近鉄が、三重県の内部線・八王子線について、廃止も含めて経営分離する方向を打ち出しました。これは、2012年8月21日に、路線存続を求めて近鉄本社を訪れた地元住民との会談で明らかにしたものです。
2013年夏までに方向性
内部・八王子両線は近鉄四日市駅を起点に同市内を走り総延長は約7キロ。レール幅の狭いナローゲージ(特殊狭軌鉄道)として知られています。利用者は合計で1日約1万人。毎年、約3億円の赤字を計上しており、近鉄は2013年夏までに将来の方向性を決めるとしていました。
この背景には、車両の更新時期が迫っていることが挙げられます。存続させる場合は車両の更新が必要なのですが、ナローゲージのため他線の中古車両を入れることができず、新造しなければなりません。ナローゲージ車両の製造は国内のメーカーでは近年実績がなく、そのためオリジナルの設計が必要になり、高価になるようです。それについては、行政が補助する方向なのですが、さらに、近鉄は鉄道で存続する場合は運営費の補助を市側に要求しています。しかし、市は現時点ではこれを拒否しています。
BRTを提案
今後についてですが、近鉄は鉄道運営費の補助が出ないのなら、線路を撤去、舗装してバスを運行させるバス高速輸送システム(BRT)方式を提案しています。この場合は、近鉄は自社で運営し、運営費補助を求めなくても採算が取れ、運賃や輸送力も現状を維持できるとのことです。ただし、初期工事費用やバス車両代など25億〜30億円程度の負担を行政に求めています。
近鉄の提案について、地元は否定的な様子。この日の会見で、四日市市の都市整備部理事は「あくまでも鉄道として維持することをお願いしている」と不快感をあらわにしました。四日市市としては、「内部・八王子線の赤字は他の黒字路線で補完してほしい」という立場です。
赤字を垂れ流すわけにはいかない
赤字路線を黒字路線で補完する、というのは、JRでは広く行われています。同じ三重県内では、JR東海が大赤字の名松線を内部補助で運営しています。名松線が残るなら、それよりはるかに輸送量の多い内部・八王子線くらい内部補助で残してくださいよ、というのが地元の思いなのかもしれません。
とはいえ、こうした内部補助は、新幹線や山手線のような圧倒的な黒字路線があれば可能なことであり、近鉄はそうしたドル箱路線を持ちません。近鉄の乗客は全体的に減少傾向で、2012年3月に全線で大幅な「減量ダイヤ」を実施したばかり。将来性のある路線なら「内部補助」もするでしょうが、内部・八王子線は今後も乗客増が期待できる路線ではありませんので、企業としていつまでも赤字を垂れ流すわけにはいかない、ということなのでしょう。
近鉄の鉄道事業はそれほど順調ではありません。2012年3月決算では、鉄軌道事業で256億円の収益を上げていますが、2005年3月期の399億円に比べると、7年で140億円も減少しています。関西圏の人口減少は続いており、鉄軌道事業が上向く要素はあまりありません。そうしたなか、毎年3億円も内部・八王子線に補助する余力はなくなってきているのでしょう。ちなみに、名松線を「内部補助」しているJR東海の運輸部門の利益は3400億円もあります。
近鉄のいう「3億円」がどういう計算なのかなど、判然としない部分もあります。ただ、現実問題として、近鉄が「もう内部・八王子線はやらない」と決めたなら、廃止を受け入れるか、地元がそれを引き継ぐかしかありません。1日1万人が利用するなら、地元が引き受けて鉄道事業として存続することは不可能ではないでしょう。別会社を作れば、国からの補助も受けやすくなります。
30年後も残せるか?
ただ、将来性を考えるとどうか、という疑問は残ります。人口がこれからも減少していく中で、鉄道をあと20年30年と残していけるのでしょうか。その間に地元はどれだけの税金をその鉄道に投入しなければならないのでしょうか。そういったことを考慮すれば、他の選択肢も検討しなければならないはずです。
どうも日本ではBRTに対する忌避感があるようですが、BRTにすれば、現在の鉄道路線以外のエリアへの直通運転も可能になり、利便性は上がるという側面があります。たとえば、西日野駅からさらに笹川の団地の中心部まで乗り入れることも可能になります。
また、線路がなくなれば保守のコストも下がるでしょう。専用道と十分な車両数があれば、輸送力不足が起こるとも思えません。BRTは中量輸送システムですから、1日1万人程度なら十分運べるはずです。
筆者も鉄道を愛する者ですが、趣味と現実は別です。最小の負担で最適な交通機関を維持するにはどうすればいいか。「内部補助」や「鉄道存続」に限った議論ではなく、広い視点で検討してもらいたいものです。