JR石勝線トマム駅に直結して建設されたトマムリゾートが、開業40年を迎えました。星野リゾートが運営にかかわってから20年です。トマムの現在地を見てきました。
1983年12月に開業
国鉄石勝線が開通したのが1981年10月1日。トマムスキー場は、その2年後、1983年12月に開業しました。
同線石勝高原駅(現トマム駅)の跨線橋からつながる連絡橋を歩いて行くと、スキー場のインフォメーションセンターに至るという、駅直結のスキー場でした。当時はガーラ湯沢もありませんでしたし、駅直結スキー場は、全国的にも珍しかったでしょう。
高速道路が発達していない時代でしたので、トマムスキー場へのアクセスでは国鉄が大きな役割を果たしました。札幌から特急列車で約1時間半でゲレンデに着くのですから、利便性は抜群です。そもそも、トマムの開発計画を議論した協議会の座長は鉄道弘済会北海道支部長で、当初から国鉄がトマム開発にかかわっていました。
1987年から1991年にかけて、4本のタワーホテルが相次いで竣工します。ほぼ無人だった山奥にタワーホテルが林立する姿は、絶頂期を迎えていた日本経済の力強さを映し出していたようにも感じられました。この絶頂は「バブル」と評されますが、それが実感されるのは、少し後の話です。
寝台特急でスキー場へ
筆者がはじめてトマムを訪れたのは、バブル崩壊という言葉が定着した1995年頃でした。上野から寝台特急「北斗星」で南千歳駅で降り、特急「おおぞら」に乗り換えてトマムの地を踏みました。
当時はスキーブームが続いていて、新宿発トマム行きの寝台特急が不定期運行していたほどです。旅行会社の北海道スキーのパンフレットに「寝台特急で行く」といった文字が踊っていました。
今思えば夢のようですが、この小さな無人駅が、東京からの寝台特急の終着駅だったのです。
トマム駅から「スカイウォーク」と呼ばれる長い連絡橋を渡るとホテルのインフォメーションセンターがあり、JRのきっぷを販売する「トマムトラベルセンター」のカウンターが設置されていました。近くにはスキー場のコースとリフト乗り場もあり、文字通り駅直結ゲレンデを実現していたのです。
ただ、そこはあくまでも「インフォメーションセンター」にとどまり、スキー場のセンターハウス機能は有していませんでした。ホテル宿泊客もここでチェックインできるわけではなく、インフォメーションセンター前のロータリーからリゾートのバスに乗って、ホテルまで運んでもらいました。
山麓部の緩斜面が難点
トマムは山野を切り開いた壮大なリゾートで、当時としては先進的な施設を誇りました。内陸に位置し、雪は乾いていて軽く、雪質という点でも抜群です。
ただ、ゲレンデ構成はいまひとつで、特に山麓部の長い緩斜面が難点でした。緩斜面の先(山側)に上部リフトがあり、筆者はそれを主に使っていましたが、そこで回し始めるとイメージほど広いとは感じられず、「案外滑るところが少ないな」と思ったものです。
上級者向けにはチャレンジングなバーンが好評とも聞きましたが、筆者には手強すぎました。総じて、中級者向けのコースバリエーションが乏しいという印象です。
それから、筆者の足はトマムから遠のきました。
星野リゾート運営へ
バブル崩壊とスキーブームの終焉があって、トマムに苦境が訪れます。トマムには大きく二つの資産保有会社があったのですが、その一つのアルファ・コーポレーションが経営難に陥りました。北海道拓殖銀行の破綻も追い打ちとなり、1998年に自己破産。資産を占冠村が買い取り、加森観光に運営を委託します。
アルファ・コーポレーションの破産により、一部施設で休業が発生するなど混乱し、トマムのイメージは悪化します。結局、もう一つの資産保有会社(関兵精麦)も、2003年に民事再生法の適用を申請。保有していたトマムの施設を星野リゾートに売却しました。
結果としてトマムの運営は、施設により加森観光と星野リゾートに分かれました。これはこれでややこしく、占冠村が星野リゾートへ運営委託先を変更することになり、加森観光が2004年シーズン限りで撤退。2005年10月から星野リゾートによる単独運営となりました。
しばらくは再建中
