南海電鉄と和歌山電鉄がJR紀勢本線の和歌山~和歌山市間に乗り入れする可能性が出てきました。和歌山県が、この乗り入れを検討する勉強会を、関係する鉄道会社と設置することを明らかにしました。
和歌山市内には、現在、JR線と南海電鉄、和歌山電鉄の3つの鉄道会社が乗り入れています。JRと和歌山電鉄のターミナルが和歌山駅、南海のターミナルが和歌山市駅です。ややこしいので、ここでは和歌山駅を「JR駅」、和歌山市駅を「市駅」と表記します。勉強会では、南海電鉄のJR駅乗り入れや、和歌山電鉄の市駅乗り入れが検討されるようです。
JR駅への都市機能の集約が目的か
こうした検討が行われる背景としては、和歌山市の都市機能が分散していることがあげられます。和歌山市の中心市街地は、もともとは本町エリアで、JR駅とも市駅とも離れた中間地点付近にありました。この本町に一番近いのは市駅ですが、それでも800メートルほどの距離があります。また、市駅は大阪方面へのアクセスのみで和歌山県南部へは路線がつながっていません。そのため、県南部からの客を呼び込めず、本町から市駅エリアの商業地は衰退傾向にあります。
一方、JR駅は、県南部からの鉄道アクセスがあるものの、和歌山市中心部へは1,500メートルほど離れています。駅前には近鉄百貨店がありますが、それ以外に大型商業施設に乏しいというのが現状です。つまり、和歌山市は、JR駅、市駅、本町の3つに「核」が分散してしまっていて、いずれも繁栄しているとはいえない状況です。
この状況を改善するため、和歌山県が、JR駅を中心に都市機能を集約できないか検討し、鉄道事業者に働きかけて勉強会が発足することになったようです。2014年9月16日の県議会では、浦口高典議員の質問に対し、野田寛芳県企画部長が、「南海本線がJR和歌山駅まで、貴志川線が南海和歌山市駅まで、加太線がJR和歌山駅まで乗り入れるなど、鉄道の相互乗り入れは利便性の向上や、まち全体の活性化などに効果がある。実現に向けて積極的に取り組んでいく」と答えました。
実現のハードルは意外と低い?
実現へのハードルはどうでしょうか。まずは線形ですが、和歌山電鉄が市駅へ乗り入れることは難しくなさそうですが、南海電車がJR駅へ乗り入れるには市駅でのスイッチバックが必要になります。紀ノ川大橋から東へ分岐する短絡線を造れば解消しますが、そこまでは想定していないとみられます。
一方、軌道幅は同じであり、各鉄道会社は同じ駅に乗り入れていますので、大がかりな土木工事は必要ありません。鉄道会社による保安設備や車両幅が違いをどう調整するか、などが課題になるでしょう。途中の紀和駅に交換設備がないことも、問題になるかもしれません。
こうしてみると、技術的には実現のハードルは意外と低いようにも思えます。問題はコストと南海のやる気、ということなりそうです。
高島屋閉店が契機に
和歌山市内の拠点駅を統一しようという構想は、かなり昔からあったようです。それが実現しなかったのは、南海が和歌山市内の中心駅機能を譲りたくないと考えていたからとみられます。和歌山市内の拠点駅を統一するには、南海がJR線に乗り入れて、JR駅へ集約するしか現実的な選択肢はありません。その場合、南海は手間をかけてスイッチバックして列車の運行区間を伸ばしたあげくに、和歌山の中心駅機能をJRに譲り渡すことになります。南海には割に合わないので、話が進まなかったのではないかと推察します。
しかし、実際に和歌山市を訪れてみると、「中心駅競争」ではすでにJR駅に軍配が上がっているように見えます。とくに、2014年8月末を以て市駅の高島屋が閉店したことで、完全に決着がついたといえるでしょう。都市機能の問題にしても、本町周辺もシャッター街しており、和歌山市内で商業中心地を維持するのならば、JR駅周辺に力を入れるしかない、というのが現実に思えます。
こうしてみると、和歌山高島屋閉店は、一つの契機だったのかもしれません。これを機会に、今回、和歌山県が音頭を取って、南海の和歌山乗り入れへの道筋を開いた、ということではないでしょうか。和歌山県としては、JR和歌山駅の都市機能が強化されないと、県南部からの買い物客が全部大阪に吸い取られてしまう、という危機感があるのかもしれません。
実現すれば和歌山県全体に効果
「市」ではなく「県」が主体となるということは、県全体の鉄道ネットワークの整備として位置づけられていることを示しています。たとえば、和歌山大学は南海沿線にあるので、和歌山県の大学なのに県南部からは通学しにくい位置にあります。南海本線がJR駅に乗り入れれば、こうした不便も和らぎ、県全体に好影響を及ぼすとみられます。
実際に、南海のJR和歌山駅乗り入れが実現するかどうかはわかりません。実現するにしても、加太線のみの乗り入れになるかもしれませんし、和歌山電鉄のみになるかもしれません。いずれにしても、これから検討が始まる、という段階です。それでも、鉄道機能を活かす試みとして、期待したいところです。