「としまえん」が混んでいた。「さようなら」を伝えるならお早めに

施設には余裕あり

「としまえん」に行ってみました。閉園報道が出た後の、最初の日曜日。好天にも恵まれて順調な客足で、「さようなら」を意識した訪問客が早くも出始めているようです。

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正式決定ではないものの

「としまえん」の閉園報道が流れたのは、2020年2月3日。読売新聞が先行して報じ、各社が続きました。報道内容の概略は各社同じで、同園を段階的に閉園し、跡地に東京都の公園や、映画「ハリー・ポッター」のテーマパークを開設する、という内容です。

「としまえん」を運営する西武グループから現時点で発表はなく、閉園は正式に決定したことではないようです。しかし、新聞・テレビの主要メディアがほぼ同じ内容を報じていることから、確度の高い情報とみてよさそうです。

「としまえん」の最近の入場者数は年間100万人程度ですが、バブル期には年間約400万人を集めていた老舗遊園地です。閉園報道を受け、ウェブ上には「懐かしい」「閉園前に行ってみたい」という声があふれました。

としまえん

チケット売り場に行列

筆者は「懐かしい」というほど昔の「としまえん」を知っているわけではありませんが、最近は5歳の息子を連れてたびたび訪れています。閉園報道後、初めての週末となる2月9日の日曜日に、どんな様子かと家族で「としまえん」を訪れてみました。

冬晴れの気持ちのいい日で、練馬区の最低気温は1度と冷え込みました。そんな寒い朝にもかかわらず、午前10時過ぎに駐車場のある東門に行ってみると、チケット売り場にはパーティションポールからあふれるほどの列ができています。最近の「としまえん」のチケット売り場でこれだけ並ぶことはあまりありません。「さよなら訪問」が早くも始まっている雰囲気を感じます。

チケット売り場に10分ほど並んで入場。お目当ての「チャレンジトレイン」に並び、2回乗車。最初は20分待ち、次が30分待ちと、少しずつ列が長くなっていました。ただ、週末はいつも30分程度の列ができているので、この日の待ち時間が取り立てて長かったわけではありません。

としまえんチャレンジトレイン

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「マサラ」も混雑

お楽しみの昼食。としまえんのメインレストランといえば「カリーノ」ですが、混雑時にはいつも行列がひどいので、筆者はたいてい「マサラ」でインドカレーをいただいてます。お手頃価格で味もよく、ふだんはあまり混まない店なのでおすすめなのですが、この日は混んでいました。

11時過ぎで数組の行列があり、14時頃に立ち寄ったときには店の外まで続く大行列に。こんな「マサラ」を見たことなく、ちょっと驚きました。

マサラ

大混雑ではない

午後は「こどもの森」という遊び場に行ったり、いくつかのアトラクションに乗りました。「こどもの森」は大賑わいでしたし、どのアトラクションも普段の週末よりは行列が長めです。

並んでいるときに他の客の会話を聞いていると、「久しぶりに来た」とか「ハリー・ポッターになったら」などという話が漏れ聞こえます。やはり「さよなら訪問」はすでに始まっているのでしょう。

ただ、閉園報道後の「としまえん」は大混雑! というほどではありません。たとえば「東京ディズニーランド」の平日よりもはるかに空いています。遊園地というのは、ある程度人がいた方が賑やかでいい、という考え方にたてば、今の「としまえん」の混み具合は適度です。筆者が過去数回訪れている週末よりも人がやや多め、という個人的感想に過ぎません。

幼児連れにはうってつけ

改めて感じるのは、「としまえん」という遊園地の居心地の良さです。園内が広すぎず狭すぎず、アトラクションがばらけていて、混雑も適度。休憩のためのベンチも多く、人いきれのストレスがありません。

なにしろ最近の入場者数は最盛期の4分の1程度なので、施設のキャパシティには余裕があります。レストランで食事を買うのには行列しますが、席取りは難しくありません。これが適度な居心地の理由にも思えました。