筆者が二度目のトマムを訪れたのは、星野リゾート運営になって8年が過ぎた、2013年のことです。星野になったトマムが気になり、富良野で滑った後、クルマで立ち寄りました。スキー・スノボのインバウンドは始まっていましたが、いまほどのブームにはなっていない頃です。
ザ・タワーに宿泊したのですが、チェックインが混雑し、20分くらい行列した記憶があります。1泊数万円もする高級リゾートホテルで、チェックイン時に20分も立って待たされる状況が放置されていることには、少なからず驚かされました。
スキー場のリフト構成は少し変わっていて、クワッドが増えていましたが、昔ながらのシングルリフトも残っていました。
トマム駅横のコースとリフトは廃止されていました。ただ、インフォメーションセンターは営業していて、JR線のきっぷを扱うトラベルセンターも残っていました。
ゲレンデはとても空いていて、リフト待ちもなく快適でした。しかし、「星野リゾートらしさ」を感じることはあまりなく、経営再建中のリゾート、という印象が残りました。
3度目のトマム
そして、2024年、3度目のトマムを訪れました。今回は家族連れで、息子のリクエストを受け、鉄道利用ができるトマムを選びました。新千歳空港まで飛行機を利用し、南千歳駅からは特急「おおぞら」です。
夕方のトマム駅で、ざっと50人くらいが降車しました。狭いホームはたちまち旅行者であふれかえります。
3台のバスがホーム横に待ち受けていて、ホテルごとに客を割り振ります。荷物運搬用のトラックも用意してあり、客は荷物をトラックに預けて、身一つでバスに乗り、ホテルのロビーで荷物を受け取ります。じつにシステマティックでした。
一方、駅前のインフォメーションセンターは使われなくなり、連絡橋も閉鎖されていました。
アジア系スタッフが多く
今回の宿泊先はリゾナーレトマムです。チェックインではほとんど待たされず、スムーズな手続きです。以前来たときは人手不足を感じたのですが、今回は十分なスタッフが待機していました。
驚いたのは、ホテルのスタッフの多くがアジア系の外国人だったこと。外見は日本人と見分けがつかず、日本語が堪能なので少し話してもわからないことが多いですが、微妙なイントネーションに違いがあります。
調べてみると、トマムが立地する占冠村の人口約1,500人のうち、外国人は約500人にのぼります。その多くがトマムで働いているのでしょう。日本人スタッフは住民票を移さずに居住している人も多いでしょうから、総数はわかりませんが、ホテルスタッフで接するのは日本人より外国人のほうが多い印象です。
一方、滞在客は、年末年始だったこともあり日本人も多く、外国人と半々という印象でしょうか。外国人の多くはアジア系で、ニセコなどで目立つ欧米系の旅行者は少数派に見受けられました。
オールスイートに泊まってみる
宿泊したリゾナーレトマムは、「オールスイート」がコンセプトのタワーホテルです。バブルを体現した構造で、全室100平米以上の面積があり、ジャグジーとサウナを備えます。星野リゾート運営になってから客室リニューアルが進められ、ファミリー向けに改装されたと聞き、今回選んでみました。
実際に泊まってみると、たしかに広くて贅沢なのですが、客室の中央部分をジャグジーとサウナが占めていて、使い勝手は今ひとつ。ジャグジーに洗い場がなく、シャワー室まで歩かないといけない仕様は、ファミリーには使いにくいです。
これはおそらく開業時からそのままで、バブル期のカップル向けの仕様なのでしょう。水回りを変えると巨費がかかるので、客室リニューアルでも改装を避けていると思われます。
初級者に優しいスキー場に
ゲレンデに目を移します。
星野リゾートになって、大幅な変更が加えられたのがリフト配置です。かつては1本のゴンドラと10本のリフトがありましたが、リフトの更新にあわせるタイミングで整理したようで、いまは1本のゴンドラと5本のリフトが残るのみとなっています。
リフト廃止にあわせて一部のコースを閉鎖する一方、更新したリフトにあわせて新たなコースも生まれています。特筆すべきは、タワー側の山頂から初級者コースが設定されたことでしょう。これにより、二つある山頂の両方に初級者コースが設定されたことになります。
