夕鉄バスは10月1日に新札幌に発着する3路線を廃止します。廃止される新札幌~新夕張間の「新札夕線」に乗車してみました。
新さっぽろターミナル
2023年9月上旬の平日午後、新さっぽろバスターミナルを訪れました。夕鉄バスは12番乗り場に発着します。
10月1日に、ここから発着する路線のうち、急行夕張りすた行き(札幌急行線)、新夕張駅前行き(新札夕線)、栗山駅前行き(札幌代行線)の3路線が廃止される予定です。しかし、バス乗り場にその案内はありません。
最も便数の多い南幌東町行きは存続するから問題ないのか、それとも別の理由があるのかわかりませんが、とにかく新さっぽろの夕鉄バス乗り場は、いつもと変わらぬ風情です。
そこへ、13時40分発の新夕張駅前行きが入線しました。車両は日野ブルーリボンのノンステップバス。2018年に導入された、比較的新しい車両です。
乗り込んだのは、筆者を除き、ご婦人が2人です。ちなみに、13時に出発した札幌急行線(夕張行き)も見送ったのですが、その乗客も2名でした。
ご婦人の利用が多く
バスターミナルを出発すると、すぐに国道12号線に入り、野幌方面へ向かいます。次の厚別中央2条6丁目でさらにご婦人一人を乗せ、筆者を除き3名に。
ちなみに、全線を通じて、乗客はご婦人が多く、男性はあまり利用していませんでした。
札幌の郊外路線として
文京台入口を出ると、JR函館線と並走します。といっても、JR線は防風林に守られているので、バスの車窓からはあまり見えません。
北翔大学・札幌学院大前で1人が乗り1人が降車。次の大麻駅南口で2人が降車。そのうちの一人は、北翔大学・札幌学院大前で乗ったばかりの客です。このあたりは、札幌郊外のバス路線として、気軽に利用されているようです。
13時59分野幌駅南口に到着。野幌駅は、夕張鉄道が鉄道線として運行していた頃の始発駅でした。夕張鉄道は野幌から栗山を経て夕張本町を結んでいた私鉄です。野幌は函館本線との乗換駅でした。
いまの駅は高架化され、駅前は区画整理されていて、かつての面影はありません。利用者の乗降もありませんでした。
野幌バスターミナル
少し走って、野幌バスターミナルに到着。夕鉄バスの車庫がある広いターミナルです。
かつてはこの付近に夕張鉄道の駅があり、夕張方面からの利用者が、札幌方面へのバスへ乗り継げるようになっていたそうです。
その名残で、いまも駅から少し離れたこの位置に、夕鉄の野幌バスターミナルがあるのだとか。ただし、現在のバスターミナル位置と、かつての夕張鉄道駅跡は少し場所が異なるようです。
夕張鉄道代替バス
夕張鉄道線路跡は、「きらら街道」という道路になっています。地図を見れば、緩やかなカーブが鉄道路線跡であることを物語っています。
乗車している「新札夕線」バスは、夕張鉄道廃止後の代替バスとしての側面もあります。しかし、野幌を出発すると、線路跡の「きらら街道」に入らずに、エリアの拠点都市である江別に向かいます。
江別の新興住宅地へ
野幌バスターミナルからは、3名が乗車しました。さらに高砂駅前、その次の5丁目通からも1名ずつが乗車します。
江別駅前14時16分着。ここでも3名が乗車。車内はにわかに賑わっていきます。
バスは石狩川の支流の千歳川を渡り、東光町、あけぼの団地と呼ばれるエリアを走ります。このあたりは新興住宅地ですが、鉄道駅から離れていることから、路線バスが重要な交通手段になっているようです。
実際、野幌や江別から乗った利用者は、だいたいあけぼの団地までに降りてしまいました。
北海道らしい風景に
あけぼの団地を出ると田園地帯が広がります。道外からの旅行者にしてみると「北海道らしさ」を感じます。
しばらく走ると、南幌温泉前。温泉施設やゴルフ場がありますが、バスの乗降客はありません。
