ユナイテッド航空が成田~セブ(フィリピン)線を2024年7月31日に開設します。アメリカ系航空会社が以遠権を用いた、久しぶりの新路線です。
週7便の毎日運航
ユナイテッド航空の成田~セブ線は、2024年7月31日から週7往復のデイリーで運航します。機材はボーイング737-800型機で、座席数はビジネス16席、エコノミー150席の計166席です。
運航スケジュールは成田17時25分発のセブ21時35分着と、セブ09時15分発の成田15時20分着。サンフランシスコ、ロサンゼルス、デンバー、ニューアーク、ヒューストンから成田経由でセブへ乗り継げます。
■ユナイテッド航空・成田~セブ線スケジュール
UA32 成田17:25→21:35セブ
UA33 セブ09:15→15:20成田
成田~セブ間には、現在、フィリピン航空、セブパシフィック航空、エアアジア・フィリピンが就航しています。それにユナイテッド航空が加わります。
以遠権とは
特筆すべきは、この路線が以遠権を用いて就航することです。以遠権とは、外国航空機が当該国に到着した後、さらに第三国へ運航ができる権利です。
かつて、国際線が首都圏で成田空港のみに発着していた時代は、アメリカ系航空会社が以遠権を行使して、成田~東南アジア間のフライトを多数運航していました。成田をハブとして、東南アジアへのネットワークを構築していたのです。
以遠権フライトのチケット相場は安かったので、東南アジアへの格安旅行に利用した旅行者も多いでしょう。一方で、アメリカ系航空会社が成田空港のスロットを3割近くも占有しており、日本の航空会社に対する権益侵害と批判されることもありました。
なぜ以遠権は減ったのか
しかし、2010年代に入り、以遠権フライトは減少していきます。
理由はいくつかありますが、2009年の日米航空自由化協定で「成田空港における米国既得権の是正」が盛り込まれ、成田空港スロットにおけるアメリカの航空会社の占有率を引き下げる合意をしたことが契機となりました。
羽田空港の国際化により日本のハブが成田と分散し、以遠権フライトを設定しづらくなったことも理由です。
さらに、飛行機の航続距離が伸びたこと、米本土からアジア各都市への直行便需要が高まったこと、日本・アジア間でLCCが増えたこと、日米航空会社間で共同運航が増えたことなども理由でしょうか。
2020年3月にデルタ航空が成田~マニラ間を廃止したことで、アメリカ系航空会社による成田空港の以遠権フライトは姿を消しました。
便名上はロサンゼルス発着
そうしたなか、今回、日本~フィリピン間に、アメリカ系航空会社が新路線を設定するわけです。以遠権路線としては2020年以来4年ぶりとみられます。
新設されるユナイテッド航空セブ線の便名はUA32/33便で、成田~ロサンゼルス線と同じです。つまり、米側の発地はロサンゼルスです。便名上は、ロサンゼルス~成田~セブとなります。
実質はグアム発着?
ここで疑問が湧きます。成田~ロサンゼルス線の機材は787-10型機です。一方、成田~セブ間の機材はボーイング737-800型機です。同じ機材ではありません。
737-800型機の航続距離では米本土から日本まで飛べませんので、成田~ロサンゼルス間は現行通り787-10型機を使うのでしょう。成田~セブ間が737-800型機ならば、一つの便なのに、途中で機材が入れ替わることになります。
ユナイテッド航空の成田発着便で737-800型機を使っているのはグアム線とサイパン線で、デイリー運航はグアム線のみです。したがって、機材上の米側の起点はグアムになるのでしょうか。
成田~グアム線のスケジュールは成田17時発、15時05分着なので、セブ線の成田15時20分着、17時25分発と時間もあいます。つまり、実質的には、グアム~成田線の以遠路線となるのでしょう。
将来は米本土直行便に?
ユナイテッド航空はサンフランシスコ~マニラ線を運航していて、フィリピンへの太平洋横断便を提供している唯一のアメリカ系航空会社です。セブにも路線を広げることで、フィリピンでの存在感を高めようという狙いでしょうか。
ただ、米本土からセブに直行便を飛ばすだけの需要があるかというと、微妙でしょう。そうした状況で、まずは以遠権を行使して需要を見極め、将来的には米本土直行便に切り替えることも検討しているのかもしれません。
そう考えると、以遠権フライトは、一時的な形で終わる可能性も高そうです。
なお、アメリカ系以外の以遠権フライトとしては、シンガポール航空のシンガポール~成田~ロサンゼルス線や、大韓航空のソウル~成田~ホノルル線が現存します。(鎌倉淳)