新コースを滑ってみましたが、緩い斜面にまずまずの広さが確保されていて、初級者でも苦しまずに滑り降りることができそうです。
これなら、山頂から、腕前の違うメンバーで滑り降りることができます。子連れのファミリーでも大丈夫です。山麓の長くて広い緩斜面とあわせて、「初級者に優しいスキー場」になったわけで、星野リゾートの狙いがわかります。
リフト待ちは大行列
リフト数を絞ったからか、リフト待ちの混雑は激しくなっていました。
筆者が訪れた際、リフト5本のうち、1本(パウダーエクスプレス)は動いているのを見ていないので、実質4本しか稼働していませんでした。それもあってか、日中時間帯は、かなり長いリフト待ちが発生していました。
ゴンドラは「雲海ゴンドラ」というネーミングで、スキー・スノボ客以外にも開放しています。山頂の雲海テラスを訪れる観光用としても機能しているのですが、そのぶん、行列はさらに長くなります。
スタッフはリフトやゴンドラの相乗りをほとんど促しておらず、行列時にも、一人客がゴンドラやリフトを独占していました。輸送力の高いクワッドを導入しても、一人しか乗せないなら意味がありません。
行列の整理も今ひとつで、リフト待ちの割り込みも横行しています。客が並び方で戸惑っている側面もあり、事業者として誘導方法を工夫して欲しいところです。
リフト1日券は7,000円。思う存分滑れるなら高いとは思いませんが、リフトでの待ち時間が長いと、割にあわないように感じられます。前回トマムに来た際に、行列でストレスは感じた記憶はなかったので、これは残念なポイントでした。
アクティビティも充実
トマムは道内でも屈指の寒冷地で、冬季はマイナス30度に達することもあります。一方、内陸なので降雪量は少なく、冬季でも晴天率が高いという特徴があります。
こうした気候条件と、広大な敷地を活用して、トマムでは、スキー・スノボ以外のアクティビティを充実させています。雪上バギーやスノーモービル、スノーピクニック、わかさぎ釣りなど、さまざまな雪体験ができます。
ネットでの事前予約が可能で、筆者も使ってみましたが、結構前から埋まっています。滞在中に申し込んでは間に合わないものもありました。
筆者はわかさぎ釣りに参加してみました。わかさぎ釣りは、クルマで45分のかなやま湖でおこないます。同行したのは香港からの旅行者でした。
湖に着いてみると、他の会社のものを含めて、ツアーのテントがびっしり張られていて、異国語が飛び交っています。スタッフに聞いてみると、タイやマレーシアからの参加者が多いとのこと。氷上での釣りは、東南アジアでは体験できないことです。それが旅行者の興味を引くのでしょうか。
アイスヴィレッジ、造波プール
有名になったのが、アイスヴィレッジ。星野リゾート以前から実施されていたもので、道内でもとくに気温が低い、トマムならではの冬の名所です。
氷でできた町歩きは楽しく、遠くには花火が上がり、氷の滑り台やスケートも体験できます。
造波プールもあります。以前は冬の北海道でプールに入る意味を感じられず、足を運んだことはなかったのですが、今回、子どもを連れてきてみると、スキーより楽しんでいるように見えました。
これも、バブルの象徴のようにみなされてきましたが、ファミリーをターゲットにした施設として、十二分に活用されているようです。
トマムの現在地
ここまで書いてきたように、星野リゾートとなったトマムは、ファミリーをメインターゲットに据えてよみがえっています。ホテルはファミリー向けにリニューアルし、スキー場で初級者エリアを拡張し、スキーに慣れていないアジアからの旅行者や、日本人の家族連れに使いやすい施設となりました。
スノーアクティビティも充実し、ネット予約で海外からの旅行者にも利用しやすくしています。プールや、アイスヴィレッジといった、星野リゾート以前からの施設でも、細かな工夫や改善点がみられました。
こうして見てみると、トマムの真骨頂は、スキー場以外にあるのかもしれません。比較的安定した冬季の天候もあって、「総合ウィンターリゾート」としての完成度は、他の追随を許しません。これこそが「トマムの現在地」といえそうです。
筆者は4泊滞在しましたが、スキーをしたのは1日だけでした。それでも楽しめるのが、いまのトマムです。