振り返って見れば、ここまで、このバスの乗客は日常の用務で利用している人がほとんどで、筆者以外に旅行者はいません。「温泉」のような施設に向かう人は、このバスをあまり利用しないのでしょうか。
廃線跡を走る
南幌温泉を出ると、バスは「きらら街道」に入ります。先述した、夕張鉄道の廃線跡です。
夕張鉄道時代を想像しながら乗っていると、道路は左へなだらかにカーブ。その先に南幌市街が見えてきます。
ただし、このカーブは鉄道の曲線ではなく、廃線跡は直進します。すなわち、廃線跡を離れて、バスは南幌市街に入っていきます。
南幌の住宅街
南幌市街には、新しい立派な住宅が並びます。区画も広く、首都圏ならちょっとした高級住宅街でしょう。
南幌は田園地帯の農村のようなイメージでしたが、実際は異なり、1990年代に札幌のベッドタウン化が進んだそうです。
地図を見ると、南幌市街から江別駅まで直線距離で9km、北広島駅まで11kmほどです。エスコンフィールドへ野球を見に行くのも、クルマがあれば30分かからないでしょう。
夕鉄バスは10月1日以降も、新さっぽろ~南幌東町間のバスは存続します。札幌エリアの通勤圏とあって、バス利用者はそれなりに多く、廃止できないのでしょう。
夕張鉄道が、最後に残された野幌~栗山間の旅客営業を廃止したのは1975年です。この区間がもし国鉄線で、いまも存続していたら、学園都市線くらいの賑わいはみせていたのではないか、と少し残念な気分になります。
長沼町の片クローズ区間
南幌市街地で乗客をほとんど降ろし、バス車内は筆者のほかにご婦人1人だけとなりました。
南幌東町入口を出ると、いよいよ路線廃止区間です。バスは再び広々とした田園地帯に入ります。
バスが長沼町に入ると、車内アナウンスで、「栗山町の本門寺バス停まで降車できない」という案内が流れます。
これは、2022年4月1日から、長沼町内の停留所から札幌方面への乗車と、札幌方面から長沼町内の停留所での降車ができなくなったことを伝えているものです。
つまり、バスは長沼町内を走るものの、町内停留所から札幌方面への利用ができない、ということです。夕張・栗山方面への利用のみ可能で、「片クローズ」という状況です。
片クローズになってしまった理由は定かではありませんが、こういった話は補助金がらみであることが多いので、その関連でしょうか。
廃止の原因に?
片クローズは、新札夕線だけではなく、札幌急行線(新札幌~りすた)にも適用されています。新札夕線は、長沼町の中心市街地を通らないので影響は小さそうですが、札幌急行線は中央長沼を経由するので、札幌方面へ利用できないのは利用者にとって不便ですし、バス会社としても痛手でしょう。
10月1日に夕鉄バスが廃止するのは、おもに長沼町にかかる区間です。ひょっとすると、長沼町での片クローズは、この区間で夕鉄バスが廃止されてしまう原因の一つなのかもしれません。
栗山駅前
バスは長沼町をノンストップで快走し、夕張川を渡って栗山町の市街地に入ります。南幌のようなベッドタウンの雰囲気は薄れ、北海道の地方都市の風情を残す街並みです。
栗山駅前は15時10分着。かつては夕張鉄道と室蘭線が接続していました。
いまは近代的な駅舎が建ち、駅前広場は広いバス乗り場を持つターミナルになっています。しかし、乗降する人はいません。
栗山町内の利用客
栗山駅出発時点で乗車しているのは、筆者のほかに若い女性一人だけです。この女性は、江別市内の高砂駅前のバス停から乗車しつづけています。
このまま乗客2人で夕張まで行くのかしら、と思っていましたが、栗山市街地で、ぽつん、ぽつんとご婦人を拾います。一方、高砂駅前から長く乗車してきた女性客は、市街地の外れのバス停で降りてしまいました。
栗山町内で乗車したご婦人方も、角田や継立といった集落で降りていきます。栗山市街地での用事を済ませて自宅に戻る様子です。
