只見線の全線復旧方針が本決まりになりそうです。福島県議会に復旧費用に関する補正予算案が提出される見通しとなり、早ければ2017年度内に着工、2021年度にも全線運転再開となりそうです。
JR東日本と福島県が合意書締結
只見線は2011年7月の新潟・福島豪雨で一部区間が不通となり、現在も会津川口~只見間27.6kmが運休中です。橋梁流出などが生じ、復旧に巨費がかかるうえに、利用者がきわめて少ないため、JR東日本はバス転換を地元に提案していました。
しかし、福島県と沿線市町村などで構成する只見線復旧推進会議は、2017年3月に、地元負担による鉄道復旧をJR東日本に要請。JR東日本は鉄道復旧の場合は上下分離を求めていましたが、これも地元が受け入れる姿勢を示したため、全線復旧される見通しとなりました。
福島民報2017年6月18日付によりますと、6月19日にJR東日本と福島県が鉄道復旧に関する基本合意書を締結するとのことです。
2021年度までの債務負担行為
福島県の定例県議会は6月20日に開会する見通しで、基本合意書締結を受け、只見線復旧費用を含む補正予算案が提出されます。鉄道網整備対策費約54億円が債務負担行為で計上されます。
債務負担行為とは、複数年にわたって発生する見込みの支出について、当該年度分に使う予定のない金額について便宜的に記される予算の項目です。簡単にいえば予算の先取りです。
わかりにくいですが、議会には「会計年度独立の原則」があり、複数年度に渡る予算を計上することはできません。しかし、それでは外部に対し、将来にわたる費用負担の合意などができなくなります。それを避けるため、会計年度独立の原則の例外として、債務負担行為というしくみがあります。今回の件でいえば、JRに対し、将来にわたって工事費などの財源確保を保証する意味があります。
債務負担行為の設定期間は2017年度から2021年度までの5年間となりました。債務負担行為により複数年にわたる財源見通しを明示したことで、福島県は来年度以降の支払い分を含めた契約をJRと結ぶことが可能になります。
県議会で補正予算が承認された後、福島県とJR東日本が復旧事業に関する本協定を締結する流れになります。協定締結後、JRは2017年度内にも橋梁の設計などに着手します。債務負担行為の設定期間が2021年度までとされたことから、2022年3月までに只見線全線の運転再開が実現しそうです。
鉄道軌道整備法改正もにらむ
復旧費用の総額は約81億円で、3分の1に相当する約27億円をJR東日本が負担し、3分の2の約54億円を県と地元自治体が負担します。現在の法令では、鉄道事業者であるJR東日本が黒字企業のため、国が復旧費用を負担することはできず、国の負担分はありません。
ただし、大規模災害で路線が被災した鉄道会社に対し、黒字企業でも国が災害復旧事業費を補助できるよう鉄道軌道整備法の改正が検討されており、実現すれば国が復旧費用の3分の1を負担することが可能になります。
その場合は県を含む地元自治体の負担は3分の1になりますが、現時点では改正がおこなわれていないため、福島県が3分の2を負担する割合になっています。
復旧後に鉄道施設を福島県に譲渡
復旧の基本的な枠組みは、JR東日本が線路や駅などの鉄道施設を復旧させ、復旧後に、福島県に無償譲渡します。鉄道の運転再開後は、鉄道施設を所有する福島県がJR東日本に施設使用料を請求しますが、減免措置で実質的に無償となります。
鉄道施設の維持管理は、福島県がJRに委託します。年間の維持管理費は約2億1000万円とされ、その7割を県が負担し、沿線自治体が3割を負担します。不通区間を含む上下線の運行本数は被災前の1日3往復が基本となります。
1日3往復の路線の復旧に81億円を投じ、維持費として年2億円も負担することが、費用対効果に叶うかというと疑問です。しかし、そこまでしてでも只見線を残したいという希望が地元にあり、将来にわたって赤字をかぶるというのですから、その覚悟は尊重されるべきでしょう。
旅行者としては、地元の意気に敬意を表しつつ、乗り放題きっぷ以外で乗車して、只見線を応援したいところです。(鎌倉淳)