つくばエクスプレス土浦延伸、都民も費用負担? 茨城県知事「東京駅延伸とセットで」

茨城単独では無理なので

つくばエクスプレスの茨城県内の延伸先が、土浦方面になることが正式決定しました。茨城県は東京駅延伸とセットで事業化する方針も明らかにし、東京都を含めた沿線自治体に費用負担を仰ぐ姿勢です。

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土浦方面に最終決定

茨城県の大井川和彦知事は、つくばエクスプレスの茨城県内の延伸先について、土浦方面に最終決定したことを明らかにしました。

つくばエクスプレスの茨城県内の延伸については、「土浦」「茨城空港」「水戸」「筑波山」の4候補地がありました。茨城県では、「TX県内延伸に関する第三者委員会」を設置し、どこへ延伸するかを検討。検討委は2023年3月に土浦を最善とする提言書をまとめていました。

提言を受けて、茨城県は5月にパブリックコメントを実施。283名・団体から延べ540件の意見が集まりました。このうち延伸方面に関する意見は328件で、土浦方面に賛成したのは169件(52%)でした。茨城空港が104件、水戸方面が30件、筑波山方面が25件です。一方、92件は県内延伸そのものに反対する意見でした。

つくばエクスプレス土浦延伸
画像:茨城県『つくばエクスプレス(TX)の県内延伸方面(案)に対する意見の概要及び県の考え方について』

 
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輸送密度7,800人の赤字路線

検討委の試算によれば、土浦延伸の事業費は概算で約1,400億円。費用便益費(B/C)は0.6、収支採算性は年3億円の赤字と見積もられています。鉄道新線を事業化するには、B/C1.0以上、収支採算性は黒字が求められるので、遠く届きません。

需要予測としては、1日の輸送人員が8,600人、輸送密度7,800人/キロとなっています。つまり、1日の利用者数が1万人に満たない赤字路線を作ろうという計画です。

つくばエクスプレス

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他3案がひどすぎて

正直なところ、新たな鉄道事業としては成り立たないのではないか、と思わずにはいられませんが、それでも土浦に決まったのは、他の3案の試算が、さらにひどい内容だったからです。

他3案のB/Cは茨城空港が0.0、水戸が0.1、筑波山0.2ときわめて低く、それらに比べれば土浦に優位性があります。大井川知事は土浦を選んだ理由について、「実現可能性のある延伸先であることが、最も重要だと考えて判断した」と述べていて、4案で最も数字がよいことを理由に挙げました。

とはいえ、費用便益費1.0を上回るためには、1日の輸送人員を12,500人以上にする必要があり、そのためには11万人規模の開発が必要と試算されています。人口減少時代のなか、沿線人口を11万人増やすのは、そう簡単な話ではありません。

つくばエクスプレス土浦延伸
画像:茨城県『つくばエクスプレス(TX)の県内延伸方面(案)について』

 

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県内延伸の覚書

仮に費用便益比が1.0を超えたとしても、1,400億円という巨額の事業費が立ちはだかります。

つくばエクスプレスの沿線4都県(東京、埼玉、千葉、茨城)は、かつて、「東京方面以外への延伸はそれぞれの県が費用を負担する」という覚書を交わしています。したがって、茨城県内で延伸をするのなら、事業費は全て茨城県がかぶることになります。

一方で、つくばエクスプレスには、東京駅への延伸計画(秋葉原~東京)もあります。大井川知事は、「それ(覚書)を一回チャラにしてもらって、各都県に御協力もいただいた上で、県内延伸と東京延伸を同時にやりましょうという構図に持っていきたい」と明かしました。

東京延伸と土浦延伸をセットにすることで、覚書を無効化し、両延伸の事業費を沿線自治体が分担する構図に持ち込みたいという意向を示したわけです。

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臨海地下鉄計画に影響?

