新金貨物線の旅客を目指す葛飾区が、新年度予算で事業化のための調査費を計上します。10年間で100億円を積み立てる基金や専任部署も新設して、旅客化実現へ本気を見せてきました。
新金貨物線とは
新金貨物線は、新小岩信号場と金町駅を結ぶJR総武線の貨物支線の通称です。大正15年に新小岩操車場とともに建設され、東京臨海部と千葉方面との貨物輸送を担う路線とされてきました。
しかし、武蔵野線、京葉線の開業により、貨物列車が南流山~西船橋~蘇我間を経由するようになったため、新金貨物線を経由する列車の本数は近年少なくなっています。地元・葛飾区では旅客化を求める声が高まっていて、2018年度には区が基礎的な調査も実施し、「新金貨物線の旅客化検討資料」として公表しました。
電車とライトレールの2案
資料によりますと、旅客化が検討されている区間は、新小岩駅~金町駅の7.1km。現状は電化単線で、複線化用の空間が確保されています。旅客化の検討では単線のままで、途中駅に交換設備を設けます。
貨物列車の運行は存続するという前提で、旅客列車の車両は通常の電車とライトレールの2案を候補としています。
途中駅は、10駅及び7駅の2案があり、10駅の場合は、新小岩、東新小岩、奥戸、細田、南高砂、高砂、北高砂、新宿、西金町、金町の各駅が設置されます。7駅案では、10駅案から南高砂、北高砂、西金町の3駅が省かれています。
新小岩駅と金町駅は、総武線、常磐緩行線との乗り継ぎを考慮した位置を想定します。所要時間は10駅で22分、7駅で17.7分となっています。
概算事業費はライトレールが約250億円、電車が約200億円と試算されています。
国道6号線とどう交差するか
旅客化のための最大の問題点は、国道6号線との交差です。ここを踏切とすると、国道の渋滞発生が予想されます。立体化するとなると巨費がかかります。
検討案では、踏切ではなく交通信号とし、道路側の交通信号にあわせて旅客列車を通過させ、道路交通への影響を抑える構想を示しています。
ただ、貨物列車が走行する場合は、鉄道が交通信号で道路と交差することは前例がなく、構想の実現には高いハードルがあります。
南側先行開業案
この最大のハードルを超えるのは難題で、葛飾区では、国道6号の南側に位置する高砂~新小岩間を先行して事業化する検討を開始します。そのため、葛飾区は、2020年度予算案に、検討のためのコンサルタント委託費として1341万円を盛り込みました。
委託する業務は、部分開通の可能性調査、計画全線の踏切15カ所の交通影響調査、新交通システム検討の3つです。いずれも、予算成立後、新年度早期に発注する見込みです。
基金、専任部署も創設
あわせて、葛飾区では「(仮称)新金貨物線旅客化整備基金」を設立。10年間で100億円を積み立てます。早くも2019年度第4次補正予算案に10億円を計上しています。
さらに、関係機関と協議をする「交通政策課新金貨物線旅客化担当係」を新設。これにより、国土交通省やJR東日本、JR貨物などとの協議を加速したい考えです。
新金貨物線の旅客化は古くからある構想ですが、実現には課題が多く、これまでなかなか話が前に進みませんでした。都の「優先6路線」にも含まれていませんし、葛飾区がどこまで真剣に事業化に向け取り組んでいるか見えなかった面もあります。
こうした状況で、業を煮やした葛飾区が「人とカネ」を出して「本気」であることを示した形です。これを機に、積年の構想が動き出すのでしょうか。