国土交通省が「東京の地下鉄ネットワークのあり方」について答申を公表しました。豊住線、品川地下鉄の早期の事業化と、メトロ株の上場をセットで求めました。結果として、メトロ・都営地下鉄の一元化は断念する方向となりそうです。
整備を進めるのが適切
国土交通省は2021年7月15日に、交通政策審議会鉄道部会の「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」の答申を公表しました。答申では、東京8号線(メトロ有楽町線)の豊洲~住吉間と、都心部・品川地下鉄構想について、「早期の事業化を図るべき」と建設を促しました。
一方、都心部と臨海部を結ぶ都心部・臨海地域地下鉄構想については、「事業化に向けて関係者による検討の深度化を図るべきである」とし、さらなる検討を促しています。
豊住線とは?
メトロ有楽町線の豊洲~住吉間は「豊住線」とも呼ばれる計画で、距離は5.2km。途中、東陽町駅と、豊洲~東陽町間、東陽町~住吉間の中間地点に各1駅の、合計3駅を設けます。
2010年に江東区が事業化に関する検討を開始し、2013年に「東京8号線(豊洲~住吉間)延伸に関する調査報告書」を公表。2016年の交通政策審議会答申第198号にも盛り込まれました。2019年3月には、交通政策審議会により、事業性があることが確認されています。総事業費は1,560億円を見込みます。
品川地下鉄とは?
都心部・品川地下鉄構想は「品川地下鉄」とも呼ばれる計画で、南北線を品川まで延伸するものです。白金高輪~品川間の2.5kmで、途中駅は設置されません。
2016年答申198号に盛り込まれ、2019年調査で事業性があると確認されています。総事業費は800億円を見込みます。
メトロが事業主体に
東京都は、東京メトロに対し、有楽町線と南北線の延伸について、それぞれ事業主体になるように求めてきました。しかし、上場を目指す東京メトロは財務の悪化を懸念し、自ら新線を建設しない姿勢を示しています。
これについて、今回の交通政策審議会の答申では、これらの路線は「東京メトロのネットワークとの関連性があり、運賃水準や乗換利便性など利用者サービスの観点や整備段階での技術的な観点からも、東京メトロに対して事業主体としての役割を求めることが適切」とし、東京メトロに建設・運営を求めるべきとしました。
一方で、「東京メトロの経営に悪影響を及ぼさないことが大前提」とし、「地下高速鉄道整備事業費補助や独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構による都市鉄道融資の活用が適切」としました。国や都による「十分な公的支援が必要」ということです。
メトロ株上場へ
答申では、豊住線と品川地下鉄の建設とセットで、東京メトロの株式の売却も求めています。メトロ株は、現在、国が53.4%、東京都が46.6%を保有しています。これについて、答申では、「事業主体となることと一体不可分のものとして東京メトロ株式の確実な売却が必要である」としました。
具体的には「東京8号線の延伸及び都心部・品川地下鉄構想の整備期間中には両路線の整備を確実なものとする観点から、国と東京都が当面株式の1/2を保有することが適切である」とし、まずは国と都がそれぞれ持ち株の半分を売却し上場させた上で、豊住線と品川地下鉄の開業後、残りを売却して完全民営化を図るという方向性を示しています。
これまで、都はメトロと都営地下鉄の一元化を目指し、国がメトロ株を売却した場合、都が購入する意向を示してきました。これがメトロ株上場の妨げになっていたのですが、答申では、国と都がそれぞれ保有する東京メトロ株の半分を売却することを求めたわけです。
一元化は実現せず
メトロ株の半分が市場に放出されることになれば、東京メトロと都営地下鉄の一元化は実現しないことになります。
要は、東京メトロが豊住線と品川地下鉄の事業主体となる代わりに、都がメトロと都営地下鉄の一元化をあきらめて、メトロの上場を実現させる、という取引です。答申を受け、赤羽一嘉国交相と小池百合子・東京都知事はオンラインで会談し、株式売却の準備を進めることで合意しました。つまり、取引は成立したことになります。
この合意により、豊住線、品川地下鉄、東京メトロの上場、東京の地下鉄一元化の断念、という重要な4点がほぼ決定したとみていいでしょう。
豊住線、品川地下鉄の開業予定は未定ですが、答申198号では、2030年頃を念頭に置くと記されています。一般的に、地下鉄建設には10年程度はかかりますので、2030年代前半というのが妥当なところでしょうか。
臨海地下鉄については、今回の答申で「東京メトロは自社ネットワークと関連性がないとの考え」と記されていて、メトロ以外が整備する前提のようです。
答申198号では、常磐新線(つくばエクスプレス)と一体整備する案が示されていて、メトロ線との乗り入れは想定されていません。そのため、メトロ以外の事業主体を探さなければならず、実現への道はやや遠そうです。(鎌倉淳)