夕張へ
角田付近からは、おおむね夕張鉄道の廃線跡に寄り沿って走り、車窓には古びた家屋が目立つようになってきます。
やがて勾配が険しくなり、夕張山地に分け入っていきます。
かつての夕張鉄道は、三段式スイッチバックで山を越えていて、その跡でも見られないかときょろきょろしているうち、夕張トンネルへ突入。抜けると、たちまち夕張の市街地でした。
夕鉄本社バスターミナル15時44分着。
活気を取り戻し
栗山から夕張トンネルを越えて夕張市内まで乗車したのは、筆者のほかに初老のご婦人一人だけでした。
しかし、夕張の夕鉄バスターミナルでは、2人が乗車し、その後も、夕張市内ではいくつかの停留所で乗降があり、バスは活気を取り戻します。
夕張鉄道の廃線跡からは離れ、石勝線夕張支線の廃線跡に沿って進みます。市街地の中心駅だった清水沢駅は、すでに取り壊されています。
交通結節点「りすた」へ
このバスは新夕張駅行きですが、夕鉄ターミナルからまっすぐに新夕張駅に向かうのではなく、夕張川東岸を含め、市街地をぐるりと回りながら進みます。
夕張市内の循環バスの役割も担っているのです。そのため、途中で乗客が入れ替わります。
そして、夕張支線廃止にあわせて整備された、交通結節点「りすた」に到着。
ちょうど下校時間帯なのか、夕張高校とおぼしき高校生が大勢集まっていました。
新夕張駅へ
りすたからは、高校生十数人が乗車。なぜか女子ばかりでしたが、新夕張方面の男子は自転車通学なのでしょうか?
車内には、たちまち若い声があふれます。新さっぽろを出発して、車内が最も賑わったのが、りすた発車直後でした。
途中で少しずつ高校生らを下ろしていき、終点新夕張駅前16時18分到着。新札幌を出て2時間38分が経っていました。途中、休憩はなく、ほとんど走りっぱなしで、運賃は1,830円でした。
新夕張駅前で降車したのは、筆者以外に3名ですが、列車に乗り継いだ人はおらず、みな近くの自宅へと向かったようです。
ほっとする話だが
ということで、夕鉄バスがもっとも賑わったのは夕張市街だった、というちょっとほっとする話でルポは終わりです。
逆に、もっとも車内が閑散としていたのが、南幌~栗山間でした。
今回、夕鉄バスが撤退するのは、この区間を含む南幌~夕張間です。
一度乗っただけで全てを語ることはできませんが、あえて感想で言えば、利用客の少ない区間が廃止になる、というごく当たり前の印象です。
栗山町が代替策
新札夕線が廃止されても、夕張市内のバス運行については、何らかの手当がなされることでしょう。
また、札幌駅前~夕張間では、北海道中央バスが「高速ゆうばり号」を運行していて、江別~南幌~栗山~夕張間で新夕札線とほぼ同じルートを快走しています。したがって、夕張や栗山から札幌への交通手段がなくなるわけではありません。
ただし、便数は激減します。また、栗山町は隣接する南幌町方面とのアクセスも悪くなります。栗山高校に通う南幌の高校生もいることから、対応を迫られました。
結局、栗山町は、新札夕線廃止後、栗山駅から南幌町を経て北広島駅を結ぶコミュニティバスの実証運行を始めるそうです。目的地が江別でなく北広島なのは、札幌近郊の駅で近いのが北広島駅だからということのようです。
残念だが
新札夕線は、札幌のベッドタウンへ向かう郊外路線として出発し、途中でローカル路線に姿を変え、夕張では市内交通を担います。進むにつれて車内の表情が刻々と変わる、興味深い路線でした。
夕張鉄道の伝統を引き継ぐ路線で、廃線跡に沿って走るのも魅力です。失われてしまうのは残念ですが、利用状況や運転士不足を鑑みれば、やむを得ない選択なのでしょう。
とはいえ、札幌近郊でそれなりの運行規模の路線が、あっさりと整理されてしまうことには驚きを禁じ得ません。こうした動きが広まらなければいいのですが。(鎌倉淳)