災害による不通が続いている津軽線蟹田~三厩間で、地元自治体の今別町が「津軽二股までの復旧」を提案しました。斬新な案ですが、実現性はあるのでしょうか。
JR東日本がバス転換を提案
JR津軽線は、2022年8月の大雨で盛土崩落などの被害が出て、蟹田~三厩間で不通が続いています。JR東日本は、利用者が少ないことを理由に復旧を見送っていて、バスや乗合タクシーなどへの転換を提案しています。
この問題を話し合う、地域交通検討会議の第6回会合が2023年9月1日に開かれました。席上で、これまで全区間の復旧を求めてきた今別町が、途中の津軽二股駅までの復旧にとどめる案を初めて提示しました。
今別町の担当者は、報道陣の取材に対し、「JRの全額負担(による復旧)をこれまでも要望してきたが、平行線のままなので、津軽二股~三厩間を自動車交通にすることで、経費がいくらかでも軽減されるなら、自動車交通でもいい」と説明しました。
津軽二股までの維持を求める理由としては、鉄道を廃止をした場合、冬季の今別峠をバスで越えることになり、定時性や安全性で不安があることを挙げました。
もう一つの沿線自治体である外ヶ浜町は、鉄道での復旧にこだわらない姿勢をすでに示しています。今別町が津軽二股~三厩間の廃線を事実上受け入れたことで、この区間の廃止の可能性は大きく高まったと言えます。
提案の実現性は?
津軽二股駅は、北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅に隣接します。今別町としては、新幹線隣接駅までの存続に絞り、町中心部での廃止を受け入れるという、思い切った譲歩をしたわけです。
ただ、この提案が実現するのかについては、疑問符が付きます。というのも、津軽線の被災箇所は計13カ所で、このうち大平~津軽二股間が12カ所です。津軽二股駅まで存続する場合、被災箇所のほとんどを復旧しなければならず、6億円とされる復旧費用の削減幅が限られるからです。
一方で、「津軽二股復旧案」は、復旧後の運行費用の削減には寄与します。津軽線で廃止議論となっている区間は、正確には新中小国信号場~三厩間22.1kmで、このうち津軽二股~三厩間は9.4kmあります。全体の4割を廃止するのですから、仮に復旧した場合、運行費用の削減には寄与します。
JRは、復旧する場合、年間6億円とされる運行費用の一部負担も自治体に求めています。「津軽二股復旧案」は、その総額を減らすことができるでしょう。
奥津軽いまべつ合流案
津軽線は新中小国信号場で分岐して、北海道新幹線とつながっています。貨物列車が両線をまたいで走るためです。
津軽線に新たな投資をして復旧させるなら、両線の合分流地点を新中小国信号場から津軽二股/奥津軽いまべつに移転しては、という考えも浮かびます。
ただし、その場合は、津軽線の中小国~津軽二股間を電化しなければなりません。津軽二股/奥津軽いまべつ駅での合流線も新設しなければなりません。となると、少なく見積もっても数十億円単位の費用がかかるでしょう。
それに見合うメリットが、関係するJR貨物などにあるのかというと疑問です。
津軽海峡線乗り入れ案
あるいは、津軽線列車を新中小国信号場から津軽海峡線に乗り入れさせ、奥津軽いまべつ駅で折り返してはどうか、というアイデアも浮かびます。
この場合、奥津軽いまべつ駅に在来線ホームと折り返し設備を新設する必要があります。折り返し設備は新幹線を跨いで造るわけにはいかないでしょうから、たとえば津軽海峡線の中小国~奥津軽いまべつ間の下り線を、上りでも走れるようにするといった改修案が考えられます。
中小国~津軽二股間の電化に比べれば費用は小さく済みそうですが、数億円では済まない可能性があります。一方、既存路線を活用するという点で、運行維持にかかる費用は少なく済むかもしれません。
ただし、北海道新幹線はJR北海道の管轄です。津軽線が奥津軽いまべつ駅に乗り入れるのなら、JR北海道が費用負担を一切しないで済む枠組み作りも必要です。
負担割合で問題が
結局のところ、単純に「中小国~津軽二股間のみ復旧する」のがシンプルです。ただし、この案も、復旧後に地元自治体が運行費用を負担するとなると、微妙な問題が生じます。
不通区間のうち、中小国駅、大平駅、三厩駅が外ヶ浜町に位置し、津軽二股駅~津軽浜名駅が今別町に立地します。今回の提案で廃止を受け入れる津軽二股~三厩間のほとんどは、今別町内の区間です。
運行費用の負担割合を、単純に自治体内の営業距離に比例させる場合、「津軽二股存続案」では、外ヶ浜町の負担割合が高くなってしまいます。外ヶ浜町には割にあわず、簡単に受け入れられない話になるでしょう。
そもそも、外ヶ浜町は蟹田以北の全線廃止を受け入れる構えですから、「津軽二股存続案」なら費用負担をしないという姿勢を見せても不思議ではありません。
JRも外ヶ浜町も運行費用を負担しないのであれば、県と折半であれ、今別町が億単位の費用を毎年負担しなければならなくなります。
難しそう
まとめると、単純な「津軽二股存続案」の場合、復旧費用がほとんど削減できない上に、運行費用を自治体が負担するのは困難という問題が残ります。
「奥津軽いまべつ合流案」と「津軽海峡線乗り入れ案」は、いずれも新たな初期費用が生じる上、JR北海道やJR貨物も巻き込む話になり、簡単にまとまりそうもありません。
「津軽二股存続案」は斬新ですし、実現を期待したいところです。しかし、本質的な話をすれば、過疎地域のローカル線に投資する意味があるのか、という議論です。そう考えると、現実には難しそうです。(鎌倉淳)