これは重要なポイントで、うがった見方をすれば、「東京駅延伸だけなら茨城県は合意しない」と宣言しているようにも読み取れます。つくばエクスプレスの出資比率は茨城県が18.05%、東京都が17.65%です。茨城県が筆頭株主ですので、同県が合意しなければ、東京駅延伸は事実上不可能です。

つくばエクスプレスが東京駅に乗り入れない、というだけの話なら、東京都にとってはどっちでもいい話でしょう。しかし、つくばエクスプレスの東京駅延伸は、東京都が計画している都心部・臨海地下鉄(有明・東京ビックサイト~東京)と密接に関連します。臨海地下鉄はつくばエクスプレスと東京駅を共用する予定で、直通運転する計画もあるからです。

つまり、つくばエクスプレスの茨城県内延伸に東京都が冷淡な姿勢を見せれば、茨城県が東京駅延伸に同意せず、臨海地下鉄計画にまで影響が及ぶ可能性が生じるわけです。

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茨城県の協力が不可欠

臨海地下鉄計画は、東京都が2022年11月に事業計画を発表し、2040年までの開業を目指しています。東京駅をつくばエクスプレスと共用するのは、事業費圧縮と採算性の向上が見込めるからです。

車両基地の問題もあります。鉄道新線には車両基地が不可欠ですが、臨海地下鉄沿線で用地を確保するのは簡単ではありません。臨海部で確保できなければ、直通先のつくばエクスプレス沿線の茨城県に設置することになるでしょう。このため、臨海地下鉄の建設には、茨城県の協力が不可欠なわけです。

こうした状況を見定めて、大井川知事が「覚書チャラ」を東京都に呑ませよう、というのがいまの状況とみられます。東京都としては、臨海地下鉄を建設しようとしたら、つくばエクスプレスの東京駅延伸だけでなく、土浦延伸の費用負担まで求められてしまった、という構図です。

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千載一遇のタイミングで

東京都としては、臨海部の人口急増に対処しなければならず、臨海地下鉄の建設は早急に進める必要があります。さらに、臨海地下鉄の沿線では、首都高速の日本橋地下化や晴海線建設の計画もあり、地下鉄と同時施工をすれば工費を圧縮できます。

つまり、臨海地下鉄の着工のタイムリミットは迫っているわけです。

にわかに浮上したように見える「つくばエクスプレスの茨城県内延伸」計画ですが、大井川県知事としては、臨海地下鉄建設が実現性を帯びてきたタイミングを千載一遇と捉え、土浦延伸を具体化したというところでしょう。

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次期答申を見据え

大井川県知事は、覚書を見直し、東京延伸と土浦延伸を、沿線自治体の合同事業として同時決定する形を目指しています。事業費の分担先として、具体的に「国、東京、埼玉、千葉、茨城、事業者TX」を挙げています。

一方で、「採算性がマイナスの時点で、近隣都県に理解を求めることは、これまでの経緯を踏まえると非常に難しい」とも付け加えており、年3億円の赤字となっている採算性をプラスにすることが前提であることを認めました。

「いかに採算の見込みを向上させていくかということが非常に次の鍵。その上で、国はじめ近隣都県の理解を求めていきたい」と強調しています。

そもそも、B/Cが1.0を上回り、採算性が黒字にならなければ、国の補助金が出ないため、延伸実現は困難です。そのため、茨城県は需要拡大と費用削減について調査し、2年以内に採算性のある延伸計画の素案を策定する方針を示しました。

鉄道建設を実現するには、国の交通政策審議会の答申に盛り込まれることが事実上の要件となっています。次の答申は2028年頃と見込まれていて、「2年以内」というのは、次期答申を見据えたスケジュールです。

次期答申に盛り込まれて国のお墨付きを得た後に、茨城県として、路線計画、建設計画、事業資金を最終決定する方針を掲げています。

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小池都知事は?

茨城県のこうした姿勢に、沿線都県はどう対応するのでしょうか。

まず、東京都ですが、小池百合子都知事は、鉄道新線には比較的前向きです。東京メトロ南北線や有楽町線延伸工事を実現するために、メトロ株の売却という「取引」を成立させた実績もあります。

さらに、臨海地下鉄は、小池都政開始後に具体化した計画です。そう考えると、茨城県と意気投合して、「有明~東京~秋葉原」「つくば~土浦」の建設で一括合意しても不思議ではありません。

一方、千葉県(出資比率7.06%)、埼玉県(同5.88%)などは、土浦延伸のメリットが小さいので、費用負担には後ろ向きでしょう。受け入れるには、土浦延伸がつくばエクスプレスの経営にプラスに働き、沿線経済にも好影響を与えるという明快な理由が必要になりそうです。

ちなみに、2016年の交通政策審議会答申資料によれば、つくばエクスプレスの東京駅延伸(秋葉原~東京間)の概算事業費は1,400億円です。奇しくも、つくば~土浦間の概算事業費と同じです。

都民としては、臨海地下鉄ができれば有り難いと考える人は多いでしょうが、ついでに土浦延伸の費用も負担するとなれば、気がかりかもしれません。(鎌倉淳)

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