東海道新幹線、「セルフカフェ」はできないか。車内ワゴン終了が残念で

パーサーは2人体制に

東海道新幹線の車内販売(ワゴンサービス)が終了します。日本を代表する看板列車である「のぞみ」号での車内販売終了は、残念というほかありません。

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10月31日で終了

JR東海は、東海道新幹線「のぞみ」「ひかり」で実施している車内ワゴン販売(ワゴンサービス)について、2023年10月31日をもって終了すると発表しました。

同社によると、販売終了の理由は3つ。ひとつは、エキナカやエキチカ店舗で飲食物の品揃えが充実し、車内へ持ち込む利用者が増えたこと。二つめは、静粛な車内環境を求める意見があること。三つめは、将来にわたる労働力不足への対応です。

主な要因は、ひとつめの「売上減」と三つめの「労働力不足」でしょう。この二つはリンクしていて、利益が出ないので待遇改善もままならず、スタッフを募集しても思うように人が集まらなくなっているとみられます。

いよいよシフトが回らなくなる前に、すっぱりと撤退を決めた、ということではないでしょうか。

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パーサーは2人に

車内販売の終了により、東海道新幹線で乗務するパーサーは3人から2人に減少します。制服もリニューアルし、制帽を廃止してパンツスタイルとなります。

制服の変更は、乗客の案内や手伝いをしやすくするためだそうです。パーサーの位置づけを「販売スタッフ」から「接客スタッフ」に変更していく、と受け止めることもできるでしょう。

グリーン車には代替サービス

車内販売の代替サービスとして、グリーン車においては、「東海道新幹線モバイルオーダーサービス」を開始します。

グリーン車利用者は、自分のモバイル端末で食事や飲み物を注文できるようになります。各座席には、注文サイトへアクセスできるQRコードが設置され、注文すると、パーサーが各座席まで届けてくれます。

どのようなメニューになるのかはわかりませんが、ドリップコーヒーやサンドイッチ、あるいは、ビール、つまみ、駅弁などを販売してくれるのなら、利用価値はありそうです。いつ来るかわからない車内ワゴンよりも、むしろ便利になるかもしれません。

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ホーム上に自販機

「モバイルオーダーサービス」が利用できるのは、グリーン車のみです。普通車には車内販売の代替サービスはありません。代わりに、ホーム上の自動販売機を増設し、ドリップコーヒーやアイスクリームなどを販売するそうです。

これらの自販機は、順次、東海道新幹線「のぞみ」停車駅のホームなどに設置していきます。その他の駅についても、拡大することを検討します。

ただ、ホームの自販機をふやしたところで、乗車中にのどの渇きを覚えた人には意味がありません。その点で、ホーム上の自販機増設は、車内販売の代替策とまではいえないでしょう。

ちなみに、アイスクリームの販売機については、2022年7月に東京駅ホームに設置されています。振り返れば、車内販売廃止への布石だったのかもしれません。

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いきなり廃止

JRの車内販売は縮小の一途をたどっています。

現時点では、東海道・山陽新幹線「のぞみ」のほか、東北・上越・北陸新幹線の一部列車、在来線特急「あずさ」「ひたち」などで車内販売が行われています。ただ、東北新幹線などは東海道・山陽新幹線に比べると販売アイテムは少なく、やや簡易的な販売形態になっています。

一方で、東海道新幹線「のぞみ」「ひかり」は、昔ながらのワゴンサービスを続けてきました。それがいきなり、サービスの縮小ではなく、車内販売そのものをやめてしまうというのは、やはり衝撃的です。

山陽新幹線「のぞみ」は当面、車内販売を続けるそうです。ただ、東海道新幹線で維持できないなら、山陽新幹線も持続困難と察せられ、東海道・山陽新幹線の車内販売は、遠からず終了してしまいそうです。

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TGVにはバーが

「売上減」と「人手不足」は、それだけを聞けば、昨今の社会情勢から受け入れざるを得ない理由に思えます。東京~新大阪間なら2時間半で、車内で飲食物を買えなくても我慢できる程度の所要時間です。

ただ、東京~博多間でみれば5時間かかり、供食は重要なサービスのひとつにも思えます。まして、「のぞみ」は日本を代表する看板列車です。

ちなみに、フランスの高速列車TGVは、いまもバー(車内売店)を備えています。少し前の話ですが、現地の鉄道事情に詳しい人に聞いたところでは、フランスはお国柄もあるのか、伝統的に供食サービスを重視するため、赤字でもバーを維持しているのだそうです。

バー単体の採算を考えるのではなく、優等列車の当然のサービスとしてバーがある、という考え方です。

ただし、近年増えている「格安版TGV」の「Ouigo」には、売店も車内販売もありません。サービスよりコストを重視した措置でしょう。

日本を代表する看板列車が「格安TGV」と同等とは残念ですが、日仏ではエキナカの充実度合いなどで差が大きいので、一概には比較できないかもしれません。

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種村直樹が予期した未来

古参の鉄道ファンにはよく知られたことですが、レイルウェイライターの種村直樹は「車内販売が来れば、なにかひとつ買い求め」(鉄道旅行術,1977)、「車販で売っているような飲みもの類はなるたけ駅で買わずに乗る」(同)ことにしていたそうです。それが、車内販売を存続させるために重要と考えていたわけです。

見方を変えれば、種村は1970年代の時点で、車内販売の採算が悪いことを知っており、将来的に廃止されていくことを危惧していたといえます。

それから半世紀。種村が予期した通り、車内販売は瀬戸際に立ちました。これからも、簡易的な車内販売はどこかで生き残るでしょうが、昭和時代から続く伝統的な「ワゴンサービス」としての車内販売は、近い将来に絶滅しそうです。

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モバイルオーダーは広まるか

期待があるとすれば、グリーン車でのモバイルオーダーサービスです。モバイル端末でオーダーすれば、座席まで持ってきてくれるというサービスは、端的に便利そうです。決済機能を持たせたら、パーサーとお金のやりとりをする必要もありません。

このサービスは、将来的には普通車指定席への拡大も可能に思えます。対象座席が増えれば待ち時間が長くなりそうですが、オーダー前に待ち人数(予想待ち時間)を示す仕様にすれば、イライラは減らせるでしょう。

自由席は立ち客がいることがあるので難しいとしても、普通車指定席への拡大は期待したいところです。

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セルフカフェを

と書きましたが、正直なところ、パーサーが2人に削減された後の東海道新幹線で、モバイルオーダーを普通席に広げるのは困難でしょう。

となれば、車内で供食サービスを維持するために残された方策は、自動販売機くらいしかありません。

列車内にソフトドリンクの自動販売機を置いても、あまり売れないというのが通り相場ですが、最近増えているセルフカフェ的なコーヒー自販機ならば、それなりの需要がありそうです。

自販機の設置場所は、ビジネスブースではどうでしょうか。ビジネスブースがどのくらいの利用率なのかは定かではありませんが、あのスペースをセルフカフェにして、コーヒーとアイスの自動販売機を置いたほうが、より多くの乗客の需要に応えるのではないか、と提案しておきます。

とはいえ、JR東海のことですから、そういったことは、おそらく検討済みでしょう。そのうえで自販機をホームに増設することを発表したのですから、やっぱり「車内販売の時代」は終わってしまいそうです。(鎌倉淳)

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