駅施設には進歩みられず
最終日、ホテルからトマム駅へバスで戻ります。
星野リゾートになってからのゲレンデリニューアルで、駅前のインフォメーションセンターに接するリフトとコースは廃止されました。インフォメーションも使われていませんので、いまのトマムは、「駅直結スキー場」ではありません。
たくさんの旅行者が歩いた「スカイウォーク」も閉鎖され、鉄道跨線橋として使われる部分だけが開放されています。
エレベーターがないため、下りホームから上りホームへは、重い荷物を抱えて、冷たい階段を上り下りしなければなりません。ホームの待合室もプレハブです。リゾートの玄関口は、1980年代の構造のまま進歩していないように見受けられます。
リゾートの質の高さに比して、鉄道駅設備の貧弱さが気になりました。
特急が全車指定席に
現在のトマム駅の利用者は、増えたとはいえ、多くても1日100~200人程度とみられます。年間にならせば100人未満かもしれません。駅エレベーターの設置基準は1日2,000人以上ですから、到底及びません。
しかし、利用者の多くは海外からはるばるやってきた外国人観光客で、大きなスーツケースを抱えています。日本に来てくれた旅行者が、荷物を抱えて四苦八苦する姿を見ると、なんとかしてあげられないものか、と思わずにはいられません。
トマム駅は無人駅で、券売機もありません。一方で、発着する特急列車は、2024年3月の改正で全車指定席になります。トマム駅からの利用者は、駅のQRコードを乗車証明にすれば着地で精算はできますが、座席を指定して乗車することはできません。
駅とリゾートを一体化できていれば
惜しむらくは、建設当時、インフォメーションセンターを駅から離れた場所に設置し、連絡橋で接続するという形態にしてしまったことでしょう。
駅舎とインフォメーションセンターを一体化して、レストランなどスキー場のセンターハウス機能の一部を備える形にしていれば、駅全体がリゾートの一部となり、エレベーターも設置しやすく、きっぷ販売も継続でき、快適な待合スペースを提供できていたのではないか、という気がします。
地形の制約があり実現は難しかったと思いますが、それができていれば、到着から出発まで、切れのない高品質リゾートたり得たかもしれません。
片側ホーム運用ができないか
予約の問題は、インターネット販売でチケットレス乗車を導入すれば、解決できることでしょう。そう遠くない将来に、対応されると思われます。
一方、エレベーターは難題で、設置するとなると億単位の投資が必要です。設置したとしても、氷点下30度にもなる極寒地ですから、メンテナンスや緊急時対応も大変そうです。
エレベーターの未設置は、インバウンドが道内で増えるにつれ、他の駅でも問題になっています。そのひとつ登別駅では、自治体の協力で新駅舎を建設する際にエレベーターを設置することになりました。
しかし、登別と違って、トマムは山間の無人駅で、リゾート関係以外の利用者はほとんどおらず、同じようなスキームが使えるのか定かではありません。
短期間で実現できそうな対応策があるとすれば、トマム駅での列車交換をなくし、全列車が道路側ホームに停車することでしょうか。ダイヤの制約があって難しいかもしれませんが、設備投資なしで改善できる方策ですので、検討してほしいところです。
先進的だったが
トマムは、良くも悪くも、先進的なリゾートとして誕生しました。ホテル、ゴルフ場、スキー場の「3点セット」による総合開発をおこない、贅沢な空間構成で設計し、会員権販売により早期に資金回収を図る枠組みは、当時としては画期的だったと聞きます。
あいにく、3点セットは陳腐化し、贅沢すぎて無駄が多く、会員権販売は巧くいかなかったようですが、それは後から振り返っての結果論ともいえます。
鉄道アクセスを重視した点も、先進的な側面の一つでしょう。いまも、道内でもっとも鉄道アクセスがしやすいスキー場であることに変わりありません。国外での真冬のドライブを不安に思う人は少なくないので、外国人旅行者には魅力です。
開業40年、苦しい時期も長かったですが、トマムはいよいよポテンシャルを発揮しはじめたように見受けられます。その未来が楽しみです。(鎌倉淳)