幼児向けのアトラクションも多く、幼い子を連れて気楽に訪れるにはうってつけです。

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漂うレトロ感

園内にはレトロ感が漂います。アトラクションについては、前出の「チャレンジトレイン」や「アソブラボー」といった新しい施設もあるものの、総じてリニューアルが進んでいません。

チケットシステムも昔ながらで、「のりもの1日券」(大人4,300円、子供3,300円)や「キッズのりもの1日券」(大人3,000円、子供2,500円)のほか、「入園券」(大人1,000円、子供500円)で入って、「のりもの券」でアトラクションを利用することも可能です。

園内で「のりもの券」が必要なときは、アトラクションの係員から乗車時に現金で買う仕組みです。面倒ですが良心的な価格で、予算に応じて楽しむこともできます。

駐車場には事前精算機はなく、出口のゲートで、車内から身を乗り出して1,600円の駐車料金を現金で払います。

アーケードゲームやバッテリカーなど、コインで楽しむ遊戯施設も多くあり、総じて「現金」が活躍する場面の多い遊園地です。そういえば、昔はみんな現金だったな、と懐かしくなる一方で、園内の自動券売機や、カードで払える駐車場の事前精算機くらいは欲しいな、とも思ってしまいます。

守りの経営

こうしたハード、ソフト両面の古さが、「としまえん」のレトロな雰囲気を醸し出しています。それは懐かしく魅力的でもあるのですが、アトラクションやシステムへの投資を控えてきた結果とも察せられます。

オペレーションも切り詰めているようで、最低限の人員で回そうとしているからか、ピーク時には対応しきれていない印象を受けます。

「チャレンジトレイン」では、係員が一人しかいないために、チケット確認、出発説明、到着対応で忙しいところに、チケットの現金購入が続くと手が回らず、5台ある車両の4台がホームで出発待ちしている、というような、設備を活かし切れていない場面もありました。

ちなみに、「としまえん」は、毎週火・水曜日が定休日で、1・2月は火・水・木曜日が休みと、週休3日になっています(学休日など除く)。冬の平日は10時~16時の営業が基本で、従業員のシフトが回りやすいような開園時間になっています。

こうした状況を見ると、「としまえん」が守りの経営をしていることが改めて感じられました。

積極的に人や物に投資して、遊園地として発展していく道を模索している様子はなく、最低限の投資と雇用で事業を当面維持する経営方針が、利用者に伝わってきます。逆に言えば、いつでも閉園できる体制に感じられ、ならば閉園報道はやっぱり事実なのだろうと思わずにはいられませんでした。

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しかたないのか

「としまえん」の入園者数は、2017年度が96万人、2018年度は112万人。ちなみに、東京ディズニーリゾートは、2パーク合計で年間3,200万人を集めます。としまえんの面積は22ヘクタールにすぎず、東京ディズニーリゾート(総面積約200ヘクタール)の1割強の広さと考えても、この立地でこの入場者数では物足りないでしょう。

運営する株式会社豊島園の2019年3月期決算は純利益52万7000円、利益剰余金2684万7000円と寂しい数字で、としまえんの現状の厳しさがわかります。売上高は公表されていませんが、入場者数とチケット料金から推測すると、40~50億円程度でしょうか。ちなみにオリエンタルランドの売上高は5,200億円です(2019年3月期)。

こうした数字から考えれば、全面的に施設を入れ替えて、都営公園と「ハリー・ポッター」テーマパークにしてしまうのも、しかたないのかもしれません。個人的にはすごく残念ですが。

各社報道によれば、としまえんは2020年以降、段階的に閉園し、「ハリー・ポッター」のテーマパークは2023年春にも開業する予定とのこと。事実とすれば、「としまえん」の閉園までの時間は長くありません。

「としまえん」で育った人、子を育てた人は多いことでしょう。「ありがとう」「さようなら」を伝えにいくなら、早めが良さそうです。(鎌倉淳)

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