道建設計画を凍結。肥後大津駅から熊本空港へシャトルバスを運行して連絡する施策に軸足を移しています。

その後、インバウンド需要の盛り上がりやLCCの隆盛を経て、熊本空港の利用者数は増加。2020年には空港民営化が予定され、2022年度末には新ターミナルビルが竣工する見通しとなりました。

状況の変化を受け、熊本県は2018年度にアクセス手段の改善案を再検討。鉄道延伸(事業費330億~380億円)、モノレール新設(2,500億~2,600億円)、熊本市電延伸(210億~230億円)の3案で事業費や所要時間、輸送量などを比較検討しました。

結果として、モノレールは事業費が高すぎ、市電は速達性などに難があり、最終的に鉄道延伸案を採用しました。

鉄道延伸案では、JR豊肥線からの分岐駅の候補として、三里木駅、原水駅、肥後大津駅が検討されました。原水分岐の場合、熊本駅~熊本空港の所要時間は約38分、1日の利用者数は約5,900人、事業費は約330億円と試算されました。肥後大津分岐の場合は、同約42分、約5,800人、約330億円です。

これに対し、三里木分岐案は総合運動公園へのアクセスにも使えるため、利用者数が6,900人と最も多く見込めることがわかりました。このため、2018年12月には、熊本県の蒲島知事が三里木駅分岐案を中心に検討を進める方針を示しました。2019年2月には、JR九州と基本合意にこぎ着けます。

ただ、JR九州は運行系統の都合から三里木分岐案に消極的な姿勢を示し、基本合意では、空港線の列車は三里木駅で折り返し、豊肥線には乗り入れないこととなりました。

熊本県は三里木駅案を中心にさらなる調査を進め、2020年6月に新しい報告書(2019年度調査)を公表。しかし、この調査では、費用便益比や採算性の問題をクリアできないことがわかりました。新型コロナ禍の折でもあり、蒲島知事は「いったん立ち止まり、さらに議論を深める」と議会で述べ、先行きは見通せなくなりました。

コロナ禍も落ち着いた後、2022年9月には、新たな試算を公表。知事は「肥後大津ルートの事業効果が高い」と表明し、肥後大津ルートへ転換します。

このときの30年間の費用便益分析では、肥後大津ルートが1.03、三里木ルートが1.01、原水ルートが0.72でした。収支採算性については、国と自治体が3分の1ずつを補助する場合に、累積資金収支が黒字になるのは肥後大津ルートが36年、三里木ルートが34年となりました。原水ルートは40年以内に黒字になりません。

こうした調査の結果として、最も事業効果が高いのは肥後大津ルートであるという結論に至ったようです。数字的に抜きんでているわけではありませんが、肥後大津ルートなら、JR九州が直通運転に応じる姿勢を見せたことが決め手になったように察せられます。直通運転をするかしないかは、空港アクセスの価値に大きな影響を及ぼします。

2022年11月29日には、蒲島知事がJR九州の古宮洋二社長と会談。肥後大津分岐案で合意し、熊本空港アクセス線は肥後大津ルートとなることが、事実上決定しました。

合意に際して交わされた確認書では、空港アクセス線と豊肥線が直通運転をすることや、運営方式を「JRへの委託」または「上下分離でJRが運行」とすることが記されました。いずれの形でも「JR線」として運行する方針で合意したといえます。約410億円と見込まれている整備費は、JRが受益の範囲で最大3分の1を負担します。

2023年3月20日には、熊本県が空港アクセス検討委員会の第6回会合を開催。空港アクセス鉄道建設の今後のスケジュール案を示しました。2027年度から用地取得などの本格的な工事期間に入り、2034年度の開業を目指すことが明らかになりました。

最後に残されたのは、補助金の問題です。熊本県では、2024年に公表した『国の施策等に関する提案・要望』に「空港アクセス鉄道の整備」及び「JR豊肥本線の機能強化」を盛り込み、これらの事業を「国家戦略の実現に必要なインフラ整備として位置づけ、鉄道整備を地域産業構造転換インフラ整備推進交付金の対象とする」ことを求めました。

これまでは、空港鉄道アクセス補助の補助率の嵩上げを求めていましたが、方針転換したことになります。同交付金の適用対象になるかはまだ決まっていませんが、2027年度の着工までにケリを付けることになるのでしょう。

熊本空港アクセス鉄道のデータ

熊本空港アクセス鉄道データ
営業構想事業者 JR九州
整備構想事業者 未定
路線名 未定
区間・駅 肥後大津~熊本空港
距離 約6.8km
想定利用者数 4,900~5,500人/日
総事業費 約410億円
費用便益比 1.03~1.21
累積資金収支黒字転換年 30~36年(国1/3補助の場合)
種別 未定
種類 普通鉄道
軌間 1,067mm
電化方式 交流20,000V
単線・複線 単線
開業予定時期 2034年度
備考 地域産業構造転換インフラ整備推進交付金を要望

※データは主に熊本県の『阿蘇くまもと空港アクセス鉄道整備に向けた取組み状況』(2024年5月)より。

熊本空港アクセス鉄道の今後の見通し

熊本市内から熊本空港は遠く、バスでのアクセスでは所要時間がかかりすぎるため、鉄道新線は待ち望まれてきました。しかし、2000年代まで、熊本空港の利用者数は伸び悩み、採算性の問題でアクセス鉄道は実現しませんでした。

しかし、LCCの登場やインバウンドの隆盛により、空港利用者数が増え、鉄道新線の議論も本格化していきました。

新型コロナの影響もあり計画は停滞しましたが、最終的に肥後大津ルートで話がまとまり、蒲島知事が退任間際にJR九州と合意にこぎ着けました。

JR豊肥線沿線にTSMCの工場が進出したことも追い風となり、熊本空港アクセス手鉄道の実現はほぼ確実といえそうです。採算性の問題は課題としてあるものの、空港アクセス鉄道は豊肥線の輸送力増強とセットで議論されるようになり、あわせて「地域産業構造転換インフラ整備推進交付金」の適用を目指すようです。

空港アクセス鉄道ができれば、JR豊肥線の輸送力増強も不可欠になるので、部分複線化も見据えながら、どちらも整備が進むことでしょう。

【参考資料アーカイブ】
阿蘇くまもと空港アクセス鉄道の検討に係る調査業務報告書(2020)』[PDF]
阿蘇くまもと空港アクセス鉄道整備に向けた取り組み状況(2024)』[PDF]